第23話 それでも僕は○○じゃない


 ロリの定義とはなんだろう。

 僕は時々そんな事を考える。

 世間一般的には十二歳~十五歳の少女のことを指されている。

 それより下はアリスなどの名称があるのも(ロリコンにとって)常識的な範囲だと言ってもいいだろう。

 しかし今一度考えてみてほしい。

 確かに小学生である十二歳やまだ小学校から卒業して一年足らずの十三歳ならば見た目なども踏まえてほとんどの場合ロリと呼べるだろう。

 しかし十四、十五ともなれば身体は大きく成長しほとんどのロ……女の子はロリと呼べるか微妙な身体付きになるだろう。

 しかし、しかしだ! ならばそれ以上である高校生や大学生……そしてバ、熟している方々は完全にそうではないと言えるのだろうか? 答えはノーだ。

 例えば、そう例えばだ、もし目の前に見た目が小学生くらいの女の子がいたとする。

 わかりやすく言うとコ⚫ン、コナ⚫みたいに中身は大人、見た目は小学生の女性がいるとしたらどう思うだろうか?

 答えは簡単……あっ、こんなところにとても可愛らしく一言で表すのなら天使としか言えない幼──ロリがいる!

 そうならないだろうか? ……え、ならない? はっはっはっ、ご冗談を。

 つまり僕は思うのだ、ロリとは中身が問題なのではない……外なのだ!

 低身長、貧乳、童顔の三種の幼器が揃ってるなら言わずもがな、例え中身が二百歳も超えてるどこぞのロリ市長様でも見た目がロリだからロリだし、見た目に対して明らかに不釣り合いなメロンを持ち合わせているとしてもソレ以外にロリ成分が多ければロリとなるのだ!

 そして残念ながらもそれを好きになってしまう人がいる……でもそれは仕方ないんだ、何故なら好きなのだから!!

 …………だが、ここで一旦考えて欲しい。

 もし年齢的なロリじゃなくて⚫ナンみたいに中身は大人だけど見た目がロリな女性とおっさんが並んで歩いていたら例え中身だけ見れば同じ年齢でもロリコンといわr………………。




 ある夏の日の朝。

 日中は三十度を超える日であっても朝は比較的涼しい。

 それを知った僕は時々早く起きては敷地内の散歩を楽しむようになっていた。

 そして今日も同じように朝いつもより少しだけ早く起きて散歩に行くために準備をしようとした時の事……。


 「……ナニコレ?」


 いくら敷地内とはいえ寝間着姿で出歩くのは恥ずかしいというかなんか違和感というものがあったためそれなりに身軽な服装に着替えるのだが……いつものようにタンスを開けた時、それはいつもとはかけ離れた出来事に遭遇してしまった。

 別にタンスの中身が空になっていたとかいうわけではない。

 むしろいつもより多いくらいだ。

 だが問題はそこではない。


 「…………」


 僕は試しに一番近い衣服を手に取り広げてみると、上下一体になっているその服はその全貌を明らかにし同時に僕の理解が更に追いつかなくなる原因ともなった。

 何故ならば僕が自分の服の入っているはずのタンスから出して広げた服はどこからどう見ても女性が着るような真っ白なワンピースだったからだ。

 広げたばかりだと言うのに無駄にシワひとつないこの出来栄えからして犯人は考えずともわかるのだが、それよりも僕はどうしてもわからない事があった。


 「……ナニコレェ」


 念のため他の段を開けてみたのだが、元々下着が入っていた場所には僕が使っていた男性用の下着ではなくいかにもつい最近買ってきましたという感じがする可愛らしいショーツやブラがズラリと詰まっていた。それもご丁寧にブラのところにはそれに合うパッドまで。


 「これを見せて僕に何をしろって言うんだ……」


 そうは言いながらも何をさせたいかわかってしまう自分がいるのはきっと数日前のアレが原因だろう。

 僕が初めて自分の顔が中性的な顔だと知ったあの日……。


 「次の日に妙に残念な顔をしていた人がいたけどまさかここまでするなんてなあ……」


 その残念な顔をしていた人は言わずもがなこれをやった犯人である。


 「他の段には……ナニコレ?(三回目)」


 僕の使っているタンスは五段あり基本的に使っているのは真ん中とその一つ上の二つだけだったのだが、一応念のためと一番上の段を開けてみて僕は再び思考停止。

 それもそのはずでそこに入っていたのは髪の毛……俗に言うウィッグというものだった。

 しかしそれは一つや二つではなく、『その日の気分に合わせてご自由にお使い下さい。愛優』ってメモが置いてあるように……って。


 「その日の気分に合わせてご自由にお使い下さいじゃないよっ!!? あまりにも自然な形でメモが置いてあったからスルーしそうになったけど!」


 それに愛優って自分の犯行を隠そうともしてないし!?


