第40話 しおり女子学園交流会①
地元民でも知らなさそうな山道を車で登ること数十分、森の中にひっそりと佇む校舎。
山の中ということもあり、ここには雑音という雑音が全くない。
「到着しました、ここが愛莉様達が通う学園、しおり女子学園です」
説明されながらいかにも高そうな車から降りるロリコン御一行。
僕や渚さんを始め、柿本に充も一緒に乗ってきた。
ここはしおり女子学園、初等部と中等部に分かれている学園で愛優さんの言ったとおり愛莉達が通う学園であり、今度ここの学園と僕達の高校(と言って生徒全員ではなく今来たメンバーのみ)と交流会の準備をするためにここにきた。
「すぅーーーー」
「ちゃんと呼吸しないと死ぬぞ」
「ぐえっ!?」
降りた矢先、突然息を吸うだけ吸って吐き出さない親友のお腹を少し小突いてみる。
「だってここは女子校だぞ!? それもロリの! ここの空気をボトル詰めして売っていたら10万払ってでも買う自信のある空気が
「まあまあ落ち着けって……」
「そうだよ星川くん、ここはまだ女子校濃度が薄すぎるよ!」
「おいこら」
「そ、そうだよな、俺達これからな、なななかに入る、だもんな」
「その言い方は宜しくないぞ充。なんか卑猥に聞こえる」
「星川様、中に入れるのは夜だけにしておいた方が……」
「はいそこのメイドもここぞとばかりに話に乗らない!」
「前がダメなら後ろにすればいいじゃない。ナギサアントワネット」
「渚さんまでボケに回らないでくださいっ! ツッコミも大変なんですからね!?」
「まあ湊様もよく突っ込んでいますからね」
「湊くん!?」「拓海!?」
「そっちの意味で突っ込んでないから!」
「もし突っ込んでいたって答えていたらロリ裁判にかけるところだったよ、危なかったね拓海君」
「お願いですからせめて渚さんはこっち側に来てください……」
「──ふふっ、本当にみなさんは仲がいいんですね♪」
言いながら学園の中から出てきたのは
「村井さんお久しぶりです」
「華ちゃんお久しぶり〜」
「湊さんも、安曇さんもお久しぶりです」
上品にスカートの裾を少しだけ持ち上げてお辞儀をする。
渚さんも同じような仕草もしているが、これがどうして様になっているから不思議だ。
「お、おい、拓海……お前知り合いなの?」
「ん、ああ」
不思議そうな顔でつんつんと小突いてくる充。
柿本もそこまではいかずとも、やはりどこか理解が追いついていないような顔をしていた。
「ほら僕と渚さんって夏休み前……」
僕は充達の知らないところでここの学園にお邪魔したことがあることを伝える。
「はぁー!? なんだよそれ、羨ましいなー!」
「おま、声が大きい!」
「ああごめんごめん」
「それに充だってこれからそこに入るんだから」
「そ、そうだよな……ッ!?」
明らかに動揺している充の前に静かに歩み寄る村井さん。
奈穂ちゃん達とは違った雰囲気に少し後ずさりしてしまっていた。
「ふふっ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。安曇さんや湊さんのお友達というのなら私達は歓迎するので♪」
「そ、そうですよね。あはは……」
この一連の流れを見た柿本はそっと小声で耳打ちをしてくる。
「星川君ってこういうとこ弱いよね」
「ああ。奈穂ちゃんとくっついてから耐性が出来たもんだと思ってたけど」
「まあそこは慣れの問題もあるけど、性格の問題の方が大きいと思うからさ」
「お、おい! 二人共こそこそ喋ってないでこっちをだな!?」
「本当にみなさんは仲がいいんですね──っと、そうでした。自己紹介がまだでしたね。私はしおり女子学園中等部三年の村井華と言います」
「ご、ご丁寧にどうも……。俺──自分は星川充と言います」
「私は柿本明音です。よろしくお願いします村井さん」
「こちらこそよろしくお願いします。──ふふっ、お二人ともそんなに固くならなくても大丈夫ですよほしみつ先生、あかねん先生」
『えっ?』
その言葉に二人は思わず顔を合わせる。
まあそうなるよね。
充と柿本の本名の方であれば今度そっちにお邪魔する……みたいな感じで名前を知る機会があったとしても、ほしみつやあかねんに関しては知らないと呼べない名前なのだから。
しかし僕と渚さんはあえて村井さんが同志であることを伝えてなかったからこうなっているわけで……。
