EXエピソード 聖夜に示す愛情


 い つ か ら 一 人 だ け だ と 錯 覚 し て い た ?

 

 そんなわけで、菜々美編です。

 

 先にゆず編を公開してますが、こちらから読んでも問題はありませ~ん(でもどっちも読んでもらえると、青野は狂喜乱舞します。脱ぎます)

 なお、流石に三人目を書く気力が持たなかった……許してつかぁさい。 


 ===※注意※===

    

 このエピソードはクリスマスSSです。

 普通に書くと時系列的にネタバレ不可避なので、本編と切り離した内容となっています。


 本編との違いは、


 ・五章での菜々美の告白を、司が受け入れた√。

 ・なので、二人は恋人となっています。

 ・菜々美は逃げずに本編通り復活してます。

 ・ゆずは振った形になりますが、依然として交流は続いています。

 

 以上の四点にご留意して下さい。


 ではどうぞ~。


 ==========

 

 十二月二十五日のクリスマス。

 世界中の恋人達が一夜の逢瀬を交す特別な一日で、持たざる者には孤独感に苛まれることとなる残酷な一日でもある。

 

 そんな両者二極の差が浮き彫りになる日に、俺はある場所へと赴いていた。


 世界を喰らおうとする怪物、唖喰を倒し続けるために建てられた世界各国公認の組織──オリアム・マギの日本支部。

 

 その組織に所属し、日夜唖喰と戦い続ける女性達──魔導士と魔導少女が住む、地下二階居住区。

 そこに住むある人の元へ、自宅から寒空の中を歩いてやって来たのだ。


 やがて一つの部屋の前に辿り着き、入口の横にあるインターホンを押して、部屋にいる人物に来客を知らせる。


 待つこと数秒でドアがスッと横に開いて、中から一人の女性が出てきた。


「いらっしゃ~い。さ、あがってあがって」


 笑顔で俺を出迎えたその女性は、栗色の髪を三つ編みに結んで左肩に掛かるように流し、ピンクのニットセーターと白いロングスカートの上に水色のエプロンを羽織っていた。

 さっきまで料理中だったようで、開かれたドアから美味しそうな料理の香りが漂っていた。

 

「こんにちわ、菜々美」

「うん、こんにちわ、司くん」


 柏木菜々美。

 それが女性の名前で、俺の恋人だ。

 

 九月に向かった組織のフランス支部との合同交流演習にて、あるトラブルから塞ぎ込んだ彼女を説得した際、告白を受けた俺はそれを受け入れた。


 当初は自分を立ち直らせるための方便だと思われたが、俺が本気だと知ると、彼女は自分の初恋の成就に大いに喜び、無事にこうして交際するに至った。


 もちろん、菜々美より先に告白してくれたゆずには精一杯謝った。

 今度は彼女が塞ぎ込んだりしないかヒヤヒヤしたが、俺が選択したことならばと、涙を堪えながら俺と菜々美のことを祝福してくれた。


 そこからも色々とあったが、今もこうして菜々美との仲は健在……いや、より親密になっていった。

 何せ、この俺より三つ年上の彼女は途轍もなく可愛いからだ。


 通っている大学でもその美貌からかなりの人気を誇り、おっとりとした性格と高い女子力から甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる、まさに理想の彼女象を集約したと言っても過言じゃない。


 なお、俺がそう言うと決まって菜々美は顔を真っ赤にして恥ずかしがるが、その反応もまた可愛い……っとと、なんだか惚気話が続きそうになった。

 仕方がない。

 俺の彼女はこんなに可愛いんだから。


 そんな彼女が住んでいる部屋に俺が来たのは、二人でクリスマスの夜を過ごすためだ。

 いくつか案が出たが、菜々美たっての希望により、彼女の部屋で手料理を味わいながら過ごすということになった。


 実際に菜々美の料理はめちゃくちゃ美味しい。

 これが食べられるのは、まさに彼氏である俺の特権だろう。


 それらに期待を寄せながら菜々美の部屋に足を踏み入れると、テーブルには所狭しとクリスマス用の料理が並んでいた。

 

