第8話

 2階の門の近くでオドを回復させた海命が三階の門、水中に浮かぶ波紋からその魂が出てくる。

「すこし明るくなった?」

 海命は魔素探知で知覚できる範囲の海水が、少し明るくなっているように感じているようだ。

 因みにではるが、光も魔素に力ある言葉を付与して容造られている。

「少しずつだけど光のある方に、上に向かっているのかな?」

 自身の中にある記憶・・・、システムから与えられた記録にある、海という知識からそう予測する海命だが、実際に体験として得たものではないので、些か疑問の残る物言いになっている。


 ここ第一階層第一層第三階に出てくる、素の魂の詳細は以下の通り。

―――

LV.12


レース

素の魂LV.12

魂断刀LV.3

雲之衣LV.3

魔素探知LV.3

鑑定LV.3


ソウルステータス

HP12/12

オド12/12

攻撃力3

防御力3

―――

 海命の防御を一切抜けず、LV.3まで手加減された魂断刀の一撃で滅されてしまう存在だ。

 彼女にとっては脅威も感じるような相手ではないのだが、これは怖怒の狂喜という制御しきれていないスキルを保有する彼女にとってあまりいいことでは無い。

 恐怖を感じる相手と戦闘経験が蓄積できないでいるのだ。

 これは、いざ強敵と出会ったしまったとき、どうなるのか彼女が自分の状態を予想すら出来ない状況を作り出した。

 しかし、そんなことは露知らずに三階の探索を進めていく海命。


―――

海命LV.80(ステージ1)最上位


LP12


レース

最初の素の魂LV.79(ステージ1)

スキル

魂断刀LV.20 熟練度126/1,400

雲之衣LV.20 熟練度55/1,400

魔素探知LV.20 熟練度154/1,200

鑑定LV.19 熟練度35/1,200


ジョブ

ガウディウムインサニーレLV.1

怖怒の狂喜LV.1 熟練度0/100


タイトル

儘の祝福

みなみの加護


ソウルステータス

HP79/79

オド77/79

攻撃力21

防御力21

―――

「よし、レベルアップ完了っと。」

 それから1時間少々探索を続け複数の魂を滅し、戦闘が終わる毎にレベルアップを繰り返し、順調にレベルを上げて行っていた。

 そして、このレベルアップから数分後、四階へと続く門を見つける。

 門を見つけた海命は周囲を警戒、探知範囲に魂が一つもない事を確認すると、ゆっくりと近づいていく。

「恐らくここを守っている存在が居るはず。」

 狂喜に飲まれた前回の戦闘であやふやな記憶であった海命だが、戦闘に入る直前の記憶は何とか憶えていた。

 その記憶を基に、守護者が居る前提で動いていく。

 そろそろと門へと近づいていくと、前回と同じような軌道を描き門を周回する動きを見せる魂を探知範囲に捉える。

 海命は距離を保ちつつ鑑定を発動させる。

―――

LV.48


レース

素の魂LV.48

魂断刀LV.12

雲之衣LV.12

魔素探知LV.12

鑑定LV.12


ソウルステータス

HP48/48

オド48/48

攻撃力12

防御力12

―――

「一応ダメージが入るのか~、怖い・・・」

―――

スキル怖怒の狂喜LV.1発動しました。

状態異常狂喜に罹りました。

―――

 そして始まる狂喜の蹂躙。

「ハハハヒハヒアハハハ」

 怖いと思いを抱き狂い嗤いながら、目の前の恐怖の対象へと躍りかかる。

 圧倒的なステータス差で相手を消滅させるべく、攻撃スキルへと変化した怖怒の狂喜LV.1を相手へと叩き込んでいく。

 怖怒の狂喜三発が相手の魂へと通る。この間相手の魂も応戦しようと魂断刀を発動させ、ダメージを海命へと与えるもそれだけ。

 あっという間に戦闘は終了する。

 海命は意識を回復するも、先ほどまで探知範囲に捉えていた相手がいないことに気付く。

 瞬く間に戦闘が終了してしまったため、今回の狂喜の発動で覚えた違和感は少なかった。

 海命はいきなり魂が消えたように感じている。

「えっ?は、なんでいきなり?」

 混乱をし、そう言葉を漏らす。訳が分からないながら前回と似たような、だが自分の感覚だけが違うこの状況にハっとしステータスを確認する。

―――

海命LV.80(ステージ1)最上位


LP107


レース

最初の素の魂LV.79(ステージ1)

スキル

魂断刀LV.20 熟練度126/1,400

雲之衣LV.20 熟練度55/1,400

魔素探知LV.20 熟練度154/1,200

鑑定LV.19 熟練度35/1,200


ジョブ

ガウディウムインサニーレLV.1

怖怒の狂喜LV.1 熟練度4/100


タイトル

儘の祝福

みなみの加護


ソウルステータス

HP70/79

オド0/79

攻撃力21

防御力21


必要経験値47/50

―――

 オドを消費したことによる、喪失感こそ持っているものの、前回よりもクリアな思考。明らかに違う自身の状態に戸惑う。

「前回よりも狂喜に慣れてるの?」

 そう思う海命だが実際には違う。システムの補助を受けて発動した狂喜のお陰で、心にかかる負担はかなり軽減している。

 前回引き起こされた恐怖からなる狂乱とは違い、今回の狂喜はあくまでもシステムで引き起こされた狂喜という状態異常。

 心の底から恐怖し怒った前回と比べるべくもなく、海命の魂への負担は小さいものになる。

 しかし、海命はその事には気付けない。

「狂喜に陥るのもスムーズになってる?私は・・・、アレのせいで狂ってしまったの?」

 海命に圧し掛かるジワジワとしたストレス。

 急激な負担ではないこれは、取り乱すようなことになりはしないが、確実に海命の心へと沁み込んでいく。

 それはまるで風雨に晒され削られていく小石の如くに。

 ステータスに反映されないダメージが蓄積していく。

 海命は動けなくなりそうなその魂を何とか動かし、獲得したLPを使用してレベルアップを行っていく。


「いやー、最初の魂君、海命だっけ?いい感じに病んでいってますな~。」

「悪趣味ですよ?・・・、解らなくはないですが。」

「そっちの方がひどくない?」

 神様とは斯くも身勝手な存在であった。


「さて、今後どうしようかな~?」

 海命は考えている、ガウディウムインサニーレのスキル怖怒の狂喜の制御が、思っているよりも難しい事に気付いて。

「制御しきれないのなら、上げておこうかな?今スキルレベル低いから、他のスキルよりも上昇させやすいしね。」

 今あるLPを使い切り怖怒の狂喜の狂喜をLV.15まで上げる。同時にガウディウムインサニーレのLV.も15になり、ソウルステータスの攻撃力と防御力は、魂断刀と雲之衣で反映される値も合わせ、それぞれ35迄上がった。

「さて、こんな感じかな。後はオドが回復するのを待って門を潜るだけなんだけど、その間暇だな~。う~ん、折角魔素探知なんてスキル持ってるんだし、操作とか出来るようになりたいね。うん、そうしよう。」

 海命はそう言葉を零しどうしたもんかと首?を捻る。

「試しに腕を伸ばして触ってみる?」

 形状を変化させ腕を伸ばして魔素に意識を向けながら腕をフリフリ。

 海命の意志に反応しシステムが熟練度を付与してくる。

―――

スキル魔素操作LV.0 熟練度1獲得しました。

―――

「よし、魔素探知同様何だかよく解らないけど、熟練度獲得できるね。後はこれを続けていくだけ。」

 口業、意業、身業。この世界に適用されているシステムステーアに儘が与えた数々の葉。

 その中の根幹をなす儘言理之物事ままのげんことわりのぶつじに記載されている三業を知らずの内に実践する海命に対して、システムは与えられた意味を果たすために淡々と、されど恍惚として役割を熟していく。

―――

スキル魔素操作LV.0 熟練度1獲得しました。

スキル魔素操作LV.1獲得しました。

―――

 試行繰り返すこと100回、規定の熟練度を獲得し魔素操作を獲得するに至る海命であった。

「スキルゲット!どんなスキルかな?」

―――

魔素操作LV.1 熟練度0/100

魔素を操ることが出来るようになる。

レベルが1上昇する毎に魔素を操作範囲が1m上昇する。

オド消費1

―――

「なるほど、・・・早速使ってみるか。」

 海命はスキル魔素操作を発動させる。

 周囲1mの範囲の魔素を自分を中心に回す。

 効果は一瞬で持続性はないようだ。ただ、魔素に引っ張られる形で周囲の海水も回っていた。

―――

スキル水流LV.0 熟練度1獲得しました。

―――

「おお!?」

 魔素を操作したときの副次的な効果で周囲の水が動いた。これにより水流というスキルの熟練度を偶々入手する。

 そして、海命はみなみの加護持ちである為に、水系統のスキルの熟練度が半減する。

「棚ボタラッキー。」

 しかし、現在オドは2しかない。腕を振り回すだけだったので、魔素操作獲得がかなり早く、熟練度獲得しスキルがレベル1になるまで3分強しか掛かっていない為だ。

「う~ん、でもオドが・・・。」

 オドの回復を待ちつつスキル水流獲得の為に熟練度を稼ぐ。

 そして魔素操作を行う事50回。

―――

スキル水流LV.0 熟練度1獲得しました。

スキル水流LV.1獲得しました。

マテリアルレースウォーターLV.1獲得しました。

スキル水撃LV.1獲得しました。

マテリアルレースが解放されたことにより最初の素の魂が所属しているレースはスピリチュアルレースになりました。

―――

 海命の周りにある海水がスキル水流により回り初め、魂を容れる器として形成されていく。

 マテリアルレースウォーターとは、回る水に魂を封入することで生まれる生命体である。

「おおう、なんか変な感じ。」

 絶えず回り続ける体に強烈な違和感を一瞬憶えるも、それはシステムにより最適化され、程無くして違和感は霧散していった。

「ふー、だいぶ慣れてきたかな?」

 そして、回る身を軽く動かしてみる。

「う~ん、多少形状変化は出来るけど・・・。渦を維持出来ない形状には出来ないっぽいね。」

 一部分を極端に細くしたり、太くしたりと色々試す中そう結論を得る。

―――

海命LV.97(ステージ1)最上位


LP2


サイズタテ1.01・ヨコ1.01・タカサ1.01=1.030301


マテリアルレース

ウォーターLV.2

スキル

水撃LV.1 熟練度0/50

水流LV.1 熟練度0/50


スピリチュアルレース

最初の素の魂LV.80(ステージ1)

スキル

魂断刀LV.20 熟練度126/2,000

雲之衣LV.20 熟練度55/2,000

魔素探知LV.20 熟練度154/2,000

魔素操作LV.1 熟練度50/100

鑑定LV.19 熟練度35/1,900


ジョブ

ガウディウムインサニーレLV.15

怖怒の狂喜LV.15 熟練度4/1,500


タイトル

儘の祝福

みなみの加護


ボディステータス

HP2/2

オド2/2

攻撃力16

魔攻力1

防御力16

魔防力1


水属性耐性1


ソウルステータス

HP80/80

オド0/80

攻撃力35

防御力35


必要経験値47/50

―――

「よし、色々追加されてるけど・・・、順番に確認していこう。」

―――

マテリアルレース

ウォーターLV.2

水に魂が宿った存在。

サイズタテ1・ヨコ1・タカサ1

その身体は水が流れ回ることによって魂を容れる器となっている。

レベルが1上昇するごとにボディステータスのHPとオドが1上昇する。


スキル

水撃LV.1 熟練度0/100

水を使用して攻撃をする。

オド消費3

レベルが1上昇するごとにボディステータスの攻撃力と魔攻力が1上昇する。

レベルが1上昇するごとにスキル攻撃力が1上昇する。衝撃属性。

レベルが1上昇するごとにスキル魔効力が1上昇する。水属性。

スキル使用時ボディステータスで反映される攻撃力に衝撃属性が付与される。

スキル使用時ボディステータスで反映される魔攻力に水属性が付与される。

レベルが1上昇するごとにオド消費が2上昇する。

射程距離は魔素操作に依存する。


水流LV.1 熟練度0/100

水が流れ回る。

レベルが1上昇する毎ににボディステータスの魔防力が1上昇する。

レベルが1上昇する毎にボディステータスの水属性耐性が1上昇する。

レベルが1上昇するごとサイズのタテ・ヨコ・タカサが0.01上昇する。

―――

「あれ?これじゃ、水撃使えないよね・・・。あー、でも魂のレベルがあるからそっち方面でLPを稼げばいいのかな~?」

 水撃の詳細を確認すると今すぐ使えないことに疑問を持つが、何とかなるかとすぐに気付く。

「それと水流って体を構成するものだったか、雲之衣同様って感じかな?」

 水流の詳細も同じように確認し納得の言葉を述べるも。

「でも、このサイズってなんだろう?」

 今まで見たことのない言葉が出てくる。

「大きさに関する項目なのは間違いないと思うけど。」

 そう言いつつ記憶を探る。

「あ~、サイズでステータス補正掛るんだったね。」

 現状のサイズの場合元のボディステータスに1.030301乗算されるが、小数点以下は切り下げになる為効果は表れていない。

「後は属性かな?これは攻撃や防御に反映されるやつだね。」

 因みにサイズなのだが、今の海命の様な不定形の身体をもつ生命体の場合、その体の体積を表している。常にタテ・ヨコ・タカサが同じではない。

 そうであるならば、先に彼女が試していた形状変化は出来ない事になってしまうからだ。

「っというか、ガウディウムインサニーレの効果が大きいな~。」

 ジョブガウディウムインサニーレの効果により、獲得したてのボディステータスだが既に攻撃力と防御力が16になっている。

「怖怒の狂喜という制御しきれない爆弾を抱えているような状態だけど、・・・う~ん、このステータスに見合うデメリット・・・かな?」

 やや疑問が残るようだが、海命はそう納得することにする。

 その後海命はLP1を使用して水流のレベルを上げて、水撃が一回使えるようにして、オドの回復を待つために門周辺の安全が確保できた場所で魂を休める。

 しかし、その僅か数分後海命の探知領域内に、いきなりこの階の主が現れる。

 一時間のインターバルを挟みリポップしたのだ。

 が、防御力が35迄上がった海命に攻撃は通らず、慌てず騒がずオドを回復するのを待ち一刀のもと滅するのであった。

「アーオドガゼロニナッテシマッタマタカイフクシナイトネ。」

 なぜか片言に独り言ちオドの回復を待つ海命。

 一時間後またリポップする階主。

 相手のHPと防御力から最適なスキルレベルを導き出し手加減をし、最小のオド使用で階種をまた滅する。

 2重の魂断刀にリポップ時の隙を突いて一瞬の内に行われた。

 そして、今度こそオドが回復しきるのを待ち門を潜るのであった。

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