第55話 クリスマス
今日はクリスマス、年に一度の聖なる夜。
そんな日に僕達はみんなで朝武邸に集まりクリスマスパーティーをしていた。
メンバーはいつものロリ三人とロリコン三人にメイド二人を加えた七人だ。
愛莉による「乾杯」のあいさつから始まったクリスマスパーティー。
ひとまず僕達だけで今年一年の労をねぎらう。
「みんな今年一年お疲れ様っ!」
「「おつかれー!!」」
カランと良い音を鳴らしぶつかり合うジョッキ。もちろん入っているのはお酒ではなくただのジュースやお茶だ。
それから愛優さんの美味しい料理を食べながら会話に花を咲かせる。
「それにしても今年は本当に色々あったよな。拓海がロリと付き合ったかと思えば婚約したり、俺まで奈穂と付き合うことになったり」
「うんうん、私も紗々ちゃんっていうパートナーも出来たし」
「あはは、今にして思えばどれもこれも有り得ないようなことばかりだよね」
「それを運んできたお前が言うかぁ? いやまぁ確かに言いたいことはわかるけれど」
「でもあの子達の世界と私たちの世界を考えればそう思っちゃうのも仕方ないよね。私なんて未だに紗々ちゃんがなにかする度に驚いちゃうもん」
「そういえば柿本は紗々ちゃんとよく一緒になにかしてるんだっけ」
「そうだよー。だって最近は二人とも奈穂ちゃんや愛莉ちゃんとイチャイチャしてるんだもん。私は紗々ちゃんと余り物同士仲良くしてるよ」
「「あはは……」」
少しトゲのある言い方に苦笑いを浮かべる。
「でもたまにはこうして三人で集まって会話しないと。二人とも恋人の前だから出来ない話とかあるでしょ?」
「それは、まぁ、あるけど」
言いながら充は僕を見る。それに同意するように僕も頷く。
「うん。確かに話しにくいことはあるかな。例えば小説のこととかもそうだけど……なによりも下ネタとか」
「わかる、わかるぞ拓海」
「そうなの? 星川君のことだからそこら辺全開だと思ってたのに」
「お前は俺のことをどんな風に見ているんだよ……」
「少し危ないロリコンメガネ?」
「心外だな、俺ほど完璧な
「はいはい、湊君はともかく星川君は変態だけでしょ、紳士に謝れ」
「……なぁ拓海さんよ。最近柿本の俺に対する扱いが酷いんだがどうしたらいいと思う?」
「おねショタ本でも献上してみれば?」
以前の柿本であればそれで大体のことは解決する。
……が、それを聞いた柿本は不敵な笑みを浮かべ、
「……ふっ、おねショタ、か」
「ど、どうしたんだよ柿本……」
「甘い、甘いわよ湊君! おねショタが許されるのは平成まで……時代はおねロリよ!!」
「「な、なんだって!」」
僕達は雷に打たれたような衝撃を受ける。
何故なら柿本は今まで書いていたのはおねショタものばかりで、時折ロリ系を書くこともあるがその中にお姉さんキャラなど出てきたことなど無かったのだ。
しかしお姉さん×ロリでおねロリ……なるほど、そういうのもあるのか。
今までロリ系の百合はロリ×ロリが一般的でそれ以外は考えたことも無かったが……。
僕は一瞬にして脳内でおねロリ劇場を始める。
お姉さん役はそうだな、茶髪ロングの清楚そうな優しい年上のセーラー服を着たお姉さん。
ロリ役は黒髪ロングの幼さ全開の純白ワンピースを着た完璧ロリ。
ロリがお姉さんに向かって走り出し、遂には抱きしめ太陽のような眩しい笑顔を浮かべながらこういうんだ。
「えへへ、わたしね、おねーちゃん大好きっ!!」
それでももってお姉さんが、返すようにロリに向かって優しい笑みを浮かべながら、
「ありがとう。私も大好きだよ〜」
と言って抱きしめ返すと、ロリは嬉しそうにはにかむ。そして、
「えへへ、おねーちゃんとわたしいっしょだね♪ うれしいな、うれしいなっ♪」
「もう嬉しいこと言ってくれちゃって……このこのっ」
「あはははは、おねーちゃんくすぐったいよぅ」
と言った
そして妄想を終え、現実に帰ってきた僕は深呼吸をし、一言だけ。
「……おねロリ、深いな」
