第47話 ゲーム体験会


 「ゲームの体験会?」

 「はいっ♪」


 今は十月の中旬。

 二週間くらい続いた朝武邸のメンテナンスも無事に終わり、久しぶりにこちらに来た最初の日曜日。

 奈穂ちゃんの招集により僕たち幼子の楽園メンバーはとあるゲーム会社に来ていた。


 「今回は最後のベータテストをみなさんにやってもらいます♪ とはいっても簡単なRPGですけど」

 「なるほどなるほど、だから俺だけじゃなくて拓海達も呼んだのか」

 「はい。それに充さんだけですと「いいぞ!」とか「よく出来てる!」とか「文句無しだ!」ばかりでテストにならないので」

 「あはは……」

 「充、お前ってやつは……」

 「仕方ないだろ! お前だって愛莉ちゃんに何かお願いされたらそうなるだろ?」

 「まあ、否定はしないけど……」

 「はいはい、馬鹿なことやってないで二人共さっさとやるよ」

 「ったく、柿本も冷たいなぁ」


 そんな事を言いながらもやはり新作ゲームには勝てないようで、気がつけばみんなゲーム端末を手に早速プレイしていた。


 「それじゃ僕達もはじめよっか」

 「ああ」


 まず初めに画面に映るのはオープニング、これだけでRPGにしては珍しいのだが……。


 「……これは宝箱?」

 「フィールド上とか洞窟っぽいところにあるな……」

 「ああ。それもかなり見つけにくそうなところばかりだ」

 「ふふっ、早速気が付きましたね。このゲーム、実はオープニングムービーを見ると少しだけ得するようにしてみました♪」

 「なるほど。確かに最初のオープニングは飛ばされやすいけど、これなら一度は目を通す人も多くなるってことか」


 最初から驚かされたが、まだゲームは始まってすらいないのだ。

 僕達は幼き日のあの頃に戻ったようにニューゲームを押す。


 「このゲームはまず最初に、五つの質問に答えてもらいます。その回答によって初期の職業やその人の成長など変わるのです」

 「それってつまりポ〇モンダンジョン的な?」

 「簡単に言えばそうですね。そこに少しだけ変化を加えたものです」

 「な、これなら俺があんな返答しか出来ないのもわかるだろ?」

 「まあ確かにわかってきた気はするけど……っと、まずは一つ目の質問か」


 Q1.あなたはロリコンですか?


 「「ぶーーーーーっ!!?」」


 その質問内容に思わず僕達は吹き出す。


 「な、ななな奈穂ちゃん!?」

 「面白い質問ですよね♪ ちなみにこの質問はランダムなので」

 「いやいや! これは俺達だからこそわかることで一般人にはわからんでしょ!」

 「もう充さん、私がそんなミスをするわけないじゃないですか。お二人だけの特別性ですよ」

 「ちなみに私のは『ショタコンですか?』だったよ」

 「とにかくですね、ベータテストなんですから気楽に♪」

 「ま、まあ……わかったよ」

 「確かにこんなことで驚いていたらダメだよな」


 そう言って僕達はみんな揃って『はい』を選択。そして二つ目の問い。


 Q2.あなたはロリを愛していますか?


