6章4節:お嬢様とスライム2

 傭兵には異名が付けられる場合がある。

 と、一見すると格好いいモノが付けられるとよく勘違いされる。実状は、ほとんどがふざけて付けられており、アホらしいモノが多い。

 だが、たまに普通の異名が付けられる場合がある。コレにはある意味を持っていた。


 それは、ふざけてはいけない相手。性格に難がある相手。等々の理由があるが、総じて"喧嘩を売るな"と言う意味を指していた。

 喧嘩を売ったらどうかるかは差異はあれど、無事で済んだ者は非常に少ない。場合によっては親族親類及び周辺人物が皆殺しにあった。村が消えた。街が消えた。という話があるほどだ。


 そして、リリーシャスの異名である魔女の子飼いは後者に当てはまる。彼女の場合、彼女本人ではなく背後関係が非常にまずいため付けられた。

 そのため、前者であるふざけた異名も複数付けられてしまっている。例えば、魔女の腰巾着、捨て猫お嬢様といった具合に。


 此処で問題になるのが彼女の背後関係がどう不味いのかである。

 彼女の出であるリケイン家のお嬢様。というだけでは逆に、拉致監禁の対象となる。問題は彼女の師匠であるスカーレット・ヘインズ、彼女である。

 彼女も傭兵経験があり、その時代に着いた異名が真紅の魔女。


 多種多様の魔法を扱い、そして返り血に染まった彼女とその名前から取られ、呼ばれるようになった。と本人が言っていたがリリーシャスはこの異名を呼ばれている所をほぼ見たことがない。


 実際に傭兵の間で呼ばれているのは不老不死の魔女。理由は単純で、彼女が傭兵として主に活動を行っていたのが900年と少し前であり、中立地帯が生まれた少し後の事であったためである。この間ただの人間の見た目をしているのにもかかわらず、見た目が変わらない所から呼ばれるようになった。


 その彼女が「私が傭兵を再開している間は、この子に手を出したら何処に逃げようと必ず見つけて皆殺しにする」と宣言し、弟子と言う事が広まった事でリリーシャスに魔女の子飼いという異名がついた。


 そして、ヘインズ家はコネクションが広いことでも有名であり、「子飼いは才能はないが実験として、試作品の神装武具を扱っている」という噂があった。その神装武具がディヴァイン、ライヒスと考える事が出来き、スラは疑問のほとんどをあれだけの言葉である程度は納得する事ができたのだった。


 それから、リリーシャスはスラからどう魔女と出会ったのか。どういった修行をしたのか。魔女がどんな人なのか等々の質問攻めにあい、律儀に答えていると日が落ちかけていた。


「あ"ーまさかこんな質問攻めにあうとは思いもしませんでしたわよ・・・・・・」


 とてつもない疲労感を感じながら項垂れ、そう呟く。

 すると、肩を叩かれ彼女が顔をあげると「え? まだまだ質問はあるよ?」という文字が見えため息を付く。


「せめて、食事の準備が終わった後にしてくださいまし」


 そう言いながら、リリーシャスはポケットから石に金属が付着したものを出し、地面に起くと発光し始める。

 そして、背中に手を回し折りたたみ式の小型ナイフを取り出し、空いている手を差し出す。


「食材を貸してくださいまし。スラさんは水魔法で木を削って適当に器や串でも作って貰えると助かりますわ」


 「了解。火はどうする?」と水の台座事食材を渡しながら書いた。するとリリーシャスは無言で受け取り、左右の内ポケットから1組の火打ち石を取り出すと、スラに向けて放り投げる。水の手で受け取ると、ソレを見てその後彼女に目線を向けると「手品師かなー?」と書き、手頃な木を探し始める。


 彼女は台座の上でリンゴを切りながら口を開いた。


「此方から質問は宜しいでしょうか?」


 目線をスラの方に向けると「いいよ」と言う文字が見え、1本の木が切り倒され光景が映った。


「いや、切り倒さなくとも・・・・・・まぁいいですわ。あの、ミリーさん・・・・・・暴走体、わたくし達、スラさん達を除いてもう1つ存在していた連中。何者か知りません?」


 「多分魔物軍だよ。前にも襲われたって言ってたし」そう言いながら、木の皮を水魔法で剥がしていく。


──やはり魔物軍。にしても・・・・・・。

 手を止めスラの方を見はじめる。

 慣れた動作で皮を剥がした木を、適度な大きさに切断した。

 そして、中を繰り抜き器や鍋のような物を作っていく。


「すごいですわね・・・・・・」


 土、水、風の魔法は汎用性が高いとよく言われ実際に目にする事も多いが、スラのように本当になんでもやってみせる者は少ない。

 作業を再開し、切り終わると周囲の石を集め簡易のコンロを製作する。


「よしこんなもんですわね」


 周囲から薪となる枝や枯れ葉を集め、適度な量のナタラ草をナイフで刈り取っていると、作業が終わったスラが戻ってくる。

 木で製作された器、フォーク、スプーン、大量の串に、乾燥した枯れ木を切断して作られた丸太に切れ込みを入れた物、岩を切断してつくられた石の板を水の腕で持っていた。


「・・・・・・作りすぎじゃありませんこと?」


 思わず顔が引きつるが「こんなもんでしょ」と返され乾いた笑いが出てくる。


「で、その丸太。何にしますの?」


 割れば薪として使えるが流石にそのままでは大きすぎて使えたものではない。が、スラから返って来た答えは「え? 主な火源だよ」だった。

 リリーシャスは切ったリンゴを串に刺していき、その横でスラは慣れた動作で彼女が集めた枯れ葉やナタラ草と枝を使い火を起こすと、日が着いた枝を丸太の上に移し、ナタラ草を使い火を移し始める。


