第5話 ここが僕らの理想郷

 ゴールデンウィーク三日目。

 美しい緑の山々に囲まれ、流れる川は透き通り、それは気持ちよさそうに泳ぐ魚達さえ見えそうな程だ。

 そんな自然に囲まれた場所で愛莉、紗々ちゃん、天海さん、愛優さん、紗奈さん……そこに僕を加えた計六人は目的地に向かい歩みを進めていた。

 「わぁーっ! ドラマとかに出てきそうなところですね先生っ!!」

 しおり市とは違った自然を前に軽やかなスキップを見せる愛莉。

 その楽しそうにしている姿を見れただけでも、ここに来たかいがあるってもんだ。

 最初に言っておくが、僕はロリ達にお金を払ってもらってここにいるわけではない。

 それは昨日の夜まで遡る。



『温泉?』

 僕の部屋に集まる三人のロリと二人のメイドは声を揃えて首を傾げる。

「そう、温泉旅行だよ!」

「はい、それはわかりますが。温泉旅行だなんて……どうしてまた?」

「ふっふっふっ……これだよ、こ、れ!」

 そう言って僕は届いたばかりのメールみんなに見せつけるように開く。

「おぉ、これはまた……」

「へー、こんなキャンペーンなんてあったんだ」

「あら? ここは紗々さんが最近投資で推してる会社では?」

「うーん、そうにはそうなんだけど。ボクだって全部把握してるわけじゃないからね」

「紗々さんそういった所は結構ズボラですからね……」

「そんな事はないと思うんだけどなぁ……」

「それにしても先生は凄いですっ!」

 それぞれ個人の感想を述べる。と言うか若干数名凄いことを口走ってた気がするけど。

 とにかく、僕はなんとなく応募した一泊二日の温泉旅行のチケットを獲得していたのだ。

 いつか行こうで忘れるだろうと、当時の僕が期限近くにメールで送るよう設定していたらしく昨日そのメールが届いた。ナイスその時の僕。

 と、そんなふうに優越感に浸っていると。

「でも、そんなの一々応募しなくたってお兄ちゃんが行きたいって言えばボクが連れて行ってあげるのに」

「こらこら紗々さん、それはみんな同じなんですから、しー、ですよ」

「はぁい」

「…………」

 人差し指をぷっくらとした唇の前でピンと立てる天海さん。

 まぁそうですよね。温泉旅行なんてこの子達からしたらちょっと銭湯に行ってくるってレベルですよね、知ってましたよええ。

 全然悲しくなんてないんだからね!!

 とは言えみんなでいくとしたら一つ問題が発生する。

 その問題は愛莉も気付いているようで、僕が言う前にみんなに問いかけていた。

「あの……行くのはいいんですが、先生ってどうするんですか?」

「お兄ちゃん? もちろん一緒に泊まるでしょ?」

「はい、湊さんだけ仲間外れってのも悪い気がしますし」

 やっぱりこのふたりは貞操観念が残念でござったか。

 僕は咳払いをして、説明をする。

「あのね二人とも、世間では僕みたいな男と女の子が一緒に寝泊まりするのはあまり良く思われないんだ」

「そ、そうなの?」

 紗々ちゃんは確認するように愛優さんの方へと視線を移す。愛優さんは口には出さなかったものの、無言で頷いていた。

「で、ですが、その理論ですと湊さんは一人だけ別の部屋になってしまいますよ?」

「まぁそれが何事もなく収まる一番の方法なんだけど……」

 僕はみんなの方をチラリと見る。

 しかし誰ひとりとして納得した顔を見せるものはいなかった。

 まぁ当然だよねー、僕も出来ることならみんなと一緒がいいんだもん。

 すると何か思いついたのか愛莉は伺うように尋ねる。

「あの、家族で通用しませんか?」

「家族?」

「はい。先生と私は結婚しますよね? なら夫婦として行くのは」

「……アウト、かな」

「そうですか……」

 そう言うと愛莉はわかりやすいくらいに肩をがっくしと落とす。

 というよりも、それをカミングアウトされたら僕は温かい部屋じゃなくて冷たい牢屋に案内されてしまう。

「……ねぇやっぱりそこはちゃんとしようか、多分別々の部屋を取っても同じ部屋に呼んだりしちゃいけないなんてルールはないと思うし、一応別々の部屋を取って寝るときは一緒とか」

「確かにそれなら先生と一緒に泊まる出来ますねっ」

「ボクは枕投げとかしたいな!」

「寝る直前まで恋バナもいいですね。湊さんと愛莉さんのお話とか♪」

「あはは……その時は御手柔らかに頼みます」

「何はともあれ……明日から温泉旅行だーーっ!!!!!」

『いぇーーーーーーいっ!!!』

 こうして一人のロリコンと三人のロリ、そしてふたりのメイドによる一泊二日の温泉旅行が決まったのだ。



 そして今に至る。

 僕が愛莉を見て頬を緩ませていると、隣を歩く天海さんがいたずらっぽく笑を浮かべる。

「湊さん、あんまり愛莉さんを見てデレデレしているとただのロリコンだと思われちゃいますよ」

「そ、そうだね気を付けないと……」

「いいんじゃないの? それって愛莉がとっても魅力的って事でしょ?」

 反対側にいる紗々ちゃんも合わせたように笑を浮かべる。

 これぞ両手にロリ! つってね。

 そんな事を思っていると、天海さんが少し頬を膨らませていた。

「どうしたの?」

「うーん、さっきの紗々さんの発言からすると……愛莉さんは魅力的だけど、私達は魅力的じゃない、ということになりませんか?」

「あっ!」

 何か気付いてはいけない事に気付いてしまった様子の紗々ちゃん。

 紗々ちゃんも頬を膨らませるのかと、思いきや天海さんと何かアイコンタクトを取る。そして次の瞬間────。

『えいっ!』

「うおっ!?」

 僕の腕はふたりのロリによって塞がれてしまった。

 それと同時に襲う二つの感触……。

 片方は慎ましやかなはずなのに、柔らかくしっかりと女の子だと言うことを主張している。

 それに対しもう片方は反対側よりも柔らかく、今まさに成長している……そう思わざるを得ない。

 よりにもよってこのロリ達は自覚が無く、僕の心中を無視してその慎ましやかな胸と発育中のそれでも慎ましやかな胸をむにゅっと押し付けてくる。

 胸は大きい方が良いとよく言われるが、これを体験してまで果たしてそう言いきれるものだろうか……否! 断じて否だっ!!

 もし出来ることならこのちっぱいと言う名の楽園に顔を埋めたい、挟まれることは出来ないとしても顔を埋めてすーはーすーはーしたい。

 そしてそのまま自由におさわりをしたあああああああああああああああああああいっっ!!!!!!!

 しかーし、僕は変態紳士であって、変態やぺドフィリアではない。小学生に無理やり手を出したりしないのでここは紳士的に接する。

「こらこら二人とも、悪戯ばかりしてると僕も悪戯しちゃうぞ。だから早めに離れてね」

「あはは、お兄ちゃんのいたずらって、エッチな事されそうだね」

「ふふ、そうですね。湊さんの事ですからきっと新しいネタになるくらい凄くエッチな事を……」

「二人とも頬を染めながら言わないで! 誤解されるから!」

 現にいま横を通り過ぎた人なんて「警察に言った方が……」とか小声で話してたからね!?

「でも……ボク達としてみたいって思ったことはあるでしょ?」

「そりゃあ……」

 ない。と、はっきり言いたいところだが言葉が詰まる。だってさっきまでちっぱいに顔を埋めてすーはーすーはーとか妄想してた人ですから。

 恐らくこの願望は大きい小さいはあれど、男なら誰しもが思うことであろう。

 だからこれはノーカウント。不成立!

 ということで仕切り直すために、僕は一つコホンと咳払いをして、ここはあくまで紳士的に否定する。

「そりゃあもちろんあるよっ♪」

 ……はずだった。

 僕は爽やかなキメ顔でそう言ってしまった。

 あれ、おかしいな……僕、これと真反対の事を言うつもりだったのに…………。

 そう思った時には既に遅く、ふたりのロリの顔がゆでダコみたいに赤くなり、僕の背後からは物凄い殺意が発せられていた。

 そしてその殺意と共に僕の肩は思い切り掴まれる。

「湊様……」

 この瞬間、僕は人生の最後を悟る。

 恐る恐る振り返る。

 ヤバイ、この人マジ顔だ……目が全てを語ってる。

 ここで選択肢を謝ればお前の未来はないって、語ってるよ。

 僕は今度こそ一言一句間違えないように丁寧に言葉を発する。

「さ、さっきのは冗談だよ冗談。僕はロリコンであって変態とかぺドフィリアじゃないからね」

「アイアンクローと……アイアンメイデンどちらが良いですか?」

「…………」

 これ、どっち選んでも死ぬ未来しか見えないのは僕だけだろうか。

 アイアンメイデンは論外として、もう片方のアイアンクローも候補にある時点でなにかしたらあることは間違いない。

 だとしたら今ここに用意出来ないアイアンメイデンならなんとかなるのでは?

