第7話 ロリとの○○は母親公認
温泉旅行も終わり、朝武さんの家に帰った僕達。
それから僕と愛莉と愛優さんの三人は他のみんなを朝武邸に残してある場所へと向かう事となった。
とは言ったものの、僕はどこに行くのか何をしに行くのか全く知らされておらず、ただただ愛莉と愛優さんの後を追うだけだった。
ふたりともどこに向かうのか……そう声をかけようかとも思い立った。
しかしその考えはすぐに振り払う。
ふたりの事だから僕をどうにかしようなどとは考えないだろうし、ここは信じてふたりの後を────。
「ん?」
僕は何かの視線を感じ振り返る。
……しかし、そこにはもちろん誰もいない。
誰かの視線を感じたはずなんだけど……まぁ良いか。
僕は少し距離が離れてしまった二人のあとを早足で追った。
家から歩き、住宅街を抜けて十分くらい経った頃だろうか、その目的地に到着する。
「……病院?」
そこはこの街で一番大きな病院だった。
少し驚きつつも昨日露天風呂で話した会話を思い出す。
となるとここの病院に来た目的は……。
「愛莉ここはもしかして」
「はい、お察しの通り私のお母さんが入院している病院です」
「それはなんとなくわかったけど……いいの?」
「いい、と言いますと?」
「いやそのさ、いきなり形だけとは言え愛莉の結婚相手である僕を連れて行って……」
「その事でしたら大丈夫ですよ湊様。報告だけなら湊様が頷かれた日にしてありますので」
「仕事が早いですね」
「一流のメイドですから」
当然です、と言いたげな顔をする。
こういったところは本当に流石というかなんというか。
ただそれだけに思考がピンク色一色だけなのが残念というかなんというかで……。
それから僕達は愛莉のお母さんが入院しているという病室の前へ。
(……やばい、ここにきて緊張してきた)
この扉を開けた先に相手のお母さんがいると考えると至る所から汗が出てきた。
「……汗は出しても汁はだしちゃダメですよ」
「今ので完全に引いたので安心してください」
たまにくるこの重いストレートもどうにかならないのだろうか。
「先生?」
「あ、うん。すぐ行くよ」
僕は愛莉に呼ばれ、病室の中へと入る。
するとそこには真っ白な空間。点滴や色々な機械に繋がれている綺麗な女性が窓の外の景色を眺めながていた。
女性の隣には花が飾られており、見たところ近い頃僕達以外にもここに誰かが訪れたのがわかる。
その女性の顔立ちはどこか愛莉に似ているようにも感じるのはやはり母娘だからだろう。
しかし見た目は……少し年の離れたお姉さん。と、言った方が正しい気もするけど。
そう言えば愛莉の家庭のこととかまったく知らないんだよな……。
僕が入り口で立ち尽くしていると、女性はこちらに優しくほほ笑みかける。
「あら、いらっしゃい愛莉ちゃん、愛優ちゃん」
「約束通り連れてきましたよお母さん」
「今日は体調が良さそうで何よりです」
「ふふ、お陰様でね♪ それで、そちらの方が例の?」
「ど、どうも……」
ワンテンポ遅れてベッドの近くに移る。
いくら事前に口で紹介はしてあるとはいえ、実際会うのは初めてなわけで……。
「初めまして、愛莉の母の
「は、初めまして、愛莉と……その、お付き合いしている湊拓海です。こちらこそいつも愛莉にはお世話になってます……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫」
「は、はい」
柔らかな笑みとその言葉に僕の緊張は嘘みたいに無くなっていくのがわかる。
なんというか、愛優さんとはまた違う意味で凄い人だ。
すると優里さんは視線を愛莉の方へ移すと、申し訳なさそうに手を合わせながら。
「来てくれたばかりでごめんなさいね、この病院のどこかの自動販売機にあるって言う……名前は忘れちゃったけど飲み物を愛優さんの二人で愛莉ちゃんに買ってきて欲しいんだけど……お願いしてもいいかな?」