「ああ、実に深いし心踊らされた」
二人してうんうんと頷き合う。
まさかこんなところに世界の真理が転がっていたとはな。
例えば巨乳のお姉さんの豊満なソレにショタっ子が顔を埋めるようなことがあってもそこには嫉妬とかが生まれてしまうが、それがロリだった場合どうなるか……。
いやそれだけでは足りない、いつもツンツンしてて中々甘えられないロリが愛嬌たっぷりのお姉さんに「おいで」と言われ恥ずかしがりながらも、その胸に身を任せお姉さんがロリの頭をいいこいいこする……あぁなんて素晴らしい光景なんだと。
同志が増えたことによる喜びからか、柿本は僕達に手を伸ばす。
そして僕達は迷うことなくその手をがっちりと掴み、硬い握手を交わす。
「ようこそおねロリの世界へ。わかってくれて嬉しいよ同志」
「ああ、こちらこそ僕達を新しいレベルに連れていってくれて感謝だよ同志」
「俺もまだまだ勉強不足だったぜ……。本当にありがとな同志」
僕達の仲がまた一段と深まりテーブルの上の料理も少なくなってきた頃。
キッチンへ向かった愛優さんが美味しそうないちごのショートケーキとチョコケーキのホールを手に持ってきた。
「みなさまクリスマスケーキです。こちらが普通のいちごのショートで、こちらが少し大人なチョコレートケーキです」
その声にロリ達は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。
愛優さんはまずチョコケーキを愛莉たちに、いちごのショートケーキを僕たちの皿に一個ずつのせていく。
全員に行き渡りそれぞれが最初に配られたケーキを一口、また一口と食べると頬をほころばせていた。
その様子を見てにやりと微笑んだ愛優さんは「失礼します」と言って僕達のテーブルに着く。
「ケーキのお味はいかがでしょうか?」
「凄く美味しいですよ、俺こんなに美味しいケーキ食べたことないです」
「私も私も。ケーキって甘さが強くて余り食べられないけど、これはとっても優しい味がしていつまでも食べていたくなる」
「いつまでもってわけじゃないけど、でも本当にそんな気持ちになるよね」
「ふふっ、みなさん喜んでいただけてなによりです」
「ちなみにこれって愛優さんが作ったんですか?」
「いえ、こちらはお店のものですよ」
「そうなんですか? てっきり愛優さんのことだからこれも作ったのかと思ったのに」
「作る機会がないだけで作ろうと思えば作れると思いますよ。それにこれはたまたまスイーツエンジェルの近くに用事があり、そのついでに買ってきたものなので」
「えっ、スイーツエンジェルのケーキなの!?」
「ふふっ、流石に柿本様です。ご存知でしたか」
「当たり前ですよ! あの大手洋菓子メーカーのスフィールの社長にその味を認められただけではなく、提携を組んだため今じゃスフィールの橘久怜羽だってそこで働いているみたいですし、なによりなにより働いている子達も凄く可愛いですし!」
「そ、そうですね。全てにおいて同意します」
柿本があまりにも前のめりに話し込んだせいで、あの愛優さんが少し身を引いた。
「でも連日込み合っていて、しかもこの時期だと買えるかどうかも怪しいとか聞いたことあるんですがよく買えましたね」
「私は優秀、完璧なメイドですので」
言いながらかけてもいないメガネをくいっと上げる仕草をする。
そんな優秀そうなふりをしなくてもこの人が異常なほど優秀なのは承知している。
……だが、僕たちは失念していた。この人が優秀であると同時に余計なおせっかいをかける天災でもあることを。
*
それからほどなくしてのことだ。
ショートケーキを食べ終え、少し大人なチョコレートケーキを口に入れた瞬間に僕たちは同時に頭を抱えていた。
あらかじめ言っておくと、別にこのケーキがまずかったりしたわけではない。
ただ言いたいことがあるとしたら、
「……完全にしてやられたな」
「うん。まず大人なって言ってる時点で警戒するべきだった」