 「なんというか……あの人本当にすごい才能が詰まってるのにどうしてその才能の使い方を全力であさっての方向に使っちゃってるのかな……」


 そう言いながらウィッグの段を閉めて、真ん中の一個下……特に何も入れていないはずの段を開けてみる。


 「…………本当に、これを、どうしろと?」


 そこに入っていたのは詳しい事は言えないが、簡単に言うと生理用品であった。

 もちろん男性用のオムツみたいなものではなく、ガチのやつだ。

 男であれば恐らく……いや、まず必要になる事が無いものだ。

 しかしソレはしっかりと男の部屋のタンスの中に入っていた。


 「……ここまで来るとここが自分の部屋なのか疑問を抱いてしまうな……」


 半分目が死にながら部屋を見回してみる。

 もし何かの事故で自分以外の部屋を使ってしまったのなら勝手にタンスを漁ってしまったことを全力で土下座して許して貰えばいい。

 そんな風に思っていたのだが、現実はとても非情でタンスの中身を除けば部屋の中はいつもと同じ見慣れた僕の部屋だった。


 「……とりあえず話を聞いてみるか」


 僕はもう一度部屋を見回してみる。

 しかしついさっき確認したばかりなのでどこも変わった様子はない、そうなると。


 「つまりここにいるわけだ」


 そう言って僕はベッドの下の空間を覗き込む。

 そこにはやはりというかなんというか、僕の期待を悪い意味で裏切らないメイド姉の愛優みゆさんがビデオカメラを片手に潜伏していた。



 「……で、どういうことなんですか?」

 「どういうことって……そんな事、乙女の私の口から言わせるつもり、ですか?」

 「乙女っぽく言ってもそのカメラのせいでまっったくそう感じないですからね!?」

 「まぁとにかく落ち着いてください湊様。それに寝巻きの姿ではなんですし早くお着替えになられては?」

 「その前に僕の服を返して欲しいんだけど?」

 「湊様の服はソコに入ってますよね?」

 「いやだからあれは女装用の服で──」

 「いえですからあれが湊様の服です」

 「…………は?」

 「いやいやいや、僕は男だよ!? なのにあの中に入ってた服は全部女性ものの服だよね!!?」

 「それが何か?」

 「いや何かじゃないよ!」

 「ほらこんな名言があるじゃないですか『買わないで後悔するよりも、買って後悔した方がよい』。つまり女装して後悔するよりも、女装しないで後悔した方がよい」

 「うん、そうだな?」

 「あ、いや違います、女装せずに後悔するよりも女装して後悔した方が良いって言いたかったんです湊様」

 「例えどちらを選んでも後悔するにしても僕は心のダメージが少ない前者を選びたいと思うんだ」


 そう言うと愛優さんは何かを考えこむように顎に手を当て少し「うーん」と唸る。


 「……あっ、そうだ湊様」

 「いやどんな名言とか言われても僕は女装なんてしな──」

 「私がこっそりと盗撮した厳選されし愛莉様の激カワ秘蔵コレクションを少し横流ししますよ?」

 「い、いや……でも女装は……っ!」

 「なら四分の三!」

 「ぐっ、で、でも……」

 「わかりました半分、に愛莉様の成長アルバムを好きな時に貸し出せるようにします」

 「今から着替えるので少し手伝ってくれませんか?」


 こうして僕は人生で二度目の女装をすることになった。




 「……はい、もうよろしいですよ」

 「おぉ……」


 最後の仕上げとしてのメイクも終わり鏡を見た僕は思わず関心の声を漏らす。

 以前女装した時から思っていたのだが、メイドということで忘れがちだが愛優さんもお年頃の年齢……こういったことに関してはきっと愛優さんの右に出る人は早々いないであろう。


 「それにしても今こうして鏡を見ても本当に信じられないな……」

 「はい、メイクをした私でさえも湊様の事を女性と勘違いしそうになりました」

 「…………」

 「というよりも湊様いっその事女性として生きて──」

 「拒否させていただきます!」

 「どうしてですか!?」

 「どうしても何も僕は男だからね! 男なら拒否して当然でし──」

 「目の前の鏡を見ても同じ言葉が言えますか?」

 「…………」


 その一言は僕の心を確実に一点の狂いもなくえぐる。


 「いいじゃないですか女性でも。湊様だって冒頭に言ってたじゃないですか、ロリは見た目で決まるって」

 「それは……言いましたけど……」

 「ですから見た目は女の子として生きても中身が男である限り湊様の中では湊様は男なのです」

 「いや待て今僕の中では男って言ったよね?」

 「そして周りからは湊様は女の子という認識が広まり、いつしか湊様自身『私は……女の子だったんだ』ってなるはずなので」

 「…………で、本当の目的はなんですか?」


 そろそろいい加減にこのやり取りも疲れてきたしあっちから言うつもりも無さそうだったのでいきなり本題を切り込んでみる。

 たった二ヶ月……されど二ヶ月のあいだメイドと主人という関係だが一緒に生活しているんだ、いくら自分が楽しみたいという理由が含まれてるとはいえ流石にここまではしな……いやするけど、理由も無しにここまではやらない……はず。


 「……やはり湊様には敵いませんね」

 「やっぱり、か」


 流石の愛優さんでも堪忍したらしいく、いつにも増して真剣な眼差しを鏡越しに向ける。

 思わず僕まで表情が固くなってしまう。


 「本当の目的、それは……」

 「それは……」

 「先日、とある理由により他の朝武のメイド達に湊様の女装写真を見られてしまい、どうしても会わせろと言われましたが流石に大勢の方に見られるのは……と思いまして、湊様の女装写真数枚で妥協していただいたからです」

 「……ちなみに、成功報酬は?」

 「各々のメイドが湊様に似合いそうな女性服を数着ずつ」

 「……それで愛優さんはなんの得が?」

 「前回と似たような事態が起きた際、色々と理由を付けて着せ替え人形のように湊様の女装を楽しむためです」

 「……そして僕の得られるメリットは?」

 「……女装姿のレパートリーが増える?」

 「むしろデメリットじゃねぇかッ!!」


 こうして僕はいつものように愛優さんの手の平の上でコロコロと転がされる日々。

 こんなツッコミ満載な日々が続いてもなんとかなってるのは愛莉という天使のようなロリがいるからだと愛莉とは関係ないところで思わされる。

 ……でもこんな日々も楽しいからアリだと思ってしまうのはきっと僕にMっ気があるからだと確信しています。by月山愛優


 それでも僕はMじゃない by湊拓海

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