第21話 夏の日の思い出


 ある時ロリはこう言った。

「貴方には私のお相手には相応しくありません。もっと修行してから出直してください」

 そしてロリコンはこう返す。

「よろしいならば結婚だ!! そうすれば僕の魅力が全てわか──」


 この後、このロリコンはあえなく御用となった。

 その去り際に放った「僕のことは嫌いになっても、ロリコンのことは嫌いにからないでください!」は今でも人類ロリコン史に残る迷言として語り継がれているとかいないとか。



 


「「どうしてこうなった……」」


 七月も後半になり、暑さもどんどん増していくある日……ここは朝武邸にある部屋の一室。その部屋の主である変態紳士ロリコンの悲願であるロリ……それもとびきりのお嬢様と結婚を成し遂げたも同然の男、湊拓海とその親友であるロリとしか結婚したくない残念系イケメンメガネの星川充は心の底からそう思った。

 目の前には湊拓海の恋人でありお嬢様の朝武愛莉を始め、愛莉の親友でありやはりお嬢様でもある兼元紗々に天海奈穂……そして拓海達の親友の柿本明音が頬を赤く染めて立っている。

 僕達は特に深い意味もなくパンイチで土下座させられているのだからこんな風に思ってしまうのは仕方ないだろう。

 何が悲しくて女子小学生の前で……しかもパンイチで土下座しなきゃいけないんだ。

 しかしながら悲しいことに今の僕達はこのロリ達(と柿本)には逆らえない。

 それでも流石にかれこれ10分近くこうしているので恥ずかしさがピークに達している。


「あの……僕達はいつまでこうしていれば。恥ずかしいからそろそろ服も着たいんだけど……」


 そう言いながらおずおずと顔を上げる。

 しかし不敵な笑みを浮かべる女王様達から告げられた言葉は、


「ダメれす」「ダメですね〜」「ダメだよ」「ダーメ♪」


 なんとも無慈悲なお言葉だった。


「そんな……こんなことってあるかよ……」と、拓海は嘆き。

「これが、女の子のやる事かよぉ!!」と、充は己の不甲斐なさに絶望する。

 しかし女王様達の追撃は止まず……。


「あらあらわんちゃんは人間の言葉を話してはメッ、ですよ♪」

「答えは『ワン!』だよお兄ちゃん!」

「ほら言いなさいよ〜人間様の言葉を喋ってごめんなさいわん! って〜」


 天海さんに紗々ちゃん、そして柿本までもが容赦なく僕達を追い詰める。

 そもそもどうしてこうなったのか、それは今から一時間ほど前に遡る。



 僕と愛莉達の事がバレた次の日、僕達ロリコン組と愛莉達ロリ組はここ、愛莉の家で再び会うことになった。


「……では、改めまして。こちらの残念系イケメンメガネが僕と同じサークル『幼子の楽園』で活動しているほしみつ先生こと星川充」

「どうも! 残念系ロリコンメガネのほしみつこと星川充でっす! ここには未来のお嫁さんを探しに来ましたっ!」


 キランという効果音が聞こえてくるように白い歯を見せる。

 小学生相手にこんな合コンみたいな自己紹介なんてしたら普通は引かれるを通り越して通報されるがここにいる小学生はみんな優しいのでパチパチと手を叩き残念系イケメンロリコンメガネに拍手を送っていた。

 なんというかみんなの代わりに僕が充を通報したい気分である。


「こほん。それでこっちの巨乳のお姉さんが僕や充と同じく『幼子の楽園』で活動しているあかねん先生こと柿本明音だ」

「柿本明音です。みんな宜しくねっ♪」


 そう言って手を膝につき、みんなの目線に合わせるために前屈みになる。

 こちらも充の時と同様に小学生組から拍手が送られる。

 ちなみに前屈みになった時、柿本の豊満なメロンが腕と腕に挟まれて溢れてこちらまで前屈みに……っといかんいかん。


「そしてこちら黒髪ロングのロリ──女の子がこの家の家主である朝武愛莉で、こちらのツインテールが兼元紗々ちゃん、最後に茶髪のロングが天海奈穂さん」

「あかねん先生、ほしみつ先生よろしくお願いしますっ!」

「星川お兄ちゃん、柿本お姉ちゃんよろしくね!」

「星川さん、柿本さんよろしくお願いします」


 三人のロリ達は独自の呼び方でロリコン達を呼びながら握手をする為に手を差し出す。


「よ、よよよろしくお願いします!」「よろしくね♪ あ〜愛莉ちゃんの手暖かくて柔らかいね」

「ありがとうございます。あかねん先生もとても女性らしい手ですよ」

「もう上手いんだから♪」


 不意に伸ばされた手にガッチガチに緊張しながら握手を交わす充と溢れんばかりの笑みを隠しきれずにやけ顔になっている柿本。

 こんな高校生を見ても表情一つ崩さない辺り、普通の小学生とは違うという事を改めて実感した。



 それからみんなで会話を楽しんだりしていたのだが、途中愛優さんが持ってきたチョコを食べてから事態は大きく急変した。

 突然柿本が言い出した王様ゲームを始めることになった僕達なのだが……。


 『王様だーれだ!』

 「私だぁ!」


 一斉に割り箸を引き、先端に赤いマークのついた箸を掲げる柿本。

 その時僕の番号は4で充の番号は5だったのだが、そこから悲劇が始まった。


 「それでは王様、ご命令を」

 「ん〜とね〜」


 そう言って顎に指を当て少し考える仕草をする。


 「4番と5番が〜ちゅ〜ってして♪」

 「えっ」「はっ!?」


 僕達は思わず顔を合わす。予想外の命令とそれをピンポイントで親友に当てられた驚き、そして今からその相手にキスをしなければいけないというなんとも言えない気持ちが色々交わり互いに微妙な表情になっていた。