 南蛮チキンとコーンスープ、チキンライスにポテトサラダの他にもあり、どれも食欲をそそる品揃えだった。


「う、美味そう……! これ、全部菜々美が作ったんだよな?」

「うん! ちょっと大変だったけど、司くんと一緒に食べるんだぁ~って思って作ってたら、いつも以上にスムーズに出来上がったんだよ!」


 そう語る菜々美の笑顔がとても眩しかった。

 本人の言う通り、かなりの手間があったはずなのにこの料理は愛情と言わんばかりの手際の良さ。

 幸せで料理を腹に入れてないのに、もうお腹一杯の気分だ。


 もちろん、それで菜々美が作ってくれた料理を食べないという選択肢を選ぶわけには行かないため、幸せで腹を満たすのは後だと首を横に振る。


 気を取り直して、料理が並べられているテーブルの前に座り、箸を手に取って両手を合わせる。


「それじゃ、頂きます!」


 まずはソースが掛かった南蛮チキンから口に運ぶ。

 

「美味い!」

「ホントっ!? 良かった!」


 本当に美味しい。

 程よい柔らかさに下ごしらえされた肉の歯応えが良く、噛む度に溢れ出る肉汁が口の中に溶けて行く。

 ソースもくどさは一切なく、むしろさっぱりな味付けだから脂身が中和されている。


 最初からこの出来栄えとは、流石菜々美と言う他なかった。

 期待を込めて次は、ポテトサラダを口にする。


「これも美味しい!」

「ふふ、今日は特別な日だから素材にもちょっと拘ってみたんだ」


 磨り潰されたジャガイモにマヨネーズが絶妙で加減で混ぜられていて、ジャガイモのパサパサ感も全く感じなかった。

 細かく刻んで練り込まれたキュウリや人参も、噛んだらシャキシャキと音を立てるくらい水っ気もあって、どれをとっても満点以外の言葉が出て来ない程だ。


「やっぱり菜々美の料理は凄いな! こんなに美味しいなら全然飽きないぞ」

「あはは、司くんが美味しそうに食べてくれるから、こっちも作り甲斐があるよ」


 対面に座って俺が食べる様子を眺める菜々美がそう微笑む。

 その笑顔に思わず見惚れると、菜々美は両手で口元を覆いながら……。


「……こうしてると、なんだか新婚さんみたいだね」

「──ッブ、んぐっ!!?」

「きゃっ!? だ、大丈夫!?」


 突拍子の無い大胆な発言に、口に含んでいた料理を噴き出しそうになるが、寸でのところで堪えて何とか飲み込んだ。

 が、勢い余って詰まらせてしまい、胸をドンドンと叩きながら菜々美が差し出した水を飲んでなんとか流し込んだ。


 あっぶねぇ……危うく死ぬところだった。

 

 だが、驚かせるような事を言った菜々美が悪い。

 何せ良く考えれば、今の状況がまさにそうだからだ。


 エプロンを来て俺を出迎えた時とか……完全に新妻のそれだ。

 びっくりするくらい違和感が無いし、しっくり来たからこそ、動揺せずにはいられなかった。


 そんな驚く出来事があったものの、菜々美の作った絶品料理を平らげた俺達は、テレビを観ながら他愛の無い話をしていた。


『それでは、〝告白はどちらからか、どんな内容だったか〟をお答えください!』

『ええっ!?』


 クリスマス特集のインタビューで、女性のリポーターが道行く一般人のカップルにそう尋ねていた。

 かなり恥ずかしい質問に、カップルの女性の方は大いに動揺していた。


 その様子を観ていた俺は、ふとあることを口出してみた。 


「『好きです』」

「──っ!?」


 俺が突然そう言ったことに、肩が触れる距離で隣に座っていた菜々美がビクッと全身を揺らした。


「『これが初恋だけど、これから先一生を懸けても、司くん以上に好きになれる人はないって確信出来るくらい、私はあなたが好きです』……だったよな?」

「な、なんで今それを掘り返すのぉーっ!?」


 自分の告白の内容を一言一句記憶されていた事実に、菜々美は顔を真っ赤にして俺の方や胸をポカポカと叩いてきた。

 だが、そうしていると今度は菜々美の方が何か思い付いた表情を浮かべる。


 なんだと俺が訝しむと……。


「『菜々美が不幸だって思う余裕が無いくらい、俺は君を幸せにする』……だったよね?」

「──っ!?」


 ぐああああああああ、そっちも覚えてたのかよっ!?

