EXエピソード 日常に訪れた聖夜

 ===※注意※===


 このエピソードはクリスマスSSです。

 普通に書くと時系列的にネタバレ不可避なので、本編と切り離した内容となっています。


 本編との違いは、


 ・四章でのゆずの告白を、司が受け入れた√。

 ・なので、二人は恋人となっています。

 ・司はまだ唖喰の数の事を知りません。

 ・菜々美は振った形になりますが、依然として交流は続いています。


 以上の四点にご留意して下さい。


 ではどうぞ~。


 ==========


 夜空に浮かぶ星空がキラキラと煌めく十二月二十五日……俺はある人物と待ち合わせをしていた。

 寒空の下で駅前に立っているのは当然のことながらめちゃくちゃ寒い。


 けれども、待ち合わせをしている人物と会えば、きっと気にならなくなるだろうと容易に想像できた。

 我ながら単純だと思うが、今日ぐらいはそうやって浮かれても罰は当たらないだろう。


 現に、すれ違う人の中には男女二人組が多く見られる……そう、十二月二十五日と言えばクリスマスだ。

 キリスト教に関連するなんか大事な誕生日が起源だそうだが、そんなことなど知るかと言わんばかりに世の恋人達が逢瀬を交す日は、一部の人からは特別な気分になれる日で、また一部の人からは存在を忘れられるか、憎しみから盛大に爆発を願われる日でもある。


 そうやって冷静に変な分析をしている俺──竜胆司の立ち位置はというと……。


「司君! お待たせしました!」

「いいや、今来たところだよ──ゆず」


 前者の『特別な気分になれる』側だ。


 ベージュのニット帽を被り、肩甲骨に掛かる長さの黄色の髪を、茶色と赤のチェック柄のマフラーの内側に巻き込み、グレーのトレンチコートに身を包んでいる。

 コートの膝丈の裾からは黒タイツと白のブーツを履いているのが見えて、全体的に暖かそうな装いをしている。


 そんな少女──並木ゆずは、夏休みの終わり際から付き合っている俺の彼女だ。

 

 この道行く人達の視線を釘付けにする程の美少女が、俺の彼女だ。

 大事なことなので二回言わせてもらうと、俺の彼女だ。

 あ、三回になった。


 いや、別に嫌味とかそういうのじゃなくて、未だに自分の恋人がこんなに可愛いのかっていう再確認みたいなものだ。

 まぁ、現に多くの男から視線を頂戴しているのだから、確かめるまでもなく超絶可愛い美少女だけれども。

 

「ほら、行こうか」

「はい……」


 あまり他の男に自分の彼女がジロジロ見られるのもよろしくないので、俺はゆずに右手を差し出す。

 それだけで俺が求めている行動を察したゆずは、自分の左手で握ってきた。

 

 そうして握られた彼女の左手の指と俺の右手の指を絡めてギュッと握る──所謂恋人繋ぎをする。

 互いの体温が直に伝わって、自然と心の奥から温まって来る。

 

「ふふ、こんなに暖かくて幸せなクリスマスは初めてです」

「あー……その、俺も……」

「そうなんですか? でしたらお揃いですね」

「ははは、そうだな」


 本当に幸せなんだろう。

 ゆずの表情はとても嬉しそうにはにかむものだった。

 

