3章11節:闇夜の襲撃者
右から2発。左から3発。正面から5発。
あの後、引きながら攻撃された回数だ。
明らかに此方の出方を伺いつつ、壁がない位置を探っている。それでいて、未だに姿は見せていない。
動きからして暗殺に特化している奴か、もしくは壁を複数枚ぶち破るほどの火力がないか。はたまた奥の手を隠し、確実に当てるために探りを入れているだけなのか。どれにせをこの状態を保てば、即死の確率は低そうだ。
ディードにとって問題があるとすれば、スラがいない現状、中、遠距離での攻撃手段がほぼない。そのため、敵が姿を現してくれなければ仕留めることが不可能な点。そのため寄ってから戦い、仕留めるのは相手を探ってからでも遅くはない。
壁は約30m先に彼らを円状に囲うようにして4重に設置している。
理由は幾つかあるが、主に壁の特性上距離を取って貼っていた方が身動きが取りやすい、対応しやすい等があげられる。特にこういった相手の場合、手の内を全く知らぬまま安易に寄られれば即死もあり得るため用心に越したことはないだろう。
欠点を挙げるならば薄く張るため一点集中の攻撃には弱い点と、同時展開の都合上、現状の枚数では上空には何も張れていない点。
「魔王様、あの防衛の壁を使って相手の身動きを止めるのはどうだギャ?」
ギャスから、尤もらしい提案がでる。だが、この手段は現実味がない。
「ダメだな。お前知らねぇ見たいだが、あの壁は直接触って魔力で中和出来る。大体1~2秒って所だな」
「すると?」
「そりゃぁ、脆くなってすぐ割れる」
そのため、攻める時に使う場合は中和覚悟での使いきり。もしくは先ほど見たく時間を与えず、虚を作ってそこを衝く事が必要となる。
これは彼が得意とする基本戦術であるが問題もある。中和に時間が掛かるが、それはあくまで肉体強化系魔法を使用しない者に限る。使用するものは壁は拘束としての役割を担う事は出来ない。
ただ、あのハーレム君には中和する時間を与えても、外部巡回魔力による肉体強化がないにも関わらず破壊されていた。理屈はよく分からないが、コレも何かあるのだろう。
すると、上空で爆発が起き、複数の小さな石が落下して来た。
「おっと、気づかれたか」
周囲の壁の幾つかを消し、上空に壁を1重に張る。次の瞬間上空で爆発が起き、貼った壁が全て破壊される。
同時に、周囲の壁を1重に薄くし上空に壁を張り巡らせていく。
すると、遠くの樹が大きく揺れ何かが上空に跳び上がった。
──何としてでも接近したいって事は
頭上の壁に何か黒い人影が接触し着地時に数枚の壁を破壊すると、即座に跳びのける。
ディードは急いで上空の壁を1重に戻し、周囲の壁を3重にしていく。そして、魔力操作量に余裕を持たせた。
「なるほど、なるほどなんとなーくだが分かってきた」
奴は暗殺しかも特に速さや跳躍力を強化していると見ていた。
恐らく探りで使ったのは投げナイフかボウガンで撃ち出された矢だろう。爆弾を使用している点から魔法での攻撃が出来ないもしくは保有魔力が少ないか。温存している可能性もあるが、必死に寄ろうとしている節があるのにも関わらず此処まで完全に温存するのはただの馬鹿だろう。よって魔法攻撃の線は捨てる。投擲能力とさきほどの攻撃からみて筋力の強化は成されている。そして、恐らく夜目が非常に効く。
これだけならば特に怖い相手ではない。
──問題は奴さんも、手の内を見せながら此方に探りを入れてきている点か。何かあるな。何だ?
