1章4節:色気づいた覗き魔に粛清を

 2体は依然として食い入る様に覗き込んでいた。

 若い女性の話し声は聞こえる。微妙に湯煙の無効に影が、シルエットが見える。脱衣所に交代で入っていっては出て行く様子が見える。

 だが、一向に湯船に入る様子は見受けられない。


 怪しい。と思いつつもちらりと見えるかもしれないその裸体に、胸を踊らせながら覗き込んでいた。

 この判断が失敗だとも気が付かずに。

 数分経っても、飽きずに覗き混んでいると、急に1陣の風が吹き湯けむりがかき消され、女湯が鮮明に映る。

 服を着て武器を持ち、戦闘態勢が整っている4人の女の子の姿が。


「・・・・・・まずい」


 本能で死を覚悟し咄嗟に振り返りながら走りだす。

 その光景を眺めながら金髪の女性は足元に魔法陣を展開する。


「それでは皆さん。街への被害は最小限に、できれば無傷でお願い致しますわ。金夜魔装かやまそう‐ドラウプニル。起動」


 起動、という言葉を発すると同時に足元の魔法陣が消え去る。


『皆さん、"魔法通信"の調子は良好でしょうか?』


 彼女達の頭の中で金髪の女性の声が響き、それぞれ、「問題なし」「うん」「大丈夫です」と返答が返ってくる。


 「了解いたしましたわ。それでは色気づいた魔物に粛清を・・・・・・」



 リザ之助がゴブリンとオークを探し始めて十数分が経った。

 すぐに見つからないとは彼自身も思っていたが、そこまで大きくはない街、話が集まりそうな場所を探しても一向に見つからないとなると、サボっているのではないか。と思わず邪心してしまう。

 そんな時である。路地から2体の姿が見え、彼らの名前を呼ぶと急いで走ってきた。


「急いでどうかしたんですか?」

「追われてる! 逃げるぞ!」


 リザ之助は言われるまま、引かれるようにして2人と一緒に走り始める。

 その様子を民家の屋根の上から観察する1人の女性がいた。


「こちら、シャローネ。仲間と合流、3体が、外に向かって、大通りを北進」


『此方としては好都合。そのまま観測をお願い致しますわ。レストさん。そのまま10時方向に、ミアさんはそのまま後ろから追ってくださいまし』


 シャローネは了解。と返事をし屋根伝いに奴らの追跡を再開する。


『は、はい~』

『ん、私本当にこのまま突き進んでいいの?』

『ええ、その先は兵士の宿舎に演習場そして外縁部。つまり、もうすぐ大体外ですわ。話は先ほど付けておきましたし誘導もさせて無理矢理接敵させますから、心置きなく走ってくださいまし』

『なら、よし』


 シャローネの方も外縁部が見えてきた。一度立ち止まり、弓を構え魔矢を数発適当に射る。

 放った魔矢を操作し、それは夜の空を円を描きながら飛び始める。


「どうする? 分ける?」


 再び走り始め、指示を仰ぐ。


『いえ、一緒にレストさんの方に押し出してくださいまし。わたくしもそろそろ位置に付きますから』


 彼女はその通信を送った後に大きな塔に到着。特殊魔砲とくしゅまほう‐ディヴァインと呼ばれる大砲のような銃のような代物を構える。


『リ、リリーシャスお姉ちゃん、ミ、ミラはど、どうしましょう~?』

「そのまま走ってくださいまし」


 半透明の画面のような物が展開され望遠鏡のように遠くの風景や物を拡大し始める。

 奴らの姿を確認した直後、魔矢が奴らに襲いかかり予定通り西側に誘導される。

 それを確認すると、北に進まれぬよう奴らの北側に対して数発撃ち、少し時間を置いて1発ほど少々大きめの弾をレストと彼らの間に撃ち、砂煙を巻き上げさせながら奴らの足を無理矢理止めさせる。


「レストさん、よろしくってよ」


 大剣を構え、砂煙の中を走りぬけると敵を確認し、間合いに入るやいなや大剣をなぎ払う。

 だが、咄嗟に庇ったリザードマンの盾に阻まれ火花が飛び散った。

 彼女は舌打ちをしながら、大剣を即座に持ち替え、突かれた剣の軌道を変え避ける。


「逃げて!  実力差がありすぎる!」


 リザードマンはそう叫びながら盾を前にだし、レストに突進する。


「んなっ!?」


 彼女は体勢が崩れ、後ろに飛ばされた。だが、その口は笑っていたのだ。

 次の瞬間、彼は後方から冷気を感じ、急いで振り向くと仲間のオークが黒髪の少女の手によって氷漬けになっている光景が眼球に映る。


「やっと、追いつきましたぁ~」


 彼女は安堵のため息を付きながら、身の丈より大きいランスを薙ぎ氷の塊を破壊する。


「っく!」


 リザードマンとゴブリンはランスを持つ少女から離れるように、そして逃げるために走り始める。


「なんてこった・・・・・・なんて・・・・・・!」

「警戒してください。遠距離の敵も────」


 上空から無数の魔矢が2体を襲う。

リザードマンは甲皮によりそれを弾いていた。だがゴブリンは体に無数の魔矢が突き刺さり、転げるようにして倒れた。

 立ち上がろうとする彼に追い打ちのようにして、炎の球体が飛来し直撃。彼の体を燃やし始めた。


「あ・・・・・・!」


 一度立ち止まり助けようとしようとするも、もう手遅れだと言う事に気が付き再び走り始める。


『あいつ、思ったより、硬いよ』

「私も見た。見事に矢弾いてたよね。ってわけで無駄乳さん、出番よ」


 レストは戦闘体勢を解きながらそう伝える。


『任せて下さいまし』


 その言葉と同時に1本の魔力の線が走り、次の瞬間着弾し爆発した。

 爆風と共に砂煙に包まれ、彼女はむせ始める。


「ゲホッ、あんた、ゲホッ、手加減しなさいよ!」

『あら、確実に。と思っただけですけど? まぁ、ちょっとズレてしまいましたが』

「ゲホッ、ダメじゃないのよぉ!」


 レストは左手で口を塞ぎながら街の方に走っていく。そして、砂煙が薄くなって来た所で立ち止まり深呼吸をし息を整えた。

 そして、騒動を嗅ぎつけ見事に人集りが出来ており苦笑いする。


『じゃ、レスト、後処理、頼んだ』

『頼みましたわ~』


 そう言い残したシャローネとリリーシャスからの通信が切られる。


「あんたらねぇ!!!」

「だ、大丈夫です! ミラがついてますから!」


 大槍を抱えたミラがそう言い、肩をすくませる。


「大丈夫、気持ちだけ貰っとくから・・・・・・」




 リリーシャスは大きな塔から民家の屋根に降り、先ほど撃った方角を見つめる。


「何か、気になる?」


 シャローネの声がし、辺りを見渡すが彼女の姿は無かった。


「下、下」


 裏路地を見下ろすと彼女の姿を発見出来た。

 リリーシャスは屋根から飛び降り、一瞬浮いた後着地する。


「いえ、たいした事ではありませんわ」


 彼女に歩いて行きながらそう話す。


「そう。でも何か、あったら、言って」

「分かってますわよ。あっ! そうですわ、早速ですけれど、アリスさんの事どう思います?」

「いけ、好かない」

「そ、そうですの・・・・・・。じゃなくて、今日のお昼の事ですわ」

「お昼? 何か、あった?」


 シャローネが問いかけると「そうですわ」と言い一服置くと続きを語る。


「おかしいと思いません? あのアリスさんが雑兵相手に"手こずった"なんて」

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