 そんなゆずとお揃い……うん、良い気持ちしかしないな。

 初めて会った時はこんな関係になるとは思わなかっただけに、感慨深いものがある。


 それはきっと、今日がクリスマスだから殊更意識しているのかもしれない。

 なんてポエムチックな感想を抱きつつ、俺とゆずはクリスマスのために彩られた夜の街を歩いて行った。


 ~~~~~


 ゆずと恋人になってからというものの、俺の日常もすっかり様変わりした……なんてことは実はあんまりなくて、付き合う前と変わらないままだ。

 むしろ普段の俺達を良く見ていた鈴花からすれば『普段通り過ぎて違和感すらないのが違和感』と言われたことがある。

 

 なんだそれって思ったが、傍から見れば普通の恋人と変わらないくらいに仲が良かったという意味で捉えれば、ある種の納得は出来た。

 学校では男子は嘆きに暮れ、女子からは祝福されると、最初は落ち着きが無かったものの、こちらはまだマシに思える。

 

 何が酷いって、ゆずの保護者である初咲さんは妹に先を越された事実にかなり複雑な表情を浮かべて、さらに両親からは孫の顔をせがまれる始末だ。

 

 特に俺の両親の中では、もう結婚は確実だと思われている。

 

 ともかく、記念すべきクリスマスデートにて、俺はゆずの彼氏としていつものデートと違う趣向を凝らすつもりでいた。


 とはいっても、豪華ディナーを用意しているとかそういうのではなく、日常指導の一環として模範的なクリスマスデートをするだけだ。


 ゆずにとってはそれだけで普段とは違うデートになると思う。


「今日は街を歩くことがメインなんですよね?」

「あぁ、このシーズンだと限定メニューとかイベントとか開かれるけれど、一般的な認識の恋人同士で過ごすって趣旨に則るなら、こうやって一緒にいるだけでも十分だよ」

「恋人……ふふっ……そうですね。こうして司君と一緒なら、ただ歩くだけでも特別に感じますね」

「そ、そっか……」


 ふわりと微笑むゆずに、俺は気恥ずかしさから視線を逸らす。

 ホント、こんなに可愛い子が俺を好きになってくれるなんて夢みたいなことが、現実で起きるとは思わなかった。


「すみませ~ん。ニュースTWОのものですが、今日はクリスマスということで、街のカップル達に街頭インタビューをさせてもらっています。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 ふと俺達の前に、マイクを構えた女性とカメラを抱えているカメラマンの男性が揃って声を掛けて来た。 

 おおぅ、街頭インタビューとか初めてだな……。

 しかも当然のようにカップル認定……ちゃんとそう見えると言われて、俺はちょっぴり舞い上がった。

 だが、一方でゆずはというと……。


「むぅ……」


 俺との時間に水を差されたことに大層不満だった。

 その様子を見たインタビュアーの女性が、恐縮気味に冷や汗を流しながら答えた。


「ええっと、それほどお時間を頂くつもりはありませんので……」

「ゆず、ちょっと質問に答えるだけだし、後で埋め合わせをするから、な?」

「…………司君がそう言うのでしたら、そうします……」


 納得するまでにそれなりに間があったな……。

 まぁ、これも可愛い彼女の想い故にってことだろ。


「ごめんなさいね……えっと、只今させてもらっている質問は『告白はどちらからか、どんな内容だったか』といったものです」

「お、おおぅ……」

「は、あうぅ……」


 これはどちらもゆずが発端の答えしか出ないぞ……。

 若干気まずいが、せっかくインタビュー相手に選んでももらったってこともあるし、しっかりと答えないといけないな……。


「ええっと、告白は彼女の方からです」

「おおっ! 彼女さんからですか! とても可愛らしい女の子からの告白となると、やっぱり嬉しかったですか?」

「そう、ですね。正直心臓が破裂するかと思いました……」


 俺から告白したと思っていたのが、実はゆずからというのが意外だったのか、インタビュアーの女性はとても興味津々に尋ねて来た。

 

「うんうん、いいですねぇ~。それで彼女さんはなんて内容で告白したんですか?」

「えっ!? ええっと、その……」


 話題を振られてドギマギするゆずは、顔をカアッと赤らめて視線をあちこちに彷徨わす。

 そりゃ、あんな熱烈な告白をしたら、そうなるに決まってる。


 答えに窮するゆずに、インタビュアーの女性が近付いて……。


「ここで答えると、彼氏さんがどれだけ好きかアピール出来ますよ」

「! やります!!」


 この人、相当なやり手だな……。

 さっきまで恥ずかしがって答えられないでいたゆずの目が、カッと色を変えたのを見て俺はそう確信した。

 

 それでも恥ずかしいのか、若干顔を俯かせ気味にしながらも、ゆっくりと口を開いた。


「『好きです。司君の恋人になりたいんです、もっとあなたのことが知りたいんです、もっと私のことを……私の知らない私も知ってほしいんです』……そう、告白、しました……うぅ……」


 改めて告白の言葉を告げるゆずは、もう限界だというように両手で顔を覆った。

 あの、俺も同じ反応したいくらい恥ずかしいんですけど……顔どころか全身が火照って熱くて仕方が無いんですけど……。


 そんな俺とゆずの反応に、インタビュアーの女性はニヤニヤとした表情を浮かべて……。


「──オンエア、させて頂きます」

「「止めてくれ(下さい)!!」」


 とてもいい表情でサムズアップしながら、無慈悲な全国公開を宣言された。

 一応、他のカップルにも同じ質問をしているため、必ず選ばれるわけじゃないらしいが、確証は出来ないとも言われた。

 せめて選ばれないように祈るしかない……。


 それが精一杯だった。