 まさかのカウンターに俺は全身から火が出るのではと錯覚するくらいに、羞恥に苛まれた。

 

 あ、良く見ると菜々美の顔も真っ赤になってる。

 さては自分で言ったのに、言われた時の気持ちを思い出して恥ずかしがってるのか?


 なんだ、クロスカウンターだったのか。


「──ふっくく、あっはははは!!」


 相手を見返そうとして自爆するあたり、どこまでも似た者同士なのだと思った俺は、笑いを堪えきれずに声に出てしまった。 


「あーっ! 笑わないでよ! そんなにおかしく……ふふ、あははははははっ!」


 菜々美は俺の反応にプリプリと怒るが、次第に釣られていって彼女も大笑いし出した。

 

 ~~~~~


「司くん」

「うん?」


 そうして一頻り笑い合った後、菜々美が俺の名前を呼びながら体を預けて来た。

 ふわりと、菜々美の女性らしい香りが鼻をくすぐり、俺は心臓の高鳴りを覚えつつどうしたと聞き返す。


「昨日ね、大学でまた告白されたの」

「は?」


 誰だよ、人の彼女に告白をして横やりを入れようとする奴は。

 クリスマス前だからって

 俺がそんな怒りを抱いたこと察したのか、菜々美は安心させるようにクスクスと微笑み……。


「ちゃんと断ったよ『私には恋人がいるので、あなたとは付き合えません』って」

「! そうか、そうか、まぁそりゃそうだよなぁ~……でも、やっぱ年下だからって舐められてるのは気に食わないな……」


 相変わらずモテまくりの彼女には、俺という恋人がいるのにも関わらず告白が絶えない様だった。

 菜々美と付き合い出したのを機に進路を彼女の通う大学に絞って、暇のある時に菜々美から勉強を教わる

ことで早めの受験勉強をしているものの、やはり一年以上も大学で傍にいられないというのはもどかしい。


 さっきも言ったが菜々美はかなりモテる。

 今は俺の彼女でも、何かの拍子で心変わりでもされたら生きていける自信が無い。


 そんな不安を察したんだろうか。

 菜々美は俺の左手に自分の手を重ねてきた。

 

「そんなに心配しなくても、私に司くん以上に好きになる人はいないし、焦らなくても大丈夫だよ」

「……でも──」

「それにもし襲ってきたとしても私は魔導士なんだから、相手がボクサーでも簡単に蹴散らせるからね?」

「……そうだな、悪い」


 シュッシュッとシャドーボクシングをする菜々美の言う通り、日夜唖喰という怪物と戦っていて、見た目から想像出来ないくらいたくましい彼女なら心配なんて野暮だった。


 ちゃんと自分の彼女のことを信じないといけないのにと、若干自己嫌悪に陥っていると、菜々美が俺の顔を自分の胸元に抱き寄せて来た。


「な、菜々美?」


 服越しに触れる彼女の慎ましくも確かに感じる柔らかさに、ドギマギしながらもどうしたのかと彼女の名前を呼ぶ。


「司くんは真剣に私のことを心配して言ってくれてるんだよね? 本当に大丈夫だけど……心配してくれてありがとう」

「……ははは、彼氏なのにみっともないな」


 男らしくドンと構えるべきなんだろうけど、年齢的にも学年的にも離れているとどうしても不安になってしまう。


 そう自嘲すると、菜々美は俺の頭を撫でて来た。

 

「彼氏でも司くんは私より三つ下なんだよ? 辛かったり不安になったら、彼女でお姉さんの私に甘えてもいいんだからね?」


 不思議と不快感は無かった。

 こうして菜々美に撫でられると心の奥底から安心感が湧き出てくる。

 そうすると「あぁ、やっぱ菜々美の事が好きなんだ」と自分の気持ちを再認識出来る。 


「それでもどうしても心配なら……」

「ん?」


 名残惜しくも菜々美の胸元から顔を離して彼女と向かい合うと、菜々美は顔を赤くしながら自分の胸元に手を添えて……。


「私が、司くんのだっていう証が欲しい……」

「え、あ……」