「お母さん流石にそれだけだとわからないんですが……」
「ごめんねぇ、私も看護師さん達の話を聞いただけで詳しいことはわからないの、ね、お願いしてもいい? 愛莉ちゃん達なら何回も来てるし安心して任せられるんだけど……」
「……はぁ。わかりました、でも少し時間はかかりますからね」
「はーい」
「すみませんが先生、少しの間だけ失礼しますね」
「いってらっしゃーい」
さっきとはうって変わって満面の笑みで見送る愛莉のお母さん。
さてと、とひと呼吸置くと。
「湊さん……は変ですよね、拓海さん。正直に話してください、愛莉とはどこまでいったの?」
「……はい?」
突然の質問に、僕の頬は少し引きつる。
なんだろう……この感覚、前に似たような事がどこかであったような気さえしてくるこの妙な感覚は。
「えーっと、どこまでいった、とは……? あ、もしかして昨日行ってきた温泉旅行の事ですか?」
「あれ、愛莉ちゃん拓海さんと温泉旅行に行ってきたの? お母さん初耳なんだけどっ!!?」
「──お母さんに話したら『温泉が私を待っているー』とか言って、あれこれ手を尽くして病院を抜け出してでもついて来てしまいますから」
「愛莉ちゃん!?」「愛莉!?」
声がした方を振り返ると、笑顔を浮かべながらも額に怒りマークを浮かべる愛莉。
「お母さん騙しましたね。さっきすぐそこで出会った看護師さんに聞いたらこの病院内の自動販売機の中身は全部同じだって言ってましたよ」
呆れたようにため息をつく。
自動販売機についてもそうだけど、それよりも温泉のためなら病院抜け出しちゃうという方が驚きだ。
しかもあれこれ手を尽くすってガチじゃん。どんだけ温泉好きなんだよこの人。
僕が若干引き気味に見ている愛莉のお母さんはわかりやすいくらい肩をがっくしと落としていた。
「ま、まぁ愛莉のお母さんが退院したら退院祝ってことで温泉旅行に行きましょうよ」
「本当っ!?」
グッと近付いてくる。
やはり病院でも良いシャンプーを使っているのか、フローラルの香りが鼻先をくすぐる。
「ええ、愛莉のお母さんの退院ともなれば盛大に祝いますよ! ね、愛莉?」
「は、はい。先生の言う通り退院祝いに温泉旅行に行きましょう。なのでそれまでは大人しくしていてくださいね」
「わかったわ。それにしても、拓海さんって愛優さんから聞いていた以上に優しいのねぇ〜。お母さんもう少し若かったら本気で狙っていたかも♡」
そう言って僕の腕に抱きつくママさん。
な、なんだこれはっ!? 腕が沈んだだとぅ!!?
なんと抱きつかれた腕は胸の中に沈んでいくではないか!
凄い! 凄いよ巨乳は!! 巨乳組の人の気持ちが少しだけわかった気がするよ!
「それと私のことはママって呼んで欲しいな♪ 愛莉ちゃんったら最近はお母さんとしか呼んでくれないから」
「……ならママさんでもいいですか?」
「んー、」
僕に注がれている視線に気付き、急いで振りほどく。
「あら、もう離しちゃうの? おばさん悲しいわぁ」
「あの、ママさん冗談はほどほどにお願いします」
僕は目線だけ軽く動かし、視線の元凶の顔を見るように合図を送る。
すると、ママさんは納得したように頷く。
これで一安心……だと思っていたよ。
「愛莉ちゃんったらもしかして嫉妬しちゃった?」
「し、してませんっ!」
そうは言いながらもぷいっと顔を背ける。
うーん、可愛い。
嫉妬してくれているってのもあるけど、顔を背けながらもチラチラとこっちを見てくるのがなんともたまらんのです。
あっ、目が合った。
「〜〜〜ッ!!」
目を逸らされた。
……うん、これだけでも可愛いよ愛莉。
しっかり者の女の子のこういった所を見せられると男は簡単にころっといくよね? いく、よね?
