5章3節:混戦2

 彼女の予想は的中した。

 戦闘開始直後、狙ったかのように死角から魔矢がアリスの元に殺到し、回避を迫られていた。

 アリスは準備していた縮地を使用し、避けながら前に出る。フェイントを入れながらクロードの背後を取り居合を放つ。

 だが、突如発生した発光する"何か"に阻まれ刃が彼には届いてはいなかった。


「っち」


 次の瞬間、彼ごと砲撃の雨が降り注ぎ周辺を小さなクレーターを大量に作り出していく。

 アリスはこれをも平然と弾き避けながら、次の攻撃の機会を伺い近づく。そして、攻撃に移ろうとした時の事だ。彼の持つ剣が彼女の胸に向かって突かれた。

 鞘で軌道を逸らすが、そのまま鞘の上から横向きに力任せに薙られ、体勢が崩れる。


 追撃を防ぐため、一旦距離を取るもその時に顔と腹部に弾が掠めた。

 この攻撃の中、彼には1発も攻撃が当たっていなかった。つまり、リリーシャスは彼を避けて、あのイガグリのような形態で砲撃している事となる。


──けど、そんな器用な事出来るような状態じゃないよねアレ。何かカラクリがあるはず。


 と考えていると、雨のような攻撃が続いている最中にも関わらず、"威力は低い"が通常の砲撃が1発飛来し地面を抉る。


 その攻撃に違和感を感じ、目線を彼から外しリリーシャスの方に向けた。すると、イガグリのような形状で身は包んでは居らず、左腕でイガグリの様な盾に似た物を携えから細かい魔弾を放ち、右腕は二回りほど小さくした大砲を携えていた。


 続けて大砲から第二射が飛来し、アリスはそれを難なく避ける。が、同時に雨のような攻撃が止み、避けた先にクロードが迫っていた。


「読まれたか」


 間合いに入ると連続で突かれ、彼女は最小の動きで見切り避けていく。

 隙を見て、縮地と空雪を使用し背後に回り居合を放つ。が、瞬時に逆手に持ち変えられた細身の剣によって剣筋を変えられ、体を逸らされ器用に避けられた。

 アリスは追撃をしようとするが、変形し放たれた砲撃が迫り縮地で距離を取る。砲撃は彼のよこを通り過ぎ地面を抉った後、クレーターを作った。


『うーん、やはり中々当たりませんわね』


 彼の頭にリリーシャスの声が響き、苦笑いしながら構え直す。


「そうだね。でも、動きを制限する方向はかなり良かったと思うよ。僕は動きにくかったけど」

『まぁ、前回試して成果はありましたから。とはいえ、2人ですと攻め手に欠けますわね。クロードさんなんとかミリーさんの所まで移動できませんでしょうか?』

「分かった。やってみるけど、あの壁を張るの彼と連携されたら面倒じゃないかい?」

『確かに面倒で先ほどの行動制限は出来ませんが、クロードさんは"加護"のおかげで壁による行動制限はうけませんし攻撃を捌けます。そしてシャローネさんの射程範囲に再び入って連携も幅が効き、ミラさん達とも合流出来ます。それにわたくしは砲撃に専念出来ますわ。モード"ハーフ"は便利ですけど、どうしても火力不足感が否めませんし。故にデメリットよりメリットの方が大きいと判断致しますの』

「なるほど、理解したよ。彼女的にも孤立した状態でこのまま削りあうのは避けたいだろうしね」

『ええ、寧ろわたくし達より合流したがってるかもしれませんわ。それともし此方にアリスさんが来ましたら全力で向こうに行って下さいまし。一番効果的でしょうから』


 アリスは距離を取り、刀を鞘に収めると思考を巡らせていた。

 リリーシャスは何やら新調した武器に仕込んできている。動きを見る限りやはりクロードはアリスの攻撃を目で追えており、対応も可能。再び雨のような攻撃で動きを封じに来られると厄介なうえ、気を抜くと削りきられれる恐れもある。

