第3話
ストラトゥムカルパーテルミヌスのとある場所、穏やかなるターンを刻んでいた空間に突如として激震が走る。そう、疑似魂創造爆発である。
光子で構成され、光子で満たされ世界に、儘の力によって全空間で疑似魂の創造が行われたこの瞬間。時空間は振動し、脈動し、胎動した。
母の胎内で動くなどどいう生やしいものではないが、確かにこれは胎動と表現できるものであった。
母たる世界と言う子宮の中で、新たに生まれ出づる膨大な光の魂たちの胎動だ。
光子によって構築されている時空間に、綻びが生れるほどの衝撃を伴って生まれたこれら光の魂は、それがある時空間へと浸透していく。
こうした空間は、ヴルルツルプグシステムにより把握されその能力を判定されていた。
この世界での力とはエネルギー量だ。
この世界での力とは意味だ。
この世界での力とは解釋だ。
エネルギーとはモデルエネルギー、意味とはマイティワード、解釋とはシステムだ。
この世界にある物は、保有するエネルギー量と、システムから与えられるマイティワードによって力の方向性を明確化させられ、それをシステムで解析し明文化されていっている。
これは、一部の神格化した存在以外あらゆる物が従うこの世界での理。
こうして、システムを通してこの世界は観測される。
何故神々はこの様な事を為したのか、この世界に溢れる光の魂たちは自我を持たない故に疑問を持たない。
唯粛々と役割を熟していくだけであった。
創世神によって創造され時空間に浸透した祝福された原初の魂たちは、ひたすらにエネルギーを増産し、新たな光の魂を黙々と増やしている。
新たに生まれた光の魂たちは、この世界の空間を満たし切り飽和状態となっていた。
ドォウムム紀500,000年、2度目の疑似魂創造爆発の衝撃が世界を走った。
第二位階時空間や第三位階時空間はその強固さで、綻びこそすれ衝撃を耐えきることが出来たが、時空間より生れ落ちた光の魂たちは違う。
世界そのものを揺さぶる程のエネルギーはLV.200,000程度の存在では防ぎようがなかった。
この世界に溢れかえっていた光の魂たちは、一瞬のうちに崩壊させられモデル位階第五位念粒へとなっていった。
念粒は想起の特性を持っている。想起とは思い出すことだ。
儘はこの特性を利用してこの世界での経験値として利用している。
この世界のあらゆる物はシステムの影響を受けている。そして、システムにはあらゆる情報が蓄積されている。
ここまで書けば察しのいい方は気づいてくれるだろう。そう、スキルを得るという事は、本来システム経由で最初から知っているはずの、システムに在る知識や技能などを思い出すという事なのだ。
即ちスキルシステムを含む知識や技能などに影響を与えるシステムは全て、思い出させない又は忘れるためのシステムであり、その忘れたものを思い出すために念粒という経験値を鍵として使用している。
では話を戻そう。まずは現状の再確認だ。
光の魂が飽和状態の時に衝撃が起こり、魂は崩壊し経験値となる。そこに事の発端となった疑似魂創造爆発によって、創造された光の魂たちが生れ落ちる。
さらに条件がもう一つ重なる。この場合本来であれば経験値は行動を起こした儘が回収するものだ。ただ、儘はシステムの影響下にはない存在だ。それに今回儘は意図的に経験値に手を出さないようにしていた。
この結果として引き起こされる現象とは何かというと。
爆発の余波を受けた経験値は、運動エネルギーを得て世界を縦横に移動することになる。
さらに、動き回っている経験値は新たに生まれた光の魂や時空間に吸収される。時空間は特に問題なく吸収できたが、魂のみの存在が動き回っている経験値を吸収した結果どうなるか。
経験値吸収時に、運動エネルギーを受け世界を縦横無尽に駆け回ることになる。これが、この世界全体で起こっているのだ。
今まで静かだったこの世界が、光の魂の激しい動きによって一気に騒がしくなった。
そして、動き回る光の魂たちはそのうち他の光の魂とぶつかり合いまた崩壊する。そして新たに経験値をばら撒いていく。
そこに空間から新たな光の魂が生れる。当然その光の魂にも衝突する訳だが。
経験値を多少なりとも得た光の魂と、生まれたばかりの光の魂がぶつかると、よりLV.の高い方が残ることになる。
こうなってくると、空間から生まれる光の魂はレベル上げ用の存在になっていく。
そして、レベルが多少なりとも上がった光の魂は徐々に増え始めていく。
こうして、徐々に勢いは弱まりながらも、止まることなく魂の攪拌は続いていった。
徐々にレベルを上げていく、空間を動き回る光の魂達。そんな中に一度も崩壊することなくLV.1,000,000,000(ステージ4)の大台、魂力1と同等のエネルギーを獲得した魂の存在が確認され始める。
「う~ん、条件は満たしている筈なんだけどな~?」
時にドォウムム紀269,549,780年・世界節271,829,780年、ストラトゥムカルパーテルミヌスを観測していた儘は独り言ちる。