真っ先に浮かぶ物は神器。アリス達から言えば神装武具。だがそいつをメインで戦闘している気配がなかった。
ということは、補助系の神装武具か。
「だとしたら、こう悠長にはしてねぇよなぁ」
すると、右の方で壁の1枚が中和され、亀裂が入った。
──此方は囮、本命は・・・・・・まぁどこでも良いな。
立ち止まると外側の壁を全て1重にし、自信の近くに幾重もの壁を張ってくいく。
「ギャス、見たく無けりゃ目瞑ってろ」
「ギャ!? 接近戦するの!?」
「ああ、探りあいだけじゃ埒があかないだろ。それにある程度の能力は分かった」
爆発音が後方からし、爆発音が"しなかった"方角に壁を1重張っていく。
すると、2本の投げナイフが飛来するが、周囲の壁に阻まれ回転しながら宙を舞った。次の瞬間、奴の姿が見え首周りの壁が複数枚割れ、一閃が走った。
敵はローブを着た細身の男でローブの裏地には、投げナイフが幾つも収めてあった。
男は防がれたのを理解し後ろに跳ぶが、壁にぶつかり即座に距離を取る事ができなかった。
ディードは周囲に壁を張りながら、前に出る。
「っち」
左手で後方の壁に触れ、右手に持つ投げナイフをディードに向かって投げた。だが、当然それは壁に防がれる。
隙間を作りハルバードを突くが、寸前で後ろの壁を破壊され避けられた。
「ッ!」
ワンバウンドした爆弾が眼光に広がり、次の瞬間爆発した。
爆発そのものは壁を犠牲にし防ぐことが出来たが、この爆発は攻撃が目的ではなかった。爆発によって生じる煙であり、ディードが男の姿を見失うには十分な効果を発揮していた。
「また、距離を開けられたらめんど──」
言葉を遮るかの如く、後方で複数の爆発が起き壁が剥がされる。咄嗟に右側の壁を取っ払い倒れこむように跳んだ。
すると、最後の壁を破壊し、ナイフを握られた腕が突かれていた。
ディードは体を捻りながら左腕を地面に付くと、一回転し着地する。
「あぶなっ」
奴は腕を引こうとするが、背中と腕周辺に壁が生成されそれを遮っていたのだ。即座に中和に入るが、ディードは既に跳び間合いに入っていた。
「おっせぇ!」
ハルバードを振り上げ、奴の右脇から首を切断する。男は声もなくその場に倒れた。
「ふぅ、いっちょ上がり」
得物を担ぎ、死体に目線を向ける。
「もう、良いギャ?」
と、背中にしがみついているギャスが話しかけてくる。
「あぁ、ちょいとまちな離れっから」
そういうと、壁を周囲に生成しハルバードを仕舞いながら歩を進ませ始める。
が直後、後方の壁で何かが接触し金属音に似た音が鳴り響いた。
ディードはドラウプニルを起動させながら後ろを振り向く。
「・・・・・・てめぇ、グールか」
首から上、右腕がない男が左腕で何かが塗られたナイフを突き刺した後、距離を取る光景が目に映る。
男はナイフを仕舞うと、首を拾い上げ切断された頭と胴体の断面をくっつける。
「あ"ー、あ"ー、ご明察。にしてもあんた用心深いな。此処まで手こずったのは久々だ」
「あぁ、そうかい」
再びハルバードを出し、男を睨みつける。
奴は腕を拾い上げ、くっつけると腕の感触を確かめるように右腕を動かす。
「おんや? 壁で俺を拘束しないのか?」
「さてね。あんたをどう倒すか考えてんのさ」
何かが近づく気配に気がついたのか、男は体制を低くし後ろに大きく跳び闇夜に紛れ込んだ。
するとアリスがディードの前に突然現れ、舌打ちをする。
実は一度、倒した時「もうすぐ合流する」と通信が入っていた。そのため通信機を入れあの返答をすれば予想とは言え、敵の種族を伝えられる。それにアレだけばかすか爆発音を響かせていれば、襲撃されていることは明白。何も言わずとも奇襲は成立する。
誤算は奴が想定より索敵能力も高かったと言う事。
暗殺者という点を差し引いたとしても、かなりの物を持っていると見てまず間違いない。
「どうする? 追撃する?」
「追撃した所で、地の利は向こうにある。それに、あの索敵能力で此方が奴さん追っても、撒かれるのがオチだろうな」
「じゃぁ、引こうか。あの様子じゃ私が一緒だと分が悪いのが分かってるみたいだし」
そういうと、アリスは壁とハルバードを仕舞うように促し、彼のお腹に腕を回す。
「お、い・・・・・・まさか」
「喋らないでね」
彼女の縮地で高速での移動で一旦距離は取れたものの、ディードとギャスは再びあの苦痛を味合う羽目になったのだった。
◇
「さて、あれをどう仕留めるか」
最終手段であった死んだと思わせてからの一撃も防がれ、攻撃手段が乏しい彼は壁との相性は最悪であった。
彼の自慢であった速さもあぁも亀のように守られ、寄ってもうまく避けられ身動きを封じてくるのであれば生かせたものではない。
「何か、絡め手が欲しい所だが・・・・・・あぁ、問題児達が使えるかもしれんな」
彼は不気味に笑うのであった。
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