 しかし、あの彼女のディヴァインの両用の状態は汎用性と命中精度を取ったが火力は低いと見える。

 最後にアリスを仕留めに来ていた砲撃は、変形し直していた点を考慮するとほぼあたっていると考えて差し支えはないだろう。


──この戦闘、まだ"マーキングが残ってる"7位を先に落とした方が圧倒的に楽だけど、7位を餌に釣りの可能性があるし此方としても、極力すぐに向こうと合流出来る距離は最低でも保ちたい。さて、どうしたものかな。



 村近くの森に2人の少女と女性が潜伏していた。

 暴走してしまっているミリーを奇襲する腹積もりなのだが、中々そのタイミングを測りかねていた。

 森の中から、壁を張る青年とミリーの戦闘にちょくちょく介入するローブを来た男性。此処に参加したとして、不測の事態に陥る光景が用意に想像出来る。


「シャロ。どうしよっか。外から削る?」

『削るのは、アリだけど、初撃は、仕留めに、行きたい』

「仕留めに、か。まぁ、此方狙われて標的にされるのも面倒だしね。にしてもあの男の人どんだけ魔力操作量マジックマニュピュレイトと魔力あるの、頭可笑しいんじゃないの」

『前、言った人』

「あー、シャローネ達で攻め切れないって人ね。こりゃ納得だわ。てかさ、アレ学園内で1対1でやって勝てる人って誰いるだろ?」

『んー。可能性あるのは、1位、クロード、生徒会長、副会長、16位、20位、ハンナ、本気のリアナ、蜘蛛女くらい? 後は、クーが、神装武具、使用しての、奇襲なら、いけるかも。防戦に、徹された場合は、1位か、クロードか、16位、ハンナぐらいしか、落とせない、と思う。あ、一応可能性として、シーラも、落とせるかも?』

「あー大体納得だけど、クラーラは脳筋だから、あぁいうタイプには滅法弱いから無理じゃない? マルコスと一緒なら勝てるかもだけど。後相性的にはミラちゃんはどうなの? 凍結できるけど」

「ミラですか!? そ、その凍結魔法が効かなくて・・・・・・」

「ありゃ、そうなの。なんかごめん」

『で、ミリーは、戻せそうな、状態?』


 シャローネにそう問いかけられ饒舌だったアレシアは言葉に詰まる。

 そして一服置くと、ゆっくりと口を開いた。


「端的に言うと、無理だね。ついでにアレ相当弱ってる状態」

『そっか。了解。もう、ミリーと、チェスは、出来ない、んだね』


 悲しげな彼女の声が聞こえて来る。


「そうなるね。私個人としても結構寂しいけど、遅かれ早かれ戦いに身を置いてる時点で早死するから、仕方ない事だよ。だからってぬくぬくだけど、必要以上にドロドロしてて、デイリーで暗殺に怯えなきゃいけないような後方に身を置くのもごめんだけどね。あーあ、話戻すけど我らが2年生色物5人衆が揃いも揃って不甲斐ないねぇ」

『遠回しに、自分も、不甲斐ないって、言ってない? てか、戻って、なくない?』

「もちのろんですよ。リリーシャスちゃんみたいな火力もないし技術も足りない。あれは抜けないわ。あれ? 話が戻ってない? 本当にぃ?」

『雑談から、抜けてない』

「ありゃこりゃしまった」


 彼女はそう言いながらぎこちなく笑う。


「あの、色物5人衆ってなんですか?」

「うん? 頭おかしい2年で特に頭イカれた連中だよ。本当は7人にしたかったんだけどね。設立は私とクラディーネとダリアで残り2人を集めましたハイ」

『それだと、語弊・・・・・・うまない?』

「平気、平気。間違ってはないから」

「えーっとつまり、近づかない方がいい人達って事ですか?」

「それは大丈夫かな。"5人"のうちフェイト先輩見たいな舵の切り方してるの・・・・・・クラーラぐらいしかいないし、ちょっと変な連中で変な戦い方する奴多いけど適当に接する分には問題ないよ」

