6章3節:サドダリ

 ディード達は爆風を壁を貼り直しながら難なく防ぎきり、爆発が止み少し時間が経った時の事だった。


「あー、っくそギャスと通じねぇ。あいつ下手打ったな」


 などと、ディードがぼやき、泣きじゃくるケイをリザ之助がなんとかしようとしている最中、アリスは戦闘態勢を維持し周囲を警戒していた。


「・・・・・・奴らか?」

「いや、別。それなりにいる。先に言っとくと魔力がほとんどない。兄さんとリザさんは?」

「魔力は少し余裕があるが、毒の影響で操作量マニュピレイトに制限掛かっちまって戦いにくい。ついでに体中がいてぇ」

「えっと、私はゴーレムとしか戦っておりませんので戦えますよ」

「了解。なら戦闘になったらリザさん中心に戦おうか」

「だな。ケイの防衛は任せろ」

「えぇ!? 私弱いですし・・・・・・」


 すると、森から物音が聞こえ、気が付くと数人の亜人種が彼らを囲んでいた。

 壁の枚数を増やし、ナイフを生成し戦闘の準備を整える。そして、謎の集団のドワーフの少女が手にもつハンマーを置き両手をあげ、こう叫んだ。


「えっと、敵じゃないでーす!」


 呆気にとられ、思わずディードとアリスは目を見合わせ、2人はため息をつく。


「信じると思うか?」

「ですよねー! 信じれないですよねー!! でも、本当なんですー!!」


 と再び叫ぶ少女を尻目に、アリスが小声で話し始める。


「兄さん、後に1人。前の子囮じゃない?」

「挟撃の形に見えなくはないが、にしては後方が少ないな。ま、合図したら後の奴は斬れ」

「了解」

「えっとですねー! うちらはそのですねー!!」


 言葉が出ないのか、実のない叫び声だけを上げている中、後方に貼ってあった壁が1枚瞬時に中和、破壊された。合図を送ろうとした瞬間だった。


『へいへい、1位ちゃん1位ちゃん? 応答せよ応答せよ。此方21位アレシア・ペルスュイ。君んとこのお兄ちゃんの壁が邪魔で1枚破壊したけど、気にせんでね♪』


 という通信が入りディードは舌打ちをし、通信に出るよう促す。


「はぁ、アレシア先輩どうかしましたか。随分と可愛い声になって」

『知ってるしょ? 私死んでるの。今借り者なんよね。で、その子らは本当に敵じゃないから警戒しないで上げて欲しいなって。寧ろ君らの味方よ。あ、こういった方が早いか。副会長と言うか生徒会の裏に居る組織だよん』

「・・・・・・分かりました」


 そう言うと、アリスは戦闘態勢を解き、ディードもケイとリザ之助の周囲にだけ壁を張り、他に貼っていた壁を消していく。

 その様子を見てドワーフの少女はこう叫ぶ。


「やりました! 説得成功です!」

「お前の功績は何もないだろうがな。ジュリア、後は頼むぞ」


 彼らが戦闘態勢を解いた事を確認すると、少女1人を置いて他の連中は各々森の中に入っていく。

 そして入れ替わるようにして、ランスを持ちメガネを掛けた見覚えのある少女が森から出てくる。


「やぁ、皆様初めましてお久しぶりこんにちわ宜しく。ミラ・ゲッティンマークツーだよ!」


 その言葉を発し終わった後に、数瞬の沈黙が訪れる。


「・・・・・・説明、求めていいですか」

「んもう、1位ちゃんはノリが悪いなぁ。クーちゃんとリアナが言ってた通りだよ。あ、説明だったね。今君らのお仲間と、リリーシャスちゃんが飛ばされてるから、彼らに捜索を頼んだ所。私が来たのは一番摩擦が少ないうえに彼らと面識があって事情知ってる。だから仲介にって感じ」

