6章2節:お嬢様とスライム1
目を覚まし数分昔を懐かしんでいると彼女はとある事を思い出す。
「スライムは!?」
体を触り、周囲を見渡し助けたとは口が裂けても言えないが、一緒に落下したはずのスライムの姿がなかった。
見捨てられた。置いて行かれた。等々の予想ばかり彼女の頭に浮ぶ。
足にスカートで隠すように付けていたホルスターからライヒスを抜くとドラウプニルを起動する。
──見捨てられたと見てとりあえず、空を飛んで移動して皆さんと合流しませんと。
体を浮かせようとするが、うんともすんとも言わない。魔力が切れている分けでもなく、コアが破壊された分けでもない。
「・・・・・・セバス? 出てこれますの?」
と呟くように言うが反応がない。
眉をひそめながら、ドラウプニルを見回すと、何かの破片が突き刺さっていた。ソレを引き抜き確認すると、案の定内部が破損しており、起動はできてもまともに扱う事が出来ない状態となっていた。
「こ、これだから補助型は・・・・・・」
思わず顔を手で覆い落胆する。
予備は学園に複数あるため、コアを付け替えれば問題なく復活する。だが、此処は学園ではないうえに今の手持ちは銃法偽装-ライヒス1挺のみ。薬がないためズルも出来ない。故に接近戦は不可能。
使用できる魔法も、ほとんど戦闘では無力。ディヴァインも持ってきていないうえに、もしあったとしても荷物にしかならない。
でも、"色々な意味"でコアが壊れていなくてよかったとも思っていた。コアが壊れた日には、彼女は立ち直れる自信がなかった。
「これ、完全にミイラ取りがミイラになった古典ですわよね・・・・・・」
ライヒスは正直心持たない。弾薬も今込めている8発のみ。
戦闘となれば大抵の場合死亡するだろう。アリスの同門の女性に寄られ背後を取られた時並の絶望感が彼女を襲っていた。
しかし現状は切り替え、とりあえず食料と水の確保を優先しようと考える。
夜になれば星座から位置確認が出来る。爆風に吹き飛ばされたとはいえ、そこまでは離れていないはず。場合によってはシャローネの感知能力で1日もすれば合流は出来る。が、最悪の自体と言うものは想定すべきであり、体力と魔力も回復させておきたかったからだ。
──確かこういう所にはプルの実やりんご、場合によっては木苺とかありますわよね。セリと言った野草を採集するのも視野に入れつつ水場を・・・・・・。
振り向きながら、歩を進ませようと1歩踏み出した時、草をかき分ける音が聞こえ、咄嗟に音がした方に銃を構える。
ライヒスの性能からあまり意味が無いが、一応息を整え狙いを定める。
「いきなり戦闘だなんて、運がないにもほどが・・・・・・」
などとぼやいていると茂みから、水で作られた蜘蛛のような足が現れる。その足が支えている台座のようなものに1匹のスライムが鎮座し、これまた水で作られた手でリンゴを掴み頬張っていた。
「・・・・・・へ?」
1人と1匹は目があい、数瞬見つめ合う。
その後、水で作られた蜘蛛のような何かに乗ったスライムは、そっと静かに再び茂みに戻ろうとした。
「ま、待って下さいまし!?」
急いで止め、銃を下げると近寄っていく。
「置いて行かれたのかと思いましたわよ」
「見捨てるのは可哀想だからね。お嬢様?」と書かれ茂みからスライムは茂みから出てきた。
台座のようなものにはリンゴやきのこ、山菜、プルの実が積まれていた。
プルの実は一口大の果物でさほど甘くはないが虫が付きにくい。そして、魔物領でのみ自生したり栽培がされている。
「あら、これは大量ですわね」
「なれたもんですよ。いる?」と書かれ、リリーシャスはお礼と言いながらプルの実を複数手にとりうち1つを口に放り込む。
あまりの自然な動作だったため、拒否反応が出ると予想していたスラから「本当にお嬢様?」と彼女は疑問をぶつけられる。
「え? えぇ、まぁそうですわよ。普通ではありませんけど」
適当にあしらうような返事をし、ライヒスをホルスターに仕舞うと周囲を見渡す。
「それより、水源は近くにありましたの?」