 ~~~~~


 そうして羞恥心を目一杯刺激する街頭インタビューを終え、一時間くらい街を歩いた俺達は、駅近くの公園のベンチに座って一息着く事にした。


「ふぅ、クリスマスというだけなのに、なんだかいつもの日常とは違った夜ですね」

「まぁ、そういう日だからな。周りの人の空気に当てられてちょっと浮かれるのも無理はないさ」

「そういうものですか?」

「そういうものだよ」


 ゆずの疑問に、俺はそう答えた。

 実際にそんな日だって認識していると、いつもの日常が姿を変えたように見えるのは事実だ。

 こればかりは人という生き物の性なのかもしれない。


 理屈的な意味よりも、感情的な意味で理解した方がいい。

 暗にそう伝えると、ゆずはなるほど、と頷いて夜空を見上げる。


「……そう思うと、この星空もなんだかいつもより輝いて見えますね」

「……だな」


 釣られて俺も見上げると、確かにために見る星空が一層輝いて見える。

 今年ももうすぐ終わるけれど、本当に色々あった。


 唖喰なんて得体の知れない化け物に出会ったり、それから助けてくれたゆずに出会って彼女の日常指導係になって、そのゆずが俺に好意を持って告白をして彼女になって……。


 今日のデートのために、ゆずという最高戦力がいなくても大丈夫だというように、鈴花を始めとする魔導士・魔導少女達が、ゆずの手を煩わせまいと色々苦心してくれている。


 俺は……俺達は本当に色んな人達に恵まれていると思う。

 その繋がりの中で出来た、ゆずという大切な恋人の手を離すようなことは絶対にないし、彼女を守れるように強くなりたい。


「ゆず」

「はい?」


 そんな思いを込めて、俺は荷物からある物を取り出して、ゆずの前に差し出す。

 

「──これは……」


 それは、小さな青い箱だ。

 恐る恐る箱を手に取ったゆずが、ゆっくりと開く。


 ──中には、青紫の石が嵌めこまれた指輪が入っていた。


「そんな風に入れてるけど、安物で本格的なやつじゃないんだ。なんていうか、その……今後の予約っていうか、俺のだっていう、証明書みたいな、さ……」

「そ、それって……」


 俺の言葉に、ゆずが指輪と俺を交互に見比べて歓喜極まった驚愕の視線を向ける。

 言ってる途中で込み上げた恥ずかしさが限界に達して、心臓の鼓動が急かすようにドキドキと大きく音を鳴らすため、最後は途切れ途切れになってしまったが、まぁ、そういうことだ。


