93話 菜々美の竜胆家訪問
俺はリビングで一人カチカチと時計が秒針を進めて時を刻むのをじっと見つめていた。
あと数秒もしたらいよいよ約束の時間だ。
秒針が〝12〟を通って、長針が〝1〟を過ぎた。
――ピンポーン!
来た。
時間ピッタリに来た。
俺はソファから立ち上がってインターホンを通話状態にする。
我が家のインターホンは時代遅れな通話のみのタイプだから、実際に話さないと相手がどんな人か分からないため、セールスとか新聞勧誘とかN〇Kとか結構鬱陶しい。
でもその大半が俺の両親の特異な人間性に敵わず、ズコズコと引き下がっていくまでがテンプレだったりする。
っと、せっかく来てくれたお客様を放置してするような話じゃなかったな。
「はい、竜胆です」
『あ、司くん? 柏木です』
「今から鍵を開けますんで、ちょっとだけ待ってて下さい」
通話を切って俺は玄関のドアの鍵を外して扉を開いた。
「お、お邪魔します……」
竜胆家の門の前には菜々美さんが立っていた。
外は日差しが強いから紺の日傘をさしている。
栗色のロングヘアが顎先から軽くパーマが掛かっているため、くるり巻かれている毛先はストレートだった時と比べて随分印象が違って見えた。
服装も夏らしく上から下へ青色のグラデーションが掛かったワンピースに薄手のピンクのストールを広げて羽織っていた。
靴もベージュのサンダルで服だけで観ればパッとしないものでも菜々美さんという美人で清楚な人が着ればそこらのドレスより綺麗に見える。
やっぱりファッションというのは服や組み合わせだけでなく、着る人も重要だとよく分かる光景だった。
菜々美さんの表情はというと、顔を赤くしてそわそわとどこか落ち着かない様子だった。
無理もないと思う。
だって菜々美さんにとっては好意を寄せる異性の家に訪れるという一大事のイベントなんだから。
「いらっしゃい菜々美さん」
俺がそう言うと彼女はハッとした表情を浮かべた後、緊張を誤魔化すように咳払いをして挨拶をした。
「ありがとう司くん。今日は私の我が儘を聞いてもらってごめんね?」
そう言ってはにかむ菜々美さんの表情に心臓が跳ねる感覚を覚えたが、ここでニヤニヤしてしまえば気味が悪いため、俺は表面上平静を保って菜々美さんを出迎えた。
「ようこそ、竜胆家へ――とはいっても事前に話した通り今日は両親が仕事で家を空けているんで俺しかいませんけど」
「ぜ、ぜぜん! だいだ、大丈夫!!」
どう見ても大丈夫じゃねえな。
意識して緊張してるのがバリバリ伝わってくる。
事の発端は先日に返ってきたテストに関係する。
テスト対策として教師志望の菜々美さんに勉強を教わっていたのだが、もしテストで俺が上位十位に入れたら何かお願いを聞くという約束を交した。
普通成績上げてもらった側がそういう権利を得るのだが、こっちから勉強を教わりたいとお願いしておいていい成績が取れたらご褒美をくれなんて乞食にも程がある。
なので教わったお礼という形で何かお願いを聞く事にしたのだ。
そうして返ってきたテストの合計点による学年順位発表で俺は八位に入ることが出来た。
純粋に嬉しかったが、約束した菜々美さんのお願いというのが……。
「〝俺の家に行きたい〟……なんて思いませんでしたよ」
「でも並木ちゃんは一度来たんでしょ? だったら私も一度は行かないと不公平かなって……」
俺はその考えにどう返せばいいの?
