4章8節:生き残りの少女2

「いてぇ・・・・・・」


 今度は壁を破壊してしまうほどの勢いで吹き飛ばされはしなかったが、見事に顔から叩きつけられた。

 1日に2度も魔眼により飛ばされたのは彼に取って初めての経験であった。

 彼を飛ばした張本人はというと、アリスの後ろに隠れ、此方の様子を伺っていた。


「ごめんね。兄さん。まさかこの状態で無理矢理発動させるとは思わなかった」


 アリスは彼女の頭を優しく撫でる。


「いや、いい。流石にアレはタイミングが悪すぎただけだ」


 ディードはよろめきながら立ち上がる。

 この様子だと、ケイの持つ魔眼は弾き飛ばす対象を限定、選別出来ると見てまず間違いない。でなければアリスも飛ばされいなければおかしい。


「で、そいつが至って健康体なのはよーく分かったが、なんか用か?」

「ケ・・・・・・この子の様子を見てもらおうかなと」

「別にいいが、そいつの方に問題ありそうな気がするんだが、俺の思い過ごしかね」

「多分問題あるね」


 アリスは未だに警戒しているケイに目線を向ける。


「だろうな。ま、スラ達が戻ってくるまで待っててくれ」


 「分かった」と言い、ドアを閉め外で待つことにする。

 現在、スラとギャスは周辺の警戒及び偵察に出ていた。本来はアリスがやっていた事なのだが、ケイの世話をしなければいけないため代理として出ていたのだ。この2体ならば、ケイも流石に怖がらないだろうという判断だった。

 もしダメならば、引き続きスラとギャスに偵察に出てもらう他ない。

 2人はドアの横で壁に座り壁に寄りかかっていた。


「ねぇ」

「ん? どうかした?」

「さっきの・・・・・・お肉」


 彼女にそう言われ、アリスは説明を始めた。

 先ほどディードが捌いていたのはフェアーラットという魔物の一種で背中には小さな羽がついている。だが飛べない。繁殖力が高いせいか大陸全土で住んでいると言われている。

 肉は食べることができ、少しパサパサしているが美味しい。そのため燻製や干し肉にし保存食として利用される事も多い。問題があるとすれば、骨が多く食べづらい事。


 この事は平民や旅人等では常識中の常識。そして先程の反応といい、彼女が元は割りといい所のお嬢さんだとアリスが察するには十分だった。

 説明が終わると、ケイは何も言わずに視線と落とす。


──まずい。会話が続かない。


 そう考え、色々と話しかけるが無反応か反応が薄くすぐに会話が途切れてしまう。

 最終的にはアリスも諦め、静寂が2人の間に訪れた。

 ギャスの背中にスラが乗った状態で飛んで戻って来までの時間、少々長く感じていた。


「ん、その子起きたギャね~」

「お帰り。ごめんだけどこの子頼んでも良い?」


 アリスは立ち上がりながら、座っているケイを指差した。


「別にいいギャけど、怖がらないギャ?」


 ケイに目線を落とすと、目を輝かせ2体を見ていた。


「小さいのは興味津々みたい」

「なんか言い方にちょっと嫌味を感じるギャけど、問題ないなら面倒見るギャよ」


 「じゃ、頼んだ」と言ってアリスは縮地で移動し、一瞬で姿と消した。



 ディードは間借りしている民家に設置されていた燻製窯にフェアーラットの肉を入れ、スモークチップに火を付けいぶし始めた。

 手を洗い、つけていたエプロンを脱ぐと、恐る恐るドアを開け周囲を確認する。

 少女とアリスの姿が見えずゆっくりと外に出た。

 1つ見える火の光りに歩を向ける。


「あ、ディードさんお疲れ様です。ケラの種焼けてますけど食べます?」


 火の近くまで来ると、香ばしい匂いが立ち込めており、リザ之助に笑顔で問いかけられる。


「おう、食べる」


 すると、真っ黒になった種を1つ火から取り出すと、水を張ったボウルに入れ一気に冷やす。少しして取り出すと、平らな石の上に乗せ包丁で真っ二つし、皿に乗せスプーンと一緒にディードに差し出した。


「さんきゅ、ブラックペッパーあるか?」


 受け取り腰掛けながら問いかけると、リザ之助は「そこに」と言って1つの木で出来た入れ物を指差した。


「ああ、これね」


 断面にブラックペッパーを振りかけ、種の中身をスプーンで掬い口に運んだ。


「そういやあの子は?」

「え、あぁ、今は民家でスラさん達と遊んでるみたいですよ。少し前プッチさんが来て話してくれました」


 と、リザ之助は明かりが付いている民家を指さしそう言った。


「でも話はあまり出来なさそうな様子とも言ってましたね」

「案外、懐いた相手とはかなり話すかもな」

「それは・・・・・・ありえそうですね。私も怖がられてましたし」

「そりゃそうだ。俺が怖がられててリザ助が問題ないって方がおかしい」


 タイミングが悪かったとはいえ、あの目は完全に怯えきっていた。怖がられていたのは明白だった。


「酷くないですか!?」


 2人は軽く笑う。


「怒られるかも知れませんけど、1つ聞きたい事があるんですがいいですか?」

「ん? なんだ?」


 半分を食べ終え皿に置き、もう半分を手に持つ。


「なぜ、あの少女助けようと思ったんです?」

「おう・・・・・・? 情報源、スルーするとスラとアリスが怒るだろうからそれの回避。これでいいか」

「あ、やっぱりディードさん本人は助ける気はなかったんですね」

「どうだろうなー。気まぐれで助けたりは何度かしてたし、気が向けば助けてたと思うぞ。スラだって最初は気が向いて助けただけだったしな」


 彼は昔の事を思い出す。適当に任務を請け、終わらせた帰り道。ボロボロで死に掛けていたスラを見つけた時の事を。


「んで、急にどうしたよ。こんな事聞いて」

「単純に気になりまして。出会って数日ですが、ディードさんの事分かったかな~って思ったんですけど全然ですね。アリスさんは結構楽だったんですが」


 彼は愛想笑いを浮かべながらそう答え、ディードは何か思いついたような表情をし、ゆっくりと口を開く。


「・・・・・・人見知りのフリはしているものの実は結構お喋り」

「それで居て結構お人好しなんですよね。後は名前を中々覚えれないみたいですけど、2文字なら比較的早く覚えてますし。後たまーに抜けてたり」

「ククク、大体合ってるな」



「へくちっ」


 闇が支配する森の中、1つのくしゃみが響き渡った。


「あー、風邪引いたかな・・・・・・」


 そう呟きながらアリスは樹の枝を飛び渡り、周囲の確認を進めていく。

 逃げようとしたあの村の住民と思しき死体と、攻撃後を複数確認した以外は別段これと言った異常は見受けられなかった。

 ふと、疑問が浮かんだ。


 あの子がいい所のお嬢さんだとして、なぜこの辺境に来ていたのか。

 此処は仮にも最前線の1つ。只のお忍びで来るような場所ではない。

 従者や護衛と思われる死体が見つからなかったのは、正装ではなかったと考えればいいが、今回襲われた事柄以外にも何かあると見ておいていいだろう。

 それと懸念すべき問題はもう1つ。


「・・・・・・もし暴走したミリーと出会ったら、兄さん襲ってきた奴も出張ってきそうよね」

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