4章9節:前夜

 クロード達が学園を出て、とある町を経由し、転移魔法を使用し現在目的地である村の近くの町で宿をとっていた。


 今回道具を使用した転移魔法は、予め飛びたい人間に移転結晶と呼ばれる代物を渡し、着地地点に魔法水と呼ばれる物をばら撒く。すると、魔法水が魔法陣を成形し結晶を所持している人物を魔法陣に召喚すると言う物である。この移動方法は便利ではあるが成約が多く、まずそれぞれ魔力的にひも付けされており、1セットに付き1人しか移動させる事ができない。つまり、一度に大量の人数の移動には向かない事。更にこの道具は量産が低く、更にコストも高い。そもそも人が作っている代物ですらない。


 彼らは、ある程度の動きと作戦の確認をし現在は各々準備や休息をとっていた。


「ひゃっはー! ふかふかのベッドだー!」


 のだが、何故かクロードを除いた全員がリリーシャスの部屋に集まっていた。そして、今回の助っ人とも呼べるアレシア・ペルスュイはリリーシャスが寝る予定のベッドに勝手にダイブを決めていた。


「先輩、自分のベッドにダイブしたら良いのではないのでしょうか?」

「え? 嫌じゃん?」


 「何を言っているんだよ」と続けながら首を傾げる。


「わたくしだって嫌ですわよ!?」

「ま、アレシア、変人だし」


 部屋に備え付けてある椅子に腰掛け、テーブルには持ってきているチェス盤を置き、シャローネとミラがチェスをしていた。


「あらあら~? シャローネも人の事言えないよねぇ~?」

「アレシアより、マシ。・・・・・・マシ、だよね?」

「そりゃあそうだよ。私よりかは全然マシだね。あはは~」


 上機嫌になりながら、布団に包まり始める。


「せ、先輩?」

「リリーシャス。知ってるかい。マーキングってものを!」

「勿論知って・・・・・・何をしでかそうとしているのでしょうか?」


 ゆっくりと立てかけてあるディヴァインの元に歩いて行き、手に取取ると金夜魔装-ドラウプニルのコアを活性化させる。


「そりゃもう存分と」

「存分と?」


 目からハイライトが消えたリリーシャスはディヴァインの砲門をベッドに向けた。


「私の匂いを付けているのさっ!」

「じゃぁ、消さないといけませんわよね」


 彼女はトリガーに指をかける。


「うん、ちょっと待とうか! ほら、シャローネからも何か!」

「アレシアは、一度、痛い目見たほうが、いい」

「うそぉ!? ちょ、ちょ、ちょちょ! 待って待ったごめんなさい! やり過ぎた!!」


 包まっていた布団を投げ飛ばし、両手を挙げ取ってつけたような謝罪の言葉を述べた。

 大きなため息をつき、ディヴァインのトリガーから指を離しながら銃口を下げる。


「ちょっと、外の空気吸ってきますから、それまでに先輩はちゃんと布団を直しておいて下さいまし」


 そういうと、リリーシャスはディヴァインを立て掛け部屋を後にした。


「あらぁ、怒ったかな?」


 アレシアはドアを見ながらそう問いかける。


「怒っては、無い、と思う。ただ、疲れてる、と思う」

「リリーシャスお姉ちゃんは、レストお姉ちゃん以外はそれほど怒らないですからねー。チェック!」

「で、アレシアは、なんで、リリーに、ずっと、ちょっかいを?」


 学園から出て彼女はリリーシャスに事ある事にちょっかいを出していた。例えば、どうでも良いうんちくを言ってみたり、いきなり抱きついて見たり、食べ物を1口あげてみたりなどだ。

