4章7節:生き残りの少女1
「くっそ痛てぇ!」
崩れた壁の瓦礫から、ディードがそう叫びながら出てくる。
「おい、スラ、ギャス大丈夫か?」
瓦礫から両者が顔をだし、ひとまず安堵する。
「さてっと」
スラを拾い上げ、立ち上がると倒れている少女に目線を向ける。
吹き飛ばされる直前、彼女の瞳が赤く光っていた。恐らく魔眼だろう。
基本的に、生まれた時に一定の確率で発現する力。もしくは極稀に遺伝する力。効果は様々でいずれも瞳を介して力が発揮されるため一括りに魔眼と呼ばれている代物だ。
そして、魔眼所持者はそれほど多くなく、珍しがられる存在でもある。
──こいつの力、壁をすり抜けて来やがった。この力で生き残ったのか? でもそれだと、隠れてる必要はないはずだ。
先ほど蹴りあげたベッドに目線を送る。
「それに、村がこうなってねぇから違うか」
すると、アリスが民家の屋根伝いに移動し、飛び降りて着地する。
少女とディードを交互に見てこう言い放つ。
「襲った?」
「襲われた」
彼が即答すると、彼女は即座に謝罪する。
「でも、どうしたの? 兄さんなら、簡単にそうならないでしょ」
「あー、端的に言うとそいつ魔眼持ちだ」
ディードは倒れてる茶髪で髪がぼさぼさになっている少女を指差す。
「んで、衝撃波みたいなのが壁をすり抜けてふっ飛ばされてこうなった。防衛なんて出来やしねぇ」
「魔眼か。了解。とりあえずこの子洗って着替えさせればいいよね」
「おう。頼む」
そう言うと、アリスは少女を抱きかかえ、走っていく。
「びっくりしてなかったね。知り合いに居るのかな?」とスラが疑問を文字に起こす。
「さてねぇ。ま、今度聞いてみるか」
といった所で、ギャスが悪態を付きながら飛んで来ず、不思議に思い振り向いた。
すると、声なく静かに複数のフェアーラットと呼ばれる生物に襲われている光景が飛び込んでくる。
「助ける?」と書かれ呆れた声で肯定すると、氷の槍が複数生成されフェアーラットに殺到した。
◇
少女は夢を見ていた。お屋敷で使用人と遊んでいる夢を。父親と母親と一緒に食事をしている夢を。
楽しかった頃の夢を。
そして、一転し襲撃された日、逃げるビジョン。逃げた先で惨殺される映像。
少女は叫びながら、起き上がった。息は切れ、冷や汗が頬を伝う。
気絶する前の出来事を思い出し、周囲を確認する。半壊した家のベッドの上、服は知らない物に何時の間にか着替えており、明かりとして魔力ランプが1つ屋根から吊り下がっていた。
突然、2回ほどノックオン目線を向けると、見知らぬ町娘の服を着た女性が何か湯気だった器を持って立っていた。
少女は咄嗟に魔眼を発動させようとするが、不発し顔を歪ませる。
「あーあー、何やってんの。そんな衰弱してたらうまく発動出来る分けないでしょ」
女性がゆっくりと少女に歩いて近づく。少女は逃げようとするも、先に回りこまれ首根っこを掴まれた。
「はいはい、安静にする」
そのまま片腕で持ち上げられ担がれると、ベッドに強制的に戻された。
少女は掛け布団に包まり、女性を睨みつけるも直ぐにお腹の虫が鳴った。
「食べる?」
そう言って器を差し出した。
少女は怪訝そうにそれを見つめるが、空腹には勝てず手を差し伸ばし受け取る。器にはドロっとしたスープが入っていた。
「野菜とか摩り下ろしたってリザさ・・・・・・仲間が言ってたから見た目アレだけど、まぁ美味しいよ」
ベッドに腰掛けながらそう言われ、少女は眉にシワを作りながら嫌々口に運んだ。
そのまま数秒固まると、2口目、3口目とどんどん口に運んでいき速度も早くなっていく。
「え、もっとゆっく、まぁいいか」
最終的には直接飲み、飲み干すと器を差し出してこういった。
「おか、わり」
女性は「分かった」と言うと、器を受け取り家を後にする。
外に出て、すぐに村の家を家をつなぐあぜ道の中央で焚き火をしているリザ之助が居た。
「アリスさん、あの子はどうでした?」
「大丈夫そう。おかわりだって」