「では、クラーラお姉ちゃんには近づかないようにして、他のお姉ちゃん方とは仲良くなろうと思います!」


『・・・・・・これで、良かったのかな。まぁ、仲良くなってて、損はないか』

「あはは、正直、私クラーラに怒られそ。っと、長話が過ぎたね。狙うならローブ男かミリーだけどミリーはどうあがいても、リリーシャスちゃんと勇者候補君来ないとお話にならなそうだし、壁多様する人倒すにも利用したいし、消去法でローブ男かな?」

『そうなるね。準備する。爆散はいる?』

「いるいる。寧ろ私が追い詰めるからさ、ミラちゃんとシャローネで決めちゃってよ。こう凍結させるなり、矢ぶっ刺して爆破するなりして」


 そう言いながらアレシアは樹の枝から飛び降り、着地すると背を伸ばす。


「何にせよ、美味しい所は・・・・・・」


 後方で誰かが樹の枝を踏み折る音と共に異様な魔力を感じ、アレシアは後方に目線を送る。

 そこには、大量の魔力をエンチャントさせた刀を携えた1人の女性が狂気の笑みを浮かべ立っていた。


「まずっ──」

「壱之型-・・・・・・」


 アレシアは急いで水の壁を生成した。


斬撃ざんげき


 が、一瞬にして間合いを詰められ放たれた斬撃により、生成途中の壁ごとアレシアの右腕が両断される。


「くっ、そ」


 悪態を付きながら後退し、ミラがコアを活性化させながらアレシアの前に出て身構える。


「ふーん。反応はいいのか。それに・・・・・・ま、どうでもいいや。弐之閃-縮地~♪」


 独り言を呟きながら即座に離脱され、2人は呆気に取られる。


『何かあった!?』


「えっと、敵に襲撃されたんですけど、直ぐに何処かに行かれました」

「んで私の腕持ってかれた」


 傷口を押さえ、自己治癒を始める。


『だいじょ・・・・・・アレシアの、腕は、戦闘中、飾りだから、いいか』

「おい。流石にそれは言い過ぎだから!? ミラちゃん、ちょっと開けた場所に移動しよう。そこで適当に水壁出すから片っ端から凍らせて。シャローネ此方に魔矢飛ばしてそっちも警戒。多分だけど、今のは足止め臭いんだよね。本命が来そう」

『同感。じゃぁ、奇襲はなし、でいいよね?』

「うん。じゃないとアレに参加して襲われたら誰か死にそうだし、さ」


──問題は、そう思わせておいてか~ら~の~完全無視だけど、さてどう動いてくるのかな。


「それに、さっきの人の攻撃さ。1位と似てた気がしたんだよねぇ・・・・・・」



 思考を巡らせるクロードとアリスの前に、1人の女性が現れゆっくりと歩いて来る。


「みぃつぅけたぁ~♪ あはっ! 奇遇だねぇ。偶然だねぇ。偶合だねぇ。いやぁ? 運命なのかなぁ? アァリィスゥ」


 彼女は右手に刀を持ち、左腰のベルトには小太刀が挿されていた。髪は肩に掛からない程度の長さで狂気に満ちた笑みを浮かべ、上機嫌と言った様子であった。


「・・・・・・サクラ。やっぱり」


 アリスは殺意に満ちた目で彼女を睨みつける。


「いい目だねぇ。そう、その目だよ。ゾクゾクする。で、どうしようか。一緒に遊んで昔話でもする? あの時の続きをする? それともぉ~私のために死んでくれるのかなぁ? 私個人的には一番最後がお勧めなんだけどぉ、どうする?」

「そんなの」


 アリスは縮地使い、距離を一気に縮め間合いに入ると居合を放った。だが、難なく刀で受けられ鍔迫り合いが始まる。


「あんたを殺す」

「あはっ、相変わらず無愛想だねぇ、アリスはぁ」

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