5章10節:戦いの終わり

「やばいギャ、もうだめ、死ぬってスラぁ・・・・・・」


 「じゃぁ騒がないでよ」と、スラが文字を書き、後方を確認しつつ放たれる魔矢の軌道を逸らしていく。

 うちの1発が進行方向に着弾、思わずギャスは急停止してしまい足が止まった。


「あっ!? まずっ──」


 笑い、狙いを定める暴走体の直上からアリスが落下してきた。

 着地ざまに居合を放ち腕を切断、切られた腕は宙を舞う。

 即座に剣になっている腕がアリスを襲うが、突かれた腕は軌道をずらされすかさず切り返すがこれも逸らされ空を斬る。


 暴走体は蹴り飛ばされ体が浮いた。着地するまでに硬い身体に居合が襲い、空蝉がその身体を傷つけていく。

 切断された腕に再び結晶が生成され、弾けるとボウガンとなっている腕が再び顔を出す。

 飛び散った結晶すらも十分な殺傷能力を持っており、アリスは切り落としていく。その最中、先ほど切り落とした腕に一瞬目線を送った。


 暴走体となった時点でコアは身体へと移動し、暴走者と一体化する。そして、コアを暴走者から切り離すもしくは破壊すると対象は死亡する。そして基本的に身体の変異は"最初の段階"で行われる。更に変異を行う場合は生命が尽きかけている時である。


