6章

6章1節:捨て子と師

 リリーシャス・リケインが6歳になった誕生日、彼女は1度親から捨てられた。


 理由は単純で魔法適正が壊滅的だった事と扱える神装武具が極端に少なかった事の2つであった。

 適正がない。と言うのはよくある話であり、魔法をメインで扱い戦う者から見れば、良く言えば凡人。悪く言えば無能者程度の扱い。


 だが、彼女の家系であるリケイン家の当主には耐えられない事柄であった。故に捨てられた。

 この様な使えない子供ならば居なくとも一緒だろう。と。

 この時点では彼女はただのお嬢様であり、子供であり、外はほとんど知らないような子だった。


 外部から見れば箱入り娘といえる子であった。だが、実情はただの監禁であった。

 遊ぶ事は許されず、ただひたすら勉強の日々であった。


「お嬢ちゃん。どうかした?」


 普通ならば、1日も経たず死ぬはずだった。だが、そうはならなかった。

 彼女に話しかけたとあるお人好しの女性のおかげで、死亡するという結果は回避したからだ。


「捨てられた」

「えっ!? あ、あー、親に?」

「親に」

「本当に?」


 リリーシャスはゆっくりと首を縦に振る。

 女性は妙に落ち着いている彼女に違和感と不信感を抱いている様子であった。


 それもそのはずだ。たかだか6歳の子が親から捨てられたというのに泣きもせず、喚きもせずただ静かに死を受け入れたかのように、他人の出来事のように達観していたからだ。


 だが、見捨てる事も出来ず、「一緒に来る?」と提案を出した。幼いリリーシャスは、2つ返事でその提案を受け入れたのだった。


「・・・・・・此処、嫌。家畜小屋の方がマシ」


 が、彼女の屋敷に付きリリーシャスが発した第一声がこれだった。

 屋敷は大層立派な物で、庭は広く使用人も最低は十数人は居そうなほど大きかった。最低でも当地している地主なのだろうことは、想像に難くなかった。


 女性は色々と質問を繰り返した後、説得を試みるも返答は変わらなかった。観念し、ため息混じりに「じゃぁ、隠れ家に連れて行こう」と言って初老の執事に色々と言伝事を伝えると、彼女の手を引いて歩き始める。

 1時間ほど山道を歩き、大きな岩の前に到着する。

 何の変哲もなく、確かに珍しくはあるがただただひたすら大きいだけの岩だった。

 だが、女性が指をパチンッと1度鳴らすと、目の前の岩が1つの家に変化しリリーシャスは目を輝かせ、驚く。


「私のセーフハウスの1つ。普段は擬態させててって」


 リリーシャスは好奇心から家に走って向かい、ドアを開く。


「普段はほとんど使ってないから埃だらけよ」


 女性は彼女の元に歩いて行くと、「だから、掃除しなきゃね」と言うとリリーシャスはゆっくりと女性の方を向き、こういった。


「掃除、教えて」


 彼女が初めて教えを請い、師弟関係を持つきっかけとなった生活の始まりだった。

 それから数時間をかけ山奥の家を掃除し、夕方に執事が持ってきた食材で女性が作った夕飯を、リリーシャス"だけ"が食べていた時の事である。


「喋り方?」

「そそ、なんとなくとはいえ拾ったけどさ。私も立場があるし、屋敷には居たくないんでしょ?」

「うん」

「で、私もそう暇じゃないのよね。とはいえ此処に放置するわけにもいかないし、うちの使用人に此処任せるのも可哀想だし、代理を立てれる仕事は代理を立てて、無理な場合は貴女を連れ回そうかと思ってるんだけどいい?」

「いい。けど喋り方、わからない」

「それはね。半分、私の趣味なんだけど、お嬢様らしくって言うかさ威厳とかってやっぱりいるからそれで変えてもらおうかなと。勿論、外面だけでいいからね」


 半分趣味・・・・・・。と思いながら、リリーシャスは承諾し、話し方を少しだけ変える事となった。


「あ、そういえば名乗ってなかったわね。この歳になると物忘れが激しくて大変」


 そう言って笑った女性は、20代多く見積もっても30代ほどの若々しい見た目であり、リリーシャスは頭を傾ける。


「私はスカーレット・ヘインズ。適当に"お姉様"とでも呼んで。宜しくね。リリーシャス」


 そう言って、彼女の頭を撫でた。

 ヘインズ家。彼女を拾った女性は上流貴族で、しかもカレアントの統治機関に席をおいている家の当主であった。








──

────

──────

「・・・・・・んっ」


 リリーシャスは爆風に飛ばされ、咄嗟に壁を貼り直したが、ソレも直ぐに破壊され飛ばされた結果、何処かに落下し気を失っていた。


「夢、か。そういえば、喋り方・・・・・・結局あれからうまく出来なくて、変えてる時の方が多くなってたんだっけ」

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