「アイアンメイデンでお願いします」

「……」

 その瞬間、愛優さんの足が止まる。

 恐らく僕はアイアンクローを選ぶと思っていたのだろう、動揺が行動に出て──。

「すみません、アイアンメイデンを至急こちらに送って頂けますか?」

 そう思ったのもつかの間……気が付けば愛優さんはどこかに連絡を入れているみたいだった。

 そしてこの時の僕は完全に忘れていたのだ

 僕の説得が通じたのか、愛優さんが一つため息をつく。

「あのですね、湊様。私としては別に愛莉様とキスしようがセックスしようが構わないのですが、愛莉様がいながら他の方に手を出すのはいかがなものかと思うわけですよ」

「そ、それは、確かに…………って、今なんて言った!?」

「他の方に手を出すのはいかがなものかと」

「違う! その前!」

「愛莉様とキスしようがセックスしようが構わない?」

「そう、それ! まずそこもおかしいからね!?」

「はて、どこがおかしいのでしょうか? 愛し合っている男女ならそれくらい当然……」

「いやいやいやいや! 捕まるから、そんな事したら僕捕まっちゃうからねっ!?」

「湊様、安心してください。日本にはこんな言葉があります……バレなければ犯罪ではない、と」

「確かにそれネットとかではよく言われてるけどアウトだからね!? ネタな上にそれはバレてもバレなくてもアウトだからね!!?」

「冗談です。……まあ、つまり私が言いたいのは愛莉様に手を出すのは構いませんむしろ手を出してくださいハァハァですが、お二人には手を出さないでくださいねってことです」

「紗々ちゃんも天海さんにも手を出しませんし、時が来るまでは愛莉にも手を出さないですよ」

「時が来る……はっ!」

 時が来る……という単語に何故か反応する。

 どうせロクでもない事を考えてそうだが。

「あのですね、言っておきますけど時が来るってあれです、愛莉が大きくなってからって意味ですからね?」

「そ、そうだったんですか……。私はてっきり今日という日に……」

「はいそこ、露骨にガッカリしない……ん?」

 肩を落とす愛優さん。そして背後から突然服を引っ張られる。

「どうしました紗奈さん?」

「もし愛莉様と初体験する時は私に言ってくださいね、記録するために一番良いカメラで撮影するので」

「…………はい?」

 しかし、その頬も一瞬にしてぎこちないものへと変化する。

 「ですから、湊センセの童貞……そして愛莉様が処女を捨てる時は是非私を呼んでくださいってことです。記念すべき事なので、記録しておきたいですし」

「い、ら、な、い」

 僕はあくまでも爽やかにそう言った。しかし、顔はそうでもなかったらしく、紗奈さんは若干怯え気味にさささっと下がっていった。

「はぁ〜。まったく、このふたりはどうしようもないなぁ」

「あはは、お兄ちゃんは本当に気に入られているんだね」

「そうなのかな?」

「はい、愛優お姉さん達はあれでも結構警戒心が強い方なので」

「ふーん、全然そうは思えないんだけどな」

 僕はチラリと後ろを見る。

 既に二人とも立ち直っており、仲良く話しているのが見える。

 ふと少し強い風が吹く。髪が静かな川の流れのようになびく、ふたりは髪を抑える、スカートを抑える、そのちょっとした仕草さえ息がぴったりだったのだ。

 その光景はふたりの事を知らない人から見ても、ふたりの浮かべる笑顔からは本当に仲の良い姉妹以外に見えるものはないだろう。

 今日はメイド服ではなく、ごくごく普通の私服であるため、そのギャップにドキリとしてしまう。

「こうして見ると、二人ともただの女の子にしか見えないのにな……」

 僕は誰にも聞こえないようなくらい小さな声で呟いた。

 が、流石に隣でくっついているふたりには聞こえてしまったらしくふたりは、僕以外に聴こえないように最新の注意を払いながら耳打ちしてきた。

「おふたりとも色々ありましたからね」

「色々?」

「うん、色々ね。ボク達からは話せないけど、そのうち愛優お姉ちゃん達の方から言ってくると思うよ」

「そんなに重い話なのか……」

「……詳しくは言えないですが、これだけは確認したいです」

「うん、いいよ」

「何があってもふたりの事、軽蔑とか絶対にしないであげてくださいね……」

「そんな事するわけないよ……」

 そう言いながら後ろをチラリと見る天海さん。その表情はとても真剣なもので、この子がまだ小学六年生だというのを忘れてしまうくらいに。

 そして同時に僕は悟る。この話題は決して僕から降っていいものではないと。

 駅から歩いて一時間ほどの所にある僕らのお宿に着く。

 思わず両腕にロリがしがみついているのを忘れていた僕は、僕が宿に入った際女将に信じられないものを見たような目で見られる。

「い、いらっしゃいませ……」

「あ、すみませんこちらで予約した者ですが……」

 僕はすぐさま二人を離れさせると、持ってきたチケットを見せる。

 ロリ達はロリ達でお会計をしているみたいだが……。

「先生!」

 何か問題があったのか、僕を手招きしている。

 僕はすみませんと一言いれ愛莉達の元へ。

「愛莉どうしたの?」

「先生もこちら側で泊まります」

「えっ? でも僕はこれがあるけど……」

「それだとどうやら移動が出来ないみたいで……」

 ん、どういう事だ。僕は説明を求めるように愛優さんの方へと視線を移す。

「簡単に説明しますと、私達は一番最上階のところしか泊まれる部屋がないみたいで……。そこはどうやら下の階との部屋の行き来は禁止しているそうなんです」

「てことは……僕は愛莉達と遊べないってこと?」

「遊ぶ?」

 遊ぶという単語に反応したのか、フロントのお姉さんは少しだけこちらを見る目が冷たくなった気がしたけど。

「あ、いえ。トランプとかの話ですよ?」

「…………」

 すっごい怪しまれている。まあこの旅館に入った時両腕にロリがしがみついていたのを見たらこうなるのは当然か。

 とりあえずここを一人で切り抜けるのは難しいと判断した僕は愛莉達にアイコンタクトで助けを求めると、意図を理解してくれたようで頷く。そして……。

「先生と私は夫婦なので遊びじゃないですので大丈夫ですよ」

「ふう、ふ?」

 うーーーん、これは少なくとも僕の望む展開ではないぞー?

