1章3節:小悪魔の仲間達

「全く、酷い目にあったギャよ」


 ふくれっ面で3体の魔物が持ち帰ったリンゴを齧りながらギャスは悪態をつく。


「全くもって申し訳ない。気が付かないとはなはっはっは!」


 笑いながらそう言い、ディードから見ても反省の色は一切見えなかった。

 装備も持たず、外に出ていたのは今日の夕食であるきのみや果物等の山菜を採りに出ていたらしい。

 調理担当なのかリザードマンが手慣れた食材と調理器具を持って、外で調理を始める。

 その間に自己紹介を始めたのだが、ディードの事は知られていたため完結にスラの挨拶だけを済ませ、ギャスの連れの自己紹介を聞き始める。


「俺はオーケアドス・フィンクス・スタイ・バーン・クロス・ディン・アークバルド・クサライ!」

「え? なんだって?」


 彼は、オークの口から一度に覚えるには少々長い言葉が発せられ思わず聞き返していた。


「だから、俺はオーケアドス・フィンクス・スタイ・バーン・クロス・ディン・アークバルド・クサライ! これからよろしくでさ、旦那!」


 どうやら名前だったらしい。

 当分の間覚えられそうにないため、彼は適当に相槌だけを返しゴブリンの自己紹介を促す。


「拙者はゴブ左衛門と申す」

「おう、よろしくな」


 此方も聞き慣れないような名前だったので、ディードは適当に流しリザードマンの自己紹介を促した。

 話されたのは彼の名はリザ之助、調理担当兼盾役とのこと。

 オークとゴブリンは主に攻撃役。死んだらしい後1人が後衛で連携をしていたそうだ。そして、ギャスが回復魔法を扱え指示を出し、1つのチームとして少しの間だが行動を共にしてきたとのことだ。


 ディードとスラはギャスが回復魔法を扱えるという事柄を疑いつつも、更に話を聞く。

 夕飯後、敵の情報を集めるため近くにある街に繰り出し聞き込みをするそうだ。

 主に横槍を入れてきた勢力についてだという。

 あの戦闘時ディードが対応に手馴れているように見えた。とも言われ、少し悩んだ後彼は明かす事にした。


 あの横槍を入れてきた勢力に追われるようになったのはつい2カ月前から。最初は男1人と女1人の計2人だった。が、徐々に増えていき今では男1人に女5人の計6人にまで膨れ上がっている。


 人数"だけ"を見ればそう多くはないが、問題は別にあった。それは神器。人間側で言う神装武具の存在であった。

 それらは通常の武器と比べ"基本的に"性能が高く、物によっては特殊な能力を備えていたりするなど厄介な代物だ。

 奴らは全員その神器を装備している。無論、いくら武器"だけ"が強かろうが、使い手が弱ければ恐れる必要はない。


 そして、現状ディードとスラの2人では、防戦に徹しつつ撤退するので精一杯だった。まともに当たれば勝てる見込みはなく、そもそも男との1対1ですら勝てるか怪しい。そんな状態であった。

 こんな状況に嫌気を差し、ちょうど一ヶ月前に相手の攻撃に合わせ崖から落ち死んだ振りをして難を逃れた。成功した。と思っていたがそんなことはなかった。と言った内容であった。


「神器ギャねぇ・・・・・・」


 ギャスがリンゴの芯を食べながら神妙な顔でそう呟いた。


「ご飯が出来ましたよー」


 というリザードマンの声が聞こえ、鍋を持って小屋の中に入ってくる。

 ディードは毒を警戒するも、スラに「毒はない」と言う合図を貰い夕飯であるスープを頂く事にした。

 スープは店で出しているかのように美味しく、とても満足感がある出来栄えであった。

 その間、ゴブリンとオークはパンチラだのパンツの色だのに話の花を咲かせ、少々台無しだったのが残念だったが。

 食事が終わり程なくして3体の魔物は自身の装備を纏い街に向かっていった。

 会話内容からディードは不安を感じつつも、これからのどうするかを軽く相談し少しでも魔力を回復させるため、寝床に付くのであった。



 街に着いた一行はすぐに二手にわかれた。

 一方はゴブリンとオークが一緒に聞き込み、リザードマンは1体で聞き込み。

 此処は国境沿いであり尚且つ中立化してしまっている街である。そのため魔物も魔族も見慣れた者と言ったスタンスであり、特に魔物がうろついていると言った理由で怪しまれるという心配はなかった。

