第15話 恩返し
進軍が始まり約2時間。
我が軍は最初のポイントに到着する。
ここからは部隊ごとに分かれ、最終的に王宮を包囲する形にする。
開戦までひとまず私達は解散だ。
これが最後の仲間もいるかもしれない。
そう思っていると、スラムの神と呼ばれる子が先頭で最後の団結を始めた。
「賽は投げられた!!今こそ革命の時だ!!」
ウォォォォォ!!
仲間達がその言葉に応える。
スラムの神『フォー』
そして私の義理の弟。
変わってしまった。
変わってしまったのだ。
あの日、10歳の誕生日、弟は変わってしまったのだ。
そこにフォーはいなかった。
スラムを元気に走り回り、周りの人に迷惑をかけながらも愛されていたフォーは、あの瞬間消えてなくなってしまった。
そこにいるのは正に別人だった。
急に大人しくなった性格。
常に周りの人に媚びを売る様なわざとらしい行動。
ここじゃないどこかを見る様な目。
私はそんなフォーが怖かった。
いつか何かをやらかすんじゃないかと思っていた。
そしてこのざまだ。
フォーが本当に革命をすると考えているのなら私も賛成した。
しかしフォーは私達を道具としか思っていない。
別の目的を達成する為の道具としか。
その目的が何かは私にはわからない。
しかしこれだけは言える。
私達は利用されている。
もちろん私はこの革命に反対した。
しかし、私ももう手遅れだったのだろうか。
このスラムの人皆んなが革命が成功すると幸せになると聞き心が揺らいでしまった。
その時思い出したのは母の顔。
いつも苦しい中でも血も繋がってない私達を育ててくれた母。
私は知っていた。
母が朝も昼も夜も街でひどい暴力を受けながらもなんとか金になる事を探しては、その金を自分に為にでは無く、私達のために使っていてくれた事を。
そんな母に私は恩返しがしたかった。
言ってあげたかった。
「お母さん。もう大丈夫だから、これからは自分の為にお金を使っていいよ」
と、私は母を楽しく過ごさしてやりたかった。
そう思った時にはすでに私は革命軍の一員になっていた。
私が今、この軍で与えられている役割は
『1番隊、隊長』
私は生まれつき剣術と魔法の才能があり、この役割を任せられた。
1番隊他7名の命を背負う者。
私は絶対死なない。
そして私が死なない限りこの隊の仲間も誰一人と殺させやしない。
私はポケットから1つのボタンを取り出し、
「待っててね。お母さん」
そう呟いた。
このボタンは昔、私がお母さんがいないと寂しいとゴネた時、これをお母さんだと思えと渡されたものだ。
未だどう見ればこれが母に見えるかはわからないが、これを持っていると不思議と勇気が湧き、なんでもできてしまう様な気持ちになるので、ずっと持っている。
真夜中の森を黙々と進む。
見つかる事はまず無いだろうが、最新の注意を払いながら進む。
木の枝や鋭い葉っぱが足に引っかかるが、興奮状態なのか、全く痛みを感じない。
そして、
「着いたぞ」
最終ポイントに着く。
隊員の皆んなは一斉に止まる。
「日の出とともに開戦だ。それまで待て」
日の出まで1時間程度。
いよいよ始まるのだ。
私の最大の親孝行が。
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