そもそもゆずが来ることになったのは不可抗力な面が強かったし、実際ゆずに迷惑を掛けてしまった。
だから今日こうして菜々美さんを招くにあたってあの両親がいない日にちを指定した。
それだけで菜々美さんの竜胆家訪問は平和に終わる。
「と、とにかくいつまでも玄関で立ち話してると暑いですし、中にどうぞ」
「う、うん……」
無理矢理話題を逸らして菜々美さんを自宅に入れる。
最初はリビングでと思っていたが何故かゆずが俺の部屋に入ったことを知っていたため、不公平だと言われてしまった。
もちろん俺の部屋は魔法少女グッズで溢れかえっていることは伝えたが、だからなんだという本人の熱い希望により俺の部屋で過ごすことになった。
俺の部屋に入った菜々美さんは物珍しさを隠しもせずキョロキョロと見回していた。
「わぁ~、本当に魔法少女グッズだらけだ……」
「持ち主の俺が言うのもなんですが見てて面白いですか?」
魔法少女オタクならともかく、そういう文化とは無縁の菜々美さんに大量のグッズを集めてることに不快感があったりしないのだろうか?
「確かに圧倒されたけど、これだけグッズを買うのは司くんが本当に魔法少女が好きな証拠でしょ? 自分の好きな物を悪く言われるのは誰だって嫌だし、私は司くんらしくていいと思うよ?」
菜々美さんは当然のことのようにそう言い切った。
なんて心の広さだ……やっぱこの人女神だわ。
「そう言ってもらえてありがたいです」
「そんなに大したことは言ってないけど、どういたしまして」
「……ところでどうしてこんなにベッドが大きいの?」
「…………思いっきり手足を広げて寝たいからです」
本当のことを言ったら、菜々美さんの心の広さをもってしても引かれそうなので、とりあえずそう誤魔化した。
そうして会話が一旦終えたところで、俺はお茶の用意をするために部屋を出ることにした。
「あれ? これって本屋の紙袋だよね?」
「はい、昨日買った漫画とラノベが入ってます」
菜々美さんが興味を示したのは昨日石谷と商店街の本屋で買った物をだった。
「どんなの読んでるのか見てもいい?」
「いいですけど……正直菜々美さんに合わないような作品しかありませんよ?」
「それは読んでみないと分からないし、司くんの好きな作品を読んでみたいって思うのは変かな?」
もうそれ告白してない?
でも本人は気付いてないみたいだし、早く読んでみたいって目で訴えてるからノーカンの判定でいいだろう。
「別に変じゃないですよ。じゃあ俺はお茶を淹れて来ますね」
「うん、ゆっくりでいいよ」
部屋を出たあと一階に降りて台所の冷蔵庫から冷やしておいたお茶と空のコップ二つにお菓子として買っておいたクッキーを用意したところで、ポケットに入れていたスマホに着信が来た。
電話を掛けて来たのは石谷だった。
「もしもし、どうした石谷?」
『お、司ー、昨日アドバイスサンキューな。来週ほのかちゃんとデート行けることになったわ!』
「おー、それは良かった」
昨日石谷と本屋に行ったのは、以前俺が企画した合コンで紹介した安井ほのかという別の高校に通う同年代の女の子といい調子だが、どうやってデートに誘うか相談されたからだ。
電話越しから伝わる石谷のテンションから上手くいったようで胸を下ろした気分だ。
「悪いけど今来客中なんだ。お礼なら明日学校でもよかったんじゃないか?」
『あ、そーなん? じゃ手短に話すけどさ、昨日俺ら本屋で本買って司の部屋でほのかちゃんをデートに誘う相談をしただろ?』
「ああ、したな」
『その時に間違って司の漫画とラノベを持って帰っちゃってさ、俺の買った本が司の部屋に残ってるんだよ』
「うわ、取り違えたのかよ……そういうことなら明日学校に持って行けばいいんだな?」
『そうそう! それだけ言いたかったんだよ~じゃあな!』
石谷は要件を言い終えると電話を切った。
しかし石谷の言うことが本当なら参ったな……今頃菜々美さんが開封して読んじゃってるよ……。
まぁ親が読んだことにしておくか。
そう結論付けた俺はお茶とお菓子を持って自分の部屋の前に戻って来た。
「菜々美さん、お待たせしました」
「えひゃいっ!?」
――ドタンッ、バタバタ!
