3章9節:彼のために、自分のために
小汚いとある数件の倉庫。
現在は使われて居らず、チンピラの溜まり場と成り果てていた。
存在する場所も、裏路地の奥。表通りや住宅街からも離れている事もありやりたい放題だった。
うち1件の倉庫の扉が少し開いており、中から光が漏れ2人の見張りが居た。
中には十数人の武装した男性と、手首を鎖で繋がれ吊されたボロボロの少年。
顔や腕には痣があり、至る所に斬り傷も存在していた。
「ボス、本当に来るんですかい?」
「さぁねぇ。ま、来なかったらこの餓鬼適当に売るだけよ」
そう言い放つと男共は笑い始めた。
もうダメだ。と少年は考えていた。今日知り合ったばかりなのに助けに来る分けはないと。調子に乗ったせいなのだと。
自業自得なのだと。
「あ、そういや前言ってたアレな趣味の貴族なんですがね」
倉庫の外、入り口で見張りをしていた男の1人が人影を見つけゲスな笑みを浮かべる。
「あんた、強いってのはほん──」
最後まで発する事無く一閃が走り抜ける。それは扉をも切断し、両断された2人の見張りと一緒に音を立てて崩れ落ちる。
「来たみてぇだな。話は後だ。おい!」
片足がなく、椅子にふんぞり返る彼のボス、カレルヴォがそういうと1人のローブを来た男性が一歩踏み出す。
アリスは歩いて倉庫内に入り、酷い状態ではあるが吊るされ涙目で此方を見つめるスヴェンを見て安堵のため息をつく。
とりあえずは殺されてなくて良かった。と。
「いいんですかい? ボス」
「ああ、死なねー程度にやっちまえ」
彼は狂ったように笑いながら全身が電気を帯び始める。
だが、彼女は彼を無視し一瞬で姿を消し、少年の前に現れ鎖を断ち切ると彼を抱きかかえる。
「大丈夫?」
優しい声でそう問いかけると彼は頷く。
「おい、てめぇ、無視してんじゃねぇぞ!!!」
男は身を翻し、電撃を放つ。だが、それは狙った相手の真横を通りぬけ後方に居た仲間の男性に命中し絶命させる。
「な、に!?」
「おい、何してやがる!!」
カレルヴォは声を裏返しながら怒鳴りつける。
「立てる?」
「うん、立てる」
彼を降ろし、振り向くとドスの効いた声でこう言い放った。
「覚悟は、いい?」
「あーあ・・・・・・」
裏路地でボコボコにされ倒れた若者2人と座り込み放心し座り込む若者1人を見て、ディードは思わず苦笑いする。
彼らは街に来たは良いが、肝心の場所が分からなかった。そのため裏路地にいる者に聞こうとした。
他所者である点と聞いたのが女性であったアリスであったのがまずかった。反発されたため1人を返り討ちにし聞き出し向かった後であった。
ディードは放心している若者が吐いた倉庫には真っ先に向かわず、その場にとどまっていた。
「おい」
そう言いながら、しゃがみ若者の肩に手をかけると裏返った声で返事が返ってくる。
「そんなビクビクすんなって、俺は別にボコろうって分けじゃない。ただ1つ迷惑ついでに聞きたい事があってだな」
そこからとある事を聞き出すとその場を後にし、倉庫に走って向かう。
「魔王様。あんな事聞いたギャ?」
彼の頭に乗っているギャスにそう問いかけられる。
「あぁ、俺が"ついて来た理由"だよ」
と返した所で倉庫に到着し、中を見ると案の定の有様だった。
1人を除いて周囲の男性は死体として転がっており、血の海と化していた。
生き残っている男性の片足はなく、後ずさりをしながらこう叫ぶ。
「わ、悪かった! 俺が悪かった! ・・・・・・こ、こんな事、このご時世何処でも起きるだろう?」
「・・・・・・そうね」
アリスはそう言いながら1歩踏み出す。
「そ、そうだろう! だからこんな事で怒らず、俺を見逃してもいいんじゃないか? ほら、水に──」
「何言ってるの。自分で巻いた種でしょ。なら、最後までちゃんと見届けなさいよ。自分の命の灯火って奴をさ」
彼女は彼の静止を聞かず真っ2つに斬り伏せた。
