5章2節:混戦1

 ディード達が行動に移ろうとした瞬間の事であった。ミリーに1つの魔力による砲撃が直線上の壁をすべて破壊し着弾する。が、羽に軽々と弾かれてしまっていた。

 それを見た彼は、攻撃が来た先を確認し舌打ちをする。


「あいつらかよ! アリス、アレをあいつらに押し付けて俺らは引くぞ」

『うまくいく?』

「あー半々だな。場合によっちゃ引くふりして倒す」

『分かった』


 攻撃の先とアリスの話から彼らの目的があの暴走体と言う事は直ぐにわかった。ならば、手を出さなければ奴らが自然と相手をしてくれる。

 周囲に張り付いているアリスが砲撃があった方向から攻撃し、直後2発目が着弾。暴走体の意識が逸れたのと同時に、合図を出し移動を始める。

 だが、第三勢力はそれを良しとしなかった。


『ま、魔王様。スラがまずいって』

「はぁ?」


 次の瞬間、暴走体が後方から高速で迫った何かに突き飛ばされ、リザ之助達の近くに墜落する。


──確かにこれはまずい。


 両者の間に貼れるだけ壁を生成していく。

 すると、間隙を突くようにして死角から迫っていた、グールの補足が遅れた。急いで防衛しようとするが抜けられ、何かが塗られたナイフが腹部を掠めた。

 ハルバートを振るうが避けられ、後に引かれた。だが、彼を追おうとはせず、血が滲み出る腹部を押さえ一行の方に走り始める。

 暴走体はよろめきながらゆっくりと立ち上がると、瞳でリザ之助達を捉えていた。

 すると、奴の直上に移動していたアリスが居合の構えに入る。


「ミリー、此方」


 2発ほど斬撃を与え、瞬時に移動し振るわれた腕を回避する。唸り声と共に弓を構え、逃げる彼らに狙いを定める姿を確認し彼女は悪態をつき、空雪を暴走体の周囲に発生させる。


 即座に暴走体は魔矢を引こうとする。が、その直前手元に複数の氷の槍が殺到し狙いを狂わせた。放たれた魔矢は壁を無効しながら飛び、一行の真横を抜けていく。


「ギャー、危ないギャー!」


 「ギリギリ~」と文字がかかれ、引きながらスラはリザ之助とケイの方に目線を向ける。


 あの敵の恐怖心からか、状況を理解しているのか、発動するほど余力がないのか。いずれにせを彼に手を引かれている状態でも彼女は魔眼を発動せず、此方の素直に言う事を聞いていた。しかし、万全と言うには程遠い状態であり既に息が上がり冷や汗をかいていた。体力の限界を迎えるのもそう早くはないだろう。


 もう1つ、暴走体の標的が変わった事が問題になる。

 現在はアリスが再び突撃し、更にディードが加わって相手をしているが、チラチラと一行の位置を確認している所を見るに、標的は移ったまま変わっていない様子であった。

 半壊している民家の裏に隠れ、「プッチちゃん、また伝言頼む」と書かくとギャスは頷いた。


『えっと、スラがとりあえず、グールの人先に倒すのは最低条件として、そこからどう逃げるか考えた方がいいって書いてるギャ。現状だと、向かって来てる連中に押し付けるにも、無理矢理此方に飛ばしてきて逆に危ないからとも』

「さっきの奴だなっ!」


 ハルバートを振り下ろすも羽に防がれ金属音が響く。彼が後に下がると、間髪入れずにアリスの斬撃が暴走体を襲った。


 再び張り付こうとするも、咆哮をあげながら一度羽で身体を覆い即座に開け広げる。それを避けるためアリスが後に飛ぶとその僅かな隙を狙い、暴走体が狙いを定め即座に魔矢を放った。

 ソレは一直線に彼女の心臓に向かうが、接触する寸前に刀で軌道を逸らされ、避けられる。


「でも、ミリーもほっとけないし手数が足りないね」


 アリスはそう言いながら、縮地を使用し移動する。

 暴走体の死角から迫っていたディードがナイフを投げた。それは当然のように羽で防がれ、ハルバートを振り下ろす彼の動きに合せ腕が振るわれた。

 接触する直前ハルバートを消ししゃがむと、足を払い体勢を崩そうとする。だが、奴は羽を羽ばたかせ浮かび上がりながら彼に向けて矢をつがえた。


 矢が引かれたと同時にアリスが落下しながら斬撃を放ち、彼女を叩き落とす。その衝撃と、魔矢が地面をえぐった影響で周囲は砂煙が立ち込た。その中からディードが出てくる。


「どうだ?」

『ダメ、手応えがない』


 通信と共に煙からアリスが出てくる光景が見えた。


「そうか。かってぇなぁ」


 真後ろに複数の壁を張り、目線を向けながらハルバートと再成形する。

 次の瞬間、ナイフを持ったグールが壁に阻まれ奇襲に失敗した光景が彼の目に移った。


「それはもう"知ってる"」


 ハルバートを振り上げると、即座に後に跳ばれ避けられる。


「アリス!」


 奴が着地したと同時に、彼女の衝撃波が奴のナイフを持っていた腕を両断する。

 一瞬、腕を掴む素振りを見せるが、諦め後退していく。そして、追うようにしてアリスが現れた。


肆之閃しのせん死奏しそう


 そう呟き、落下している腕とナイフに向かって一瞬で3発の斬撃を行った後、1発の突きを放った。

 すると、切っ先に丸い物が突き刺さっており、ひび割れ最終的に真っ2つに割れ地面に落ちた。


「やっぱり、神装武具だったか」


 突き刺していた球体はコアだった。どのような性能だったかは知らないがこれで、ある程度戦力はおちたはずだ。

 次に切っ先に空雪を発生させ、それを1本の道のように伸ばす。


地双じそう


 そう呟くと、刀を振るって鞘に収め、縮地でグールを追い始める。

 発生した衝撃波も空雪を伝って移動していく。


「さて、兄さん。そっちの援護辛そうだけど大丈夫?」

『此方はなんとかする。アリスこそ死ぬなよ』


 見に覚えのある気配を感じ立ち止まりこう返す。


「大丈夫。死にはしないだろうから」


 目線を左側に向けると、とある優男が立っていた。


「数日振りだね」

「・・・・・・正直、構ってる暇はないんだけど」

「それはボク達も一緒だけど、邪魔をされると困る。だから無力化させてもらうよ」


 彼の直上に空雪を伸ばし、衝撃波を走らせるが砲撃で弾き飛ばされてしまう。


「・・・・・・あんたと7位か」


──後は2位と数人潜んでいるはず。19位がこの場に居ないとなると、性格と戦闘スタイルを考える限り参加していないと見るのが自然。・・・・・・それでも正直、辛いかな。


 クロードは剣を抜き構えた。


「リリー、援護は頼むよ」

『何時も通りで?』

「うん。何時も通りで。じゃ、行こうか」



『兄貴、とりあえずこんな感じでいい?』


 声が響き、暴走体と前魔王の息子の戦闘を眺めながら「最高の結果だ」と答える。


「んじゃ、サクラちゃ~ん。潜んでる2人組にひと当て行こうか。殺すかどうかは任せる。その後は次の指示があるまで好きにやんな。クレイド、残ったのはお前に任せる」

『了解』

『分かった。・・・・・・待っててねぇア~リ~ス~』

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