「それで、話を戻すけど愛莉ちゃんとはどこまでいったの? 結婚を前提に付き合ってるのならキスくらいはしてるんでしょ?」
「そ、それは……まぁ……」
そう言って今度は僕が愛莉の方へとチラチラと視線を送る。
やっぱり目が合う。
その瞬間、露天風呂での一件が頭をよぎる。
全身が熱くなるのがわかる。愛莉もその時のことを思い出したのか、はっと目を逸らす。
しかし愛莉はさっきと違って耳真っ赤になっていた。
こういったところを見るとやっぱり愛莉はお年頃の女の子なんだなと思ってしまう。
「あらあら、二人とも真っ赤になっちゃって可愛いわね〜」
「「ッ!!?」」
訂正。どうやら僕もお年頃の男の子だったみたいです。
その様子がおかしいのか、視界の隅に映る愛優さんは部屋の隅で僕達に背を向けながら肩をぷるぷると震えさせながら必死に笑いを堪えていた。
……いや、違うな。足元に血溜まりが出来ている……鼻血か。
いつもお世話にはなっているけど、たまにいたずらもされるしその仕返しってことで放置しておこう。うん。
僕は気を取り直すように一つ咳払いをする。
「コホン、確かにき、キス……は、しましたが、それ以上の事は何もしていないので安心してください」
「あら、そうなの?」
「そうです。僕達はあくまでも健全な恋愛をしているので」
「健全な恋愛ならもうとっくに、セックスくらいしててもいいと思うんだけど……」
「マ、ママさん!?」
「だってそうでしょ? いくら娘が今年十二歳になるとは言え、こんなにも可愛いんですもの。彼氏なら余計に手を出したくなるでしょう?」
……この人意外と痛いところを突いてくる。
手を出したいか出したくないか? そんなもの出したいに決まっている。
むしろ次の小説はエロ全ブッパにして愛莉と僕のラブストーリーにするつもりで妄想膨らませてますよはい。
だけど、僕はただの変態ではなく変態紳士と書くロリコンなのだ。
愛莉が嫌がる事は絶対にしない(時と場合にもよる)し、愛莉が望むことなら出来る限りの事は尽くそう(しかし法は守る)。
「でも、それだとあと数年は待つことになるわよ?」
「えっ?」
僕はあまりにも突然の事で間の抜けた声を出す。
こ、この人もしかして心を!?
とか思ってしまうほどに的確に返してきたので仕方ない。
「あら、そんなことは無いわよ〜」
「……ひょっとして心とか読んでます?」
「ふふっ」
優しく微笑むだけでそれ以上何も言ってこないのが怖い。
「でも愛優さんからは、温泉旅行で泊まりって聞いていたからてっきりそのまま貫通したのだとばかり……」
「お母さんっ!!」
耐えきれなくなったのか、愛莉は夕焼けといい勝負ができそうなくらい顔を真っ赤にして声をあげる。
「で、どうなの拓海さん? ウチの愛莉……私が言うのもアレだけど、こう見えて料理も出来るし家事全般完璧にこなせる……そして何よりも可愛い! そんな娘を今なら母親公認ってことで何をしても目を瞑ってあげるわよ♪」
「は、母親公認!!?」
「ええっ♪」
一瞬頭が真っ白になりクラっとしてしまう。
よく漫画や小説である母親公認をこっちでも聞ける日が来るなんて……。
い、いやいかん! 僕はロリコンなんだ。キチンと節度を持ってだな…………。
とは言ったものの、やはり目は愛莉の方へと向いてしまう。
愛莉は困ったようにこちらを上目遣いで見つめる。
「あ、あの……わ、わたっ……私は、拓海さんさえ……よければ、何をされても…………」
ぐはぁっ! そ、そんな目でもじもじしながらそんなセリフを言われたら断りにくいじゃないかあああぁぁぁぁっっ!!!!!
僕はどうしろって言うんだっ!
女の子にこんな唯一無二のチート武器を持たせるなんて……神様のばかやろおおおおおおおおおおおお!!!!!
