2章

2章序節:刀士の過去と現在

 燃える家。燃える人、知人。燃える木々。

 破壊される家。賊に殺される人、知人。

 1人の少女はその光景を見て足をすくませていた。

 人間側のマーレントと呼ばれる国に存在する村が消えようとしていた。


 人間側の領土で自警団が比較的機能している中立地帯の街以外では珍しい話ではない。

 ましてや此処は国に認知されていない村。自警団の抵抗力も乏しい。こうなる事は当然と言えるものであった。つい先日も近くの村が襲われたと噂がたっていたばかりだ。


 1人の賊が少女の元へゆっくりと歩いて行く。

 そして何より、一部から忌み嫌われている"魔族"と共存している村だった。

 賊の凶器に目満ちた目が少女を移し、剣を振り上げる。


「死ねぇ、死んじまえぇ!!」


 剣は振り下ろされ、少女は「死んだ」と思い目を瞑る。

 だが、少し経っても体に痛みは感じなかった。

 恐る恐る目を開けると半透明の壁が剣を止めていた。そして、賊の腹から槍の矛先のような物がつきだしており、血が流れ出していた。

 次の瞬間、ソレは横に振り切られ腹は割け血しぶきを挙げながら賊は倒れこみ、影からハルバートを持ち血だけの兄とも呼べ、友とも呼べ、家族とも呼べる少年が立っていた。


「アリス、大丈夫か?」

「う、うん・・・・・・」


 アリスと呼ばれた少女は掠れた声で返事をする。


「そうか。おっさん。アリスを頼む」


 彼は一瞬笑うと振り向き賊を睨みつける。


「君はどうするのかね?」


 何時の間にかアリスの後ろに、顎に髭を蓄えた初老の男性が立っていた。


「あいつらを皆殺しにする」

「手助けは、いるかい? 言っちゃ悪いがこの程度の相手なら・・・・・・」

「いらねぇ」


 そう言うと彼は走って変わらず暴れている賊達の元へ走っていった。

 少女はその後間もなくして気絶してしまったためこの後の事の記憶はない。

 起きた時には騒動は収まっており、生き残った村人が今後の話をしていた。

 各々他の村に行く。街に行く。旅をする。などと様々な意見が出ていた。アリスにも声が掛かり、一緒に街に行こう。旅をしよう。というお誘いも多かった。だが、そのすべてを断り、未だ村に残っていた髭を蓄えた初老の男性の元に会いに行った。


「彼ならもう行ったよ。私はね、君のことを頼まれてるんだ。彼に。だからどうしたい?」


 出会った矢先にそう言われ面食らったが決意を固めこう言い放つ。


「私を、強くして」


 分かった。と、返事を貰いとある山に連れてこられ、既に居た他の弟子に加わり下積み期間を経てとある剣術を習い始めた。

 当初は筋がいい、神童だ。などと呼ばれていたが彼女にとってそんな事はどうでもよかった。


 約7年の月日が流れた。実践経験も積み、実力は道門ないで上位を争うほどに成長していた。

 そんなある日。髭を蓄えた初老の男性改め、師匠に呼び出された。


「師匠、どうかしましたか」


 稽古場に師匠が座って待っていた。


「あぁ、ちょっとね。昔さ。聞いていなかった事を聞こうと思って」


 そういうと一服置き、彼は続けた。


「アリス。君も知っていると思うけど、本来はなんで強くなりたいかとかどうして力が欲しいかとか聞くんだよね。入れる前にさ」

「・・・・・・私は、彼の力になるために力がほしい。ただそれだけです」

「知ってる。と言うか君に関しては心配してないんだ。あの少年に拾われ一緒に住み強さに憧れ、恩返ししようとしてるだけの君はね」

「問題が他の誰かにあると?」


 彼女がそう問いかけると考える素振りを見せ口を開く。


「そう。まぁ、確証はないから私の考えてるようにならないかも知れないけど・・・・・・一応君の耳にも入れておこうかと思ってね」


 師匠の話は長く続いた。昔話を交え要点がまとまっていなかったが要するに話はこうだ。サクラと呼ばれるアリスと同い年の弟子が心配らしい。


 彼女は最初の質問に「剣術が元々好きで異質な所に惹かれた」と答え、当時は純粋に習いたいのだと思い歓迎した。しかし、アリスと比べて腕が伸び悩み、最近闇が見え隠れするようになった。と。

 師匠からすとアリスが異常なだけであり、サクラもまた伸び代自体は寧ろ良いほうだという。


 だが本人はそう感じてないうえ暴走しやすい子ということもあって心配だと。だから、もしもの時は彼女を止めてほしい。とアリスは言われた。

 彼女もバカじゃない。暴走する場合は強い彼女らの兄弟子、姉弟子がいない間にするから、と。


 それから、数日後の雨が降る深夜、師匠が危惧していた自体が起きた。サクラは暴れ、他の弟子達を斬ってまわり師匠をも手をかけたのだ。

 アリスが駆けつけた時には、既に事は終わっており師匠はもう動かなかった。


「アァリィスゥ。うちが・・・・・・なぁんで、あんたを最後にしたと思うぅ?」


 依然にも、何度も見たことある狂気に満ちた目で此方を伺いながらそう問いかけてくる。


「知らない。知りたくもない」


 アリスは構えながら柄に手をかける。


「あは、あはは。そう言わずにさぁ・・・・・・!!」


 それから斬り合い、数分が経った。両者に致命傷はなく、浅い切り傷のみが蓄積していた。


「あぁ・・・・・・やっぱりアリスはいいねぇ・・・・・・本気、で答えてくれる。師匠は優しいから本気って言ってたけど何処と無く手を抜いていた。うちを説得しようと・・・・・・無駄なのにねぇ。もう戻れないのにねぇ・・・・・・。楽しかったよ。アリス。また、ねぇ」


 彼女はそう言い残すと身を翻し跳び去る。

 追いかけようとするも思い留まり生き残りがいないか探し始める。

 だが、残っていた弟子は私を除き、皆死んでいた。1人で弔い。兄弟子、姉弟子達が戻って来て事情を説明しアリスもまたそこを出て行った。「サクラを殺す」と置き手紙書いて。


 旅をしながら、少年とサクラを探し腕を磨き1年の歳月が流れたある春の日の事である。1人の女性が接触してきた。


「初めまして、私はハプスブルグ校と呼ばれる学園の生徒会と呼ばれる内部組織の者です。名はフィリング・ビステと申します。貴女をスカウトしに来ました。どうです? 知識を付け、実地任務で情報を集め探し人を探すにはうってつけだと思いますが」


 当時、手詰まり感を感じていたアリスは二つ返事で了承した。

 そこからは忙しくすぐに時間は過ぎ去っていった。



『勝負アリ!! 勝者、アリス・カゲミヤ!!!!!』

 編入。進級し、高等部とやらの内部で毎年1度行われるランキング付けの大会で1位を取ったり。

 


 異端者呼ばわりされたり、異端の剣士と呼ばれたり。



「あ、アリスさん。これなんですけど・・・・・・って、無視しないでくださいー!」

 何やら浮いてるとかでわざわざ構ってくれる人が居たり。



「へっへーん。今回こそ私の勝ちだ」

「・・・・・・何を言い出すと思えば、私の方が1人多く倒してるけど」

「ダメダメ、嘘はいけねーよ」

「真実だけど」


 あまりにしつこく、最終的に折れて彼女らと一緒に行動したり。


「っち、おーい。クーどっちが多いかわかるかー?」


 盗賊の壁を壊し、1体のゴーレムが姿を現す。大きく、20mはあろうかという巨体だ。

 肩には1人の女性が座っていた。


『お姉さんが知ってると思うわけー? ずっとさ、別行動してたお姉さん達がさー!!!』

「先輩。ついでに私も知りませんからねー?」

「あー、そりゃそうだ! ま、私の勝ちだな!」

「はぁ、まぁ貴女の勝ちでもいいけど」

「お、やぁっと認めたか? そういや、アリス。お前が依然言ってた────」

 


「・・・・・・クロード・スカイね?」

「えっと、君は確か1位の・・・・・・僕に何か用かな?」


 声をかけられた1人の好青年が振り向き、微笑みながらそういった。


「次の実地研修の任務。私も連れてって」


 そして、無理矢理ついてった実地研修そのものはすぐに終わった。

 

◇ 



 だが、アリスの目的は実地研修ではなく、彼らが追っていた相手であった。

 彼女らの戦闘をただ呆然と眺めていた。


──見つけた。やっと、見つけた。やっと返せる・・・・・・。


 手に持つ刀と呼ばれる武器を仕舞っている鞘を強く握りしめる。


──今度は私が彼を守る。そのために強くなったのだから。


 能力を使い高速で動き、敵味方にバレないよう妨害を行っていく。


──兄さん。

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