第46話 A地区とC地区の間の話
みんなは小学生の頃、どんな遊びをしただろう。
色々な遊びが頭に浮かぶだろうが、それらのほとんどは健全なるものだと言えよう。
……ちなみに僕達はと言うと。
「拓海、乳首当てゲームしよう」
とある十月の土曜日のこと。
相も変わらず朝武邸はメンテナンスが続いており、そのせいか週末になると何故か泊まりに来る充達なのだが今日は用事があるからと言って今は僕と充の二人で留守番。
いい加減野郎二人での空間に飽きてきたからか、充がとても懐かしい遊びの提案をしてきた。
「乳首当てゲームって……これまた懐かしいものを」
「ふっふっふっ、このB地区の帝王と呼ばれていた俺に挑むとはいい度胸だな拓海」
「言われてないし、そもそも僕は挑んですらいない」
「一回くらいいいだろー。こうしているのも飽きてきたんだ」
「なら家に帰ったらどうだ? 家に帰れば課題がお前を出迎えてくれるぞ」
「課題なぞとっくに終わらせた」
「くっ、この優等生め……」
「その優等生もお前にはただの一度も勝ててないけどな」
ひたすらに課題を進める僕に対し、皮肉を浴びせる充。
「別に授業を真面目に聞いてれば難なく出来るだろ? それに僕は出された問題を答えているだけだ」
「お前いつか刺されるぞ……」
「用心しとくよ──っと、これで終わり」
最後の一文字を書き終え、充の方へと視線を移す。
すると充はどこか懐かしそうな口ぶりで。
「しかしあれだな、昔はここに柿本を加えた三人でよく集まったものななにな」
「……そうだな」
「そうだよねぇ」
「「…………」」
明らかに一つだけ多い声に戸惑いが隠せない野郎達。
それもそのはずで、今聞こえてきた声は……。
「柿本、合鍵を使って入るのはいいけどせめて声くらい」
「いやー、本当はそうしたかったけどなんか二人共面白そうなこと話してたからさ。それで乳首当てゲーム? はやらないの?」
「そこから聞いてたのかよ……」
「やるかやらないかは拓海次第だ」
「なんで僕?」
「そりゃお前がB地区の神様だからだろ」
「そんな二つ名を名乗った記憶は無い!」
「私としては湊くんに勝って欲しいところだけど……。あ、ちなみに二人で戦って勝った方が私と戦える権利を与えよう」
「それって俺達のどちらかがお前の胸をつつくことになるけどいいのか?」
「別に構わないよ。二人ならそれ以上の事もしてこないだろうしね。あ、ちなみにおいたが過ぎたら二人の恋人に連絡するから」
物凄い笑顔でとんでもないことを言うなぁ。
何にせよ負ければいいだけの話か。
「とりあえずやるだけやるか」
「お、拓海がやる気になってくれて嬉しいよ」
「どうせやらないとうるさいし、こんなこと愛莉達が帰ってくる前に終わらせたい」
そもそもこんなこと、高校生がやるもんじゃないだろ。しかも女子を混ぜて。
じゃんけんをして、先攻と後攻を決める。ちなみに僕が先攻。
両指でつつく態勢を整えると、充はわざとらしく両腕をかかげ。
「さぁこい! B地区の神よ!」
「うっさい黙れ。……この辺かな、えいっ」
余りに外れすぎるとわざとだとバレるので、大体の目星をつけてから少しだけズラす。
その作戦は見事に的中したみたいで、充は不敵な笑みを浮かべ次の攻撃態勢に入る。
「ふふっ、その程度かB地区の神よ。この勝負俺が頂いた!」
「ひゃい!?」
そんなふざけたことを言っているが、流石はドが付くほどの変態。充の指は寸分たがわず僕の乳首にクリーンヒット。勝負あり。
つか痛てぇ……。
「わがつつきにただひとりの敵なし」
「……こいつマジでやべぇ」
「ふふっ、流石はB地区の帝王星川くんだね! でも私も負けないよ!」
「勝負という以上、当たっても文句はなしな」
「そりゃ当然だよ! ここにいるのは二人の男女じゃなくて、二人の決闘者なんだから」
「本物の決闘者に謝ってきてください……」
「いい心掛けだな、よろしい! ならば俺から行かせてもらうぞ!」
「ふふっ、かかってきなさーい!」
こうして乳首当てゲームの第二戦が今まさに始まろうとした時だった!
「先生ただいま戻りましたー!」
「充さん遅くなってすみませんでし……た?」
『あっ……』
その瞬間、この空間だけ時の流れに置き去りにされてしまったかのように静止した。
男は指で目の前の女の乳をつつき、女は男により頬を赤らめ、またある男は親友のために手を合わせる。
長い沈黙の後、それを破ったのは他でもない、乳をつついてる男の恋人だった。
「……愛優さん、私の今日のスケジュールに元恋人を飛行機で轢く、というのはありましたか?」
「ちょっと待って奈穂、これは誤解だ。話せばわかる」
「そう言えば充さん、この前TRPGがやりたいと仰ってましたよね?」
「言ったけど……その前に話を──」
「ここに偶然十面ダイスが二つあります。1D100で振って1が出たら平手で許します♪」
「……それ以外、特に100が出たら?」
「山奥での生活って憧れますよね♪」
「あ、あの奈穂……さん?」
「山奥での生活って憧れますよね♪」
「は、はい。その通りでございます」
充達の方は大変だなと思いながら、僕は帰ってきた恋人の方へと近寄る。
「おかえり愛莉。結構早かったね」
「はい。先生に会いたくて少しだけ無理言っちゃいました♪」
「お久しぶりだね〜愛莉ちゃん」
「あ、お久しぶりです柿本さん」
「それで星川さんはどうして奈穂さんに言い寄られているんですか?」
「あー、それは……」
「愛莉ちゃんはまだわからなくてもいいかな……」
「?」
こんなピュアな子にあの遊びのことを教えるわけにもいかない。
そう思い僕達は苦笑いを浮かべるのであった。
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