ここは病室なのだが、僕の心の中では僕が崖先から夕日に叫んでいた。
すると、そのやり取りを見ていたママさんが幸せそうに笑う。
「うふふ、二人ともラブラブね。私も昔が恋しくなるわぁ……あ、でも二人ともここでヤるのはダメよ。シーツに血なんて付いたら私が吐血したと思われて退院が伸びちゃうかもしれないから」
「そ、そうですよねっ! もぅ、お母さんったら冗談が上手いんだから……」
「あ、あはは……そう、だよねぇ……」
「でも家に帰ってからならいいわよ。どうせ愛優さんか紗奈さんが録画してくれるだろうからっ♪」
「はい、もちろんです」
愛優さんの方にウィンクをするママさん。
それに対し愛優さんは親指を立てて任せてくださいと合図をする……鼻血を垂らしながら。
「先生……本当に色々と、ごめんさない」
「あぁうん。いいんだよ、ママさんが楽しそうなら……」
僕達は、楽しそうに話し込んでいる愛優さんとママさんを見て自然と頬が緩む。
いや、頬だけではない。気が付くと僕達は極々自然に手を繋いでいた。
「先生」
「ん?」
小声で話しかけられ、愛莉の方を見ると、愛莉は扉の方へ視線を一瞬だけ移す。
これは別に恋人以上の関係だからこそわかるってことではないが、僕が頷くと愛莉は少し嬉しそうにでも二人にバレないように僕の手を引き、そのまま病室を出た。
その後、僕達は屋上へと足を伸ばす。
既に空は茜色に染まり、カラスも鳴いていた。
僕はそこにあった自動販売機で飲み物を二つほど買い、片方を愛莉に手渡す。
愛莉はジュースを手に取ると、「ありがとうございます」と言って一口だけ口に入れそのまま沈みゆく太陽を眺める。
その光景はとても美しく、それでもどこか儚い……それは彼女を小学生だとはとても思わせないほどだった。
僕はそれに言葉を奪われる。
「先生、今日はありがとうございました」
「え、あ、う、うん」
突然すぎて間の抜けた返事で返してしまう。
しかし愛莉は気にすることなく、続ける。
「……お母さんのあんなに楽しそうな顔、久しぶりに見ました」
「そうなの? あの調子ならいつでもあんな感じだと思っていたけど」
「ふふっ、確かに今のお母さんは昔と同じなのでそう思わせないでしょうね……」
それだけ言うと、愛莉の視線は再び太陽の方へと向いていた。
それにつられ、僕も愛莉の隣で太陽を眺める。
どれだけ時間が経っただろうか、暫くの間沈黙が続いていたこの屋上で、愛莉が口を開く。
「──三年です」
「三年?」
「はい。お母さんがこうしてやっと元通りになるまでにかかった時間です……」
三年……僕はそのワードが少し引っ掛かった。
三年前に僕が巻き込まれた玉突き事故。
もしかしたら愛莉もその被害者のうちの一人だったんじゃないか? そんな仮説が立っていた。
「ねぇ愛莉……その、三年前に何があったのかとか……聞いても大丈夫なのかな?」
「…………」
「あ、いや。別に話したくないならいいんだけどさ──」
僕が言い終わる直前、不意に服の袖を掴まれる。
「愛、莉?」
「すみません。先生……少しだけ、こうしていてもいいですか?」
「か、構わないけれど……」
「ありがとうございます」
そういった愛莉は僕の服の裾はぎゅうぅと強く掴んでいた。
だけど、愛莉は表情一つ変えない。
腕は震え、唇も強く噛み締めているのが僕でさえわかるのに、表情だけは崩さなかった。
暫く経ち、愛莉も落ち着いたのか袖を掴む力が緩まる。
「……先生、一つ聞いてもいいですか?」
「うん」
「先生はどうしてそれを知りたいと、思ったんですか?」
……まぁそう思うのは当然か。
隠し事をするわけでもないので、僕は素直に話す。
三年というワードに引っかかったこと。それに連なり三年前に起こった玉突き事故が原因なのではないか? という仮説。そして自分もあの事故の被害者だということ。
すると、愛莉はすべて納得したように頷く。