歩いて行き器を渡す。
「分かりました。直ぐ注ぎますね」
「ねぇ、リザさん何焼いてるの?」
「ケラの種ですよー。アリスさんも食べます?」
火の近くにあった鍋の蓋を開け、スープをよそっていく。
「パス。私の分は兄さんにあげて」
そう言うと、器を受け取り歩き始める。
半壊の民家に戻ると、少女が泣いており走って近寄る。
「大丈夫? まだ痛む?」
彼女は首を横に振り、器をぶんどるように取るとゆっくりと飲み始める。
「よっと、この村の子?」
また首を横に振った。どうやら外部の人間らしい。
彼女のこの態度、様子を見る限り現状根掘り葉掘り聞くのは悪手だろう。
「・・・・・・そっか。兄さん。あ、君がふっ飛ばした人ね。その人が心配してたよ。大丈夫かなって」
スプーンの手が一瞬止まり、再び口に運び始める。
現状、この子を一緒に連れていくことは不可能ではないが、負担が大きすぎる。魔眼を差し引いたとしても守らなければ行けない対象なのは変わらない。
学園側に保護させる手も浮かんだが、魔眼持ちで抗う術をほぼ持たない時点でどうなるか分かったものではない。
──保護したはいいが、どうしたものか。
少女はスープを飲み干し、器とスプーンを差し出す。
「じゃぁ、私行くね」
そう言って、立ち上がると服の裾を掴まれる。
振り向くと、少女は顔を背け震えていた。
「あー、よし!」
◇
外で火を見ていたリザ之助は足音がし、目線をそちらに向けた。すると、少女を抱え、器を持ったアリスの姿があった。
少女は彼が怖いのか涙目で逃げようと必死に暴れていた。
「こらこら、暴れない」
「・・・・・・私を怖がってません?」
「そうなの?」
すると彼女は全力で首を縦に振り、リザ之助が笑う。
「まぁ、こんななりですからね。でも連れて来てどうかしたんです?」
「いやさ」と言いながらしゃがみ、器を置く。
「この子怖がってるのか裾掴んできたから、リザさんに面倒みてもらおうかなーって、ほら私周辺の見回り行くし。でもこの様子じゃダメだね」
「そうですねー。ディードさんなら大丈夫じゃないですか?」
「兄さんかー。まぁ妹ちゃんもいるし大丈夫かな」
一度前に押し出すように浮かせ、少女は落下し始め目を瞑った。が、目を開けるとお姫様抱っこに持ち替えられていただけだった。
「じゃぁ、兄さんの所行ってくる」
そう言うと、歩き始めた。
ある程度距離が離れた所で、彼女を降ろす。
「歩ける?」
と問うと首を縦に振り、2人は明かりが点いている民家に向け歩き始める。
「そういや名前は?」
少女は答える事なく、顔を背ける。
理由は分からないが、どうやら答えたくはないらしい。
「んー、じゃぁなんて呼ぼうか」
「ケイ」
「お、ケイちゃんか。了解。間違えないようにする」
と言い、心の中でも誓うがアリスは十中八九間違えるであろう。
リザ之助を怖がる以上、扱いが相当シビアになりそうだ。と思う反面、彼の性格ならすぐに打ち解けそうとも考えていた。
それと、事件のせいか言葉数が少ない。完全に落ち着いた後に事件の事を聞くとしても、相当骨が折れそうだ。慣れてくれたらお喋りな子であってほしいと考える。
明かりが付いている民家の前に到着すると、ドアを開けた。
「兄さ・・・・・・」
彼を呼ぶ声が途中で止まる。中の光景はアリスには別段問題はなかった。問題はケイである。
「ん?」
手が血だらけとなり、包丁を持ったディードが振り向く。
彼の前に存在するテーブルの上には、捌きかけのフェアーラットの死骸が置いてあった。
「あっ、あっ」
彼女の目から涙が流れ、瞳が次第に赤くなる。
「まずっ、ケイ待っ──」
「ちょ、ま、待て!!」
「きゃああああ!!!!!」
2人の静止は届かず、ケイは叫び、魔眼が発動した。そして、ディード"だけ"がテーブルを薙ぎ倒しながら吹き飛ばされてしまったのだった。
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