 「…………」

 「……あの、奈穂ちゃん?」

 「はい、なんでしょう?」

 「これって僕達向けじゃないよね?」

 「全年齢対象ですよ♪」

 「それならこの質問はダメだと思うなぁ!」

 「そもそもロリコンて言葉みんなが知ってるわけじゃないと思うし」

 「ふふっ、まあ冗談ですよ。製品版ではもっと普通の質問です」


 いたずらっぽく笑う奈穂ちゃん。


 「さてみなさん質問は終わったみたいなので、次はキャラクターの作成です。……と言っても今回は色々短縮のために既にそっちは作ってありますが」

 「なるほど、容姿は僕達に似せてくれたんだね」

 「すっごいね、私達がゲームのモデルになった気分だよ」

 「確かに言えてるな」


 それから順調に進めていき、最初のボス前まで到着した頃だった。


 「……あれ?」


 最初の異変に気付いたのは充だった。


 「どうしたんだ?」

 「いや俺、確かに敵の呪文受けたのにダメージが無かった」

 「耐性防具とか付けてたんじゃないかな? 星川君って意外と自分でしたこと忘れてそうだし」

 「確かにそれはあるな……っと、ここそこそこ難易度あるな」

 「お前らは俺をなんだと思ってるんだよ……」

 「ならチートかな」

 「チートだな。ほら奈穂ちゃんに謝れ」

 「だからお前らの俺に対する当たりはなんなの!?」


 言いながらメニューを開き、自分のステータスを確認した充は「ん?」と少し間の抜けた声を発する。


 「なにかあったのか?」

 「いや……これ」

 「わあ凄いレベル20になって防御力が20だ」

 「そこもそうだけど違くて! ほらこの魔法防御力!」

 「魔法防御? あ、凄い魔法防御力が防御力の5倍もある」

 「お前らはどうなってる?」

 「僕は20くらい」

 「私もそれくらいだね」

 「どうなってるんだ……?」


 三人ではてなマークを浮かべていると、待っていましたと言わんばかりに奈穂ちゃんが近付く。


 「やっと気付いてくれましたね」

 「ってことはこれも新機能なの?」

 「はい! 言うなれば個性システムですね」

 「個性システム?」

 「このゲームはオンラインでのプレイになります。しかし従来のゲームでは職業などによってのステータスの違いはあれど基礎ステータスは同じでした」

 「ですが、それだと甘いと考え、最初の質問によってそのプレイヤーの成長具合が変わるようにしたのです!」


 自信満々に言う奈穂ちゃん。

 確かにRPGと言えば種やスキルと言ったものでステータスをいじれるにしろ、元のステータスは同じなのだ。

 だからこのシステムは実にいい。


 「ということはこの魔法防御力が異常に高いのも個性?」

 「はい。充さんのは結構レアで物語中レベリングをサボタージュしなければ大体の魔法ダメージが通らなくなります」

 「それってチートすぎない?」

 「……だけどそれって」

 「もちろんデメリットもあります。先ほどのステータスを見てわかるように魔法防御は完璧ですが、通常の防御力が……残念になります」

 「つまり魔法は効かないけど物理にはめっちゃ弱いってこと?」

 「簡単に言えばそうですね。他にも色々ありますが……そこはおいおい教えます」


 そう言い残し、奈穂ちゃんは元の場所へ戻る。

 そして僕達はボス戦へ。


 「しかしなるほどな、つまりただストーリーを進めたりなんとなくパーティーを組むんじゃなくそれぞれの個性を生かすようなパーティーや装備を……って当たり前の事だけどそれがもっと重要になるってことか」

 「あ、そういえばだけどさ」

 「うん?」

 「充守備力20でボスの攻撃受けきれるの?」

 「…………あっ」


 一応レベリングしていたとはいえ、充のキャラクターは個性上守備力が残念なキャラだ。そして今は割と序盤なのでボスも呪文やブレスといった特殊系よりも物理攻撃の方がメインなわけで。


 「うわあああああああああ!!!?」

 「星川君のキャラが一撃で……」

 「見事に散ったな」

 「そんな馬鹿な!!?」


 もちろんこうなるのはほとんど必然だ。

 そもそも守備力20ぽっちでやるのがおかしいのだ。僕と柿本の守備力は50以上あるのに。

 とは言ったもののパーティーでいきなり一人欠けたのは大きいわけで。


 「ぐふぅ!」

 「冒険パーティー四天王のうちの一人がやられたか!?」

 「しかし彼は最弱……まだまだここから巻き返せ──あふぅ!」

 「僕が最弱なら初撃で落ちた充はどうなるんだよ……」

 「あらら……」


 あっという間に全滅。僕達は協会へと飛ばされてしまう。

 そうなった場合まず最初にやるのは……。


 「あー、やっぱりゴールドが減ってるわ」

 「私もガッツリもってかれた……」


 メニューを開き所持ゴールドの確認、もちろんそこそこの額を持ってかれていた。


 「湊くんはどれくらい? 私は半分くらい持ってかれたよぉ」

 「僕もそれくらいかな、充は?」

 「…………」

 「充?」

 「……俺は、1ゴールドだった」

 「……は?」

 「説明しましょう!」


 ここぞとばかりに奈穂ちゃんが現れる。


 「このゲーム、全滅時はプレイヤーの強さによって消費ゴールドが変わります」

 「つまり一番減っている私が一番強くて」

 「次の僕が次に強くて」

 「1ゴールドの俺は……神ってことか」

 「紙の間違いだろ自惚れんな」

 「ちょっと星川くんは黙っててねー」

 「ごめんなさい……」


 そんなこんなで物語は順調に進み、今日のゲーム体験会は無事(?)に終わりを告げた。

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