 むしろ余計ややこしくなった気がする。

 いやまあ確かに間違いではないんだけどね。

 でもそれを世間一般で言ってしまうと、ここからの流れは1+1=?の計算をするよりも簡単に導き出される。

「お嬢ちゃん、安心して私や警察はあなたの味方だから! とりあえず警察に電話するね……」

「待ってください!!」

「待ちませんよ! いくらお客様とはいえこればかりは見過ごせません!」

「せめて説明だけでも!」

「ダメです! 私にはこのか弱いお嬢さん達を守る義務があります!」

「誰から守るって言うんですか!?」

「お客様に決まってるじゃないですか!」

「だから誤解ですって!」

「じゃあさっきのお嬢さんの言葉はなんですか!?」

「そ、それは……」

 本当ならばこの場しのぎということで嘘を吐きたいところだが……。

 チラリと横目で隣を見る。

 そこには心配そうにこちらを見つめる愛莉の姿。

 ……言えない、こんな純粋な瞳で見つめられては僕と愛莉はそうじゃないなんて嘘は吐けない。

 ここはもう八方塞がりか……。僕のロリ婚生活はたった三日で終了してしまうのか……。

 通りかかったお客さん達にひそひそ何かよからぬ話をされ始めてきた。

「このお二人は詳しくは言えませんが家の都合でそうなっておりますので何もご心配されることはありませんよ」

「……あなたは?」

「私はこのお二人のお付きのメイドです。私がいる限り何も起こらないのでご安心ください」

「まあそういうのなら……」


 愛優さんの半ば強引な説得によって一応納得はしてもらえたようだ。

 しかし僕は納得していない。こちらから言わせればこの人がいるからこそある意味危ないのだ。

 とはいえここでこんなことを言ったらそれこそ手が完全に無くなってしまい折角の旅行が逮捕者一名というただただ悲しい逮捕劇に終わってしまう。

 それだけは避けたい僕はなんとか出かかった言葉を飲み込んだ。



「こちらがお部屋になります」

 こうして女将に連れられて、五階建ての旅館の最上階……つまり五階の部屋に案内された僕達。

 値は張るものの、一番良い部屋ということでみんなでそこに泊まることにした。

 しかしまあ。一番良い部屋があるってだけあって、この階にはこの部屋しかなく、更には温泉まで付いていた。

 ちなみに女将にも結婚の事は伏せつつ似たような説明をすると納得したように安心して、早速僕達を部屋に案内してくれた。

 案内されそれぞれ準備していると、愛莉が窓の外を眺めながら声を上げる。

「先生見てください! 景色が綺麗ですよっ!」

「おー。これは絶景だな」

 僕は愛莉の横から窓の外を眺め、素直な感想を述べる。

「良い部屋が取れてよかったですね先生!」

「うんっ」

 満開の笑顔を咲かせる愛莉。それとは別に視界の隅にあるものがチラっと映る。

「ん? あれは……」

 僕は目を凝らす。すると、木々に隠れて全ては見えないものの、露天風呂の存在が確認出来た。

 一応部屋にも簡易なお風呂はあるが、やはり温泉宿に来たからには温泉に入りたいものだ。

 と、そこで女将がここに来るまでにこの階にも露天風呂があるとかないとか言ってたことを思い出す。

「そう言えば、ここにも露天風呂もあるんだっけ」

「えっ! 本当ですかっ!?」

「うん、あそこにも見えるし、この階にもあるって女将が言ってたからね」

「露天風呂は初めてなので楽しみですっ!」

 目をキラキラと輝かせている愛莉。

 それにしても露天風呂、露天風呂かぁ……。

 『露天風呂』と言う四文字だけで自然と想像が膨らんでしまうのは、健全な男子高校生なら仕方ないだろう。

 それにしても露天風呂にロリに愛莉。

 露天風呂で全裸の愛莉……。

 きめ細かい白い肌、これから発育するであろうまだ微かな膨らみしかない小さな小さなおっぱい……いや、これはおっぱいにあらず、言うなればちっぱいだな。

 一見固そうに見えて実はふんわりとした柔らかさを持つちっぱい。

 愛優さん達みたいに大きくその存在を主張しているものも良いが、やはり僕的には奥手でその存在を主張しているわけではないけれど、それでもそこにあると言う確かな真実……大きいと揺れるから良いという人もいるが、小さくて揺れないからこそ良いという考えもあるのではないだろうか?