「そこではなく、組織の方です」

「あぁ、そっち」


 アレシアはドワーフの少女を指差しこう言う。


「彼女に聞いて。私じゃ何処まで話して良いのか分からないし、知らない事もあるから」


 そういうと身を翻して更に続ける。


「後、リリーシャスちゃんに会ったらお礼言っときなよ。失敗しちゃってるけど助けようとしてたから」

「それと、先輩。サクラを、私の姉弟子を止めきれずすみませんでした」


 アリスがそういうと、アレシアは驚き、間は空いたものの笑い始める。


「君のせいじゃないって。何より一度対峙したけど、アレは仕方ないよ。多分1位ちゃん居なかったらこっち皆殺しだったろうし、寧ろ感謝ってね」


 言い終わると、手を降って森の中に消えていった。


「で、話して貰える? ドワーフさん?」


 ハンマーに座り休憩して少女に叫ぶが、「はい!?」と言いながら立ち上がった。



 戦闘前に決めていた合流ポイントで村から2キロほど離れ、草原にそびえ立つ木の根本にクロードとシャローネが居た。

 彼は腕の応急処置を済ませ空を見上げていた。

 太い木の枝に陣取り、周囲を見渡しながらこう言う。


「さっきの、組織。アレシアの、話だと、敵じゃない、って言ってたけど、どう思う?」

「そうだね。アレシア先輩は背後関係がまるで見えないからなんとも言えないかな。ただ、多分リリーなら知ってると思う。話してくれるかどうかは別としてね」

「リリーか。なんだかんだ、僕達、色々丸投げ、してるよね」


 そう言われ、彼は言葉に詰まる。


「・・・・・・頼りすぎなのかな」

「かもね。ただ、急に変えると、絶対、怪しまれる。と言うか、見抜かれる。あ、アレシアが来た」


 シャローネは木の上から手を振ると気がついたのかアレシアも返すように手を降った。

 数分後、合流し彼女に水筒を渡す。


「っぷはー! いやぁ生き返る!」

「い、違和感すごいですね」


 アレシアのノリで喋り、行動するミラに違和感を覚えたクロードは、顔を引きつらせながら、思わずそう呟いてしまった。


「え? そう? んじゃ、例えばスカートたくし上げて『ミラを貰って下さい』って言えばいい?」


 それを聞いた彼は吹き出しこういった。


「や、やめて下さい。戻ったらミラが引きこもりかねないですから!」

「ありゃー? シャローネ、どんな感じにすればいい感じ?」

「うーん、妹?」

「分かった! お兄ちゃん! だっこ!」


 そう言いながら、笑顔で手を広げてみせる。


「なんか、アレシアが、言ってる。って思うと、如何わしい」

「なんで!?」

「で、急に、どうしたの」

「いや、勇者候補生君イジってなかったからこの際イジり倒そうかなって」


 真顔でそういうアレシアにシャローネは困惑した。


「ほんと、アレシアは・・・・・・。建前は、いいから。本音を、言って」


 そう言われ「今なら良いか」と呟きながらランスをクロードに投げ渡す。片腕の彼は、なんとかそれをキャッチした。


「どうかしましたか?」

「この子に神装武具を使わせたらダメだ。予想以上に不安定で、制御も出来てないし、素質云々の問題じゃあなかった。現にさっきの戦いで私が変な事言う直前とか暴走しかけてたくらいだし」


 その言葉に2人は驚き、「本当?」と聞き返す。


「嘘でこんな事は言わない。一応言うけど、いつもの冗談とかでもないからね。リスク承知で使わせてるにしても、次不安定な時使用すると、ほぼ必ず暴走するような子に持たせるなんて馬鹿な真似出来ない。これでもこの手の"プロ"だった人間だからね」


 3人の間に沈黙が訪れた。

 先ほどの口調から察するに、あの時のふざけた言動はミラの精神を乱すものだった。そして、あの言動の直前はクロードが殺されかけていた場面。つまり、ミラは暴走してでもクロードを助けようとしていたと推測出来る。もし本当にこの流れだとするならば、不安定なんて生易しいモノではない。

 シャローネが沈黙を破るように口を開く。


「じゃぁ、ミラは、もう、戦えない?」

「んや、戦闘ほとんどしてないから結構魔力余っててね。この中に魔力詰めたのさ」


 そう言って、左手の人差し指にはめている指輪を見せる。


「これ、試作品でね。まぁ詳しくは言えないけど、ミラちゃんにアドバイスや魔力操作、場合によっては直接戦えるわけじゃないけど、私の姿投影して支援するから戦闘は大丈夫かな。この子が望めば、だけどね」

「あぁ、幽霊的な存在ですね」

「霊的じゃなく、魔力的な存在だけど、まぁ近いね」


 アレシアは笑い、クロードに見張りをして欲しいと頼むとシャローネにチェスをしようと持ちかけた。


「どうしたの、急に」

「いやさ、こうやってミラちゃんの体を借りる事は、魔力消費激しいから今後やれないんだよね。で、"1対1"でチェスはもうできないからやっときたなって。今勝率五分五分だったから余計にね」


 そういうと、シャローネは木から飛び降りる。


「いいよ。やろう」

「ありがと。・・・・・・まずは、顔洗わないとね。珍しいじゃない。シャローネが涙見せるなんて、さ」


 彼女に近づくと、アレシアは背伸びをし、彼女一筋の涙を拭う。


「慣れた。と、思ってたけど、流石に、身内は、我慢・・・・・・出来なかった」


 と言われ、アレシアは微笑むと彼女に抱きつく。


「いいんだよ。別に泣いても。我慢なんかしなくても」


 彼女の目から涙が溢れ、崩れるように泣き始めた。

 アレシアは知っていた。彼女が同学年で死亡者が出た時、陰ながら泣いていた事。彼女だけじゃない。ごく一部の2年は陰ながら泣いていた。そして皆、表向きは平気そうな顔をして過ごして。


「馬鹿だよねぇ。皆。気を使って。恥ずかしがって。いいじゃん、悲しい時に涙ぐらい流しても。私みたいになってる分けじゃないんだから」

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