 まだ学生の俺達だけど、予約なら年齢も時間も関係ないだろう。

 それに何度も言うがゆずはかなりの美少女だ。

 俺の与り知らないところで他の男に絡まれても、その指輪をしていればお守り程度だろうが抑止力にはなるはず。

 

 その意図が十分に伝わったのか、ゆずは箱をスッと俺に返してきた。

 駄目だったか、まだ早すぎたか、と後悔の念に押されてしょぼくれそうになったが……。


 ──ゆずが左手の甲を上に向けて、俺に差し出して来た。


 思わずバッと顔を上げてゆずの顔を見ると、彼女は顔を真っ赤にしていて、目には涙が浮かんでいたが……確かな笑みを俺に向けていた。


「わ、私で、よければ……その、予行演習として、司君から、薬指に……嵌めて、欲しい……で、す……」

「──っ、しゃあっ!!」


 つっかえながらのゆずの返事に、俺はガッツポーズをしたくなるくらいに喜びに震えた。

 それこそ、ベンチから立ち上がるくらいに。


「ほ、本当かっ!? 夢じゃないよな!? 俺、ちゃんとゆずにOKを貰ったんだよなっ!?」

「げ、現実です!! もぅ、大袈裟ですよ……」

「あっははは、悪い悪い! でも、はぁ~、良かったぁ~……めちゃくちゃ緊張したぁ~……!」


 顔を真っ赤にしたままで俺を諌めるゆずが、堪らなく可愛くて、俺は逸る気持ちを抑えつつもゆっくりベンチに座り直した。


 あぁ、本当にこんなに幸せでいいんだろうか?

 世の恋人達が勇気を振り絞ってプロポーズをする理由が良く分かった。

 こんな風に人生で最高の幸せを味わえるのなら、勇気を出す甲斐があるというものだ。


 そうやって喜びに震えるのも悪く無いが、今はゆずが言った通り、彼女の左手の薬指にこの指輪を嵌めよう。


 俺は箱から指輪を落とさないように丁寧に取り出して、左手でゆずの手を抑え、右手の親指と人差し指で摘まんだ指輪をゆっくりとゆずの薬指に通す。


 事前のリサーチ……翡翠に協力してもらって測ったゆずの指のサイズに合わせて作られた指輪は、スッと彼女の薬指の根元に嵌った。


 無事に嵌められたことにホッと俺が安堵すると、ゆずは左手を空に向けてまじまじと指輪を見つめる。


 そして、彼女の緑の瞳から、つうっと一筋の涙が流れた。


「ゆず?」

「あ……ダメ……司君の前なのに、こんな、幸せ過ぎて……お父さんとお母さんもこうしていたんだって思って……私、嬉しくて幸せで……生きてて良かったって、司君に会えて、司君の恋人になれて、良かったって……」

「……」


 痰を切ったかのようにポロポロと涙を零すゆずを見て、俺は無言で彼女を抱き締めた。

 腕の中のゆずは、ガラスのようにちょっとでも力を込めたら壊れてしまいそうに感じて、それが一層彼女への愛おしさに変わっていくのが分かった。


「ゆず」

「え?」


 彼女の名前を呼ぶ。

 ゆずはなんだろうかと、顔を上げて俺と目を合わせた。


「俺だって同じだ。あんな化け物をどうだっていいって思えるくらいの幸せをゆずから沢山貰ってるんだ。だから、これからも一緒に乗り越えて行こうぜ」

「──はいっ!」


 目尻に涙を残しながらも、満面の笑みを浮かべる。


 そうして俺達は、どちらからでもなく、互いの唇を重ねた。


 来年も、こうして二人でいられるように願いを込めて……。


 ──メリークリスマス。


 =========


 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『おれはクリスマスデート書いていたと

 思ったらいつのまにか司がプロポーズしていた』


 な…何を言ってるのか 

 わからねーと思うが

 おれも何を起きたのかわからなかった…


 頭がどうにかなりそうだった…


 ラブコメの波動だとかba〇k nu〇berだとか

 そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

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