第27話新学園長

 雪達が宿泊する施設、いや、仮設住居は1人1室で簡易シャワーと、簡易トイレが備え付けられただけの本当の意味での仮設住宅であった。

だが、今までの寮とは違い、完全に1人1住宅なのだから雪の心もさぞ穏やかであろうと思うのだが……。何故か、雪が朝、起床すると簡易のパイプベッドの隣には――珠恵が眠っていた。


「ちょ、珠恵ちゃん。いったい何で。じゃない。いつ僕のベッドに――」

「雪、おは、昨晩」

「昨晩からずっと、僕の隣で……」

「うん」


 雪も、もう慣れたもので、赤面すらしなくなって居たが、その珠恵の姿を見て――朝から大きくなった。珠恵の格好は、薄いピンクのネグリジェ姿で、大きな双方の胸が織り成す稜線がくっきりと見えるのである。童貞の雪の心情は、朝から燃え上がっていた。


「雪、えっち」


 雪の目線は、柔らかな胸に釘付けになっていたのだから。マジマジと見られた珠恵も流石に赤面するが、これ以上は見せない。とでも言うように、その姿のまま――胸に雪の頭を引き寄せ抱き締めた。顔面に柔らかな感触を感じ、雪の下半身は弾けんばかりに巨大化する。


「雪くん、もう起きている。そろそろ朝食に行かないと――」


 そう言って、ドアを開けた水楢が見たのは――ネグリジェ姿の珠恵に抱き締められ、下半身が思い切りテントを張った状態の雪の姿であった。珠恵も、雪も顔が沸騰しそうな位に真っ赤である。


「きゃぁぁ、雪くん。その凶暴なものを何とかしなさい。じゃなかった。早く隠して。これ刺激が強すぎるから。まずいから本当に……」


 この場で、顔の色が赤くない者は1人も居ない。なんとかと言われても若さの証明を、そう簡単に鎮める事は出来ず、仕方なく雪は毛布を引っ張り出し、自らの股間を隠した。


「はぁ、はぁ、はぁ。まったくあんた達は、朝から何をやっているのかしら」

「雪、気持、いい」

「朝から何を、と言われても――僕は普通に起きただけだけれど。起きたら珠恵ちゃんが隣で寝ていて。ちなみに珠恵ちゃん、気持良かった。その胸、凄いね」

「うん。よかった」


「良かったじゃないわよ。このエロ少尉が」


「ん――あっ、俺の事か。少尉なんて言われ慣れていないから。気づくのが遅れたわ」

「いいから、早く珠恵さんも服を着てきて。こんな野獣の部屋にいたら子供が出来ちゃうわよ」


「雪、子供、欲しい」


「いやぁ、僕達まだ16歳だし、しかも子供が出来たら僕、学園長と同じ沖縄送りになっちゃうから。それは困るでしょう」

「うん。困る」

「だから、そう言うのは――ねっ」

「わかった」

「何、この新婚夫婦の様な甘い空気は――やってられないわね」

「澪、一緒、する」

「あ、あ、あ、あたしが……雪くんを……」

「水楢、何、顔を真っ赤にしているんだ、耳とかすげぇぞ」

「う、うるさいわね。あんたもいいから早く着替えなさい。朝食後は新任の学園長もくるんだから」

「あー今日からだっけ。新任の学園長って」

「そうよ。だから遅刻し無い様に、あたしが起こしに来てあげたんじゃないの。それなのに、あんたらは――」

「いや、悪かったね。今から着替えるから」

「じゃ、外で待っているから」


 そう言って水楢が扉を閉めたのだが……しばらくしてまた開いた。


「ちょっと、何で珠恵さんが出てこないのよ」

「私、ある」

「珠恵ちゃん、着替えも用意してきたんだ。偉いね。じゃなかった……ここ僕の部屋なんだけれど」

「うん、偉い、ここ、いい」

「良い訳ないでしょ。珠恵さんもいいから自分の部屋に戻って着替えて」

「むー」

「珠恵ちゃん、ここは一度戻って――ね。俺も着替え辛いし。流石に息子がやばいからさ」

「わかった、出る」


 朝から、一悶着がありプレハブの食堂に3人で向かうと――。


「お前達が、島を救った英雄様か。だが、軍の規律にはちゃんと従ってもらう。厳しくするから覚悟しておけ」


 そう言って、仁王立ちで雪達を睨む――ゴリラがいた。


「――えっと、貴方は」


 雪が誰何すると――。


「上官に、名前を問う前に自分の紹介が先だろう。お前は何を教わってきたのだ」

「すみません。そんな一般常識は学園では教えられていないもので……僕は1年の久流彌 雪です」

「あぁ。知っているぞ。殆んど1人で敵を殲滅した英雄だからな。だが、良く聞け。そんな個人の強さと軍の規律は関係がない。俺は前学園長の様に甘くは無いからな。肝に銘じておけ。軍の階級は中佐で、これからお前達の学園の責任者になる。桂 梧二浪かつら ごじろうだ。通称、ゴジラだ。良く見知っておけ」


 そう言って、ゴジラこと、桂学園長は席に着いた。その目の前には、朝から食べるには胸焼けを起しそうな程のカツ丼が5つも置いてあった。食いっぷりは大層な物で、雪達が配膳のおばさんから定食を受け取り席に着く間に、2個の丼が空になっていた。


「すげぇ、食いっぷりだな」

「本当に……あんなに朝から食べたら胸焼け起しそうだわ」

「うん、凄い」

「水楢はあれ食べきれるのか」

「食べられる訳無いじゃないの。あたしを何だと思っている訳」

「いや、食べたらって言っているから食えるのかと思ってさ」

「言葉のあやでしょ。もしもの話よ」

「だよな。朝から【この料理食べきったら1万円】とかそんな番組みたいな真似出来ないしね」

「当り前でしょ。それよりゴジラが睨んでいるから早く食べましょう」

「あぁ、そうだな」

「うん」


 雪達の新生活は、波乱万丈なものになるのであった。

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