4章

4章序節:怯える少女と狂気の笑み

 逃げて来たとある1人の少女と使用人兼護衛。

 逃げた先は国境近くの村。中立地帯ではないが、自警団が存在し、更には近くの砦と連携をとりそれなりの力を持つと言われていた。

 此処なら大丈夫。此処なら当分はいても問題ない。そう考えていた。

 だが、現実はそう甘くはなかった。


 突然何かが現れた。自警団はあっさりと壊滅。村人は次から次へと殺されていっていた。

 そして、逃げ惑う村人の悲鳴や叫び声、窓に飛び散る鮮血が少女の記憶に刻まれていく。


「・・・・・・あ、あぁ・・・・・・」


 少女は使用人にベッドの下に隠れるように言われ、隠れた。

 応戦しに外に出て行き、使用人が善戦するも矢で撃ち貫かれ、殺される現場が眼球に映る。

 叫び声が聞こえた後、家の入り口が吹き飛び弓を携えた降りてきた何かの姿が見える。


 姿は背中から羽が生え、右脇から3本目の腕が生え、額の左側から1本の角が生えていた。肌の色も変色し、青い灰色のような色をしていた。人の成りに近くとも到底人とは言えない姿だった。まさに化物と呼ぶに相応しい成りと行動をしていた。

 そして、頭を抱えながら独り言をつぶやき始める。


「憎い。にくい。ニクイ。なんで私は、なんで、こんな事、あぁ、そうか。あの子を守るために・・・・・・。違う。私は壊したい。何もかも憎くて、違うそうじゃない。私はただ、守りたくて・・・・・・いや、憎い、あの子を殺したあいつらが憎い。いや私が殺した? 違う、あいつらが殺した。そうだ、あの魔物共が、あれ? 此処は村? 敵じゃない? っは、そんな分けはない。此処も敵だ。あいつも、そいつも、こいつも敵だった。全てが敵だ。そうだ、私に味方なんていない。敵、てき、テキ! アハハハハハハハハ!!!! なんだ簡単な事じゃない。簡単な事だったんだ。私は、僕はこんな世界破壊したい。そうだ破壊したいィ!!!」


 突然、化物は飛び上がり笑い叫び始める。


「ハーハッハッハ!!! 私は、僕は此処に居るぞ!!! ハハハハ!!!! 止めれるなら止めてみろ! 何処に居る、ドクター・ハルケン!!! 僕はお前を許さない! ユルサナイ、破壊して、蹂躙して、お前を引きずりだして殺してやる。何度でも、何度でも。アハハハハハハ!!! 何処だ。何処にいる! ドクター・ハルケン!!!」


 一頻り叫ぶと、化物は何処かへ飛び去っていった。

 化物の言葉は支離滅裂であった。少女は言葉の意味を一切理解出来ていなかった。しかし、恐怖させるには十分なものであった。トラウマになるほどには十分すぎるものであった。


 飛び去った後時間が経ち、なんとなくでも安全だと分かる状況になっても、少女はベッドの下から出ようとはしなかった。

 またいつあの化物が来るか分からない恐怖。使用人が、守ってくれる人がもういない恐怖。いつ殺されるか分からない恐怖。そして、1人では碌な事ができない諦め。


 様々な恐怖や脳裏にこびりつき幾度と無く脳内で再生される村人や使用人達の悲鳴も相まって、少女の目から涙が流れ初た。その涙は止まる事無く、枯れるまで出続けるのであった。

 気がつくと少女は泣き疲れ寝ていた。何時寝たかも何時間経ったかも分からない。だが、そんな事はどうでも良かった。


 まだ、生きている。


 この事実だけしか、この事柄しか考えられなくなっていた。

 何時死ぬか分からない。何時まで生きていられるか分からない。何時化物が来るか分からない。

 身体は空腹や渇きを訴えるも、頭がそれを拒否した。

 現界は近いのはわかっている。でも、だとしても此処から出るのは怖い。


 そんな時である。足音と話し声が聞こえてきたのだ。

 少女の動悸は激しく、息が荒くなっていく。

 外は薄暗く、うっすらとハルバードを携えた1人の青年が見え、少女が居るベッドの方に歩いてくる。

 何やら独り言を言い、ベッドの前で立ち止まるとこう言ったのだ。


「此処だな」


 と。

 少女は覚悟した。死の覚悟を。

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