3章8節:超えてはならない一線

「さてっと・・・・・・」


 アリスの周囲には1人を除いて、一太刀で悲鳴をあげる事なく絶命した死体が複数体転がっていた。

 そして、片足が切断され、手で押さえながら必死に這いずっている男性がいた。カバンを回収しその男性の元へと歩いて行く。


「尾行させたのは誰かは分かってるけど、目的は?」


 彼女は答えないだろうと予想していた。彼らが何者で何を目的としているかはなんとなくだが察してたいた。けれど、念のため質問はしておくことにした。

 それは嫌な予測であったから、できれば起きてほしくない予想であったから。

 結果としては、嫌な予想だけがあたっていた。

 男は仰向けになると、不気味に笑いながらこう言い放つ。


「簡単さ、あんただよ。アンタ。ボスが欲しがってるのさ。で、俺達はあんたを連れてくるように言われた。それで、無理そうなら伝言を伝えろってな」

「・・・・・・それで」

「ガキは可愛がっている」


 それを聞きアリスの目は見開き、殺意に満ちた雰囲気が漂い始める。


「はは、あんたも馬鹿だよなぁ、下手にあんな糞ガキと関わらなきゃガキが痛い目み、な──」


 最後まで言葉を発する事無く、言葉を遮るように放たれた斬撃が男の首を切断し絶命する。

 そして何かを察知したのか、スラがアリスの足を地面と右腕を近くにあった木と水で繋ぎ固定する。


「なんのつもり?」


 ドスの利いた声でそう問われ「それはこっちの台詞」と冷静に返す。

 「今行った所で、殺していたとしたらもう手遅れ。生きてる前提で動くとしてもプッチちゃん連れて行かないと意味が無い。あの街に回復魔法が扱える人がいる保証はないのだから」と書かれ、アリスは歯ぎしりする。


「そんなの、薬草でもなんでも・・・・・・ごめん、分かった。けど、急いで帰るよ」


 スラは頷くと、水での拘束を解いた。



 夕暮れ時、荷物番と帰りを待っていたギャスはいびきをかいて寝ていた。

 口からヨダレが垂れ、実に幸せそうな寝顔であった。

 そこに鬼の形相で返って来た1人の女性が現れ鷲掴みにすると、持ち上げた。


「・・・・・ギャ!? 痛い!? 何ギャ!?」


 痛みで起きると、殺気を漂わせたアリス目に入り困惑し混乱する。


「えっ、どうし、痛い! やめ!!」

「兄さんは何処?」


 その声はドスが効いており声量は小さかったが透き通っていて良く聞こえる。

 更に力が込められ、分けの分からないこの状況にギャスは冷や汗がで始めていた。


「怖い!? 痛い!? 見つけたコテージにいるわよ!」

「分かった。案内して」


 そういうと手を離し歩を進ませ始める。

 急に開放され落下し地面に叩きつけられるも、ふらふらと飛び上がり自身に回復魔法をかけながら追いかける。


 ふと、「知り合った子が、攫われて今かなり怒ってるからごめんね」と書かれた水の文字が見え、ギャスは頭を掻くと速度を上げ彼女の前に出た。


「詳しい事は分からんギャけど、急いでるってのは分かったギャ。こっちギャ」


 そう言って、最大速度で飛びアリスはその後を追った。



 コテージの前に簡易だが3つの墓が立ち、ベランダに座り込むディードの姿があった。


「あ"ー疲れた」

「お疲れ様です。珈琲入れたのでどうぞ」


 そう言いながらコテージから2つのカップを持ったリザ之助が出てきた。うち1つをディードに手渡す。


「おう、さんきゅー」


 受け取ると、1口飲みこう続ける。


「なぁ、リザ助。埋葬してる時に傷口見たんだが、全部首を・・・・・・しかも1撃で仕留められてた」

「と、言いますと?」

「お前も知ってるだろうけど、こんな所に住むってことはある程度の力量は持ち合せてる。そいつらが首を一撃だ。詰まる所、こいつらを殺したのは相当な手練。そして」


 そして、が荒らされ金品が盗られた様子は見受けられなかったコーテジ。


「強盗目的じゃないとすると」

「殺人目的ですか?」

「多分なー。素直に殺って1泊してったのかもしれねぇけど」


 どちらにしろ、犯人が手練なのは変わらない。


「ま、そんな奴と戦いたくは・・・・・・ん?」


 すると、とんでもない雰囲気を醸しだしたアリスが現れ、ディードは思わずこう言い放つ。


「・・・・・・珈琲飲む?」


 荷物をコテージに入れ魔法ランプをつけた後、彼女達から簡潔に話を聞いた。

 その間、気になるのかアリスはとても苛立っており今にも飛び出して行きそうであった。


「なるほど。で、お前はその小僧を助けに行きたいと?」


 彼女は頷きこう続ける。


「そう。私1人でも行くからね。朝までには戻るから」

「待て待て、行くなって事じゃねぇ。ただ、お前1人じゃ心配だから俺も行く」


 一瞬の静寂が訪れ呆れたような口調でこう返される。


「あの程度の相手におくれはとらないけど」

「心配してるのはそこじゃねぇよ」


 そういうと、ディードは立ち上がった。


「あ、どうやって顔隠そう」


 と、昼間街に出向かなかった理由を思いだしそう呟くと「暗がりで人気がない場所なら平気じゃない? それにすぐ戻ってくるんでしょ」とスラに返される。


「それもそうだな。時間も俺を担ぐなり、背負うなりすりゃ問題ないだろ?」

「・・・・・・分かった」

「決まりだな。リザ助とスラは留守番頼む」


 ギャスのしっぽを掴むと、ディードはコテージの外へと向かった。

 アリスも深呼吸をし、外に出て行く。


「さて、私は夕飯の下ごしらえをしますね。何か食べたいのはありますか?」


 と、リザ之助が何気なく問いかけ何か書かれるが、文字が読めず何と書いてあるか分からなかった。


「ディ・・・・・・今呼び戻すのはダメですね。すみません。食材を見て勝手に決めますね」


 カバンを開け食材を確認し始めるのだった。


「いい加減、しっぽ持つのはやめるギャ!!」

「仕方ないだろ。持ちやすいんだから」


 彼は振り返り、こう続ける。


「で、どうする? 背負うか? 担ぐか?」

「担ぐ」


 短く返答するやいなや一瞬ディードの視界から消えたかと思うと、彼の目の前に現れ右手で腹を抱えるとそのまま出発した。


 彼らの身体に急に重力加速度が掛かり、約40分の間襲い続けた。そして、街の外縁部に到着した時にはディードの顔色が非常に悪くなっていた。

 ギャスに至っては白目を向いて気絶している始末だ。

 降ろされ、冷や汗が彼の頬を伝う。


「ア、アリス良く平気だな・・・・・・うっぷ」


 吐き気がし、おもわず左手で口を覆う。


「慣れてるから」


 収まり深呼吸をすると、ディードは立ち上がった。


「慣れるもんなのかこれ。ま、今はそんな事はいいか」


 暗闇の中、小さいながらも活気にあふれた街を見る。

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