第2話
夢を見た。大好きだったアカネちゃんの夢を。もちろん、いまでも彼女のことは好きなのだけれど、薄情なことに私はときどき彼女の顔を思い出せなくなるときがある。そんなときは教科書たちを並べている卓上のブックスタンドに紛れ込んでいる幼稚園のアルバムを見る。卒業アルバムだけれど、卒園式の写真に彼女はいない。だから私が見る写真は入園式の写真。一年ていどの時間しか離れていないというのに、そこに写っているアカネちゃんはいつも夢に出てくる彼女よりも幼い。私にとって本物のアカネちゃんは、いつも遊んでいた五歳の少女ではなく、写真のなかにいる四歳の少女に成り代わりつつある。
集合写真なので、ひとりひとりの顔が判別しづらい。私は凸レンズを真鍮の枠で囲んだシンプルなくせにやたらと重たい虫眼鏡でアカネちゃんの顔を覗き込む。幼さゆえに大きな瞳。けれど、将来的には母親に似て切れ長になるだろうことを予想させるつり目。緩くウェーブした長い髪はきっと黒よりもブラウン系のほうがよく似合う。目を細めて笑う表情はほかの園児たちよりも大人びて見え、背の高さも相まってひとり年嵩のようだ。このまま成長を続けていればモデルの仕事なんかもできるんだろうなと思いつつ、当時の私よりも利発だったことを考えれば、いい学校に進学して美人すぎるなんとか、みたいな称号を得てテレビに出たりするのだろう。いま私が通っている高校は県内有数の進学校だから、きっと再会できる日も近いと入学式の日はワクワクしていたものだけど、結局それも叶っていない。引っ越したのだから、県外に行っている可能性だって高いはずなのに。私って浅はか。けれど、それも大学に行けば変わるはず。住む地域に関係なく、優秀な大学には優秀な人が集まるはずだから。来年には再会だって夢じゃない。
目覚まし時計が鳴る。朝六時半。私はアカネちゃんの未来予想肖像画をアルバムに戻し、持ち主よりも遅起きな目覚ましのスイッチを切った。
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