 ……話を戻そう。

 くびれというものが存在せず、まだ幼さを残している、膨らみのあるお腹……力を入れたら折れてしまいそうなほど細く綺麗な腕……肉付きもまだなく、これからの成長が楽しみにさえ思わせるお尻や太もも……そして何よりも一切余計なものが生えていないつるつるの身体。

 よくそういった動画とかではつるつるの身体を作ったりしているが、やはり天然物には到底敵わないのだ。

 あぁ……なんだ、こんなにもすぐ近くに僕の理想郷……もといアヴァロンがあったのか。

 気が付くと、僕の下半身は超熱血的になっていた、前屈みにならないといけないほどに。

「せ、先生どうしたんですか? そんな前屈みになって……」

「前屈みっ!?!?」

「いや、なんでもないから大丈夫。あと愛優さんはそこ反応しない」

「むぅ」

「むー、じゃなくてですね……」

「先生少し失礼します」

「えっ?」

 愛莉は前屈みになった事で、僕が腹痛を起こしたものだと勘違いしたのか、その小さなぷにぷにとしたロリロリの手のひらを僕のお腹へと当てる。

 痛いのはお腹じゃなくてその少し下なんですけどねっ!!

 服の上からだというのに、子供特有の高い体温のせいか、すぐに手の温もりがお腹へと伝わる。

 しかし、それは僕の想像力を促進させるだけなので。

「うっ!」

 僕の下半身は大変なことになってしまった。

「先生大丈夫なんですかっ!?」

「う、うん。大丈夫、大丈夫だから」

「で、でも…………あれ、あれあれ?」

 必死に説得しながら、僕は自分の大きく膨らんでいるソコを見られぬようにしていたのだが、愛莉はソレに気付いてしまったようだ。

 ロリロリの手は無慈悲にも僕のソコへと移動を始める。

 待った待った待った! いくらなんでもこれは不味いって!!

 僕は位置をずらして、触られぬようにする……も、愛莉はそれに合わせて動かすのでその抵抗も虚しく終わる。

「あの、愛莉さん……ソコは本当にダメだから……」

「で、ですが……ソコが辛いんですよね?」

 図星を突かれビクッとなる。

 というかその言い方は卑怯過ぎるでしょ。

 その反応を見逃さなかった愛莉は一気にソコへ手を伸ばす。

「ダ、ダメっ!」

 僕の聖剣を触られそうになったその瞬間、後ろから声が掛かる。

「愛莉、ボク達はもう温泉行くけど愛莉も行く?」

 紗々ちゃんだ。

 ナイスタイミングと言わんばかりの時に現れた女神様に心の中で頭を下げる。

 それから愛莉は「今行きます」と、紗々ちゃんに伝えると僕から手を離す。

 助かったと愛莉には聞こえない声でホッと胸を撫で下ろし、安堵の声を漏らす。

「私は温泉に行ってきますが、もし本当にお辛かったら無理しないで言ってくださいね?」

 心配そうに愛莉はそう言い残し、紗々ちゃん達と温泉へと向かっていった。

 愛莉達が温泉に行ってから数分が経った。

 僕のソレもようやく落ち着きを取り戻してきたので、そろそろ温泉に行こうかと立ち上がった時、僕のスマホに一通のメールが届く。

「メールの相手は…………柿本かきもと?」

 差出人はショタ属性を持ちながら何故か変態紳士同盟に入っている幼馴染みの柿本明音からだった。

「あいつからこっちにメールなんて珍しいな……」

 僕はそう思いながら、メールを読み始める。


 やっほー! 拓海、元気してる?

 学校からの帰りにアンタの家に寄ったのに何も反応なくて焦ったけど、充から原稿届いたって聞いて安心したよ〜。

 もしかしてどこかのホテルで缶詰めしてたのかな?

 あ、ちなみにこっちも無事に終わったよ♪


「柿本、家にまで来ていたのか……悪いことしたな」

 僕は柿本に『わざわざ家に来てくれてありがとう。こっちは元気にやってるから安心して』と返信をして、そのままお風呂へと向かった。



「流石にここは別れているんだな」

 僕はお風呂場の前へと立ち、感心する。

 しっかりと男湯と女湯に別れていたのだ。

 まぁ当たり前といえば当たり前か。

 僕はよくある男湯と女湯を間違えるハプニングが起こらぬよう、三回ほど確認し、男湯へと踏み入れる。

「やっぱり誰もいないか」

 わかってはいたけれど、温泉なのに誰もいないというのは少しばかり違和感があった。

 しかし、この階は一部屋しかなく、下の階は遊技場になっている。そのためここから次に近くても三階になるので、わざわざ上の階に来る人もいないだろうからこうなるのも仕方ない。

 苦笑しながら扉を開ける。

「おーーっ! 凄いもんだな」

 そこには決して広いとは言えないが、それでも一人で使うにしては十分すぎるほどゆったりできそうな湯船が広がっていた。

 天然温泉なのか、少しばかり硫黄の臭いもするが、それもまた良い。

 しかし、僕のお目当てはここじゃない。

 僕は身体を洗い、湯船の奥にある扉を開ける。

 そこには見渡す限りの自然に囲まれたようにさえ思える露天風呂が現れた。

「美味しい空気に素晴らしい景色! そして何よりこの特別感溢れる露天風呂!」

 ここが防音ガラスなどで囲まれていたのなら思わず「最高!」と、高らかに叫んでしまうだろう。

「本当にこんな所、僕一人が使っていいのか心配になってくるよ……」

 身体を伸ばし、タオルを頭の上に置いて完全にリラックス出来る体制で湯船に浸かる。

 今はもう桜が散って山は緑一色だが、春には桜が咲いて桃色に、秋にはたくさんの紅葉により茜色に、冬には雪が山を隠して真っ白に……そんな風に季節によってここが見せる景色は変わるだろう。

「……また今度、季節が変わったら誘ってみようかな」

 僕は遠くの山々を見て、黄昏ながら呟く。

 その呟きは誰にも聞こえず、僕の中だけのものとなる……はずだった。

「きっとみなさんも喜んでくれますよ」

「うん、だから絶対に来ようね」

「はい、またみんなで」

「って、ええっ!?!?」

 さらっと割り込んできたから気付かなかったが、いつの間にか隣には愛莉が僕と同じように黄昏ていたのだ。

 もちろん、ここは温泉なので全裸だ。

 アニメとかではこういった時、謎の湯気さんや謎の光先輩が頑張ってくれるが、現実はそんな事はありえない。

 つまり何が言いたいかと言うと……僕の目の前にいる愛莉はあれこれ色々と見えてしまっているのだ!!!

 普段は隠れて見えない二の腕から始まり、妙に色気をかんじる鎖骨、これから成長するであろう美しくもその存在はとても大きい……だけどやっぱり慎ましやかなちっぱい、そこから腰にかけてのくびれのない腰のライン、腕にも足にも太ももや可愛らしく小さいけれど、とてもふっくらしているお尻、そしてなによりも一切余計なものが生えていないつるつるの身体。

 僕の想像通り……いや、間違いなくそれ以上のものが目の前にあった。

 僕……いや、僕達にとっての理想郷が今まさに僕の目の前に広がっていた。

 景色は絶景までいくと時に、貞操観念ですら取っ払ってしまうのか。

 絶景……恐ろしい子!

 とかなんとか考えていると、今の自分の姿に気付いたのか、愛莉は白くきめ細かな肌をした綺麗な腕で自分の胸と下半身を隠すような仕草を取る。

 しかし、それがまたエロいのだ。

 はっきり言ってしまうと、何もしてない全力全開の時よりエロく見えてしまう。

 恐らくだが、これは見えた! よりも見えそうで見えないほうが……という感覚に似ているだろう。

「あ、あの……せん、せい……」

「っ!? ご、ごめん!」

 愛莉は耳まで赤くして、恥ずかしがる姿に僕はたまらず視線を外す。

 彼女の恥ずかしさが移ったのか、僕の顔まで赤くなっているのがわかる。

「先生、背中を向けてもらってもいいですか?」

「うんいいけど……」

「ありがとうございます、少し失礼しますね──」

 そう言うと愛莉はこの広いお風呂の中どこかに移動するわけでもお風呂から上がるわけでもなく、僕と背中合わせになる形で腰を下ろした。

 背中から愛莉の暖かさを感じ、愛莉もまた拓海の背中かは伝わる暖かさを感じていた。

 湯船に浸かっている状態でもわかるほどの高めの体温にドキドキしながらもふと疑問に思ったことを問うてみる。

「そう言えばほかのみんなは?」

「み、みんな先に出て下の階に行ってます。卓球台が置いてあったから温泉卓球するんだーって」

「そ、そっか……みんな卓球やってるのんだ。愛莉はやらないの?」

「私は昔あることをきっかけに身体が弱くなってしまって運動が出来ないんです……」

「……ごめん。知らなかったとは言え無神経だったね」

「いえ、先生は悪くないです。あれは……誰も悪く無いんですから」

 そこで言葉が途切れる。

 少し気不味い空気が流れる。

「……私ずっと憧れていたんです」

「憧れていた?」

「はい。さっき昔あることがあって身体が弱くなったって言いましたよね? それ交通事故なんです」

 背中合わせだから表情は読み取れないものの、声はとても落ち着いていた。

 踏み込んでいいものなのかわからなかった分これを聞いてもいいのかどうかという疑問が浮かんだが、本人が話をしている以上きっと知っておいて欲しいことなのだろう。

 僕は何を聞かされても黙って聞き続けることにした。

「数年前、私は家族で旅行に行こうとしていました。その時はまだ愛優さん達はいなくて、私とお父さんとお母さんの三人での楽しい家族旅行になるはずでした」

「……でも私は旅行に行くことはありませんでした。事故に遭ったんです」

「…………」

 事故、その言葉は何故か僕の心にざしりと重みがかった。

「その事故は車同士の正面衝突……これにより死者三名を出す悲惨なものとなりました。もちろん死者三名というだけで車に乗っていた他の人もほとんどが重症でした」

「それは、愛莉も?」

「……はい。その事故で被害を受けたのは私を含めて七名。私の方は父が亡くなり母と私が重症。相手の方は父母共に亡くなり、残されたのは当時まだ中学生と高校生の姉妹でした」

