第8話 コール・ユアネーム
「ポイズンの女、ですか?」
駅前のファストフード店に移動すると、俺は明則に目下、捜索中の女性について尋ねた。二宮のことをポイズンという仲間内の名称で呼ぶところを見ると、不良グループとの関係は暗に認めているのだろう。
「そうだ。家出中らしいが、親御さんがたいそう心配してる。本人が望んで不良グループにいるのならとやかくいう筋じゃないが、ボスが怖くて抜け出せないという可能性もあるんでね」
「それはないと思います。物静かですが、根性の座った女性ですよ」
「知っているのかい?」
「たしかアイリスとか呼ばれてました。本名は知りません。そもそも僕は「バッドパワーズ」にはあまり関わってないし、集会に参加したこともありません」
「アイリスだって?……くそっ、やられたぜ」
俺はクラブであった派手な女性を思いだした。あの女、自分のことをさも知らないかのように白々しく語っていたのだ。
「あと親父の事ですけど、僕はポイズンに頼まれてスーツのカタログを見せただけで、親父とあいつの間を取り持ったわけじゃないです。親父が失踪したことは知っていますが、スーツの横流しをしようが、戦闘用のスーツを不良のためにあしらえようが僕の知ったことじゃないです」
明則は覚めた口調で言い放った。このあたりは父親に対する憎悪もあるのかもしれない。
「実はボスの女を追っていて、スーツを装着した連中と一戦交えたことがある。君の親父さんが作っていたようなスーツではなく、人を持ち上げたり殴ったりする能力を強化した奴をね」
俺が倉庫街での一件を口にすると、明則の表情が険しくなった。
「そんな物、誰が作ったかわからないじゃないですか。一応、ポイズンだって機械クラブでロボットをいじるくらいはできますし」
「まあね。だが親父さんとボスの間で交流があったことはほぼ、間違いない。君がどう思おうと、親父さんが自分から少年たちに加担した可能性は捨て切れない」
「どうでもいいですよ。少なくとも僕がロボットスーツを融通したわけじゃない。仮にポイズンたちが親父のスーツで犯罪を犯したとしても、僕が罪に問われるわけじゃない。そうでしょう?」
明則の殺伐とした目を見て、俺はこの少年がすでに諦めの境地に至っているのだと気づいた。二宮や父親を告発する勇気はない。ならば手に余る行動を選択するより、法の裁きに任せた方がましだと考えているのだ。
「そうかもしれないな。だが、アイリスとかいう女性の父親は、このままではいけないと言っていた。二宮の父親だって実情を知れば放ってはおかないだろう。君は父親が犯罪に加担するかもしれないのを、知らんぷりしていられるか?」
「それは……だからと言って今、僕に何ができるって言うんです」
「無理な協力を願ったりはしない。……が、君の親父さんには会う必要がありそうだ。なんとか居場所のヒントを貰えないかな」
俺は詰め寄ると、明則は呑気な顔でうーんと考え込んだ。どうやら俺が苦労して仕上げた威圧感はとうの昔に効果が切れたらしい。
「そう言えば……ポイズンが以前、ちらっと「親父さんの隠れ家に寄ってきた」って耳打ちしたことがあったな。「隠れ家ってどこだい」って聞いたら「お前もよく知ってる場所だ」って。そんな場所なんて……あっ」
ふいに明則が言葉を切り、視線をさまよわせた。
「どうした、何か思い当たることでもあるのか」
「ええ、僕がうんと小さいころ、親父が「隠れ家だ」って言って連れて行ってくれた場所があったような……」
「よし、思いだしたら教えてくれ。いきなり難題を吹っかけて悪かったな。ゆっくりしていってくれ」
俺は千円札をテーブルに置くと、その場を立ち去った。こうなったらどうしてもあのロボット軍団を黙らせてアイリスという女をもう一度、指名するしかない。
〈第九回に続く〉
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