第28話メキシコ壊滅
新しい学園長自ら、実技を受け持つというので、雪達3人と他の1年生7人は、見た目はゴリラだが、名前をもじった自称ゴジラと演習場にやってきていた。
「お前達の武器はその木刀だ。俺はこの棒を使う。これでも神山夢玄流の使い手だ。遠慮なくかかって来い。まずは久流彌。お前からだ」
桂学園長は、雪には木刀、自分は5尺、大よそ151cmはあろうかという長さの棒を持ち雪と対峙した。
「さぁ、どこからでもかかって来い」
雪は、気になる事があったのだが、構わずに上段から木刀を振り下ろす。しかし、素人の木刀が戦い慣れているプロに当る訳も無く――隙を突かれ、わき腹に棒が当った、と思われた瞬間――棒の方が粉々に砕けた。
「――えっ」
「なんだ……これは、何故当らん。久流彌、お前、今何をした」
「えっと、何もしていませんけれど……」
「おかしいではないか。俺の自慢の白樫棒が……8000円もしたんだぞ。どうしてくれる」
「どうするも何も……学園長が自分からかかって来たんじゃないですか」
「雪くん、もしかして学園長知らないんじゃ」
「えっ、何が」
「学園長、パンを相手に実践するのは初めてでしょうか」
水楢が、何かに気づいた様だ。僕も対峙する前に思った事を思い出し、水楢に続いて学園長に質問してみた。
「学園長、もしかして――パンじゃないですよね」
「俺は、自衛隊の叩き上げ出身だ。そんなものに頼ってはおらん」
「それだ……」
「それね……」
「うん」
この場に集まった、1年生全員が簡単なパンについての説明はとっくに受けていた。パンは高次元帯であり、低次元帯の攻撃は――当らない。その事を学園長は知らなかった様であった。
「学園長、そもそもパンじゃない人の攻撃は、パンには当りませんよ」
「そ、そうなのか。どうやったら当るんだ」
「――無理ですね」
「それじゃ、訓練にならんではないか」
「パン同士で戦うにしても、こんな木刀じゃ効果ありませんよ。その為の天羽々斬ですから」
「むっ、何故それを早く言わん。お陰で俺の愛用の棒が壊れたではないか」
「知りませんよ。そんな事」
「むむ、久流彌 雪」
「何でしょうか」
「夕方まで演習場を走ってろ」
「他の皆は……ヒートヘイズを出してヒートヘイズ同士で戦闘だ」
「学園長、何で俺だけランニングなんです」
「つべこべ言うんじゃない。お前は体力が低いのが弱点らしいではないか。スタミナをつける所から始めんとな」
何故か、雪だけ走らされる事になったのである。結局、学園長が代わっても雪への扱いは変わらなかったという事だろう。
その日の夕方、食堂で夕食を食べていると――。食堂に備え付けられているテレビから臨時ニュースが入ってきた。
『――番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えいたします。先程入った情報によりますとメキシコの首都メキシコシティに見た事も無い未知の生命体が突然現れ、首都を攻撃している模様。あっと、現地からの映像が入ってきました。現地リポーターの坂田さん。現地の様子はどうなっていますか……こちら激しい戦闘が行われているメキシコシティです。皆様、ご覧下さい。漆黒の竜です。架空の生物とされた竜10体が突如現れメキシコシティを火の海に変えております。あっと、メキシコ空軍のF-20タイガーシャークが編隊を組んで竜に向かっていきます。あぁぁぁぁ、何という事でしょう。まったく歯が立ちません。あっという間に戦闘機20機が撃墜されてしまいました……へっ、あれは何でしょうか。黒い獣が多数こちらへ向かってきます。カメラさん、これ逃げないと不味いのでは……あぁぁぁぁぁぁぁぁーブツッ――。現場の坂田さんどうしました――』
富士演習場でテレビを見ていた、雪達は唖然としていた。皆の視線は中継が途切れたテレビに釘付けで、すでに中継が終わっているにも関わらず、その続報が気になり、視線を外す事が出来なかったのである。
「なぁ、水楢」
「何よ」
「今の、どう見てもヒートヘイズだよな」
「そ、そうみたいね」
「何でメキシコを襲っているんだ」
「そんなの私に聞かれても分らないわよ」
「この前、学園を襲った奴等と同じだとすると――やっぱりステイツか」
「でしょうね」
「うん」
「時代遅れとはいえ……戦闘機20機が1分も持たないって」
「低次元がいくら攻撃しても――」
「だな」
「うん、無理」
まさか、学園に来襲してきたヒートヘイズを、ほぼ全滅させたにも関わらず、まだ多くの敵が存在する事をこの時、雪達、いや、日本に居るパンの全員が知る事になったのである。またこれは日本を窮地に追い込む陰謀の始まりでもあった。
「お前達、今の映像は見たな」
食堂では当然、学園長もこの放送を見ていた。先程テレビを見ている時に学園長の携帯が鳴っていたが、恐らく軍の上層部からだったのだろう。
「今のメキシコの件で軍、上層部から連絡があった。しばらくヒートヘイズは秘匿する事になった。それは沖縄、北海道とここも同様だ。まかり間違ってもヒートヘイズは出すな。この意味が分るな」
「何で出しちゃ駄目なんだよ」
1年で入ってきて間もない新人が学園長に問いかける。
「万一、マスコミにでも嗅ぎつけられでもしてみろ。メキシコの件は日本がやった事にされかねんぞ」
「そんな……」
「とにかく。大人しくしていろ。これは軍上層部からの命令だ。分ったな」
こうして、日本国内にいるパンはヒートヘイズ抜きでの戦いを強いられる事になった。
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