見覚えのあるナイフを拾い上げ、振り返りディード達の姿に気がつくと、少年を回復するように促す。ギャスは言われた通り少年の元に飛んで行くと回復魔法をかけ始めた。
アリスも彼の元に走って行き、手首に結ばれている鎖を斬り問いかける。
「ちんちくりんさん、彼は大丈夫?」
「ちんちく・・・・・・この程度すぐ治るギャよ」
ギャスの言葉を聞きアリスは「良かった」と小さく呟くと安堵した。
「アリス、こいつ送ってくか?」
ディードが問いかけながら歩いてくる。
「そのつもり」
「・・・・・・ねーちゃんの彼氏?」
と、歩いてきた彼を見つめる。
「俺は義理の兄もしくは仲間だ。安心したか? 坊主」
「ば、ちが!」
顔を赤くし、背けるのを見てディードはニヤつく。
「お~? 本当か~?」
「違うって!」
赤いままの顔で此方を向き、否定する少年を見て鼻で笑う。
「ま、そういう事にしといてやる」
回復が終わるを確認すると、ギャスのしっぽを掴み身を翻し歩き始め、こう言い残す。
「んじゃ、俺とこいつは帰る。アリスは坊主頼んだぞ」
そう言って倉庫を後にするのをただ、見つめていると不思議と2人の間に静寂が訪れる。
「・・・・・・送る」
そう言って、アリスは彼に手を差し伸ばした。
◇
あの時、ディードが聞いた事。それは"カレルヴォって野朗の兄貴と家族の名前と居場所を教えろ"という内容だった。
こういった輩の場合、報復だの。仇だの。と理由を付け逆恨みして来る。それを先に潰してしまおうという魂胆だった。ついでに矛先があの坊主じゃなく、ディード達に向かえば少なくともあの坊主が狙われる可能性が低くなる。
震えた声であったが兄貴の名前は聞き出し、幸いにも他の家族はいないとの事。後は簡単であった。
この街の自警団だと言う事は既に聞いていたため、まず人気が少ない場所にいる自警団を探し少しばかり手荒ではあったが、改めて居場所を聞き出し向かった。
場所は本部、その最上階。
裏手に周り見上げると半透明の壁を階段のように出現させ、登っていく。
最上階にある木製のブラインドが掛けられた窓の前まで来ると、ハルバートを生成させながら窓を蹴破った。
「ッ!? 何者だ!」
椅子から巨漢の男が立ち上がる。
「あんたが、アダンって野朗だな?」
そう言いながらディードは部屋の中に入る。
巨漢の男は肯定しながら腰に引っさげていた剣を引き抜き構える。
「要らねぇ手間がなくて良かった」
彼は窓枠を蹴り跳ぶと男との距離を一気に詰める。
アダンと思しき男はそれに反応し腕を振り上げ振り下ろそうとするが、腕が何かに妨げられ振り下ろせなかった。
目線を向けると、生成された壁が妨げていたのだ。
咄嗟に避けようとするも時既に遅く、薙られたハルバートに右腕を頬を切断され倒れこむ。
すぐに立ち上がろうとしたが、踏みつけられ体が起こせなかった。
「恨むんなら馬鹿な事したてめぇの弟を恨みな」
そう言いながらハルバートを突き刺し、絶命したのを確認すると仕舞いながら息を吐く。
すると、足音と話し声が聞こえ、急いで窓から飛び降り半透明の壁に着地すると、再び跳び地面に着地し同時に走り出す。
「これで終わりギャ?」
「あぁ、終わりだ」
後処理。と言っても全てを潰して行く分けにもいかない。考えうる尤も可能性が高そうな箇所。つまりカレルヴォの兄を潰し撤収する。これが彼がついて来た理由であった。
恐らくアリスでは此処まで考えつかない。いや、考えついても行動に実行しない。なぜなら"まだ"明確な敵意も行動も移していないのだから。
事前に話さなかったのは、こういった黒い部分はあまり彼女にやらせたくはないと言った理由だった。
偽善なのかもしれない。ディード自信の自己満足なのかもしれない。けれど、もう"慣れてしまっている"自分がやるべきだと彼が考えたための行動であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます