第36話 ロリ様ゲーム


 ある時ロリはこう言った。

「貴方には私のお相手には相応しくありません。もっと修行してから出直してください」

 そしてロリコンはこう返す。

「よろしいならば結婚だ!! そうすれば僕の魅力が全てわか──」


 この後、このロリコンはあえなく御用となった。

 その去り際に放った「僕のことは嫌いになっても、ロリコンのことは嫌いにからないでください!」は今でも人類ロリコン史に残る迷言として語り継がれているとかいないとか。



 


「「どうしてこうなった……」」


 夏休みも終わりが見え始めた八月下旬のとある日。

 ここは朝武邸にある部屋の一室。変態紳士ロリコンの悲願であるロリ……それもとびきりのお嬢様と結婚を成し遂げたも同然の男、湊拓海とその親友であり同じくロリ婚を果たしたもう残念系イケメンメガネとは言わせない星川充は心の底からそう思った。

 ……いや口に出ていたかもしれない。

 目の前には湊拓海の恋人でありお嬢様の朝武愛莉を始め、愛莉の親友でありやはりお嬢様でもある兼元紗々、そして親友の充とロリ婚を果たした同じくお嬢様の天海奈穂……そして拓海達の親友の柿本明音が頬を赤く染めて立っている。

 その隣には愉快そうにこちらを見ている朝武のメイド月山愛優さんと僕らのリーダー安曇渚さん。


 このそうそうたるメンバーが集まる中、僕達は特に深い意味もなくパンイチで土下座させられているのだからこんな風に思ってしまうのは仕方ないだろう。

 何が悲しくて女子小学生や同志の前で……しかもパンイチで土下座しなきゃいけないんだ。

 しかしながら悲しいことに今の僕達はこのロリ達には逆らえない。

 それでも流石にかれこれ10分近くこうしているので恥ずかしさがピークに達している。


 「あの……僕達はいつまでこうしていれば。恥ずかしいからそろそろ服も着たいんだけど……」


 そう言いながらおずおずと顔を上げる。

 しかし不敵な笑みを浮かべる女王様達から告げられた言葉は、


「ダメれす♪」「ダメだよねっ」「ダーメッ♪」


 なんとも無慈悲なお言葉だった。

 普段の三人ならこんな事はまず言わないであろう。普段の三人なら……。


 「そんな……こんなことってあるかよ……」と、拓海は嘆き。

 「これが、女の子のやる事かよぉ!!」と、充は己の不甲斐なさに絶望する。

 しかしロリ様達の追撃は止まず……。


 「せんせぇはわたしのお願いきーてくれないんれすか?」

 「うっ……」

 「みつるしゃん……お願いします」

 「うぅ……」


 自分の恋人にそういわれると僕も充も反論できない。

 だって可愛いから! どうしようもなく愛おしいんだもん!

 なんて言ってるからこうなっているのもわかってはいるけど……。

 そもそもどうしてこうなったのか、それは夏祭りの日、みんなで銭湯に入ったところまで遡る。



 「……ここでみなさんに大切なお知らせがあります」


 湯船に浸かりつつ、真面目な顔で切り出す渚さん。

 大体こういった時はロクでもない事を言い出すので少し身構えてしまう。


 「で、どうしたんですか急に?」

 「これはまだみんなに知らされて無い……というより極一部にしかまだ知らされてないことなんだけど、しおり高校としおり女子学園との交流会が行われるみたいなの」

 「しおり女子学園?」


 僕達が「おぉ」と声を上げる中、ひとり充だけはてなマークを浮かべる。

 まあ無理もないか。


 「しおり女子学園は愛莉や奈穂ちゃん達の通ってる学園だよ」

 「えっ、えっ!?」


 簡潔に説明すると充はそうなのか? という確認も込めて奈穂ちゃんの方へと向く。


 「はい、確かにしおり女子学園は私達の通う学園です」

 「でもどうして急に先生達が通う学校と交流会を?」


 確かに言われてみればそうだ。

 しおり女子学園は行ったことがあるからわかるが、あそこはまさにお嬢様のみが通うことの許される学園で言わばお嬢様学校というやつだ。

 それに対してしおり高校はこれと言ってなにか特別なものがあるわけでもない、どこにでもあるような高校。

 本来ならばその両者は交わるはずがないのだが……。


 「渚さんなにかあったんですか?」

 「んー、私も詳しい事はわからないんだけど……あっちの学園長がね良い機会だからって。どうやら私達の噂を聞いたみたいで」

 「マッジか……」


 僕達は以前あちらの学園にお邪魔させてもらった事があったけど、恐らくこれはそのときのことだろう。


 「ま、なんにせよいいじゃないまた行けるんだからさ♪」

 「それはそうですね。……あ、でも何人までとかあるんですか? 流石にいくらなんでもうちの生徒全員てわけにはいかないでしょう」

 「うん、一応私含めて四人てことになっててね。その連れていく人も私が決められるの」

 「なら僕達も可能性があるってことですね」

 「可能性じゃなくて行くの」

 「……へ? だってこれは言わば生徒会の人達から選ばれるのが普通じゃ」

 「もちろん一応話はしたんだけどね……。やっぱりお嬢様学校というところに少し恐怖心を抱いているのかみんな断っちゃって……」

 「ああ、なるほど」


 確かに何も知らない人からしたらお嬢様というのは庶民に対して差別が激しいとか、住む世界が違うとか色々と想像してしまうもんな。

 ……まあ前者はともかく後者は本当の話なんだけど


 「そんな訳で二人ともいいかな? 明音ちゃんには私から言っておくから」

 「僕は全然構いませんよ」

 「俺も大丈夫です。というかむしろこちらからお願いしたいくらいです」

 「ありがとう♪ じゃあその辺の話を詳しくしたいんだけど……」

 「なら私の家でどうでしょうか?」


 と、そこで愛莉が手を挙げる。

 確かに愛莉の家ならば十分に広いし、警備とかそこら辺も申し分ない。


 「私達が行ってもいいの?」

 「はい、構いませんよ。ね、愛優さん?」

 「はい。それに決めるのは私ではなく愛莉様なので」

 「それなら……お言葉に甘えさせてもらおうかな。集まるのは夏休み最終日……は忙しいだろうからその前日でいいかな?」

 「了解っす」

 「なら僕達はその日に合わせて色々用意していますね」

 「悪いけどお願いします」




 そして当日、渚さんからの伝言を受け取った柿本を含めた計六人は僕達の家へと来た。

 それからみんなで今回の話の流れを説明されたり、普段中々できないロリとの会話を楽しんだりしていたのだが、途中愛優さんが持ってきたチョコを食べてから事態は大きく急変した。

 突然なんの気の迷いか王様ゲームを始めることになった僕達なのだが……。


 『王様だーれだ!』

 「私ですね♪」


 一斉に割り箸を引き、先端に赤いマークのついた箸を掲げる奈穂ちゃん。

 その時僕の番号は4で充の番号は5だったのだが、そこから悲劇が始まった。


 「それでは王様、ご命令を」

 「んー……」


 そう言って顎に指を当て少し考える仕草をする。


 「4番と5番が、抱きしめ合ってくださいっ♪」

 「えっ」「はっ!?」


 僕達は思わず顔を合わす。予想外の命令とそれをピンポイントで親友に当てられた驚き、そして今からその相手を抱きしめなければいけないというなんとも言えない気持ちが色々交わり互いに微妙な表情になっていた。


 「これ男同士でやってなんの需要があるんだ?」

 「知らない。僕に聞かないでくれ……」


 そう言っている奈穂ちゃんの頬はわかりやすいほど真っ赤になっていた。

 もしやと思って僕達は愛優さんから渡されたチョコを手に取り、その時疑いは確信に変わった。

 一応他の顔を見てみるが、奈穂ちゃん同様顔を真っ赤にしていることから推測するに。


 この人達……酔ってらっしゃる!?


 そう気付いた時には既に遅かった。僕達に彼女達を止める術はなく、そのまま僕と充は抱きしめあい、王様ゲームはそのまま続行……ここからは本当に地獄のような光景だった。


 ある時は充が女王奈穂様のありがたい鞭を受けたり、またある時は僕が女王紗々様に踏まれたり……我々の世界ではご褒美です!!! と、言いたいところだが状況が状況なのでそんな事言えたもんじゃない。

 と、まぁそんな事があり、その後酔った柿本にこれまたピンポイント指定が入り、パンイチとなった。

 ……そして今は愛莉女王の番。


 「んー、では三番の方は私にちゅー、してくらさい♪」


 そんな命令が女王愛莉様から下される。僕の握っている割り箸に振られた番号はお察しの通り三番。

 超能力でも保有しているんじゃないかと思わずにはいられないくらいの的中率。


 「た、拓海!」

 「わかってる……」


 しかし今は色々言っている場合ではない。

 ここは一度ロリコンである誇りを一旦忘れて全てを我が女王、愛莉に捧げる。

 そしてそのまま僕は優しく愛莉の柔らかな頬に軽く唇を当てた。


 「……これで、いいかな?」

 「わぁい♪ せんせいからちゅーされちゃいました♪」


 どうやら頬でも大丈夫らしく、女王様はとても上機嫌でいられた。

 僕からしたら何が悲しくてパンイチで女子小学生にキスしなくてはならないのだと問いたいところだが、あいにくみんな酔っているから無駄に終わるだろう。

 ならばこんなゲームは早く終わらせるに限る。

 しかしここの人達はきっと寝落ちするまで続けるだろう……そんなの僕達が耐えきれない!

 ということで僕達のやることは一つ! 僕達のどちらかが王様を引いてそこでこのゲームを終わらせること。

 このゲームに置いて王様、女王様の命令は絶対。

 いくら酔ってるとはいえ、そこだけはしっかりしているから大丈夫だろう。

 僕は充とアイコンタクトを取り、意思を共有したのを確認し。


 「とにかく次、行くぞ! せーのっ!」

 『王様だーれだっ!』


 引いた割り箸を恐る恐る見る。

 ……しかし目に入ったのは王様の印である赤いラインではなく3番の文字。

 ならば一体誰が王様だ!


 「やっと回ってきたよ♪」


 そう言って赤いラインの入った割り箸を出すのは一夜梓桜。

 だが幸いなことに彼女の顔を見るにどうやら酔っていないみたいだ。

 今まで散々な罰ゲームラッシュだったからやっと休憩が出来ると安堵の溜息を零す僕達。

 これなら安心して命令を聞けそうだ。


 「では王様ご命令を」

 「んー、……3番の人が私の頬にキス♪」

 「…………へ?」

 「だから3番の人が頬にキス♪」


 oh......。

 どうしてこうも毎回ピンポイント指定なんだ?

 どうやら僕が3番を引いたのがバレたみたいでみんなの視線がこちらに移る。


 「うっ、わかってるよ……」


 僕はそのまま顔を近づけ彼女の頬に優しく唇を当てる。


 「ありがとう♪」

 「……どういたしまして」


 いくら頬とはいえ人前でキスは恥ずかしいな。

 ……というか恋人がいるのにこれはいいのだろうか。まあ愛莉も沈黙しているみたいだしこれは遊びの範疇で捉えられているのかな。

 しかしこれがみんなのスイッチが入ることになるとは思いもしなかった。


 ──次のゲーム。


 『王様だーれだっ!』

 「……私れす! 先生、覚悟してくらはいね♪」

 「えっ?」


 王様を引いた愛莉からの突然の覚悟してろよ宣言。

 しかし王様ゲームは番号で指名するタイプのゲームだ。

 今のプレイヤーは王様である愛莉を除けば僕、充、柿本、梓桜、紗々ちゃん、奈穂ちゃんの計六人。当たる確率は六分の一決して悪くない数字だ。

 渚さんと愛優さんが入ってくれれば八人となりもっと確率が低くなるけど、愛優さんは撮影がどうとか言って渚さんと一緒にどこかへ行ってしまったから仕方ない。

 そして今回は悟られぬよう、自分自身この割り箸に書かれている番号が何番かもわからないのだ。


 「うーんとですねー」


 酔っているからかいつものようにパッと出てこないらしい。

 その間僕はずっとお祈りをする。

 どうか楽な命令でありますように……と。


 「1番の方は好きな人の好きなところとその人に向けての愛の言葉を囁いてください♪」


 少し酔いが覚めてきているのか今までの命令とは違い、結構軽くなってきた。

 その事に安心しつつ自分の番号を確認する……もちろん言わずもがな1番だったよ。

 もうこれ超能力とかじゃないのか……。とかなんとか思いつつもロリ様もとい王様の命令は絶対なので、僕は愛莉の近くに移動する。


 「えへへ、先生はどんな言葉をくれるのか楽しみです♪」


 なんというか本気で楽しみにしている。

 ラブコメも書くこともあるから告白は大丈夫……なはず。

 というのも愛莉と恋人になった時も愛莉からの告白だったし、今思えば好きかは言うけど愛してるとかはあんまり言わないからな……。

 ええい、ここはもういくしかない! 男は度胸!

 僕は一旦深呼吸を挟み。


 「……コホン。僕、湊拓海は朝武愛莉の事を心の底から愛しています」

 「──ッ!!」

 「小学生とは思えないほど真剣な瞳をする愛莉が好きです。アマチュアの小説書きでしかない僕のことを先生と言って慕ってくれるそんな愛莉が好きです。時折見せる恥ずかしそうにする姿も、みんなで遊んでいる時に見せる年相応の笑顔も、無防備に気持ちよさそうに眠っている顔も、優しいところも全部好きです」

 「う、うぅ……」

 「今みたいに褒めたりすると顔を真っ赤に染まるところも好きです、僕が風邪で寝込んだとき色々な本を読んで必死に看病してくれたり……」

 「た、たーいむ!」

 「本当に一度上げだしたらきりがないくらい好きなところが多い愛莉を僕は大好きで愛しています」

 「せんせぇダメ、それ以上は……」

 「愛莉、これからも僕と一緒に居てくれるかな?」

 「……は、はい。それはもちろんそのつもりですが」

 「ありがとう愛莉」

 「せんせいは卑怯れすよぉ……確かに好きなところを言ってくだしゃいとは言いましたけどぉ……」

 「まだまだあるよ?」

 「これ以上言われたら嬉しさのあまり死んでしまいそうです……」


 上手く聞き取れはするものの、声はもうトロットロで小学生相手に少しエロさを感じてしまうほどだ。


 「それは困るなぁ」

 「は、はい、困ります。困りますからもう、大丈夫です!」


 今ので完全に酔いが覚めたのか言葉もはっきりとしてきて、今は違う意味で顔が真っ赤になっていた。

 もう少しからかいたかったけれど、愛莉が死んでしまうのは困るからやめておこう。


 「……なあ梓桜さん」

 「うん?」

 「俺王様ゲームでここまでの惚気を見たのは初めてなんだけどこれが普通なのかな?」

 「さあ……。少なくとも私もここまでのは初めてです」

 「だよなあ……ん?」


 とかなんとか言っていると、不意に服を引っ張られる。

 そちらへ視線を向けるとそこには拓海達を羨ましそうに見つめる奈穂。


 「……まさか」

 「愛莉さんだけズルいです。私も……充さんに褒めて欲しいです」

 「ふふっ、あなたも大変そうね」


 ロリ達に振り回されている二人の高校生ロリコン

 後に僕達はこの日のことをロリ様事件と呼んだり呼ばなかったり。

 だけどこんな日であっても夏の思い出には変わらない。

 こうして僕達の夏の日の思い出に新たな1ページが刻まれるのであった。

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