「先生も……あの事故の被害者だったんですね……」
「まぁね。幸い僕の家族は全員無事だったけどね」
「……それは本当に良かったです」
愛莉は心底ほっとしたように胸を撫で下ろす。
「私のお父さん……その時の事故で死んじゃったんです。お母さんもその時の事で……。元々身体が強くなかったらしいんです。ただ幸いな事にお母さんはもう少しで退院出来るらしいですが」
「じゃあ愛莉はそれまでずっとあのお家で?」
「いえ、あの家に引っ越したのはつい一年くらい前です。最初はお父さん……あ、お父さんって言ってもお父さんのお兄さんなんですけど、あの事故の後お父さんが自分の家に泊めてくれていたんですけど…………」
「何か無理をさせてしまっているような気がして、それに気付いて自分で投資とかコンサルを始めて……お金が貯まった頃にそのお金で家を建てたんです。もちろんその時にはお母さんの医療費とかは全部払い終わっていたので」
色々サラッと凄いことを言っていたような気がしたが。
……そうか、そんな事があったのか。
三年という長い年月。
誰に褒めて貰うわけでもなく、ずっと独りで頑張ってきたのか。
そう考えるだけでやはりどこか遠くの存在に見えてくる。
少なくとも昔の自分ならそう思っていただろう。
……だけど、今の僕は違う。
「──愛莉」
「ふぇっ?」
僕は愛莉を抱きしめる。
その瞬間、ふわっとした甘い香りが僕の鼻孔をくすぐる。
愛莉は何が起こったのかわからず、目を大きく開き固まっていた。
僕はそんな事を気にせず彼女の頭を優しく撫でる。
「せ、先生?」
「愛莉……今までよく、頑張ったね……」
「──ッ!」
その言葉を放った瞬間、愛莉の身体が少し震える。
僕はやっと理解した。
愛莉がどうしてあんなにも求めてきたのか、甘えてきたのかを。
「きっと愛莉は一人でずーーっと頑張っていたんだね」
「そ、そんなことは……」
「もう誤魔化さなくてもいいんだよ愛莉」
「…………誤魔化してなんか」
「愛莉は寂しがり屋さんなんだよね」
「──っ」
「あの時、僕の部屋に来たのもきっと愛優さんも含めみんな寝ちゃっていたからなんでしょ?」
「そ、それは……」
「大丈夫だよ愛莉」
「……はい。そう、ですね……」
「愛莉、きっと愛莉の事だから迷惑とか色々考えてそれから出した答えでそれっぽい理由をつけて僕の部屋に来たんだろうけど……」
呆れたようにため息混じりに話を続ける。
「あのねぇ愛莉……一回しか言わないからよーーーく聞いていてね」
「……はい」
「自分の事で誰かに迷惑をかけたくないって気持ちは僕にもわかるよ。でもさ……僕達が迷惑だと思ってるって決めつけないでほしいかな」
「……え?」
「愛莉は僕達に頼ることで迷惑だと思ってるかもしれないけどさ、僕達は全然そんな事思ってないからね」
「多分紗々ちゃんも天海さんも同じこと言うんじゃないかな? 『話してくれない方がよっぽど迷惑っ!』って」
僕はそう言いながら思わず笑ってしまう。
何故ならその光景が安易に想像出来てしまったからだ。
「ふふっ、確かに……あのふたりなら言いそうですね」
愛莉も同じ光景を想像したのか、くすくすと笑っていた。
「あと、これは僕からなんだけど」
「?」
「こんな僕でもさ、一応愛莉の──未来の夫、になる予定の人なんだから」
「ふふっ、そこは未来の夫って言い切らないんですね」
「ど、努力はします。まあその第一歩ってわけじゃないけど、他の人には言えなくてもせめて僕くらいは頼ってよ。僕なら愛莉に迷惑をかけられても構わない……と言うよりはむしろ迷惑をかけてほしいかな」
「迷惑をかけてほしい、ですか?」
「うん。だって愛莉この前言ったじゃん。『この人とならどんな事があっても乗り越えられる』って……まさかあの言葉は嘘だったの?」
「そ、そんな事あるわけないですっ!」