 「ほら、は〜や〜く〜。ちゅ〜ってするだけなんだから〜」


 そう言っている柿本の頬はわかりやすいほど真っ赤になっていた。

 もしやと思って僕達は愛優さんから渡されたチョコを手に取り、その時疑いは確信に変わった。

 一応小学生組の顔を見てみるが、柿本同様顔を真っ赤にしていることから推測するに。


 この人達……酔ってらっしゃる!?


 そう気付いた時には既に遅かった。僕達に彼女達を止める術はなく、そのまま僕と充は頬にキスをして、王様ゲームはそのまま続行……ここからは本当に地獄のような光景だった。


 ある時は充が女王天海様のありがたい鞭を受けたり、またある時は女王紗々様に踏まれたり……我々の世界ではご褒美です!!! と、言いたいところだが状況が状況なのでそんな事言えたもんじゃない。

 と、まぁそんな事があり、その後酔った柿本にこれまたピンポイント指定が入り、パンイチとなった。

 ……そして今は愛莉女王の番。


 「んー、では三番の方は私にちゅー、してくらさい♪」


 そんな命令が女王愛莉様から下される。僕の握っている割り箸に振られた番号はお察しの通り三番。

 超能力でも保有しているんじゃないかと思わずにはいられないくらいの的中率。


 「た、拓海!」

 「わかってる……」


 しかし今は色々言っている場合ではない。

 ここは一度ロリコンである誇りを一旦忘れて全てを我が女王、愛莉に捧げる。

 そしてそのまま僕は優しく愛莉の柔らかな頬に軽く唇を当てた。


 「……これで、いいかな?」

 「わぁい♪ せんせいからちゅーされちゃいました♪」


 どうやら頬でも大丈夫らしく、女王様はとても上機嫌でいられた。

 僕からしたら何が悲しくてパンイチで女子小学生にキスしなくてはならないのだと問いたいところだが、あいにくみんな酔っているから無駄に終わるだろう。

 ならばこんなゲームは早く終わらせるに限る。

 しかしここの人達はきっと寝落ちするまで続けるだろう……そんなの僕達が耐えきれない!

 ということで僕達のやることは一つ! 僕達のどちらかが王様を引いてそこでこのゲームを終わらせること。

 このゲームに置いて王様、女王様の命令は絶対。

 いくら酔ってるとはいえ、そこだけはしっかりしているから大丈夫だろう。

 僕は充とアイコンタクトを取り、意思を共有したのを確認し。


 「とにかく次、行くぞ! せーのっ!」

 『王様だーれだっ!』


 ──それから三十分後。


 『王様だーれだっ!』

 「……私れす! 先生、覚悟してくらはいね♪」

 「くっ!」

 「またしても……」


 ──更に三十分後。


 『王様だーれだっ!』

 「……あ、ボクだね」

 「なん……だと……」

 「…………」


 ──そして更にそれから十分後。


 『王様だーれだっ!!』

 「……や、やった……やったぞ!」

 「た、拓海?」

 「王様は僕だーー…………あぁ」


 王様のマークが書きこまれた棒を持ちそのまま倒れ込む。

 やっと王様は引けた……だが。


 「……みんな寝ちゃってるからなぁ」

 「……結局俺たちは一度も王様になれなかったってわけか……」


 周りを見回してみると、みんな同じようにすーすーと心地よさそうな寝息を立てて寝ていた。

 酔っていたとはいえ、それでもかなり楽しかったのだろう。

 みんなの寝顔は等しく笑みを浮かべていた。


 「……愛優さん」

 「はい、なんでしょうか」


 どこかで見ているとは思っていたけれど、流石の早さだ。

 声をかけると同時に部屋の扉が開く。


 「みんなを部屋まで運ぶの手伝ってくれない?」

 「そうそう、俺たちだけだとこの人数はちょーっと辛いからさ」

 「それは構いませんが……」


 そこまで言って愛優さんは僕達の姿を観察するようにふむふむと頷くと。


 「なるほど。なんだかんだ言ってもお二人共男の子、ですね」

 「「えっ?」」

 「隣に部屋を用意してあるのでパンイチのロリコンさん」


 それだけ言うと愛優さんは前で奈穂さんを抱いて、後ろに紗々ちゃんをおんぶし逃げるようにこの部屋から出ていった。

 そして再び静かになった部屋で、僕達は視線を合わし。


 「「…………」」

 「「あああああああああああぁぁぁぁあぁあぁっっ!!!!」」


 やってしまった……そんな気持ちだけが僕達を支配した。

 後に僕達はこの日のことをパンイチ事件と呼んだり呼ばなかったり。

 だけどこんな日であっても夏の思い出には変わらない。

 こうして僕達の夏の日の思い出に新たな1ページが刻まれるのであった。

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