第13話 夢


妻が交通事故にあった。

どうやら大変危険な状況らしく、僕はすぐに病院へ駆け込んだ。

「妻の具合は!」

声を上げながら、息を上げた状態で医師に尋ねる。

「現在集中治療室にて治療を施しております」

「ですが・・・・」

医師が言いにくそうに俯く。

「危険な状況ですか・・・・」

「はい・・・・」

そうか。未だに自分の中で整理がついていない。


僕達は大学のキャンパスで出会い、その後交際に発展。

だらだらと付き合いながらも、去年25歳で結婚したのだ。

新婚生活を今でも楽しんでおり、そろそろ子供もなんて考えた矢先にこれだ。

僕は昔からあまり運の良い方ではなかった。

しかし妻に出会えた事は幸福だと思った。けれども神は理不尽らしい。

いつか神に会うときがあれば、どんな事でもいいので何か文句を言ってやりたい。

医師に連れられ僕は集中治療室に向かう。

そこで横たわった妻の姿を見て、ようやく真実を受け入れた。

その瞬間目から大粒の涙が溢れて来た。


「えぐっ・・・・えっ・・」


泣きじゃくる僕の事を医師は後ろから静かに見ていた。




現在の状況を医師から聞き僕は一度家に帰ろうとした。

帰る途中もう一度妻の姿を見ようと思った。

部屋に行く途中後ろからドタドタと走る音が聞こえて来た。

走る軍団は僕の事を華麗にに無視し走り抜けて行った。

しかしその軍団の中で1人だけ僕に振り向く人がいた。

先ほどの医師だ。

「どうかしたんですか?」

僕がそう聞くと、医師は深刻そうな顔をして




「奥様の様態が急変しました」




そう答えた。

僕は急いで医師と部屋に向かった。

部屋ではすでに他の医師による治療がされていた。

まもなく妻は手術室に運ばれた。

手術を待っている途中


『どう言う事ですか!手術失敗て!』


という怒鳴り声が聞こえ、不安が募る。

ネガティブな考えしかできなくなり、ゆっくりと時間が過ぎていく。




何時間くらい経っただろうか。

ようやく医師が中から出てきた。

僕はすぐさま飛びかかる様に結果を聞いたが、医師は首を横に振るだけだった。

「そうですか・・ありがとうございます・・」

そう言い僕はこの場所を後にした。






家に帰り僕は1人孤独に泣いていた。

何をするわけでも無くただひたすらに泣いていた。

何時ころだったか。涙で水溜りが出来た時に一通のメールが携帯に届いた。

泣きながらメールを見る。




そして、そのメールを見た瞬間涙が止まる。




そのメールには現実みの無いことが書いてあった。

しかし、仮にこの事が事実なら僕は彼らに復讐をしなければならない。

真実を確かめる為、自前のトラックに乗り待ち合わせ場所に向かう。

いささか僕も焦っていたのだろうか。それとも怒りで我を失っていたのだろうか。




僕は到着前に事故を起こし死亡した。








「フォー・・・・フォー・・フォー!!」

俺は名前を呼ばれ目を覚ます。

「全くいつまで寝ているのよ・・・・」

目の前の緑色の髪の少女が愚痴を言う。

「すまん、すまん」

俺が素直に謝ると、少女はこちらを向き驚いた顔をする。

「なんだ?そんなに謝るのが珍しかったか?」

冗談じみた口調で言うが、少女の表情は変わらない。




「なんで泣いてるの・・」




そう言われて俺は初めて自分が泣いている事に築く。

それも少しでは無い、号泣と言っていいほど泣いていた。

なんだか凄く懐かしい夢を見ていた様な気がする。

一人称が『俺』ではなく『僕』だったのでわかりにくかったがあれは確かに俺だった。


この世界では無い、別の世界での俺。


この夢を見たのは、この世界にきてもう何度目だろうか。


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