第18話

 そんな決意をしたところで人というものはすぐに変われるものではなく、私はえんえんと話し続けるルミちゃんのことばに耳をふさいで自販機まで歩き続けた。彼女が呪詛のように唱えることばの全ては三Dがいかに不良で、近づくべき存在ではないということ。なかには過激な文言を含まれていて、アカネちゃんはそんなことをするような子じゃない、と否定したかった。けれど、そういったことばならば無視されないと彼女が学習してしまったら、つぎからは世の中にある悪いことのなかでアカネちゃんがやっていないことはないと言わんばかりにまくしたててくるだろうから、結局無視するしかなかった。

「ねえマユ、聞いてる?」

 自販機にお金を入れ、ヨーグルトに向かって伸ばしていた私の手首を掴んで強制的に振り返らせた。正面を向いた肩を押して自販機に押さえつけて私の逃げ場をなくす。後頭部が自販機にぶつかったとき、ピーガッチャンと音がして取り出し口に紙パックが落ちた。高さ的にはフルーツ系飲料だろう。もしも運良く苺ミルクだったりしたらミヤコちゃんにあげよう。

「私の話聞いてる? 私の話聞いてた? 本当に聞いてたの?」

 切り揃えられた私の前髪が彼女の吐息に揺られて額をくすぐる。痒い。俯いて表情を隠し、両手で顔を覆って泣いているかのように振る舞いつつ人差し指で額を掻いた。ルミちゃんは肩から手を離して私の手を顔から剥がし、表情が見えるように面をあげさせた。

「?」

 彼女は首をかしげ、怪訝そうに私を睨む。ああ、瞳が乾いていることが不思議だったのか。少しくらい目を潤ませておけばよかった。私はにへっと笑って誤魔化す。

「ふざけてるの?」

 私は頭を振る。短い毛先が彼女の顔に当たりそう。

「馬鹿にしてるの?」

 そんなつもりはなかった。ルミちゃんは私の股下に膝を入れ込み、逃げ場をさらに制限する。それとも威圧するためなのか。なにはともあれ、私は足の長さあるいは背の違いからつま先立ちどころかかすかにつま先が浮いた。股間と肩甲骨にほぼ全体重が集まって痛いくらいだった。

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