「そうなんですよね、自我が芽生える条件として設定した、ステージ4に到達した疑似魂の存在は確認できるのに、肝心の自我を持った真の魂が未だに生まれてこない。この理由が判然としないのは不可解です。」
と、この階層世界を観測する為に用意された空間にて、儘の呟きに応える蒼。
今回何故儘たちがこのような事を行っているのかの、説明をするところから始めよう。
儘たちは自らの創造の力を行使せずに、命の誕生を行われる環境作りをしていたのだ。創造の力は、飽くまでも切欠程度の使用に抑えつつ。
ただ、本来彼らが想定していたレベルに到達しても、自我が芽生える光の魂は現れなかった。
「そうだね、未だに理由すらわからないのが痛いよなー。」
「はい、対策を施しようにもこれでは動きようがありません。」
「なら、まずはそこを探ることからだね。ちょっと環境変えてみようか。」
「なるほど、では、どのようなものを用意しますか?」
ストラトゥムカルパーテルミヌスを観測する為に用意され、儘の手によって無駄に凝った装飾が施された空間。
イメージとしては近未来的と言うところか、空間に観測されたデータが投影され、彼ら二人の周りで絶えず情報を表示させ続けている。
そんな、趣味と実益を満たしている場所で、二柱の神は今後の事を詰めていく。
そして、実験用の環境を整えるために用意されたのは新しい階層。これは他の階層からは出入り口を除いて隔離されている階層だ。
この世界での扱いではダンジョンとなる。一辺が1,000マスの立方体で、中央にダンジョンコアが配され、魔素により生み出された水が満たされている。
儘により生命の海と名付けられたこの世界初のダンジョンである。
さて、このダンジョン生命の海だが、外の水中階層との違いを先に述べておこう。
水中階層では、時空間そのものが水中階層というレースを獲得しており、そのレースにより水中と言う状態となっている。なので、実際に水で満たされているわけではない。
対して、この生命の海は時空間に水中階層のレースは存在せず。時空間に魔素を満たしそれにマイティワード「水」を付与し、水と言う物質を創り出している。
なので、この海に満たされているのはH2O等で表記されるような、自然の理に有るような水ではなく、マイティワード「水」と表記される水である。
さて、そんな環境下である実験用ダンジョン生命の海に、外の階層世界でステージ4に到達したLV.1,000,000,000以上の光の魂が投入される。
投入された光の魂は、適当な感覚を置かれて配置され観察をされる。
長期間何もせずに状態を確認される魂。
一定のルートを水流によって移動させ続けられれる魂。
魂通しを衝突させ合い経験値を獲得させられる魂。
等々、様々な条件を与え、実験は行われている。
そんな中、衝突実験を繰り返したものの中に、膜を獲得する魂が現れ始める。
魂同士の衝突によって生まれた衝撃により発生した気泡、偶々その中にあった魂がその気泡と水との境目をシステムが膜と判定。
これにより魂は自らがもつ曖昧な境界ではなく、非常に薄くではあるが明確な境界を手に入れるに至ったのだ。
「う~ん、システムだけで環境を整えたのが、どうやら問題だったみたいだね。」
「そのようですね。今後はどのようにしますか?」
「ま~、階層世界の手直しが必要だね。子供たちを呼んできて。」
膜を獲得した魂の観測を続けた結果、自我の獲得をする魂の確認が取れた儘は、四柱の子供達を召集し、大規模な世界の回収作業を指示する。
実験を繰り返すこと1052年。
ドォウムム紀269,550,832年・世界節271,830,832年の出来事である。
神格化し創造の能力を発現している存在六柱による、世界の大規模な改修が行われる。
今回の改修では、今まで時空間のレースによって行われていた、環境の再現を取りやめ魔素を変化させて、環境の再現を行うようにした。
まず行われたのが、2次元だった各階層を3次元へと引き上げだ。またこれと同時に各階層間の移動も変更になった。今まで紐付けられ各階層間の移動補助としていたものを全て解き、各階層の移動には転移ゲートを潜ることでのみ可能とした。
そして、各階層には魔素が満たされ、その魔素を基にして環境が整えられた。
これらは儘たちの創造の力によって、想像のままに行われ滞りなく終わったのであった。
そして、これらの魔素で整えられた環境を維持する為に新たに精霊が創造された。
光・闇・火・水・風・土の属性を司る大精霊とそれに仕える中精霊や小精霊達は、今日も気ままに世界を移動しながら世界の維持を行っている。
今この世界は天使達により時空間の拡張と維持、悪魔達による余剰エネルギーの回収と、エネルギー循環。そして精霊たちによる環境保全によって滞りなく運営がなされている。
六柱の神々の手を離れて、この世界は動き初めた。
神々は見守り、意志を伝え、システムを介して介入するのみである。
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