「それ、使えますの?」


 と、問いかけると「うん。結構な時間追加の薪なしで燃え続けるよ」と返事をしている間に日が丸太に移っていく。

 十分な火が着いたと判断したスラは石をその上にのせ「きのこ焼くね」と言うと、石の上にリリーシャスが適当に切ったきのこを置き焼いていく。


 「ねぇねぇ、質問の続き。特殊魔砲‐ディヴァインだっけ。あれ神装武具じゃないって聞いたんだけどさ具体的にどう違うの?」とスラが一番聞きたかった質問をぶつける。


「そうですわね」


 と言いながら、リンゴを挿した串を簡易コンロ周りに刺していく。


「まず神装武具の区分はご存知でしょうか?」


 と、聞くと「よく知らない」と書かれ説明する箇所を決め口を開く。


「まず前置きとして神装武具名称には魔装、獄装、偽装の3種類がありまして、名称としてほにゃらら魔装何々、ほにゃらら偽装何々という風に名前がついていますわね。普段使っている分にはそう気にするほどでもありませんけれど、製造時、特にスラさんの疑問には結構関係してきますの。まず"現在"生産されている神装武具の偽装シリーズは、大本となる魔装シリーズのコアもしくは魔力を主な材料とし、有志から提供された魔力を混ぜ、コアを再成形した物になります。そして偽装シリーズは、能力や特殊な特性と言った類は完全に運まかせでして、似た物があっても全く同じ物は生成されません。そして、獄装は作られた偽装のうち良品以外を再び魔力に戻し、同種で複数を掛けあわせて無理矢理仕上げた物に付けられる代物です」


 と、此処まで話した所で「じゃぁ、偽装は弱いの?」という別の質問が飛んで来る。


「そうですわね。製造時では弱い個体が圧倒的に多いですわ。ですが、出回っている物は良品、言い換えると強い個体がほとんどですので、1口に弱いとは言えませんわね。獄装もそうですけど稀に元となった魔装より強い代物もありますし。説明を戻しますと、ほにゃらら魔装何々の何々の部分が武器の種類になります。例えるとレストさんが扱っている烈火偽装-バルムンク。これの大元が獄炎魔装ごくえんまそう‐バルムンク。烈火偽装の同種に獣馬偽装じゅうばぎそう‐バルムンク、守勢偽装しゅせいぎそう‐バルムンク等が存在します。尤も、現在は獄炎魔装-バルムンクはコアが破壊され起動は不可能となっております。ほにゃららの部分は適当につけていたり、特性に近い言葉を入れていたりですわ。此処で本題のわたくしのディヴァインがなぜ神装武具ではないのか。という部分ですが、まず大元となる魔装シリーズが存在しません。なぜならキメラタイプと呼ばれる複数のコアを連結し、1つのコアにした代物だからです。では、その連結しているコアの大元があるのでは? という話になりますが、勿論あります。ですが元のコアや魔力は一切使わずに製造されているため、偽装シリーズと言うよりかは装飾型やその量産品と近い作りになっており、コア部分ではなく、武器やアイテムに機能を制限したものを持たせ、コアは活性化させソレを発動させる"鍵"としての役割になっていますわ。そのため量産品は"相性"がなく活性化さえさせれば全能力発動が可能というわけです。この辺りが神装武具ではない理由の1つとなります。暴走がない。と、言う部分もこの構造が起因してかつ神装武具ではない理由の1つとなりますわね。更にディヴァインは単体ですと、連結したコア全てが活性化されず、起動出来ないという点もありますわ」


 「なんとなくは分かったんだけど、2ついいかな」と書かれ「どうぞ」と返すと続けてこう書かれる。


 「1つはこの辺りの情報は機密事項とかじゃないのかなって事。もう1つは魔装の製造方法は触れてないけど喋れないのかなって事」という内容であった。


「この情報自体は別に機密とかではありませんわね。詳しい手順は申しておりませんし、現にこの程度は学園でも習う事がほとんどですわ。ディヴァインに関しても製造中は機密でしたけれど、今となっては失敗と烙印が押され、量産計画は頓挫。情報もある程度は公開している事ですし問題ないですわ。そして魔装の製造ですが、お教えできません。知ってしまった場合はわたくしと同じ立場になるか、死んで頂くほかなくなりますから」


 「結構物騒だね。もう1つ、触れてない暴走と相性云々に関しても?」と書き「ええ、そちらも同様です」と返事がなされ、「ただ・・・・・・」と続ける。


「暴走は神装武具を手渡す時にリスクとして教える範囲ならば、お教え出来ますわ。例えば、一度暴走すれば大抵は死ぬ。魔装シリーズは基本的にストッパーがついておりよっぽどの事がなければ暴走しない。偽装シリーズは状態であれば圧倒的に暴走しずらく暴走しても稀に戻ってこれる。獄装シリーズは暴走しやすく、戻ってくるのも困難で特に絶望的。と言った具合に」


 「なるほど、ありがと。で、きのこ焼けたけど食べる?」と書かれ、串に刺したきのこが差し出される。


「勿論、頂きますわ」

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