第19話

「なに、やってんの?」

 私が困っているとき、助けてくれたのはいつもアカネちゃんだった。今回だってそう。彼女はひとり自販機のそばにやってきて、ルミちゃんを睨んでいた。

「その子、嫌がってんじゃん」

「……不良のくせにッ」

「お勉強ができないからって、人助けもできないとは限らないんじゃない?」

 ルミちゃんは私に向かって伸ばされていたアカネちゃんの手を叩き落とした。

「関係ない奴は引っ込んでいて」

「そこにいられると飲み物が買えないんだよね」

 ルミちゃんは舌打ちし、私を自販機から引き剥がして手を引いた。

「行くよ、マユ」

「あんたがひとりで行くんだよ」

 アカネちゃんがルミちゃんの手首を掴んで持ち上げると、ルミちゃんは私の手を取り落とした。アカネちゃんはそれを見届け、突き放すように手を離した。

「マユ……こっちに来て」

 ルミちゃんは掴まれていた手首をさすり、私を睨んだ。アカネちゃんが私を背中にかばうように立ち位置を変える。

「マユ!」

 私はアカネちゃんの影に隠れた。

「なんで……」

 ルミちゃんは目を見開き、頭を振る。

「なんで、そいつを選ぶの……。たった一年、一緒にいただけじゃない。私なんてもう一二年も一緒なのに。本当にマユを守ってきたのはそいつじゃなくて、私のほうなのに!」

「あんた、なに言ってんの?」

 アカネちゃんは怪訝そうに一人まくし立てる彼女を睨んだ。そんなことよりも、彼女はなぜ私とアカネちゃんのことを知っているの? そして、彼女がアカネちゃんだとわかったのか。

「手紙、読んだの……?」

ルミちゃんは苦しそうに表情を歪める。

「血が付いてたもの。すぐにわかった」

「?」

 彼女はアカネちゃんに手紙が届く前にそれを回収したのだ。アカネちゃんは手紙を読んでいない。だから彼女は昨日、屋上に向かうことなく帰っていったのだ。私はそれがわかっただけで、彼女が私を忘れ、無視していったのではないことに安心していた。

「あの程度のこと。いままで私がしてきたことに比べれば全然たいしたことない。なのに、なんで?」

 そんなことは決まっている。言うまでもなく、手紙を勝手に読んだのならば知っているはずだ。

「キスをしたから?」

「キス?」

 首をかしげるアカネちゃんをよそに、私は小さく頷いた。

「幼稚園児の、たかが遊びのキスがそんなにも大事?」

「ちょっと待ちなって。なんの話? キスなんてした覚えがないんだけど」

「したんだよ」

 アカネちゃんは振り返り、眉をひそめた。

「一三年前、清住神社の広場の裏で、アカネちゃんは私と、マユミとキス、したんだよ」

「マユ、ミ……。あの、ログハウスの?」

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