僕たちが食べているチョコレートケーキ、それは愛優さんの言う通り少し大人なものだ。
なぜならこのケーキには少量だけど、ブランデーが入っていたのだ。
一応強さとかは愛優さんが配慮してくれたのか、ほんのりと感じる程度だ。しかし逆にそのせいでこれにブランデーが入ってるとは思わずにいつものペースで食べてしまうだろう。
別にそれ自体はいいのだが、問題はここにいるメンバー……それも僕と充、そして愛優さん以外はめちゃくちゃお酒に弱いということだ。
つまりそれを食べたロリたちはというと……。
「拓海しゃ~ん、どおしてそんなに遠くにいるんれすかぁ」
「充さんもですよぉ、ほらほら私のお膝の上とかあいてますよ~」
「あはは、あか姉がふたりいるー」
「「……」」
「えっと、紗々ちゃん、私は一人なんだけど……」
あちらの三人は完全に出来上がっていた。
前回の時と違うのは柿本がまだ素面ということ。これならマンツーマンで対応ができるからありがたい。
とはいえ、あの悲劇を被害者側として体験した僕と充はともかくとして、柿本は初めてだ。この現状にとまどっているうちに話はややこしいことになってゆく。
この部屋から逃げられるほぼ唯一といってもいい出口は見覚えのある箱を持って、待ってましたと言わんばかりにスタンバイしてる愛優さん。
見たくもなかったその光景が視界に入ったとき、僕と充は思わず天を仰いだ。
さりとて嘆いたところでこれから起こることは変わらない。
とりあえず柿本にはブランデーのことを伝えてこれ以上被害がひろあらないようにしたところで、天使のような悪魔の笑顔を浮かべた愛優さんの提案によりロリ様ゲーム、もとい王様ゲームが始まってしまう。
ここで重要なのは王様の権利を幼い女王様に渡さないことだ。
つまり僕たち三人の誰かが王様の権利を引き、ロリ王として君臨し続けなければならない。
ほどなくして運命の第一回戦が始まる。
ちなみに出来上がっている人がいるため全部で三回勝負ということになった。
なので被害は前回よりも抑えられることは確定したものの、少ないに越したことはない。
それぞれが棒を握る。この先に赤い印がついていれば当たり、王様だ。
『おうさまだ~れだっ!』
掛け声に合わせて一斉に棒が引かれる。
恐る恐る棒の先を確認する……が、そこに書かれているのは3番の文字。
つまり僕は外れたのだ。他の二人はどうなんだろうと目配せをしようとしたとき、声があがる。
「ふふふ、最初の王様は私みたいですね。覚悟してください充さん♪」
奈穂ちゃんだ。自身が王様だと宣言をし、さらに充への事実上の死刑宣告みたいなものまでセットだった。
横目で宣告された当人を見る。そこにあったのは快適な温度を保たれているはずの部屋で、汗を滝のように流しながら顔を真っ青にしている親友の姿。
しかし王様ゲームには番号で指名しなくてはいけないというルールがある。今回は6人でやっているため確率は5分の1。これをヒントもなしに一発で当てるのはかなり難しい。
が、その難易度を連続で引き当てた実績があるのも事実。
「うーん」と充の番号を当てるために悩んでいる様子の奈穂ちゃん。
前回は間髪入れずにきたためか、もしかしてと思ってしまう。
充がこれならと判断したのか、ほっと胸をなでおろし完全に油断した時だった。
……その時のことを僕は忘れないだろう。
警戒が解けた一瞬を狙って、恋人である充が絶対に逆らえない天使の笑顔を浮かべたのだ。
そこから発せられた言葉は一言。
「充しゃん、みせてっ♪」
ただそれだけなのに、それだけしか言ってないのにも関わらず、僕の親友である充はまるでそうするのが当然とでもいうように自分の番号を奈穂ちゃんに見せていた。
「ありがとうございまふ。充しゃんは1番さんなんですねぇ。なら1番さんに命令です。私にここでキスをしてくださいっ♪」
「あっ、ああああああああああ!!!!?!?」