中に入ると同時に顔を真っ赤にした菜々美さんが驚いた声を出していた。
余程集中していたのか?
そんな考えは菜々美さんが手に持っていた本を見てあっさり吹き飛んだ。
思えば俺はもっと菜々美さんが読んだのが石谷が買った本だということを重大に受け止めておくべきだった。
菜々美さんの手にある本には女の子が表紙に描かれていた。
それだけなら別に不自然なことはない。
むしろそれだけだったらどんなに良かったか……。
何しろ表紙に描かれている女の子の格好が裸で
菜々美さんが読んだ本……それは即ちエロ漫画だった。
石谷いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!
お前まだ未成年だろうが!!
何表紙に〝成年〟の二文字が刻まれた本を買ってんだ!!
いいや、石谷には明日報復するとして、今は菜々美さんの誤解を解かないと……。
今あの人の頭の中ではあのエロ漫画の持ち主が俺ということになっているはず……冗談じゃない。
「な、菜々美さん……」
「!」
名前を呼んだだけで全身をビクッと震わせる菜々美さんが可愛いなんて思いつつ、その本が俺の物じゃないことを話す。
「その、菜々美さんが手に持ってるのは、俺のじゃなくて、石谷ので……」
「わ、分かってるよ……」
「本当ですか!?」
誤解してなかったのか!
俺の言葉に菜々美さんは頷いて……。
「あ……えと、その、つ、つつ、司くんも、男の子、だもんね? だから、あの、
菜々美さんが耳まで真っ赤にしながら手をあたふたと忙しなく動かしてそう言った。
ダメだ……誤解してた……それどころか石谷の物だって事実が言い訳だと捉えられている……。
しかも無理に理解のある素振りをされた分、ちょっと傷付いた……。
「いや、あの、その本は本当に俺のじゃなくて、石谷ので……」
「だ、大丈夫! 誰にも言ったりしないから、ね!?」
やめてください。
優しさで心を抉らないでください。
俺はなにもしてないのに罪悪感で胸が一杯だ。
「あ、あの、お手洗い借りる――きゃあっ!?」
「菜々美さん!? うおっ!?」
バッと立ち上がった菜々美さんがバランスを崩してしまった。
俺は菜々美さんを支えるために前に駆け出すが、咄嗟のことで勢いが強すぎてしまい、支えるはずが一緒に倒れてしまった。
「痛い……」
「すみません、菜々美さ――!!?」
後頭部をぶつけてしまった菜々美さんに謝ろうとして俺は絶句した。
仰向けで倒れる菜々美さんに覆い被さるように四つん這いになっている俺……。
どう見ても俺が菜々美さんを押し倒しているようにしか見えない。
――ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
全身に冷や汗が出る。
頭の中では必死に警鐘が鳴らされているのに、体は金縛りにあったかのようにピクリとも動かせられなかった。
どうしたものか頭を捻らせていると、仰向けの菜々美さんと目が合った
「あ……」
「あぁ……」
菜々美さんはエロ漫画を見つけた時以上に顔が赤くなった。
それに釣られるように俺も顔に熱が灯る感覚がした。
いけないと理解しているのに至近距離で改めて菜々美さんの顔をまじまじと見つめる。
淡い水色の目はこの状況に驚いていらためかぱっちりと見開いていて、赤面している表情も相まって潤いを帯びていた。
小さく線が綺麗な鼻に、ここに来る途中でリップクリームでも塗ったのかピンクの唇はとても柔らかそうだ。
倒れた衝撃でストールが取れて露になった鎖骨や首筋は、魔導士として鍛えて来たため引き締まっていて、否応なしに見入ってしまう。
今右手で掴んでる菜々美さんの左手首も、とても鍛え始めて一年も経つとは思えない程ほっそりかつ女性特有の柔らかさを持っていた。
胸にしたって本人がコンプレックスに感じているように確かにゆずや鈴花に比べて小ぶりだが、ワンピースの上からでも分かる程綺麗な曲線を描いている。
外見だけでこんなにレベルが高いのに、人当たりもよくお淑やかな性格もしている……菜々美さんがよくモテるのも納得だ。
そんな人が俺に好意を向けてくれている。
その事実だけでも意識せざるを得ない。
それだけの魅力を秘める菜々美さんが今、俺の下にいる。
「――っ」
しばらく目を合わせたままだった菜々美さんが何か覚悟を秘めたように目をキュッと閉じた。
まるで竜胆司が相手なら何をされても良いと受け入れるように。
「っ!」
言葉にしなくとも伝わった菜々美さんの覚悟に、俺は思わず生唾を飲み込んだ。
まだ告白すらしていない相手にそこまで身を委ねるなんて、一体どれ程の想いを秘めているのだろうか?
