5章9節:混戦7

 ゴーレムが機能を停止する数分前の事であった。

 突然意識を失ったミラの夢の中に、とあるぼやけたシルエットの女性が現れる。


『貴女は?』


 性別はギリギリ判別出来たが、誰かまでは分からなかった。


『私だよ、私。アレシア』

『アレシア・・・・・・お姉ちゃん?』

『そうそう。私死んじゃってね』


 そう、笑いながら言う彼女にミラは驚く。


『えっ!?』

『でね。まぁ、予めミラちゃんの神装武具に調整込で、予め仕込んどいたんだよ。んで、簡単に言うとちょっと"体借りる"ね』

──

────

──────

 ミラは目が冷め、周囲の障壁を消すとよろめきながら立ち上がる。


「・・・・・・えーっと、メガネ、メガネ」


 ゆっくりと歩き、近づいてくるゴーレムを片っ端から凍結させていき、アレシアの死体がある所まで来るとメガネを取り自身にかけ、ポケットから指輪を取り出し左手の人差し指に付ける。


「よし。"呪い"って此方にも影響あるんだねぇ。元戻った時に影響無ければいいけど」


 などと呟きながら周囲を見渡す。


「やっぱ移動させてるか」


 襲いかかってきたゴーレムをヴァジュランダで突き刺し、凍らせると砕け散った。

 探していたのは、奴らを発生させていると思われる神装武具であった。ソレが現れた場所に魔力合成合金の破片が散らばっていた。

 恐らく、攻撃の直前に移転結晶を使用し移動させてきたのだろう。

 ゴーレムの魔力から魔力の発生源をたどり、神装武具の場所を割り出し不敵に笑った。


「クーちゃんにゴーレム関連の事聞いといて良かったかなぁ。って、あの子が勝手に夜通し喋ってただけだけど」


 独り言を言いながら、ゴーレムを蹴散らしていき1本の槍の形状をした神装武具と筒状の装置を見つけた。そして、ソレを凍らせコアを破壊する。

 するとゴーレムは機能を停止し、動かなくなった。

 ミラは装置と神装武具の前に来て口を開く。


「グラーシーザの偽装に・・・・・・これは」


 筒を破壊し中身を確認する。


「擬似的に繋いだ臓物、か。となるとこれ凍結されたはずの神装武具の自立稼働化の装置かな。胸糞悪いもの使うなぁ。ってより、裏にラボの誰かか、同じだけの技術と知識を持った技術者がいる事になりそうか」


 完全に凍結させたグラーシーザを砕き、コアを確認する。すると、コアは球体を切断したようなドーム状になっていた。


「ついでに、コアの分割も出来るレベルっと。となると怪しいのはネクロマンシー持ちだしたラボから追い出された人が怪しいか。おっと、考えるのは後だよね」


◇ 


「あはっ!!」


 緩急をつけられた攻撃にクロードは苦戦していた。

 ただ緩急をつけているわけではなく、緩い攻撃の時は明らかに手を抜いており、隙だらけの攻撃を仕掛けてきていた。だがそれに釣られ、攻撃するも的確に防がれるか、避けられ一転し速い攻撃に切り替えられ、鋭く隙もなくなっていた。

 彼は鋭い斬撃を避けようとするも、避けきれずに腕や足を掠めていた。


「戦いにくいでしょぉ? 加護持ちの事"良く知っている"人間と戦うのはさぁあ!!!」


 サクラはそう叫ぶように言い放ちながら刀を振り上げる。が軌道を逸らされ、切り返しが彼女を襲うが小太刀で受け止められる。


「弐之型-」


 後退しつつ呟き。


返牙へんげ


 逆にサクラが切り返した。

 切先は咄嗟に避けたクロードの左側の首元から右下腹部にかけてかけなぞるように通り、浅い切り傷を作る。


「強い!」


 クロードは構え直し、サクラを見据える。

 彼女は、息を整えながら小太刀を鞘に収めた。


 単純な強さで言えばアリスとほぼ同等。だが、彼女より彼の加護の事をよく知っている分やりにくさが段違いであった。

 確かに勘もいい腕もいい。だが、感知能力はどうだろうか。


「リリー、準備はいいかい?」

『リザードマンに荷物と村の子は任せましたし、何時でもいけますわよ』


 クロードは気がついていたのだ。彼女の感知能力がとても低いという事に。


「分かった」


 前に出て、再び斬り合い始める。

 だが、やはり押され更に彼の身体に切り傷が増えていく。


「あはっ! これでぇ」


 朱突とサクラが呼ぶ突きが彼を襲い、無理に防御した事により隙が生まれた。

 即座に1発の居合が放たれ、腕を飛ばすと足を払い彼を倒す。


「これで終わり、ってねぇ!」


 彼女は刀を振り上げた。

 それを確認したリリーシャスはトリガーを引く。


「漆之型-刃幻」


 クロードの腕を踏みつけながら体を捻らせ、死角から迫っていた砲撃に当て相殺すると、サクラは不気味な笑みを浮かべた。


「残念。狙いはいいけど舐めすぎってねぇ」


 彼の身体に刀を突き刺そうとするが何かを察知したのか、突き刺す前に跳び退け距離を取り始める。

 少しし、倒れる彼の周りの地面が凍りついていく。


「ミラ、かい?」

「そう! ミラちゃんの体を借りて大復活アレシアさん! 可愛い子でパンツって叫びたい。いや叫ぶパァンツ!」


 と叫びながらメガネをかけたミラが姿を現す。


「えっと?」

「ふっふっふー! セクハラをするために地獄から這い上がって来たのだ! ほーらブラジャーとかぱんちらとかおっぱいとか普段聞けない言葉を、ミラちゃんの口から聴き放題だー!!」

『アレシア、やめたげて!』


 思わずシャローネからツッコミが入った。


「とんでもない殺気だったけど、馬鹿っぽいしぃ・・・・・・いや、そうじゃないかぁ。これじゃぁ近づけないや」


 そう独り言を言いながら刃幻を彼に向けて飛ばしていくが、避けられ体勢を整えられると切り払われていく。

 彼女は度重なる戦闘により、魔力が心持たなくなっており、いつの間にか空に陣取っていたリリーシャスを直接狙う事が厳しくなっていた。そして、ミラの体を借りたアレシアの登場により、凍結のおかでクロードに接近戦を挑む事ができない。


 刃幻をミラに撃つも、障壁に阻まれ攻撃が通らない。

 中、遠距離戦をリリーシャスに挑むとしても狙う対象が遠く、威力が落ちるうえ魔力残量を考えると、落としきれる確証が持てない。

 更に後退し、対策を練ろうとするが、この状況で1人で対処する案は何も浮かばなかった。


「ねぇ、早くさぁ~? 借りかえしてくんないかなぁ?」


 手詰まりとなってしまい、サクラは通信を飛ばした。

 クレイドの神装武具による魔法の無効化により、彼は凍結を気にせず接近できる。つまりこの状況を崩すにはうってつけであった。数的不利も随分とマシとなり、負ける要素はない。

 が、返って来た言葉は「防衛に入れ」と言う言葉であった。

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