「でも愛莉お父さんが……」

「正確には父の兄ですね。でも実の父親のようにしてくださっているので今の私にとってのお父さんでもあります」

「いい人、なんだね」

「はい。少なくとも私にとってはかけがえのない人です。……でもそれは──」

「えっ、あ、あああ愛莉!?」

 突然背中に感じる今までよりも強い温もり。

「先生も私にとってはかけがえのない大切な人のうちの一人ですからね」

 愛莉は僕を後ろから抱きしめていた。

 ただでさえ密着しているというのに、愛莉の蒸気してほんのりと赤くなった顔がすぐ横にあるのだから僕の鼓動は今までに無いくらい強くなっていた。

「実はですね、私いつでも先生に会いに行くことは出来たんです」

「えっ?」

「ふふっ、びっくりしますよね。でも愛優さんと紗奈さんの力があれば可能なんです」

 そうだったのか……。

 ここにきて改めてあの二人のスペックの高さを痛感させられるとは思わなかった。

「てことは、あそこに家を建てたのもそれが関係しているの?」

「えっと……まあ完全に無関係ではない……くらいですね」

「?」

 なんだか愛莉にしては少し違和感のある切り方だった気がするけれど……。

「こほん、とにかくですね。話が逸れてしまったので正すと、私はその事故の原因影響であまり身体が強くないというわけです。あ、でもそんな頻繁に体調を崩すとかではなく体力的なところなので余り心配しなくても大丈夫ですよ」

「そうなんだね。それを聞いて……ホッとしていいのかどうか微妙だけど……」

「今はこうして普通の日常生活を送れているのでホッとしても大丈夫ですよ♪」

 確かにそうだ。少し体力が無いということがあるだけで今はちゃんとこうして普通の日常生活を送れているのだから。

「それはそうとさ……」

「はい?」

「いつまで、こうしてるのかな?」

 さっきから極力意識しないように頑張ってはいたが、愛莉の微かなる膨らみが背中に当たったりしているわけで、こっちはずっとドキドキだ。

 別にこの状況が嫌というわけではないけれど、段々と変な気になってしまいそうで怖い。

「えっとですね……お恥ずかしながら私少し長湯しすぎてしまったみたいで……」

「つまり……?」

「のぼせてしまったようなので、もし迷惑で無ければ脱衣所まで連れて行って貰えると……」

 それはつまり僕が愛莉を何らかの形で脱衣所まで運ばなければいけないというわけだ。

 しかしおんぶなどでは力が足りずに落ちてしまうだろうし、今以上に愛莉の胸の感触が伝わったら非常に不味い。

 ならば抱っこは……いや、論外だ。

 胸の感触以下略に加えて必然的に愛莉の正面を見てしまうことになる。

 男としては嬉しいところではあるが、流石に自重したい。

 ならばいっそ断れる前提で抱っこを提案してみるか? もしオーケーを貰えれば愛莉も助けられて僕も幸せで一石二鳥。断られても冗談で済ませれば……。

「……あの先生、大変申し上げにくいのですがさっきから声に全部漏れてますよ?」

「えっ?」

「ですが先生さえよければ……私は、構いませんよ?」

「構わないって……」

「私の裸を見るくらいなら。そ、それにです、しょ、将来的には見ることになると思いますし」

「そうかもしれないけど……あっ」

 と、その時、僕は自分の頭の上に乗せていたタオルの存在に気がつく。

 ちなみに頭の上にタオルを乗せるとのぼせ防止に繋がるから結構オススメだ。

 僕は頭の上のタオルを愛莉に差し出す。

「とりあえずこれで、前を隠してくれないかな?」

「はい、それはいいですけど……」

 タオルを受け取ると愛莉は僕の体から離れる。

「もう大丈夫?」

「はい、一応タオルで隠しました」

「じゃあ失礼して──」

「え、せ、先生っ!?」

「よいしょっと」

 僕は愛莉の上に回り込み、そのままお姫様だっこをする。

 もちろん前はタオルで隠されているから安心安全だ。

 ……と言いたいところだけど、僕の力ではそう長くは持たないようだ。

「先生お顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫だよ。とりあえず脱衣所……ってどっち行けばいいんだっけ」