『くすくす……』
見事に予想通りのそれがおかしくて僕と渚さんとでぷるぷると肩を震えさせる。
だけどこれは無理だ……。
『あはははははははは!』
笑いという名のダム決壊を起こし、盛大に笑い転げる。
ちなみにだが、この計画は渚さん経由で村井さんも知っているため村井さんも僕達みたいにとはいかないけれど、それでもくすくすと笑っていた。
「もう、そういうことなら最初から言ってよね!」
「あはは、ごめんね柿本」
応接室に案内されてもなお、頬を膨らませている柿本。
あの後今回のイタズラを一通り説明したものの、どうやら柿本だけは納得いなかったらしく、今に至る。
「すみません柿本さん。私も楽しそうだったのでつい」
「あ、ううん。村井ちゃんは大丈夫だよ! 悪いのは主に拓海くんだから」
「なんか僕だけ当たりが厳しくないスか?」
「まあ諦めろ拓海。正直俺もお前に八つ当たりしたいのをなんとか踏みとどまっているんだ」
「おぅ……」
どうやら暫くこの二人にイタズラを仕掛けるのはやめた方がよさそうだな。
とかなんとか思っていると、渚さんがパンパンと手を二回叩く。
「はいはい、それよりも交流会のことね」
『はーい』
「って言っても結局何をするんですか?」
「夏休み最終日に説明とか言ってたけど出来なかったもんな」
本来ならあの日にやる予定だったが、お酒入りチョコのせいでそれどころじゃなくなったのはまあ言うまでもない。
「それについては華ちゃんからどうぞ」
「あ、はい会長。こほん、この度しおり高校の方を呼んだのはしおり女子学園で開かれるあるお祭りに参加していただきたいと思ったのです」
「お祭り?」
「はい、私達は秋桜祭と呼んでいますが、わかりやすく例えるのなら文化祭といったところです」
「なるほど、つまり私達はその文化祭で出し物をするってこと?」
「話が早くて助かります。まあお店でもいいですし、劇などでもいいです。とにかくしおり女子学園の生徒と交流をしてもらいたいんです」
「それはわかったけど。えーっと、一ついいかな?」
「はい、星川さん」
「どうして交流をする必要があるのか、聞いてもいいかな? いや俺からしたら本当に万々歳だけどさ。なにか理由があるのかなって」
「そういえばまだ話してませんね。理由はあります。みなさんもここの生徒さんと交流があるようなのでわかってはいると思いますが、一つは社会体験ですね」
「社会体験?」
「すみません、オブラートに包んだ言い方がわからなくて……。失礼を承知で言わせて頂くと、ここに通っているのは基本的に世間一般で言うお嬢様で、庶民の暮らしなどには縁がないのです」
『あー……』
みんな夏祭りでの事を思い出したのか、声を揃えて納得する。
確かにここの生徒は愛莉達と同じかそれ以上のお嬢様ばかり、夏祭りの時に気がついたけどそもそも庶民のことについて慣れていないようだったし。
「でもそれって何か問題があるの?」
「そうですね。ここは完全にお嬢様学校という形ではありますが、他は違います。もちろん進学をすれば自然と庶民の暮らしに触れることも多くなります。ですがその時にある程度の耐性などがないと上手く社会にとけ込めない……などというデータが取れてしまったんです」
なんだろうこの感じ……似たような設定というかをどこかで見た気がする。
でも本当にそんなことってあるんだな。
「つまり話をまとめると僕達のやることはここの生徒達と交流を深めつつ、庶民的な出し物をするってことでいいの?」
「はい、本当に申し訳ないと思ってますが、それで大丈夫です」
「ふふっ、華ちゃんもそんなに畏まらなくていいの。私達だってある程度はわかっているから。ね?」
「うん、私もここの生徒さんと話したりしてるし……そこのところは大丈夫かな」
「俺も大丈夫だ。というより俺と拓海の場合は……な?」
「ああ」
「えーっと、おふたりは何かあるんですか?」
不思議な顔をして首を傾げる。
……あれ? この反応もしかして僕達のことを知らないのかな。
まあ確かに二人は言い回るようなタイプでもないし、何より村井さんは学年も違うから仕方ないのかもしれない。
……というかそもそもこういった結婚みたいな話はありふれているからというのも考えられるけど。
念のためだ、僕達は村井さんに愛莉と奈穂ちゃんのことを伝えると。