 そう言われて、その言葉がどういう意味なのかを悟った俺は、咄嗟の答えに窮する。

 いや、俺だって年頃の男で菜々美っている彼女がいるし、今日はクリスマスだからそういう可能性は考えないこともなく、準備だって一応して来た。


 が、いざこうしてその状況になるとは……ましてや彼女から誘われるとは思ってもみなかった。

 けれども、ここで拒絶するのはもちろん、ヘタレるわけにもいかない。


 他ならない菜々美の勇気を受け入れないで、何が菜々美の彼氏だ。


「──分かった。目、瞑って」

「……うん」


 彼女の誘いを受け入れた俺がそう言うと、菜々美は素直に目を閉じた。

 彼女の両肩に手を置き、ゆっくりと顔を近付けて……。


 ──ゆっくりと口付けを交した。

 

 ファーストキスの時もそうだったが、菜々美の唇は柔らかくて、時間が許す限りこうしていたい程だった。


 だが、今日はここで終わりじゃない。

 菜々美の唇を離し、顔を彼女の首筋へ移動させる。

 

「っ、ぁ……」


 その細くて白い菜々美の肌に唇を覆い被せて一気に吸い出すと、菜々美の口から甘い吐息が漏れた。

 顔を近付けた分、微かな息遣いも鮮明に聞こえて、心臓の鼓動が早くなる。


 唇を離すと、菜々美の白い肌の首に赤い痕が出来ていた。

 所謂キスマーク……だが、これだけじゃまだ足りない。


 ──もっと菜々美が欲しい、もっと菜々美を感じていたい。

 

「っ、ま、待って司くん!」

「え?」


 そんな気持ちで頭が一杯になって、彼女の服に手を掛けたところで、菜々美の口から制止の声が出た。


 もしかしてやり過ぎた?

 そう思ったのも束の間、菜々美は片手で赤い顔を隠しながら、もう片方の手で部屋の照明に指を差し……。


「電気、暗くして? その、明るいと恥ずかしいから……」

「お、あ、わ、悪い……」


 止めるどころか、いじらしくて愛らしい理由で続行を促がした。

 あまりに可愛過ぎて、俺も顔がボッと沸騰するように熱を持ったのが分かった。


「後……ベッドまでお姫様抱っこで……連れて行って、下さぃ……」

「っ!!」


 ……本当に、彼女は時折物凄く大胆なことを言う。

 〝う~〟と恥ずかしさで消えてしまいたいと訴えるように全身を震わす菜々美を、要望通りお姫様抱っこで抱えて場所を移す。


 そうして着いたベッドに菜々美を仰向けに寝かせ、部屋の明かりを薄暗くして彼女に見やると、羞恥心で一杯一杯という風に顔を赤くしていた。


 俺もベッドの上に登り、彼女の上に四つん這いになる。

 

 一度俺の家に来た時にもこんな体勢になったことがあったが、あの時と今とでは関係が異なっている。


「そういえばまだ言ってなかったな」

「え?」


 ふとある事を思い出して、愛しい彼女にその言葉を送ることにした。

 キョトンとする菜々美にじっと目を合わせて口を開く。


「──メリークリスマス」

「ぁ……うん、メリークリスマス」


 そう言葉を交わし、菜々美が俺の首に腕を回して抱き寄せ、再び唇を重ねる。


 これから先、何があろうと彼女を守り、愛していこうと誓う。

 そんな約束を交した特別な夜となった。


 ==========


 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『おれはキスシーンを書いていたと

 思ったらいつのまにか二人がナイトフィーバーしていた』


 な… 何を言ってるのか

 わからねーと思うが

 おれも何を起きたのかわからなかった…


 頭がどうにかなりそうだった…


 性夜だとか大人の階段登るだとか

 そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

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