第15話

「うっそぉ! 一三年間ずっと好きだったのぉ? チョー純愛じゃん」

「違……」

「隠さなくていいってぇ。アタシ他人の恋とかチョー応援する人だしぃ」

 大事な思い出を省いて、アカネちゃんが一三年ぶりに再会した幼馴染で、だけど彼女は私を忘れていたので思い出してもらおうとしていた、ということだけを話していたのに、金髪さんのなかでは何がどうあっても恋愛と結び付けたいようだった。あながち外れてはいないけど。

「ティッシュ持ってなぁい?」

 私はスカートのポケットに入っていた未開封のポケットティッシュを差し出した。

「開けていいのぉ?」

 頷くと金髪さんは封を開けて一枚取り出し、鼻をかんだ。私も返却されたティッシュを一枚取り、鼻を拭う。血はすでに固まっていたようで、黒ずんだ薄い塊がぼろぼろと崩れて破片が付着していた。

「シールもチョー凝ってるしぃ。すごくなぁい? どこで買ったのぉ?」

「シールじゃないです。蝋封……」

「ふぅん?……でもさぁ」

 金髪さんはティッシュをゴミ箱に投げ、封筒を光にかざしてなんとか中身を見ようと試みていた。どの角度から見ても封筒は透けない。私は自分が使ったものと、彼女が的から外したティッシュを拾っていっしょにゴミ箱に捨てる。

「あの子ぉ、処女じゃないんだよぉ?」

 彼女は今日一番の笑顔――アカネちゃんといるときよりも楽しそうな表情を浮かべ、スックと立ち上がって手紙をアカネちゃんのロッカーに入れた。

「お返事くれるといいねぇ」

 彼女はそう言っておそらく自分のロッカーであろう場所から教科書を取り出し、出口に向かって歩き出した。そして、扉に手をかけたところで振り返る。

「アタシ、レズとか差別しない人だからぁ、なんかあったら相談していいよぉ?」

 ばいばーい、と彼女は軽やかな足取りで教室を後にし、私はひとりぽつんと取り残された。目的は果たしたし、鼻血を洗って保健室に行こう。

「なにしてるの……」

 角を曲がって階段に差し掛かったとたん、ぎらぎらとした目でルミちゃんが無表情に私を見下ろしていた。

「保健室に行ってももいないし、三Dから出てくるし、何してるの……」

 彼女は私に向かって手を伸ばす。思わず身をすくめて目をつぶっていると、唇に強い圧力を感じた。その力は変わることなく唇をなぞる。きっと、塗りつけられた鼻血を擦りとっているのだ。私は唇が割れてしまいそうな痛みに黙って耐える。

「あの不良にやられたの?」

 私が頭を振ると、彼女はため息をついて手を離した。

「保健室に行ってきな」

 顎をしゃくってそう言い、黙って私を見つめていた。いっしょに行ってはくれないみたいだ。私は何度か振り返りながら階段を下り、保健室に向かう。その間、ルミちゃんは見えなくなるまで一度も私から目を離さなかった。

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