「えええっ!? おふたりはもうそこまでいっていたんですか!?」
素直に驚かれた。学年の違いはあるとはいえ、どうやらこの手の話はありそうであまりないらしい。
その反応に少しだけ安心している自分がいた。
「それにしてもおふたりはロリ婚を果たされていたとは……本当に驚きです。あ、すみません遅くなりましたが、おめでとうございます」
『ありがとうございます』
「でもこちらこそ意外でした」
「と言いますと?」
「偏見ですが、お嬢様の間ではこの手の話は普通だとばかり思っていたので……」
「実は俺もです」
「ふふっ、まあ確かにこの手の話は無い、とまでは言いません。むしろ多いくらいですが、この年齢では珍しいですね」
ああ、と納得。
よくよく考えてみれば愛莉達は小学生……近いうちに結婚なども視野に入れられる高校生などとは違うからか。
それにいくらお偉いさんでも小学生を相手にするのは気が引けるといったところなのだろう。
……しかしそれをやってしまったのか僕達は。
「でも私はそこに真の愛さえあれば年齢なんて関係ないと思ってるので」
「流石ですね」
「ああ、流石だな」
「お褒めに預かり光栄です」
「……さて、話を戻しますが、何か良い案とかはありますか? もちろん人数的な意味で足りない部分があれば私達が全力でサポートしますが」
言いながらホワイトボードに書き込みをしていく。
「んー、私から質問だけど逆に何がダメとかってあるかな?」
「ダメ、ですか……。難しいですが、常識的な範囲であれば大丈夫かと思います」
「なるほど。それならマッサージ屋とかどうかな?」
「……マッサージ屋ですか?」
「一応私マッサージの知識もあるし。日頃から疲れているロリを癒すのもロリコンとしての役目だと思うの」
……なんて渚さんは聞こえのいいことを言っているが、僕にはわかる。
「渚さん建前はいいので本音をお願いします」
「ロリと合法的にお触りがしたい!」
「はい、アウト!」
「えー……。華ちゃんダメなの?」
「難しいところではありますが、湊さんや星川さんも関わってくると……」
「ふたりには店先で客引きをしてもらいます!」
「渚さん!?」
「それはいくらなんでもあんまりですよ!」
「大体どんなマッサージをするつもりなんですか!」
「そりゃ腕とか足、腰や背中……」
「と?」
「お望みであれば豊胸マッサージを少々……」
「村井審判ジャッジを」
「──ダメです♪」
第一の候補、(色々な所の)マッサージ屋 却下
「では他には何かありますか?」
「はい!」
「星川さん!」
「こほん。あー、触れ合い広──」
「却下です♪」
「まだ何も言ってないよ……」
「却下です♪」
「…………」
「却下です♪」
「何がっ!?」
第二の候補、触れ合い広場(意味深) 却下
「みなさん真剣に考えてますか?」
「本気と書いてマジと読むくらい真剣だよ私は」
「本気で小中等部の生徒さんの胸を揉むつもりであったのなら出し物でなく個人でお願いします……」
「え、個人ならいいの!?」
「まあそこまでの管理をする権限はないので。ですがそこで何かあったら私は真面目に安曇さんとの付き合い方を考え直さなければいけないということだけは心に留めておいてくださいね」
「……はぁい」
「さて、他に何か案はありますか?」
「はい!」
「……星川さん」
「ロリと俺らでツイスターゲーム!」
「この学園には優秀な警備員がいます」
「どうしてそこで警備員の話が!?」
「いえいえ、別に今ここで変質者と叫べばいつでも星川さんを連行できる事を伝えたかったわけではないですよ」
「……すみませんでした」
「はぁ。普通の喫茶店とかでも全然いいので、何か普通の案とかはないですか……?」
流石にツッコミに疲れてきたのであろう。声に張りがなくなってきている。
まあいくら同志とはいえお嬢様だしツッコミの機会なんてそんなにないから仕方ないか。
それに少し固かった空気ももう和らいだみたいだしね。
「あー、こほん。僕もいいかな?」
「はい、なんでしょうか」
「面白くもなんともないけど喫茶店でどうかな? 村井さんもアミテの紅茶が美味しいって言ってくれていたし、店長にお願いしてそこの協力を得てさ」
「私はこの際普通であれば……いえ、私はいいと思います。少なくとも前三つよりは断然に」
「あはは、少し悪ふざけしすぎちゃったみたいだね。でも私もいいと思うよ」