何か言わないと、と頭を働かせても俺の口は開いたままで、でも昂るように呼吸を繰り返すだけで声が出なかった。
――ここまで受け入れてくれるならもういいんじゃないか?
――据え膳食わぬは男の恥じとか言っただろ?
――ゆずのことは後で考えてもいいだろ?
頭の中に悪魔の囁きが聞こえる。
試しに左手で菜々美さんの頬に触れてみた。
「――っ、ぅ、ぁ」
全身がビクッと震えて微かに声が洩れた。
その反応が堪らなく愛おしくて、もっと見てみたいと思った俺は、頬に触れた左手を彼女の右耳まで持っていき、
「っ――!? ん、はぁ……っ!」
再び全身をビクリと揺らした菜々美さんの口から何かを堪えるような吐息が漏れた。
その菜々美さんの反応に、ますます胸の奥が昂るのを感じた。
もう俺の頭の中は次にどうやって菜々美さんを弄ろうかということに全集中力を割いていた。
耳朶から手を離し、菜々美さんの首元を人差し指で撫でる。
「んっ!? やぁ、あぁ……え?」
右手で掴んでいる彼女の左手を持ち上げ、人差し指を舐める。
「ひゃあっ!? な、なめ――ん、ふぅ……!?」
指を舐められる感覚にビックリして戸惑う声が俺の嗜虐心をこれでもかと刺激して止まない。
「ダ、ダメ……は、ん……指なんて、汚いよ……」
本人はそう言うが、俺にとって菜々美さんの指はそこらのお菓子より断然甘美なものだった。
出来ればずっとこうして舐めていたいくらいだ。
「ん、んん……変な、感じ……やぁ、ん……なに、これぇ……」
菜々美さんの声が、菜々美さんの感触が、菜々美さんの全てが俺の意のままになっている。
菜々美さんの左手を下ろし、次に目についたのは今も甘い吐息を漏れさせている彼女の唇だった。
重力に従うようにゆっくりと顔を赤くして震えている菜々美さんの唇に目掛けて――。
『たっだいまー!』
「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
突如帰ってきた母さんの声に俺と菜々美さんは反発する磁石のように互いから距離を取った。
そうして急激に取り戻した理性のおかげで、さっきまで胸の中で昂っていた感情が嘘のように治まった。
おいまてまて、今の瞬間まで何してた俺!?
菜々美さんの体に遠慮なく触ったり、指舐めたり、挙げ句に唇を――いや本当に何てことをしてんだ!?
あれが男の中にある女性に対する支配欲ってやつか?
なんて恐ろしい……危うく道を踏み外すところだった。
なんで早く帰って来たのか分からないし、菜々美さんに手を出し掛けたことを止めてくれたのもありがたいけど、菜々美さんがいることがバレたら何のために今日菜々美さんを招き入れたのか分からなくなる。
ていうか今気付いたけど、親のいない間に菜々美さんを家に呼ぶとか相当まずいことしてんな、俺!!
そういうことをするために家に誘ったようにしか見えない。
だから菜々美さんに親のいない日と時間帯を伝えた時に鈴花が〝コイツマジか〟って目で見てたのか!?
と、とにかくまずは謝ろう!
