第8話 意味
2029年4月10日
今日で丸々1年が経つ。
1つの兄妹喧嘩により起こった近隣の住宅を一瞬で焼き払う大火災。
火は消し止められたが、その代償はとても大きな物であった。
僕達兄妹は危うく監獄に入れられる所だったが、当時事故現場にいた火ノ国王宮騎士団の副団長にその戦闘スキルを認められ、騎士見習いとして騎士団に入ることになった。
「これ兄ちゃんと姉ちゃんの喧嘩が原因なのか?」
当時、ガタイの良い、赤毛の大男に話しかけられた時は、その顔から放つオーラに圧倒されたが
『はい』
そう僕達が答えると
「こりゃたまげた!まさかこの歳になってこんなものが見れるとは!お前ら騎士団に入れ!弁償は俺がしといてやるから」
そう言った男の顔はとても楽しそうの顔をしていて、その優しい顔を今でも覚えている。
それからと言うもの、僕達は騎士団の寮に泊まり込みで、魔法や剣術の鍛練をした。
毎日体がはち切れるような特訓を繰り返し、僕達は騎士団見習いの中でみるみると成長していった。
しかし、僕は疑問に思った。
この世界では、ここ100年戦争が起きていない。
それはすなわち、戦争が終わったという事を意味するのではないだろうか。
いつだったか忘れたが、副団長にそんな事を質問した記憶がある。
副団長とはあれから何度か言葉を交わす機会があり、今では悩みを聞いて貰えるぐらいな関係にはなった。
話を戻そう。そう質問した僕に副団長は、教科書には載っていないような事を教えてくれた。
戦争が起こって無いのは、100年前3国で休戦を結んだかららしい。
成る程、それはいざという時の為騎士団は必要だろうと僕は思った。
寮に来てから数ヶ月が経ち、僕達兄妹にある知らせが届いた。
家の焼け跡から、両親が残した遺産が出て来たらしい。
僕達はすぐさま金額を確認する為、遺産の元へ行く。
両親はなかなかやり手の商売人だったらしく、遺産には兄妹が一生遊んで暮らせるだけの金額が入っていた。
すぐさま僕達はその金で騎士団の本部に近い所にマイホームを買った。
2人で住むには十分すぎる広さで、最初はその空間にドギマギした。
しかし、そんな空間にも慣れて来て、今日に至る。
この一年であった事と言えばそのくらいだ。
あ、あと・・
「兄さん、お茶入ったよ」
ツーがキッチンから顔を覗かせ言う。
この一年で僕達兄妹は、まるで本物の兄妹の様に仲良くなった。
目の前のテーブルにお茶を並べ椅子に座る。
その光景は、決して午後の優雅な紅茶タイムの様なものではなかった。
「話って何?」
僕がツーに問う。
今日はツーが大事な話があると言いこの様な状況になった。
「実は・・・・」
一瞬ツーは言うか迷ったような表情をするが、すぐに素の表情に戻り話し出す。
「私がこのデスゲームに勝たなければならない意味を教えようと思って」
彼女はそう言う。
このデスゲームは生き残った最後の1人が元の世界に戻れるというルールだ。
自分の死を覚悟しながらこのゲームに参加するには、何か元の世界に戻らなくてはいけない理由がある。
それをツーは僕に話そうとしているのだ。
「なんでそんな事僕に・・」
他人の事情に足を踏み入れる事を僕はあまり好かない。
昔、小学校のいじめられっ子が何故いじめられているかを探ろうと思い、その子の家庭事情を調べて見た所、相当複雑な家庭環境になっており、なんとも言えない気持ちになった事があるからである。
「もう手を組んで1年になるんだし・・・・」
ツーはドギマギする僕に話しかける。
「私達の事、兄妹って言ったのは兄さんでしょ?」
痛い所を突かれた。
そうだ確かに兄妹と言ったのは僕だ。
それを言われると反論できない。
「解った、聞くよ」
彼女の決意は固い、これ以上の抵抗は無駄だと思い聞く事を受け入れる。
「ありがとう」
ツーが微笑みながら言う。
そして少しの間を開け、話し出す。
「私には、謝りたい相手がいるの」
「謝りたい相手?」
「そう。私ね、その人の事すごーく好きだったんだけど最後喧嘩別れ見たいになっちゃて・・・・」
そう語るツーの目はとても悲しげな目をしていた。
部屋に重い空気が流れる。
「そうか・・・・」
その相手が誰だか気になったが、その目を見てあまり掘り返さない方がいいかと思い、頷きながら言った。
「ほら!私が言ったんだから、次は兄さんの番!」
少々強引に順番が僕の番に変わる。
「僕の理由も、ツーに少し似ているね」
「そうなの?」
ツーが驚く様な顔をする。
「僕にも大切な人がいたんだ」
大切な人、それは紛れもなく元の世界の妹。
遊佐の事だ。
ツーは黙って僕の話を聞く。
「その人はね、僕が死ぬ少し前に死んでしまって・・」
部屋に再び重い空気が流れる。
「その人の後を追う様に僕も死んじゃって」
あの夜、僕は遊佐が死んだ事を知り放心状態になった。
そしてそのまま、トラックに轢かれて死んだ。
「僕はその人に最後のお別れを言いたかったんだよ」
「お通夜の場所でその人の死体に向かって『今までありがとう、大好きだったよ』と」
胸から熱いものが混み上げてくる。
そうだ。死んだ遊佐はもう元には戻らない。
ならば、最後のお別れは言いたい。
「そう・・・・」
ツーはそれだけ言う。
恐らく彼女も先程の僕と同じ感情だろう。
その日の話し合いはそれで解散となった。
僕は窓を開け、夜空を見る。
春の涼しい風が窓から入ってくる。
明日は朝から騎士団の特訓がある。
早く寝なければと思いつつも考え事をする。
デスゲームが始まって早1年。
現状では他の転生者の動きは見えない。
1年前まで一刻も早く元の世界に戻りたいと思っていた僕だが、今はこの時間がもう少し続けばなと思っている。
しかし、僕は元の世界に戻る事を放棄した訳ではない。
そうなると最後にはやはりツーと別れなければならない・・
そんな事を考えているうちに僕は眠りについていた。
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