「あはは、意地悪な言い方をしたねごめん。でもさ……僕はこう思うんだ、恋人ってのは迷惑をかけてかけられ、支え支えられるものだって。お互いの足りない部分を支え合って、それでも足りない時はふたりで手を取り合って一緒に乗り越えて…………そうやって少しずつ、でも壊れることのない確かな絆を、愛情を育むものじゃないかって」
「ふふっ、先生が言うとなんか不思議と納得してしまいますね……。はい、私も先生とその確かな絆や愛情を育みたいです……」
目の前にはもう大人びた愛莉はいない。
そこにいるのはどこにでもいるような可愛い小学生。
「ねぇ、愛莉……この三年間、寂しかった?」
「……はい。とても寂しかったです」
「それは今もそうなのかな?」
その問い掛けに愛莉は力強く首を横に振る。
「いいえ。今は愛優さんや紗奈さんに兼元さんや天海さん……そして何よりも先生がいるのでちっとも寂しくなんかないです」
「そっか」
「先生……私からも一つ聞いていいですか?」
「ん……」
「どうしてそこまで優しく出来るんですか。いくら恋人になったからといってまだ会ってから一週間も経ってないんですよ? 普通なら──」
「それは僕が君の事が世界で一番好きだからだよ」
「──ッ!」
「もちろん僕がロリコンで、愛莉が理想のロリだから好きってのとは違う。僕は愛莉の容姿はもちろん、ちょっとした仕草も、普段は大人びて見えるのに実は甘えんぼさんなところも、一人で抱え込んでしまうところも全部ひっくるめて好きなんだ」
「〜〜〜〜〜っ!!」
拓海の言葉に愛莉は言葉を失う。
愛莉は拓海の事を優しい人なのはわかっていた。しかし、数日過ごした感じではみんなに優しいと感じていたのだ。
みんなに優しくしていたからか、私と恋人になったとはいえそこまで色々と見ているなんて思わなかった。
だからこそこの言葉は予想外だった。
「それに男が好きな女に優しくするのは当たり前だよっ」
「で、でも……さっき言った通り私達は……」
「日数なんて関係ない! 確かに僕と愛莉はまだ出会って数日しか経ってない。世間からしたらおかしな年の差だし付き合うまでが速すぎると言われるかもしれない」
「だったら……」
弱気な声を出す愛莉に対し、僕は全てをかき消すように強く否定する。
「でも、好きなんだっ! 僕はたまらなく君の事が好きなんだよ! 日数なんてこれから積み重ねていけばいい、お互いの事なんてこれから知っていけばいいんだ」
「せん……せぇ……」
言いながら愛莉は上目遣いでこちらを見つめる。
「そこまで、言うのなら……証明してください」
「しょ、証明!?」
「はい……」
愛莉は瞼をゆっくりと閉じる。
──ドクンッ!
心臓が痛いくらいに強く跳ねる。
愛莉は詳しい事は何一つ口にしていない。しかし、僕は頭の中で完全にその証が何を示すかを理解していた。
僕は愛莉の顎に手を当てる。
「……いくよ、愛莉」
「はい……」
そしてそのまま僕は愛莉の柔らかな唇に僕のを重ねる。
「「んっ……」」
ただ唇を重ねているだけのはずなのに、僕達は確かな幸せを感じる。
出来ることならこのまま押し倒したい。
そんな欲望が出てしまうほど、年端のいかないはずの愛莉はなまめかしく見えてしまう。
「せん、せい」
「……?」
僕は目を大きく開く。
愛莉の頬には一筋の透明な液体が流れていた跡があったのだ。
いや、違う。その透明な液体は最初の一滴を追うように次々と流れ出てきている。
それはまるで今までずっと抑えられていた感情が、決壊したダムのように雫となって表していた。
「あい、り……?」
「す、すみません先生……ぐすっ……」
一旦離れる。
先程まで幸せを感じていたのに何故だ。
そんな僕の考えとは裏腹にその顔は普段のしっかり者の愛莉のものではなく、どこにでもいる寂しがり屋の小学生のように見えるほど泣きじゃくれていた。
「ううん、大丈夫だよ愛莉」
「ぐすっ、せん、せ、い……私、悲しくないのに、もう寂しくないのに……どうして、どうしてっ……ひっく」
「それは……」
幸せなのに……ではなく、幸せだからこそ。その言葉が詰まる。
これはきっと愛莉自身が気が付かなければならない事だと直感する。
「なんだろうねっ」
「んむっ!?」
僕は再び自分の唇で愛莉の柔らかい唇を塞ぐ。
ただ塞ぐだけが目的なのでフレンチキスだ。
しかし、僕達は何回も唇を重ね合わせる。
「先生……ちゅっ……私も先生の事が大好きです。優しいキスも何もかも」
「僕もだよ愛莉」
そこには泣きじゃくる愛莉の姿はなく、いつもと同じようでどこか吹っ切れた様子の愛莉がいた。
「先生、ありがとうございます……」
これが最後だよ。と、言わんばかりに今度は愛莉から舌を絡ませる。
僕もそれに応えようとしたその時だった。
不意に二人の携帯に通知が届く。
『──ッ!!?』
僕達はさっと離れ、お互い届いた通知を確認する。
するとそこには綺麗な夕焼けをバックに唇を重ね合わせていた僕達の写った写真が送られていた。
僕達はその写真が撮られたであろう方を見るとそこには病室で寝ているはずのママさんとスマホを片手にニヤけている愛優さんの姿があった。
「〜〜〜っ!!」
愛優さんに写真を撮られたというのもそうだけど、何よりもママさんに見られたという恥ずかしさからお互いこの夕焼けにも負けないくらい顔を赤らめる。
「二人とも、とぉーーっても良いキスだったわよ。もうお母さんまで若返った気分で大満足♪」
「愛莉様、湊様とてもグッド……でしたよ」
キャッキャとはしゃぐママさんと眼福眼福と満足した様子の愛優さん。
隣で愛莉が「もぅ……二人とも……」と、恥ずかしそうに呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
その後、ママさんとの楽しい世間話を終えた僕達は家路へ急ぐ。
家に着くなり愛優さんは夕飯の準備をするため急いでキッチンへと向かう。
僕達は特にやることもないので、そのままみんながいるであろうリビングへ。
「みんな、ただいま」
「ただいま戻りました」
「あ、二人ともおかえりー!」
「お帰りなさい」
元気に出迎えてくれた紗々ちゃんと天海さん。
どうやら宿題をやっていたらしく、机にはそれらしき教材とかが置いてあった。
「みんな宿題?」
「うん、めんどくさいけど流石にやらないとね〜」
「私は紗々さんのをお手伝いしているだけですが……」
「あはは、大変そうだね」
「むー、お兄ちゃんやってよ〜」
「ダメですよ、紗々さん」
「相変わらず奈穂は硬いんだから〜」
そう言いながらも手を動かしているから流石だ。
……まぁスカートが少しめくれて奥の布地が見えそうになっていた事は感心しないけど。
もちろん僕は紳士だから気が付いたときに目を逸らしたけど。
────そして時は進み、ゴールデンウィーク最終日が終わり時刻は午前二時。みんなが寝静まった頃、明かりが消えていない部屋があった。
「んー! 終わったー!」
僕はゴールデンウィークに出されていた課題を片付け、背伸びをする。
今日は流石に仕事をしないと不味いとの事で、愛莉は午後まで外出。その間紗々ちゃんの勉強の続きを見たり、その後に愛莉も見ていたのもあり、自分の課題に手をつけ始めたのが十時頃になった。
そして困った事に人とは寝るタイミングを逃すと眠気が飛ぶもので、予想以上に時間がかかってしまったため、僕は寝るタイミングを完全に逃していた。
僕がどうしようかと悩んでいたその時、扉をノックする音が聞こえる。
「ん? 誰だろう……」
僕は扉を開けるとそこには、ホットミルクの入ったカップを二つ持った愛莉が立っていた。
「愛莉、どうしたの?」
「頑張った先生へのご褒美です♪」
愛莉は可愛らしく笑みを浮かべる。
頑張った……か。つまり愛莉は全部わかっていたんだな。