水魔法は水分補給には使えない。魔法は魔力を直接何かに変換して使用しており、もし他人の体内に入った場合、摂取した者の魔力に遮られ操作範囲外となり変換が解ける。そして、ただの魔力へと戻ってしまう。これだけでは魔力を分け与えたる形になるように見えるが、魔力とは個体により性質が微妙に違う。そのため他人の魔力を".正規の方法以外"で摂取した場合程度、差があれど魔力酔いを起こしてしまう。勿論魔力の回復も行われない。正規の方法の例としては魔力水があり、これは魔力が順応するように作られている。そのため摂取しても魔力酔いが怒らす回復させる事が出来る。
「ううん、でも蚊が飛んでるの見えたから近くにあると思うよ」と書かれ安堵のため息をつく。
「では行きましょうか。寝床の確保もしないといけませんし」
1人と1匹は歩き始めた。
「ねぇ、警戒しないの?」と聞かれ「危害加えるつもりでしたら、気絶している間にするでしょう?」とリリーシャスは答える。
そもそも警戒した所で勝てる見込みは薄い。そのうえ下手に警戒して体力を削る必要もないと判断していた。
それから数分歩くとスライムの書いた通り蚊が数匹見え、更に数分歩くと汚水の水貯まりがあった。周辺にはハエが飛び回り、魔物の死体が数体転がっており腐臭が辺りに充満していた。
リリーシャスは最後の1つを食べ飲み込むと口を開く。
「縄張り争いでしょうか?」
「なんかこの先、主が病で倒れてるみたいだからその影響じゃないかな。もしおくは暴れてた暴走者」とスラが書くとリリーシャスは驚く。
「え、主ってレギー様が!?」
「名前までは知らないからなんとも言えないけど・・・・・・知り合い?」と書かれ彼女は肯定する。
「この先で主といいますとレギー様しか存在しませんし、そもそも他の主は魔物領の奥の方で隠居していますから」
更に奥に数分進むと、綺麗な湧水が出ている小川が視界に入る。
「これで飲水は確保──」
リリーシャスが小川に気を取られていると、背後から両腕と両足を水で固定され、首筋に氷の刃が突きつけられる。
「どういうつもりですの?」
と、彼女が聞くと彼女の目の前に「そりゃぁちょっと"素性"が不透明すぎるからね」と書かれ、こう続けられる。
「悪意は感じないけど、貴女の神装武具じゃないけど怪しい特殊魔砲‐ディヴァイン。そして、さっきのコアがついてた銃。いや銃・砲型の神装武具。両方共入手が困難なんて代物じゃない。特に後者は表向きは復元を禁止されている。更に貴族にしてはこの状況に"慣れすぎてる"し、魔物領側の事を知りすぎてる。正直、普通じゃないって濁したけどさ。な~んか裏あって流したんじゃないかなって」
「・・・・・・女って裏があるものじゃありませんこと?」
「だからさ、流さないでよ」と書かれながら氷が首筋の皮を斬り、1筋の血が流れる。
リリーシャスは頭を動かし、後方に居るスライムに視線を送る。その目が据わっており、此方に疑いの目を向けているのは明らかであった。この類は場合によれば殺す事も厭わないだろう。
「もし話したとして、わたくしが嘘をついていないと見抜けますの?」
「見抜けないけど関係ない。嘘だなと考えたら殺すし、此方の害になるって判断しても殺すし、話さなくっても殺す。と言うか、これまでの事考えたらもう殺してもいいんだけどね」と書かれ、高確率で死ぬのではないだろうかとリリーシャスは考える。
その後、数瞬静寂が訪れゆっくりと彼女は口を動かし始める。
「・・・・・・1つだけ、聞いても宜しいでしょうか?」
「何?」と書かれ、「傭兵経験は?」と問いかけられたスラは続けて「あるよ」と書いた。
「なら、魔女の子飼い。デルマ・ヘインズと言ったらわかると思いますけど、どうでしょうか?」
と、リリーシャスが言うと、スラは驚き「まさか、あの魔女の腰巾着・・・・・・!」と少々崩れた字体で書かれる。
「そっちの異名は嫌いですの!! まぁ、噂は色々聞いてると思いますけど・・・・・・」
「本当?」と聞かれ、「わたくしの立場を語る馬鹿は普通居ないと思いますし、それに答えはもう出てると思いますけど」と答えた。すると、氷の刃が下ろされ安堵のため息をつくが、水による拘束は解かれなかった。そして、疑いを向けていたスライムは興味津々で目を輝かせながら跳びはねる。
リリーシャスの傭兵時代の異名を出すべきじゃなかったかもしれないと少し後悔する。
「と、言いますか。これ離してもらえません!?」
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