命令を下され、我に返ったのか充は頭を抱えながら崩れ落ちる。
残念だよ充。王様の命令は絶対……ここまでされた以上もうしないわけにはいかないのだ。
僕はなだめるように崩れ落ちた親友の方を叩く。
すがるような目で見つめてくるが首を横に振り、待ち人のほうへと視線を動かす。
「さぁさぁ、ふふふ、充しゃんはどんなキスをしてくれるんれしょうか」
「……うぅ」
「あきらめろ充。安心しろ、愛優さんに頼んでこの動画は充と奈穂ちゃんにもおくってやるから」
「安心できねーよ! というか録画されるのは前提なんだな……」
流石にここでうなだれていても無駄だと悟ったのか、充は立ち上がり力なく奈穂ちゃんの元へと歩み寄る。
奈穂ちゃんはここからでもわかるくらいとろけた顔で充へと熱い視線を送っていた。
そこからは今までのやり取りが嘘だったかのようにスムーズに進んだ。
最後の抵抗として頬にキスをしたりしたが、そこではないと言われ、奈穂ちゃんには逆らえない充は唇にキスをしたのであった。
そんなこんなで2回戦。
ここで王様を引けなかったら今度は僕が餌食になる……そんな予感がものの見事に的中し、次の女王様は愛莉となった。
5分の1? ああ、10割命中の話ね……。
引いて自分が王様だとわかった直後に番号を当てられた僕はもう確率なんて信用しないと誓ったよ。
それでもって、愛莉からの命令はというと、
「んー、さっきは奈穂さんがキスをしたので……」
と、ここまではよかったのだが、
「では、私たちは次のステップに進んだということで、キスも次のステップにいきましょう♪」と、くっとくのない笑顔を浮かべたかと思えば、
「ということで、拓海さんには大人なキスをしてもらいましゅ!」
最後の最後で呂律がまわらなかったのか、語尾が変になったがそんなことすらどうでもいいと思えてしまう命令が下された。
大人のキス……その意味を知ってか知らないでかはわからないが、命令されたkらにはしなければいけない。たとえ録画されていようとも、このゲームにおい王様の命令は絶対なのだから!!
僕は目をつむり準備万端の愛莉の元へといき、僕の知る限りでの大人なキスをした。
……また、後日その映像が優秀なメイドさんの手によって悪用されたのはまた別のお話。
*
それから最後の王様の命令を終えてから少し経った頃。
流石に酔った時の疲れが一気に来たのかロリ達と、最後の命令の餌食となった柿本はすやすやと心地よさそうな寝息を立てて眠り始めた。
……最後の命令がなにかって? それはある意味では一番の犠牲になった柿本の名誉のために詳しくは言えないが、主に胸の話だったとだけ言っておこう。
「ふぅ……やっと開放された……」
「あぁ。お疲れ様だなお互いに」
「まったくだ」
なんて事を言いながらとりあえず熱くなった身体と頭を少しでも冷やそうと下のリビングの先にあるキッチンへ向かい歩き出す。
「それにしてもまたやることになるとはな……」
「やるにしても次こそは素面の状態でって思ってたけど」
「まぁ今回はまだ素面が一人多かっただけって感じだな」
「代わりに僕たちは公開処刑みたいになったけどね」
「・……それだけは言っちゃダメだ。柿本の傷をえぐることになる」
「そう、だったね」
僕たちはそのまま夜空へと緯線を移す。
「なあ拓海」
「ん?」
「今年は本当にお疲れ」
「そっちこそお疲れ様だ」
「今年は拓海のおかげで今までにないくらい良い年だったよ」
「そりゃどうも」
少し早いが互いに挨拶を済ませグータッチをする。
クリスマスが終わればすぐに年末となり、新年を迎える。
きっとそれまではお互いに挨拶などで忙しくなるだろう。だからこれでいい。
こうして僕たちのクリスマスは終わりを告げる。
次の朝、愛優さんの粋な計らいにより充は奈穂ちゃんと朝チュンすることになることは、今の充は知る由もなかった。
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