第26話陰謀

 ここはステイツ西部、ネバダ州にある、かつてはエリア51と呼ばれた基地跡である。現在は主に、ヒートヘイズを産み出す為の研究施設となっている場所であった。ステイツの現在のパンの人口は2000人を超え、ハイスクールの生徒の中から、希望者を集め、パンの数を着々と増やしていっていた。何故、日本人にしか宿る事が無かった原初の半獣神がアメリカ人に宿ったのか。それは、この博士の功績が無ければ成し得なかっただろう。


「ミスター牧田、那珂の島学園にある研究施設の破壊には失敗しましたが、前回の失敗を踏まえた、新たなヒートヘイズの育成は進んでおりますか」


「ええ、アダムス大佐。パン同士から産まれた子供を使ったいわば、新人類のパンとでも申しましょうか。既に成長段階に入っております。後1年もすれば――Sランクを召還出来るパンの数を増やせるでしょう」


 5年前の研究中に死んだとされていた、牧田 啓一郎博士は何故か、ステイツに引き抜かれ、そこで誕生した新人類のパンに成長促進剤を投与し、無理に子供の成長を促し、生育していたのである。何故、死んだ筈の彼がステイツに渡ったのかは、後に知る事になるだろうが、今はこのおぞましい研究について話そう。


 2040年以降、ステイツ国内の雇用は先細り若者は路頭に迷っていた。だが、牧田博士がステイツに渡った5年前より、高給で新薬臨床試験を行う団体が現れ、その結果――2000人を超えるパンが生まれる事になった。そのパンの中から希望者を選抜し、子供を設けさせ、その子供を金の力で軍が買い取り、牧田博士の実験台に成っていったのである。牧田博士は日本国内で既に、パンの子供を使った実験経験もあった事で、幼児期の暴走も無く、着実に子供は成長していたのだが、その時期を早める為に成長促進を促し、遺伝子操作を行い。通常では4歳の子供が既に10歳にまで成長していたのであった。


「牧田博士は、那珂の島に突然現れたSランクを生み出したパンに心当たりは無いのですかな」

「私が居た5年前までには、Aランクですら珍しくSランクなどおりませんでした。ですからあの映像を見た時に、心が震えましたよ」


 牧田は、ニヤリと笑い。


「これが、これから、この子達が生み出すヒートヘイズなのか。とね」

「あははは、グレート。さすが牧田博士だ。大いに期待しておりますぞ」


 そう豪快に高笑いをし、ご機嫌な表情を隠しもせず、大佐は実験棟から退出して行ったのであった。


「この子達に幸あらんことを……」


 そうポツリと言葉をこぼした。牧田が何を思って、か弱き子供を遣い、人体実験をステイツで行っているのか。その闇は深そうである。



     ∞      ∞      ∞      ∞




 ――日本の軍本部


「長田大佐、では今回の那珂の島研究施設を襲った犯人は分らないと言うのかね」

「ハッ、御手洗少将閣下。最悪にも、今回外に出ていた者の殆どは、死亡しており、今回敵を殲滅した功労者の3人も。遠目からしか分らず、目出し帽にて人種や人相を断定出来なかったと報告を受けております」

「だが、軍所属のパン達の所在は直ぐに調べたのであろう」

「はい。国内のパン全員の所在を即座に確認させましたが、不審な者、その日時に姿を眩ましていた者は1人もおりませんでした」


「それはおかしいではないか」


「武田中将閣下。おかしいとは何がで御座いましょうか」

「パンは日本人にしか、宿らないのでは無かったのか。それが、100を超えるヒートヘイズの集団を操ったと成れば、パンの数も相当数居た事になる。それだけの日本人がいつの間にか、新薬を摂取し、密かに徒党を組み裏切ったと――貴様は言うのか」


 長田は、超え太った丸い顔から汗を床に垂らしブルブルと首を振るう。


「日本人が裏切ったとは言っておりません。そもそも、亡き牧田博士が提唱した、日本人にしかパンが宿らないと言う研究結果が間違っていたのです」

「それでは、国外の勢力からの攻撃だったと、貴様は判断した訳だな」

「はい。その可能性が最も高いかと思われます」

「だが、現在奪還作戦が行われている、沖縄、北海道のいずれにもそんなヒートヘイズは現れておわんでは無いか。では、どこの国が――」


 長田は、雪達から聞いた白人の目撃情報だけ隠してはいたが、さも自分が心当たりがあるとすれば、ステイツでありましょう。と閣下達の前で語った。


「ふむ。ステイツか……」

「ステイツならありえますな」

「だが、白人が犯人だとすれば、牧田博士の研究は間違っていた事になるな。牧田博士の研究を推し進めたのは長田、お前であったな」


 そう。10年前から始まった、パンの研究を牧田と共に広めたのはこの長田大佐であった。その功績で大尉から一気に大佐にまで上り詰めたのだ。


「そ、それは……」

「もうよい。長田の処分は追って言い渡す。今は、相手勢力の目的を探るのが第一だ」

「だが、中将閣下。これを公にすれば――スポンサーからの資金が打ち切られる可能性が御座いますな」

「うむ……スポンサーには、今回の那珂の島学園での事は、死んだ生徒の中から暴走させた者が出たとでも報告すればよい。決して、敵勢力でもパンを宿らせる薬が完成したなどと知られぬ事だ」

「そうですな。スポンサーからの資金で中将閣下も新たに豪邸を御造りになられたとか……」

「何を申す。少将殿も新しい車を購入したそうではないか」


 部屋には、汚職と裏金に塗れた者達の笑い声だけが響き渡っていた。

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