「今は恐らく誰もいないので女子の方でお願いします」

「あ、あいよ」

 こうして僕は愛莉をお姫様抱っこしながら女子の脱衣所へ愛莉を運んだ。


「ふぅー」

 なんとか愛莉をタオルの敷いた椅子の上に座らせると、どっと疲れが溢れだす。

「先生、すみません……」

「いいよいいよ。これくらいなんともないよ」

「ありがとうございます。こう言っては失礼かもしれませんが、私を運んでくださっている時の先生はとてもカッコよかったですよ」

「そうかな?」

 僕はぷるぷると震えそうになる腕を堪えながら文字通り必死でここまで運んできただけ……なんて言えないけど。

「お姫様抱っこは女の子の憧れですからね♪」

「まあ経緯はどうあれ愛莉も無事でその上喜んでくれたのならなによりだよ」

「──っと、とりあえず僕はもう行くね、流石に紗々ちゃん達と八合わせるわけにはいかないから……」

 そう言って脱衣所から男湯を目指して歩き出そうとした時だった。

「……先生は私のこんな姿を見ても何も思わないんですね」

「それはどういう──」

 ──ぽふっ!

 振り返ると小さな影が僕に飛びついた。

 普段なら受け止められるくらいの衝撃……しかし今の僕は愛莉ほどではないものの、のぼせていてなおかつ運んだことにより体力も消耗していたため。

「あ、れ?」

 そのまま飛びつかれた勢いに負けて、倒れ込んでしまう。

 ……そこまではよかった。が、その後が良くなかった。

「いたた……」

「す、すみません先生……」

 飛び込んできたのはまあ当たり前だけど愛莉だった。

 倒れた拍子に頭を打った僕は頭をさすりながら状況を確認……。

「あ……」

「ふぇ?」

 そこには天使がいた。

 透き通る白い肌にまだ火照りが収まっていないのかところどころ赤く、特に二つの小さな丘の……って待て、一旦落ち着こう。

 僕は目を瞑り心を無にして再び状況を確認する。

 今僕は倒れていて、愛莉はそのうえに乗っかっている。そして二人は全裸だ。

 この肌の温もりと柔らかさはきっとお尻だ、そしてその下にあるのは……一応タオルで隠してあるとは僕のアレだ。

 そしてもう一度言おう二人は全裸だ。つまり。

(これ、見られたら詰むやつじゃないか?)

 だってこれ傍から見たらどう考えても入って……。

 とかなんとか考えていたその時だった。

 不意に入口の扉が開く音。

「「あっ……」」

 扉の方へ視線を移すと、入ってきた人物と視線がぶつかる。

 普通ならここで叫ばれて人生の終わりなのだが、ここを利用できるのは最上階を取っている人のみ……つまり僕達の知り合いで……。

 まあつまるところ入ってきたのは紗奈さんだった。

「え、えっと……愛莉様ここは女湯、ですよね?」

「はい、ここは女湯であってますよ」

「ですよね。私ったら間違えて入ってしまったのかと思いました……。でもそれならどうして湊センセが?」

「それはですね、色々と事情がありまして……」

 一つ一つ慎重に言葉を選ぶ。

 ここで間違った事を言ってしまえば一発アウト。

 これから先、少なくとも紗奈さんからは本当の裸の付き合いをした人と思われてしまうだろう。

 とりあえず紗奈さんだけにしか見られていないこの致命的な状況を打破する対策を……。

「──あら、湊様?」

「……オワタ」

 対策を建てる前に第二の目撃者、そして今一番会いたくなかった人物でもある紗奈さんの姉、愛優さんが来てしまった。

「あ、愛優さんもこれからお風呂ですか?」

「は、はい、そうですけど……。この状況、そして愛優さんもこれからお風呂ということを総合するとやはり……」

「愛優さん、一応言っておきますがこれはただ倒れてしまっただけでそれ以上でもそれ以下でもありませんからね?」

「……はあ、大丈夫ですよ。冗談ですから。ただそろそろ紗々様達がくるので早めにお願いしますね」

「すみません……」

「30分くらい時間を稼ぐのでそのうちに一発」

「余計な気は回さなくていいです!」

 なんでリラックスするためお風呂に入ったのにこうも疲れるのだろうか……。

 そんな事を思いながら僕は男湯へと戻っていった。


 ──そしてそれからは無事に時が経ち翌日。

 僕が目を覚ますと、何故か愛莉が僕に抱き着いていた。

 念のために言っておくと愛莉達とは少し離れてた場所に布団を敷いた。

 つまりこれは故意にやったことで。

 僕は説明を求めてどうしたのと問いただすと、愛莉は目を泳がせながら、

「……寝相、です」

 と、どこかで見たような言葉を並べる。

 これが寝相ならなんとも可愛いものだが、そもそも僕と愛莉の布団の間にはそれなりの距離もあってそのうえ紗々ちゃんや天海さんがいるわけだしそんなことあるわけもない。

 僕はそのどこかで見た作品に習い、愛莉にお仕置き……もといこちょこちょを二十秒してやった。

 その後に愛莉が見せた紅潮した頬と荒れた息遣い、そして乱れたパジャマ姿は愛優さん曰く他人から見たら間違いなく通報ものだったらしい。

 ……だけど、そのとき愛優さんは部屋にいなかったのだが、深くは考えないようにしておこう。

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