第48話 ロリになる
「俺、ロリになります」
今は十月の半ば、放課後に僕達『幼子の楽園』メンバーで集まると早々にほしみつこと充がそんなことを言い出した。
「残暑で頭がやられたみたいだな……。まあわからなくもないけど」
「あはは、わかっちゃうんだ……」
「俺は真面目だ。ローリギアをつけて俺はロリになるんだ!」
「仮にロリになったらどうするんだよ」
「自分の身体がロリになるんだぞ、そんなの自分の身体を触りまくるに決まってるじゃないか!」
「よし柿本、こいつはもうダメだ警察に」
「そうだね、私もそれがいいと思う」
「まてまてまて! 俺たち仲間だろ? それにロリコンの行き着く最終地点……それは自身がロリになることだと思うんだ」
「……」
「湊くん?」
「なるほど、一理あるな」
「え、何言ってるの、ないからね!? 湊くんまでそっち行ったらダメだよ!」
「しかし充さんよ、僕達がロリになれる方法なんてそのローリギア以外に無いのか?」
「拓海よ、自己暗示って知ってるか?」
「自己暗示ってあの?」
「そう、古来より自分は出来る、自分は失敗しないと自身に暗示をかけることで様々な成功を収めた偉人たちがいる。そして人の信じる力は絶大だ」
「つまり僕達も自分のことをロリだと強く信じれば……?」
「ロリになれるのさ!」
「なれないからね!? ちゃんと現実を受け止めて! 愛莉ちゃんや奈穂ちゃんが泣いちゃうよ!」
「まあ冗談はさておき、本当にどうしたんだ」
その問いに充はわざわざ窓際に立ち、外をバックにキメ顔を作る。
「……男の娘に目覚めた」
「「は?」」
「……男の娘に目覚めたんだ。エーサンブルやキャンピス、ネープルの作品に主人公が男の娘のやつがあってな」
「ああ、オトメトメインとか?」
「そうだ。そして俺は……オトメトメインのミナト君に……惚れてしまった」
「あれその名前どこかで……」
「多分柿本が聞いたことあってもおかしくないと思うぞ。確かミナト君は主人公でありながら数年前の美少女ゲームのキャラクターランキングで一位になってるし」
「思い出した、それで少し話題になったから気になって調べたことがあったんだ。でもそれとロリになりたいってなんの関係があるのかな?」
「……俺はロリコンだ」
「まあそうだな」
「しかし男の娘に目覚めてしまった」
「らしいね」
「ならロリになるしかないだろ」
「絶対そこの間にこの一瞬では説明のつかない何かがあったよね!?」
「ロリキュアスマイルチャージとか叫べばなれるんじゃない?」
「マジで!? ロリキュア、スマイルチャァァァァァァァジ!!!」
「本当にやんないでよ恥ずかしい」
今の叫びで教室に残っている人全員こちらを見たぞ。
「つかそんなプライド捨ててまで深刻なことなのか? 別に男の娘が好きでもいいじゃないか」
「……いやよくない。それだとよくないんだ」
「どうして?」
「それだとロリの入浴を覗いた時の感動が薄れるからだよ!!」
「お前まだ諦めてなかったの?」
「あったりまえだ!」
「なんのはなし?」
「詳しくはミッションロリポッシブルにて」
「???」
「まあともかく前に色々とあったんだ。しかしあんなことがありながらまだ諦めてなかったことに驚きだよ」
「というか覗きなんてしなくても二人なら愛莉ちゃんや奈穂ちゃんにお願いすれば見せてもらえる……はっ、もしかして別の娘のを!?」
「なわけあるかっ!! 覗くのはちゃんと奈穂限定にするわ! 俺が愛してるのは奈穂だけだし、故に俺が見たいのは奈穂の裸体だけなんだ!」
「なんだろう……充にここまで愛されてる奈穂ちゃん幸せなのだろうけど今回ばかりは可哀想に思えるな……」
「うん、私も同じこと考えた」
うんうん、と教室中から無言の同意が飛んでくる。
「だけどそれとロリになりたいの繋がりがさっばりわからん」
「いやほらロリになれば合法的に覗けるじゃん?」
「一緒に入ったらもうそれ覗きじゃないよ……」
「それにそんなことしても、家の中に知らないロリがいたら星川くん関係だってバレるんじゃ……?」
「…………」
「いやそんな『言われてみれば!?』みたいな顔されても困るからね?」
「それにさっきも言った通り星川くんのお願いならきっと奈穂ちゃん叶えてくれるよ。多分冷ややかな視線は送られると思うけど」
「それだとつまらないし男のプライドも許さない。女の柿本にはわからんだろうが、見せてもらう、不意に見えてしまう、覗いて見る……この三つはどれも見るということは共通しているが全く違うのだ!」
「……まぁお前の言ってる事はわからんでもないけどやめときなさい」
僕はあることに気がついてしまったため、なるべくやんわりとこの話題をやめさせようとする。
そしてその事に気付いた柿本も。
「あー……うん、星川くんそろそろやめておいた方がいいかもしれないね……。主に自分のために……」
「何を言っているんだ二人とも! ここでやめるわけにはいかない──」
「何を言っているんだは私のセリフですよ充さん」
「──え?」
その瞬間、この場の空気が一瞬にして凍り付いた。
理由は様々だが一番の理由は……。
「ど、どうして……奈穂がここに……? だって、ここ、高校だよな?」
信じられないという顔で声のする方へ体ごと向ける。
もちろんその先にいるのは充の恋人、いや婚約者と言った方がいいか。ともかくそこにいたのは天海奈穂だった。
もちろん教室にいる他の生徒達も驚いている。
どうして小学生みたいな女の子がここに? というのと、その後ろにいる見たことないくらいビクビクしてる教師に。
しかしそんなこと慣れているのか奈穂ちゃんは構わずに充の前まで歩くと、黒いオーラのこもった満面の笑みを浮かべる。
「そ、れ、で。充さんは何を言っているのでしょうか、ふふっ♪」
「ごめんなさいっ!!」
「おぉこれほどまでに早い土下座は初めて見た」
「一瞬のためらいもせず、床に頭をこすりつけたわね……」
いくら相手がロリとはいえ、婚約者ともなれば頭が上がらないのが男というものだ。
このあと充は時間いっぱいまでその場で説教をくらい、時間になると続きはお屋敷でという普段なら意味深に聞こえてしまうような恐怖の言葉を残し二人は去っていった。
それを見届けた僕達は……。
「覗きは絶対によくないね」
「……うん」
なんだかんだで今日のあれは覗きのためだけに色々遠回りしたと思うと頭が痛くなる。
でも結局どうしてアイツは男の娘に目覚めたのか、それを知りたいとも思っていない僕達はきっとこれからさき知ることはないのだろう。
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