「私も色々考えたけど、やっぱり喫茶店とかのがいいかなって思ってたし異論はないよ♪」
「ま、そこが一番無難だわな」
「あ、でも私達が協力するからと言ってスク水喫茶とかそういうのはやめてくださいね?」
「大丈夫ですよ。普通の執事とメイドのやつにする予定なんで」
「なるほど男装女装喫茶だね」
「違います」
「つまり湊さんや星川さんがメイド服を着て、私達が執事服を着る……?」
「違います逆ですね」
僕達のメイド服姿なんで本当に誰得なんだよ。
「でも衣装とかは大丈夫なんですか?」
「んー、まあ多分?」
「多分ってなんだよ。拓海一応でも宛があるのか?」
「あるにはあるんだけどね。その人忙しいっぽいから受けてくれるかはまだ」
僕の言う宛というのは偶然出会った奈美さんという女性だ。
一応僕の方でも彼女の事を調べてみたけど、本当に凄いデザイナーだった。
彼女が働いている地元の洋菓子店のスイーツエンジェルの制服を始めとして色々なところの服を作っている。
……しかし作っている参考写真には必ずと言っていいほど幼げな女の子が写っているのが気になるけれど。
「とにかく少し確認してみますね」
そう言って僕は部屋から出ると、前にこっそりと受け取っていた奈美さんの携帯番号を打ち込んだ。
『もしもし奈美です』
『あ、奈美さんですか? お久しぶりです湊拓海です』
『拓海くん? お久しぶりじゃないか、そっちから電話をかけてくれるなんて……どうしたんだい? 盗撮カメラでも欲しくなった?』
『衣服の制作依頼です』
『なんだつまらない……』
『おーい』
というか盗撮カメラの依頼ってなんだよ。
などというツッコミはあえてしない。
『時間も無いので手短にお話しますと──』
僕は文化祭で喫茶店を開くことになったこと、そしてそれに衣装が必要だということを話す。
『なるほどねぇ。まあほかでもない君の頼みだからその依頼受けちゃうけど』
『ほ、本当ですか!?』
『うん。お店の電話の方にかかってきているのなら断ることが多いけど、
『ありがとうございます!』
『あ、でも一つだけ条件があるんだけど……』
『条件?』
話を終えて部屋に戻ると、みんな心配そうな顔で見つめてきた。
良いか悪いかはとりあえず村井さんに聞いてからだな、僕は何も言わず村井さんの元に寄り。
「あのすみません、僕達の喫茶店って愛莉達も参加しても大丈夫ですか?」
「うん、人手が欲しいなら大丈夫ですが……どうしてですか?」
「実はですね……」
僕は奈美さんに言われた条件を話した。
……とは言っても奈美さんから出された条件というのは。
「愛莉ちゃん達の衣装も作らせてほしいですか……?」
「うん」
どうやら奈美さんは僕達だけの衣装を作るだけではなく、追加で幼い子の衣装とそれを着ているのを見せて欲しいとのことだった。
だけど愛莉達には愛莉達の仕事もあるだろうしダメかと思ったその時だった。
不意に村井さんは僕の元に近付き。
「それだけであの奈美さんの衣装が着られるなら喜んで承認しますよっ!」
意外にもあっさりと承認された。
話を聞くと、奈美さんは僕の予想以上の人で知る人ぞ知る天才だそうで、村井さんはその事を熱心に教えてくれた。
……と、まあそれからは無事に事が進み今日は一旦お開きに。
「本日はお邪魔させていただいてありがとうございました」
「いえこちらこそ無理行ってこんなところまですみません」
一応形だけでもと真面目にやり取りをしている村井さんと渚さんを横目に僕と充は惜しげにしおり女子学園を眺めていた。
「……なあ拓海さんよ」
「なんだい充さんよ」
「よくさ、女子校の空気をペットボトルに詰めて売るみたいな話あるじゃん?」
「あー、あるな。でもあれって本当はやらないんだろ?」
「うん。だけど俺思うんだ、女子学園……しかもお嬢様学校の空気ならいい値で売れるんじゃないかって」
「やめとけ……」
「やっぱりやめといた方がいいかな?」
「下手したら消されるぞ」
「消されるって……販売ルートとかそういうのか?」
「いや、充が」
「俺ッ!?」
──そんなこんなでしおり女子学園を後にした僕達。
もちろん空気をペットボトルに詰めたりせず、妥協案として肺いっぱいに吸い込んだだけで終わらせたとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます