第7話
経験値が海命へと吸収されLPになる、この瞬間を以って戦闘終了とシステムは判断を下す。
「えっ?」
海命は不意に意識を覚醒させた。
戸惑いつつも周囲へと意識を向け現状把握に努めようとする。
スキル魔素探知は変わりなく働いており、周辺の状況は普段通りに把握できるが、自分の記憶が途切れていることに気付く。
「何があったの?」
海命は探知領域内に先ほどまで逃げ回っていた相手が居ない事を訝しむ。
「私はさっきまで・・・。」
恐怖・・・恐れを抱くも戦闘状態ではなかった為スキルは発動しなかったが、海命は自身に起きたことが理解できずにいた。
「私は追いかけられていたはずなのに、・・・意識がどこかで途切れたのね。」
しかし、記憶がない事から自分が意識を途絶えさせてしまったと予想する。
「そして私は消滅していない。」
消滅していない事実から導き出される答えは。
「あっ、ステータスオープンっ。」
海命はその答えを確認する為にステータスを開く。
―――
海命LV.35(ステージ1)最上位
LP65
レース
最初の素の魂LV.34(ステージ1)
スキル
魂断刀LV.9 熟練度84/700
雲之衣LV.9 熟練度33/700
魔素探知LV.8 熟練度83/700
鑑定LV.8 熟練度12/500
ジョブ
ガウディウムインサニーレLV.1
怖怒の狂喜LV.1 熟練度1/100
タイトル
儘の祝福
ソウルステータス
HP34/34
オド0/34
攻撃力10
防御力10
必要経験値28/50
―――
「やっぱり倒しているのね。」
言葉を零すように吐き意識せずに強張らせてしまっていた感情が解けていく。
そして疑問に思う、どうやって倒したのかを。しかし、これに関しては記憶がないので「どうしようもないか。」と、早々に原因究明をすることを諦め、ステータスに表示されている新しく追加された、謎のジョブとスキルへと意識を向ける。
―――
ジョブ
ガウディウムインサニーレLV.1
状態異常『狂喜』を発動させるスキルを獲得すると発現するジョブ
レベルが1上昇するごとに全ステータスの攻撃力・防御力が1上昇する。
スキル
怖怒の狂喜LV.1 熟練度0/100
このスキルを保持していると戦闘中に恐怖や怒りを感じた時に状態異常『狂喜』になる。
戦闘状態を脱すると『狂喜』は解除される。
(以下狂喜の効果)
発動時にオドを全消費する。
発動時怖怒の狂喜以外のにアクティブスキルを発動できなくなる。
発動時防御力半減(小数点以下切り上げ)
発動時半減した防御力の数値分攻撃力が上昇する
発動時怖怒の狂喜は攻撃スキルになる
レベルが1上昇するごとにスキル攻撃力が2上昇
―――
そして、成る程と納得する。
海命は意識を手放している間に獲得したスキルとジョブの効果により相手を倒したと判断した。
実際には倒した後に、システムが判定を下しスキル化とジョブの反映を行ったのだが、意識を失っていた彼女がそれを知る術は、その失われた記憶と共に無くしている。
そんな勘違いをしたままジョブとスキルの効果の確認をする。
「これって、今後私の精神状態によって勝手に発動するってことよね?」
海命は自身が獲得した新たな力が、制御できないものと悟った。
「スキル効果自体は状態異常の狂喜を引き起こして、その状態異常中は攻撃スキルに変化するってこと。ジョブの能力もステータスの上昇と・・・、ここまではまあ、許容しましょう。」
能力上昇とそれに伴うリスク、瞬間的に自身の能力を強化する事と、それに対するリスクに対しては受け入れることにする。
「でも、この状態異常に陥ってしまうのは・・・。」
状態異常狂喜に陥ってしまう事に、海命は暗澹たる思いを抱かずにはいられなかった。
この状態異常狂喜、つまり喜び狂う状態がどういった状態なのか、記憶の無い海命はどうしようもない感情に駆られてしまう。
「意識を失くしてその間の記憶がない、これは確定ね。問題はその間どんな行動をしているか・・・。」
笑いながら敵を追い掛け回す自分の姿を想像する。
その想像は
「う~ん、ヒステリックな感じなのかな?」
もしここに第三者、仲間と呼べる存在が彼女の傍にいたのなら、この疑問に答えられたかもしれないが、今はまだ独り身である為誰もそれに関して言葉を掛けるものはいない。
「戦闘中恐怖や怒りさえコントロール出来れば問題は無いか。」
海命は記憶が無い為楽観的な結論を出してしまう。
意識が失う前の記憶は確かにあるが、その余りにも強烈な感情の発露からその心を守る為、その当時の憶えている筈の記憶までもが、自分の心を守るために変質してしまっている事に気付けない。
海命は生まれて間もなくシステムを介して様々な知識を得ているが、生まれたばかりという事に変わりはない。
故にその精神は知識と不釣り合いに幼い。
海命は知らない、自分に芽生えた恐怖を、そしてその恐怖から生まれた怒りを、そこから生じた狂喜を。
これから先彼女が自分の中にあるこの感情に気付けるときは来るのだろうか。
気付けたとしてこれを克服できるのだろうか。
彼女は知る術を失ってしまった。そのスキルを獲得することによって。
狂喜によって記憶を失くしてしまう彼女はこれから先感情に、スキルに、振り回されていく事は容易に想像できる。
ただ、それを海命自身が理解できない。
「さてっと、ではLPの使い道を考えなきゃね。」
怖怒の狂喜はレベルが1上がる毎にスキル使用時の攻撃力が上がる。
そして、同時に引き上げられるガウディウムインサニーレは、レベルが1上がる毎に全ステータス、ソウルステータスを含むあらゆるステータスの攻撃力と防御力を上昇させる効果を持つ攻撃特化のジョブだ。
今海命はソウルステータスしか所持していないが、将来肉を持ちボディステータスを持つに至れば、1レベル上がる度にソウルとボディの攻撃力防御力が1づつ上がっていく事になる。
「う~ん、攻撃力が上がるのは魅力的だけど・・・、状態異常に好き好んで陥りたくはないから、使う機会が限られるだろうしな。」
そうして、今まで通りの方針でLPを使用しレベルアップを開始する。
―――
海命LV.35(ステージ1)最上位
LP3
レース
最初の素の魂LV.41(ステージ1)
スキル
魂断刀LV.11 熟練度84/900
雲之衣LV.10 熟練度33/900
魔素探知LV.10 熟練度85/900
鑑定LV.10 熟練度12/900
ジョブ
ガウディウムインサニーレLV.1
怖怒の狂喜LV.1 熟練度0/100
タイトル
儘の祝福
ソウルステータス
HP41/41
オド9/41
攻撃力12
防御力11
必要経験値28/50
―――
「よし、こんな感じかでいいかな。」
海命はLPを振り分けると次の階へと移動する為に門を探す。
一度は探し当てた門だが、恐怖に濡れ狂喜の沙汰となり門を見失っていた。
間に1度の戦闘を挟むが特に問題なく門へと再到達し潜ったのだった。
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