それを知られたせいか恥ずかしさで顔が赤くなる。
それを隠すように愛莉を部屋の中に入れる。
どうやらそれはバレていないらしく、愛莉は部屋の中央にあるテーブルの前に行くと、すぐさまカップにホットミルクを注ぐ。
「先生、どうぞ」
「ありがとう」
僕達はさっそく持ってきたホットミルクを一口飲むと、それだけでこのホットミルクのレベルの違いがわかる。
口当たりもよく、程よく甘い……決して電子レンジとかで温めたわけでもなく、全体が暖かく一口飲むだけでまるで僕を包み込んでくれるような優しさすら感じる。
「うん、美味しいねこのミルク」
「ありがとうございます♪」
「これ市販のやつより断然美味しいんだけど、何か特別な事とかしてあるの?」
「秘密ですっ♪」
僕の質問に対し、愛莉はどこか嬉しそうに答える。
そんな何気ない、やり取りが続く。
気が付けば愛莉は僕の肩に寄りかかっていた。
いい感じに眠気が襲ってきた頃、愛莉が本題が切り出す。
「先生……私、お願いがあるんですが聞いてもらえますか?」
「僕に出来ることならなんでも……」
「やったぁ! では、今日は私と一緒に寝てくれませんか?」
「……一緒に寝る?」
「はい♪」
一緒に寝る。一緒に寝るかぁ……。
いや、普通に考えればアレだがきっと愛莉は特に深い意味を持って言ってないはず。
だからあくまでも紳士的な対応をしよう。
「うん、愛莉がそうしたいならいいよ」
「ありがとうございます。やっぱり先生は優しいですね」
「そうかな?」
「はい、とっても♪」
部屋には月明かりが差し込み、僕達を照らす。
「好きな人のためならそれくらい当たり前じゃないかな?」
「もうっ、先生は私を喜ばせるのが本当にお上手なんですから……」
「それを言ったら愛莉だって、僕のやる気とかを引き出すのが上手いじゃないか」
「ふふっ」
「あはは」
お互い顔を合わせ、笑い合う。
「やっぱり私達は最高の恋人同士みたいですね」
「そうだね。僕も愛莉以上の女の子は見つけられそうにないかも」
「見つけて貰っては困ります……先生には常に一番でいてもらいたいので…………あ、でも先生の小説のキャラになら負けてもいいかも。奈々ちゃん辺りになら負けても文句は言いません。私も大好きですから」
「愛莉は奈々ちゃん本当に大好きだよね。……まぁ心配しないで、小説のキャラを含めても僕は愛莉が一番だから」
「せ、先生……それは卑怯ですよぅ……」
「そうかな?」
「そ、そうです。そんな事言われたら嬉しすぎて気持ちが抑えられなくなってしまいますよ……きゃっ!?」
気が付けば僕は愛莉を押し倒していた。目の前には月明かりに照らされ、どこか幻想的に見える、赤くほんのり頬を染めている愛莉。
「じゃあ寝る前に少しだけ」
「……はい」
僕達はそのまま目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけ……。
────カツッ!
訪れたのは柔らかいキス、などではなく歯と歯がぶつかる衝撃。
『〜〜〜っ!!』
思わず揃って口元を抑える。
だけどそれがなんだかおかしくて、
「あはは……」
「もぅ、先生ったらせっかちなんですから」
「面目無い……」
「先生、焦る必要なんてないんです。私達はまだ恋人になったばかりなんですから」
「そう、だね。ここからだよ」
そうだ、急ぐ必要なんてない。僕達はまだ歩き始めたばかり……これからゆっくりと時間をかけて色々出来るようになればいい。
まずその第一歩として、
「愛莉、大好きだ」
「私もですっ♪」
僕はそっと愛しい女の子の頬にキスをした。
もし、以前の僕に「ロリと結婚したら何かが変わったのか?」と聞かれたら胸を張って笑顔でこう答えよう。
ロリと結婚したら世界が変わった、と。
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