 何か意図があるとはリリーシャスもシャローネも感じ取っていたが、いまいちよく分かってはいなかった。


「うーん、強いて言えば仲良くするため? あの子の反応見てどんな子か知っときたかったしー」

「あれ? ミラやお兄ちゃんはいいんですか?」


 彼女から尤もらしい意見が出る。

 シャローネはアレシアと面識があり、何度も一緒に実地任務に出ている仲だが、ミラ、リリーシャス、クロードの3名は初顔合わせだった。

 そのため、彼女ばかり構っている現状は少し不思議に思えた。


「あぁ、問題ない。勇者候補君と私はまず組まないし、人懐っこいミラちゃんとは今から親睦を深めるのだー! ってことでミラちゃん、いい案なぁい?」

「何のですか?」

「チェックメイト」

「えっ!? あっ・・・・・・うぅ」


 チェスは先ほどまでミラが優勢だったが何時の間にか逆転負けを喫していた。


「あはは、シャローネは容赦がないなぁ。っと、何の案かというと勿論──」



「はぁ・・・・・・」


 宿を出て、敷地内に設置されているベンチに腰掛けたリリーシャスは項垂れていた。

 変人という噂は予々聞いていた。聞いてはいたが、想定外の行動が多くとても疲れる。


 シャローネからも「大丈夫、変な人、だけど、言う事は、聞くから」といわれたが、何処が大丈夫なのだろうか。これならレストの相手をしている方がマシまである。と考えていると自然と彼女の名前が出てきて更にため息が出てくる。


「リリー、どうかした?」


 ふと、声が聞こえ顔を挙げるとクロードが立っていた。


「クロード、さん。ちょっと疲れただけですわ」

「あー、ものすごく構われてたからね。お疲れ様」


 彼はそう言いながらリリーシャスの隣に腰掛ける。


「想像以上でしたわ」

「でも、頼りになる人ではある。よね」

「それはそうですけど、ねぇ。クロードさん。本当にミリーさんを引き戻すおつもりですの?」


 と、言いながら彼女は彼に寄りかかった。

 今回の実地研修は、ミリーを倒す。つまり殺す事を目的として請け負ったが、彼らの作戦は彼女を"元に戻す"事を目的として組まれていた。

 と言うのも、前例は非常に少ないが暴走状態から戻って来た人の記録がある。それをやろうとしているのだ。


「確かに、クロードさんならそういう事無理矢理出来るでしょうけど、成功率は保証しませんわよ?」

「分かってる。ダメそうなら、倒す。誰かが死にそうになったら倒す。あくまで助けられたら助ける。って感じだからね」

「・・・・・・皆さんも賛同はしていますしそれ様に作戦は考えましたけど、わたくし個人の意見を述べますと反対ですわ。危険ですし何より、ミリーさんがもし戻って来れたとして、リンさんを殺した事を受け止めきれるか、あの人が逆に辛いのではないかと考えてしまいます。いっその事楽にしてあげたほうが良いのでは。と、どうしても、どうしても」


 言葉が途切れ、彼女は続きを口に出さなかった。


「多分、僕がやろうとしている事は偽善だ」

「そんな事!」


 彼女は起き上がりながら、そう叫ぶ。


「助けられる命は救いたい。味方の命は救いたい、守りたい。なんて言うと聞こえは良い。けど実際僕は多分それをして、満足したいんだと、思う。自分はいい事をしたんだって事実を感じて安心したいんだと思う。他人に施しを助けをしていると言う事を周りに見せつけながらその癖、本当は自分のため、自分の贖罪のため・・・・・・ごめん。変な事言った」


 彼にしては珍しく長く喋り、自虐するような事を口にしていた。


「前々から思ってましたけど、何か貯めこんでるのでしたら相談に乗りますわよ?」

「いやいいよ。それにお互い様だしね」


 彼は愛想笑いを浮かべた。


「あら、そうきますの? ・・・・・・類は共を呼ぶといいますけど、最初に組んだわたくし達はこんなですけど、残りの御三方はどうなんでしょうね」


 などと言ってはいるが、普通に接している分には特に抱えてる事柄があるとは考えられない。だが、ミラとシャローネは何かある気がしていた。

 尤も彼女の感であり、確証はない。


「該当してないといいね」


 そう言うと彼は立ち上がった。


「そろそろ部屋に戻るよ。リリー、君の考えも分かるし確かにミリーさんを助けない方がいいかもしれない。けど、だからこそ生きるべきだと思う。罪を背負ってでも辛くても。って、今言っても説得力はないね」


 彼は、はにかみ歩を進ませ始める。

 その後ろ姿を彼女は眺め、姿を見えなくなるとベンチに横たわった。


「罪を背負って・・・・・・。皆、強い分けじゃないですのよ・・・・・・」


 それから数十分ほどベンチで考えをまとめ、部屋に戻った。

 ドアを開け部屋にはいると、ベッド周りが魔改造されており、悪趣味な成金貴族のベッド周りのような風貌へと変わっていた。

 直後、殺意に満ちたとある人物を呼ぶ声が、宿の廊下に響いたのは言うまでもない。

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