 リザードマンことリザ之助は酒場に行き、まず周辺の状況を聞いて回った。

 奢ったりして失った金銭は決して安くはなかったが、得られた情報はそれなりに、だった。


 まず、この周辺に展開していた魔物軍の約半数以上が消し飛んだ。恐らくディードを追っていた6人組の仕業だろうとリザ之助はすぐに結びつける。更に、逃げ帰ってきた魔物軍の1部隊の隊長が泥酔し漏らした話によれば、明日も部隊の補充を行い次第標的の捜索を再開するとの事だった。


 次にその6人組がこの街に滞在しているという事、彼女らはハプスブルグ校と呼ばれる選ばれたエリートが通う学び舎の生徒だという事。

 最後に彼女らもまた明日再び動き出すという事。

 勘定を済ませ、酒場を後にするとリザ之助は少し焦っていた。

 ディードの話と先ほどの話、本当に自分達の手でどうにかなるような相手なのか? と、いう不安からであった。


「とりあえず、お2人と合流して戻り、対策を練るもしくは今日のうちに出発するべきですかね・・・・・・」


 2体を探すため、歩を進ませ始めた。



 一方、ゴブリンとオークの2体は女湯に居た。

 厳密には、女湯を囲う塀の向こうだ。この街には中立地帯という事もあり良く立ち寄るため、老朽化で朽ち穴が開いている箇所を良く知っていた。

 つまり、覗きの常習犯であった。2体は聞き込みという方便を使い覗きに来ていたのだ。


「・・・・・・ゴブ左衛門、見えるかい?」


 穴を覗き込みながらオークはそうゴブリンに問いかける。


「湯気が濃すぎてよく見えませんな。ですが、中に若い子がいるのは確実」

「若い声が聞こえてくるから、だな?」

「はい。ですから湯気が薄くなり見えるのが先か、彼女らが出て行くかの勝負になるでしょうな」





「ねぇ、湯気濃すぎない?」


 と、肩ほどの長さの赤髪の女性が呟くように問いかける。

 女湯の脱衣所から露天風呂に出てみれば柱のように立ち上る湯気を見ての感想であった。 


「あら、この程度気にしてるようですから、貴女の胸は何時までたっても貧相なのですわよ。レストさん?」


 レストと呼ばれた女性の問いかけを鼻で笑いながらロングヘアーで毛先が渦を巻いている金髪の女性が答える。


「・・・・・・アンタ、さぁ。喧嘩売ってんなら買うんだけど? ねぇ、売ってるでしょ? 無駄乳」


 と、レストと呼ばれた女性は睨みつけながら言い放つ。

 彼女らの言い分通り、赤髪の娘は胸は小さく、金髪の娘は胸がすごく大きかった。


「此処の湯気は、覗き対策。って、聞いたよ」


 更に脱衣所から1人現れる。今度は銀色で長髪、耳は少し長く尖っているエルフの女性だった。


「覗きぃ?」

「うん。此処に、着いた時、ボクが、女将さんに、聞いたから」


 途切れ途切れでいてゆっくりと喋りながら風呂椅子に腰掛ける。


「と、言いますと、此処は覗きが多い。という話になりますわねぇ。ありがとうございますわ。シャローネさん」


 シャローネと呼ばれた女性は「うん」と言って体を洗い始める。


「そうねぇ。ま、精々気をつけないとね」

「レストさんは別に気をつけなくてもよろしくなくって? そんな貧相な胸誰も見ないでしょう?」

「あぁん?」


 2人は再び睨み合い、シャローネと呼ばれた女性はため息を付く。


「喧嘩は、ダメで────あっ」


 脱衣所から更に1人、小柄な水色の髪をした女の子が現れ、次の瞬間盛大にコケた。

 睨み合っていたレストと金髪の女性は呆気にとられ彼女に駆け寄る。


「ミラさん、大丈夫ですの?」

「ちょっと、ミラ、大丈夫!?」


 ほぼ同時に発せられる声に「実は、仲、いいよね」とシャローネは呟く。


「ミ、ミラは大丈夫ですぅ・・・・・・」


 赤く腫れたおでこを手で抑えながら涙目のミラが起き上がる。


「さて・・・・・・」


 シャローネが鏡の横にあるスイッチを押すとカコンっと何かが作動する音がし、彼女の上からお湯が落ちてきて、泡を流す。

 やっぱり、このシステム嫌いだな。と思いながら、犬のように首を振り軽く水を飛ばすと立ち上がって脱衣所の方に歩み始める。


「あれ? シャロ、もう出るの?」

「うん、ちょっと、ね」


 そう言うと、壁の方を睨みつけるように見つめた。

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