嫁入り前の体にあれこれやらかしたことを今すぐに謝ろう!!
特に指を舐めるとか変態かよ……確かに俺は指フェチだし菜々美さんの指は凄く美味し――クソ、煩悩が鬱陶しい!
「な、菜々美さん!」
「きゃああ!? ち、違う、さっきのは違……くなくて、その、えと、な、舐められた時の感じがなんだか癖になりそうで――違うの!! 確かに司くんになら好きにされてもいいけど、まだ恋人じゃないのにそういうのはいけないと思うの!!」
「ぶふぅっ!?」
菜々美さんは俺の呼び掛けに驚き、言い訳を捲し立てるが、その掘り過ぎて地面の反対側にまで貫通した墓穴に俺が驚かされた。
俺になら好きにされてもいいってそれもう完全に告白してる……。
まだ早いって思うのなら身体強化術式を発動させるなり幾らでも止められる方法はあったはずなのに、実力行使に出なかった時点で菜々美さんの言葉には何の説得力も無い。
この人はダメだ……好きな人に対する警戒心とか無さ過ぎる……。
例によって言った本人は気付いてないし、指を舐めたことによる罪悪感も手伝ったので、聞かなかったことにしてひとまず菜々美さんを落ち着かせる。
「す、すみません菜々美さん。親に見つかるとさっきのこともありますし色々と菜々美さんに迷惑が掛かるんで、今日はもう……」
俺がそこまで言うと菜々美さんはしょんぼりと肩を落としていた。
あー、もう。
どんだけ俺の部屋に来たかったんだよ、一々可愛いなこの人!!
内心悶えている内に、菜々美さんは悔恨を振り切るように首を振って迷いを断った。
「うん、えと、ごめんね?」
菜々美さんに落ち度は何もないが、そこを指摘しても責任の被り合いになるので黙っておく。
菜々美さんを穏便に外に出すために部屋のドアに手を掛けた瞬間……。
『なに? 今二人分の声が――ぎゃあああ!? 女性物のサンダルがあるわ!?』
「「あ」」
盲点だった。
母さんが早く帰って来る可能性を考慮せずに菜々美さんのサンダルを玄関に置いたままだった。
それで母さんに俺が異性を家に招いたことがバレてしまった。
「菜々美さん、魔導器は!?」
「え、着けてるけど……」
そう言って菜々美さんは右手で髪を掬って、右耳にあるイヤリング型の魔導器を見せてくれた。
髪を払う仕草に若干心臓が反応するが、すぐに平静を装って続けた。
「窓から飛んで逃げてください。靴は適当に誤魔化して後日返します!」
「わ、わか――」
――ドドドドドドド!
菜々美さんが返事をする前に階段を駆け上がる音が聞こえた。
――ドンドンドンドンドンドン!!
『司ああああああああ!』
「きゃあああああああ!!?」
そして繰り出されるマシンガンの如きノックにホラーが苦手な菜々美さんが悲鳴を上げた。
思いっきり迷惑かけてるし、菜々美さんの存在がバレた。
「び、びっくりして裏声で叫んじまったじゃねえか!!」
『あんたの裏声はそんなに可愛くないでしょうが!!』
「息子を信頼する突っ込みをどうも!!」
咄嗟についたなけなしの嘘も秒も掛からずに見破られ、菜々美さんは母さんの気迫にすっかり怯えてしまって動ける様子じゃなかった。
『それより早く一緒に居る女の子を紹介しなさい! 靴のサイズと匂いからしてゆずちゃんとも鈴花ちゃんとも違う子なんでしょ!?』
「なんつー見破り方だよ! 今まさに母さんにビビっててそれどころじゃないんだよ!!」
『早く……早くううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ! 新しい女の子が見たいのおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
「ひいいいいいぃぃぃぃっっ!!?」
「俺が節操なしみたいな言い方止めてくれない!?」
それからホラー染みた催促でさらに菜々美さんを怖がらせる母さんを何とか落ち着かせるのに、一時間近く掛かった。
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