第7話 インビジブル ボーイ
「西村さんは、僕に取って憧れの技術者でした」
吉良という青年は、カフェのテーブルで俺と向き合うなり、熱っぽい口調で切りだした。
「大学で希望したロボット工学を専攻できず、別の部門を渡り歩いた後、ようやく今の会社でロボット開発ができたと言うのが口癖でした」
「それほど愛着があった会社をなぜ……」
「会社が西村さんに頼りすぎてしまったんです。新型アシストスーツの売れ行きが良く、西村さんは次々と新製品を開発しなければならなくなりました。結果、家にも帰れなくなって家族との間に溝ができてしまったんです」
「ふうん。良くある話ではあるな」
「製品の売れ行きは順調でしたが、それと相反するように奥さんとは離婚、会えなくなった息子さんは登校拒否の末、不良グループに入ってしまったそうです」
「不良グループ……」
「なんていったかな、善の子供とかなんとかっていう名前でした」
俺の脳裏にふと、かつて関わった素行の悪い少年たちの記憶が蘇った。まさか、あのグループに在籍していたのだろうか。
「そのグループは解散したそうですが、罪の意識からか、西村さんは息子さんにしばしば遊ぶ金の援助などをしていたようです」
「つまり今回の失踪は、スーツを横流ししてくれと懇願された挙句の行為だと?」
「わかりませんが、その可能性はあります。西村さんの息子さんは、父親同様、機械に強いという話ですから、横流しされたスーツを犯罪に利用できる形に改造した恐れもあります」
「うーん……やはり西村さんかその息子を説得する以外に方法はなさそうだな」
「僕もそう思います。西村さんの息子さんは
「同じ高校に……そうだったのか」
俺は吉良の情報から手繰り寄せた糸を、どうにかして利用できないものかと考え始めていた。
※
「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」
入ってきた俺を見たファミレスのウェイトレスは一瞬、表情をこわばらせた。
無理もない、今日の俺はやくざの友人を真似た白いスーツにサングラスという強面の変装で外見を固めているのだ。
「ああ、一人だ。奥の方に行っても構わないだろう?」
俺が肩をいからせながら尋ねると、ウェイトレスは「は、はい、どうぞ」と身を引いた。俺はそのままフロアの奥へと進むと、ドリンクを飲みながら騒いでいる少年たちの輪に近づいた。
「こんにちは。……君たち、N高校の機械クラブの子たちかな?」
俺が話しかけると、それまで屈託なくじゃれ合っていた少年たちが一斉に表情をこわばらせた。
「はい、そうですが……あなたは?」
「俺はこのあたりの餓鬼どもに頼られて面倒を見ている柳下っていう者だ。……
の中に、西村明則君はいるかな?」
俺が尋ねると、ソファの奥で縮こまっていた少年の一人が「僕ですけど」と手を上げた。
「君が明則君か。……ちょっとお父さんのことで聞きたいことがあるんだが、いいかな」
俺の言葉に、明則の顔がさっと青ざめた。
「いったい何のお話ですか」
「それはちょっと、ここでは言えないな。……悪いが少し時間を貰えるかな」
俺が誠一杯凄みを利かせて言うと、明則は観念したように「わかりました」と応じた。さすが一時期不良グループにいただけあって、それなりに腹が据わっているようだ。
「……ところで、機械クラブには二宮君っていう秀才もいると聞いたが、今日はいないのかな」
「部長だったら今日はクラシックを聞きに行っていると思います。ロボットのことと同じくらい、バイオリンやクラシック音楽に詳しいんです」
明則がすらすらと二宮の情報を口にした。なるほど、ここでは二人ともお行儀のいい優等生ってわけか。
「それじゃあ諸君、しばらく明則君を借りていくよ」
俺が明則の肩を叩きながら言うと全員が目をそらし、小さく頷いた。
〈第八回に続く〉
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