 体に当たる結晶を全て切り落とし、縮地で移動を始める。

 確かに、皮膚は非常に固く、無効化魔法の効果を持つ魔矢も協力で空も飛べる。だが、それだけで、元のミリーを追い詰めた相手を殺せるとは、アリスには到底思えなかった。


 最初の戦闘で察しはついていた。

 アリスは特に酷くヒビ割れている箇所を狙い居合を放っていく。

 "生命を昇華した魔力"はもうない事に。

 腹部、腕、羽、背中。と、縦横無尽に動き切り裂いていく。

 もう、十二分に戦えるほどの力は残っていない事に。


 腕は生え変わったボウガンの腕を残し全て切り落とされ、羽も片翼が切断。腹部と背中には深い切り傷が刻み込まれた。

 邪魔が入らなければ、彼女との相性が最悪と言ってもいいディードでも1対1で十分倒せるほどに弱っていた事に気がついていた。


「ガグ、ガアアアアア!!!」


 ミリーは雄叫びをあげ、再生させようとするが生成された結晶が即座に朽ち落ちていく。

 アリスが、息を切らしながら距離を開け、ミリーの前に立つ。

 そして苦し紛れで放たれた魔矢を切り落とすとこう呟いた。


「もう、通常の魔力も残ってない、か」


 彼女の腕が力なく垂れ下がる。


「ハァ、ハァ、あれ? アリ、ス?」


 そして、彼女の瞳の色が代わり、光が戻り、本来の意識が表に出てきた。


「・・・・・・ミリー、せん、ぱい」

「先輩は、要らないって」


 そう言うと周囲の状況、彼女の悲しげな表情そして、自身の体を見て言葉を発した。


「あー、そうか。そうなのか。なんか、とっても長い夢見てた気がしてたけど、うち、飲み込まれたんだね。うち、あの子を、リンを」


 魔力が切れ、取り込んでいるコアがうまく活性化されていない状態なのだろう。

 そのせいで彼女の意識が少しばかり離れ、表に出てきた。恐らくこの状態も長くない。


「・・・・・・コアは右胸にあるよ」

「はい」

「アリス、ごめんね。ありがとう」


 アリスは空蝉をミリーの右胸に向かって放つが、直前で複数の壁がミリーを守るように生成された。

 ソレを破壊する事は出来たが、身体に空蝉が到達した時には威力が落ち、コアまで遠隔斬撃が届かなかった。

 その後、数発の銃声がしアリスを数発の銃弾が襲うが、縮地で跳ばれそれらは地面に着弾する。


「ッ!?」


 銃弾が飛んできた方に目線を向けた時、同時にミリーの瞳の光が消え色が変わると再び"人格が入れ替わる"。


「アァ・・・・・・最後ニ、最後ニィイイイイ!!!!」


 ヒビ割れた箇所から光が盛れ始めた。

 アリスはこの状態に見覚えはなかった。だが、何をしようとしているかは直ぐに理解する事が出来た。

 爆発までの時間を稼ぐために、恐らくコア周辺は最後の力を振り絞り守りを固めているだろう。

 彼女は魔力節約のために切っていた2つのドラウプニルを起動しこう言い放つ。


「皆、爆発が起きるから逃げるか防御を固めて!!」


 そう言うと、暴走体を放置し縮地を使用しリザ之助達の元に急ぐ。


「ギャアアア! 逃げるのギャー!」


 そう叫びながらギャスは空へと飛び上がる。

 「待って、上に上がってどうするの!? 氷の壁で守るんだけど、ちょっとぉ!?」と書かれるが、文字は見えていない様子だった。


 アリスはリザ之助達の所に付くと途端にケイに抱きつかれる。


「リザさん、逃げるよ!」

「あ、はい。準備は出来てます」


 そう言ってカバンを背負ったリザ之助が頷く。


「いや、動くな・・・・・・」


 ディードの声が聞こえた瞬間轟音と共に爆発が起きた。

 爆発で生じた衝撃波と爆風が迫るが、一行を覆うように4重の壁が生成される。


「兄さん!?」


 アリスが驚きの声をあげる。


「あー、くっそ。意識飛ぶとか情けねぇ。スラは?」

「え? 爆発の直前に逃げるか防衛するように言っといたから、妹ちゃんなら守って耐えてくれると信じて此方優先したけど、まずかった?」

「・・・・・・了解だ。俺が同じ立場でもそうしてたろうし、ギャスがやらかしてない事を祈ろう」



「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 彼らの予想とは反しやらかしたギャスはスラを巻き込み上空で爆風に吹き飛ばされていたのだった。



「うぉおお、威力すんごい!」


 氷の壁を生成し、ミラの体を借りているアレシア、クロード、リリーシャスは爆風を耐えていた。

 そんな状態の中、叫び声と共にスライムと小悪魔が飛んで行くのが確認出来た。


「んあ、あれって1位の仲間だよね」

「・・・・・・わたくし、ちょっと助けに行ってきますわ」


 と、リリーシャスは言って自身の周囲に壁を生成し、浮かび上がる。


「リリー、無茶は!」


 クロードの静止を無視し、飛び上がり爆風に乗ってスラとギャスを追っていく。


「確かに助けに行く義理なんてありませんけど」


 彼女は、クロードが通信に入ってきた時に言っていた言葉を思い出す。


「元々は標的ですけど、それでもわたくしは・・・・・・!」


 スラに追いつき、壁の一部を消して手を伸ばす。


「捕まってくださいまし!」


 水で手が作られ、掴むと手繰り寄せ、彼女の肩に乗りお礼の言葉を書く。


「気まぐれですわ。もういった・・・・・・」


 ギャスを探し始めた時のことだった。2発目の爆発が起き、その衝撃波に耐えられず壁が破壊された。


「う、そぉ!?」



 その後もう数発の爆発が発生し、周辺は爆風で滅茶苦茶となっていた。

 爆心地では砂細工のような状態になったミリーの姿があった。

 次第に崩れ去り、活性化したコアを残して砂の小山が出来上がり、光が消えたソレはポトリと小山の上に落ちる。

 そこに1体のコボルトが近づき、コアを拾い上げた。


「兄貴、回収完了」


 不敵に笑うとコアを仕舞い、立ち去ろうとする。が、突如ナイフが飛来し、跳び退ける。


「っと、何か来た」

『了解。ま、今回はコレで撤収だな。合流ポイントに向かってくれ。サクラちゃんも撤収してくんな』

「分かったよ。このまま引く」

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