第43話 兵器か、人か

 私達が何者か。


 私達は知る由もない。



 その映像が個人に、ひいては世界に及ぼした影響は決して小さくはなかった。


 リアルタイムで世界に流れた映像は、人々に機械化兵の性能の高さを知らしめた。


 新国家は、未だ世界に対抗できる戦力を保持していることを誰もが理解した。


 そして、機械化兵の人としての脆さを印象付けることとなる。


 音声のない映像で、機械化兵同士が戦っていた。


 無表情に。


 笑みを浮かべて。


 苦しそうに。


 悲しそうに。


 地上に墜ちた彼らは、何を話していたのだろう。


 ただ彼女の叫びは、泣き声は、聞こえないはずの人々の耳に届いた。


 彼女達は、機械化兵は――





「彼らは兵器か、人か」



 午後の調停は、パンドラの代わりに官僚がその席に着いたこと以外は、予定通りに行われていた。



「……短命、か」



 誰かが呟いた。


 酷く重い言葉だった。



「はい。先ほども話した通り、彼らは数年から、長くても十数年で寿命を迎えます。すでに、寿命を迎えている個体も数機確認されています」



 機械化兵の性能、構造。


 そうした情報も、既に一部開示されている。


 機械化兵の、寿命についても。



「個体差はあります。試作機の場合は機械化細胞との親和性が高いので、数十年生きる可能性もあります」


「もとには、戻せないのかね」


「戻せません。細胞は既に彼らの身体の一部です」


 むしろ機械化細胞をどうにかする過程での副作用の方が大きいだろう。



「悪夢のような話だな」



 帝国軍をそこまでせざるを得ない状況に追い詰めた連合軍に、一切の非がないとは言えないだろう。


 その非をけして認めることはできないが。



「寿命を延ばすことは」


「今後一切機械化細胞を使用せずに生きるとしても、過度に細胞分裂を繰り返した人間部分の細胞は既に……」



 目を伏せる。


 機械化兵の話をしているのは、ダイタロス機関の研究員だ。


 この悪夢を作り出した者達。


 手遅れなのだ。


 今の科学では不可能だ。


 若返り。

 

 不老不死。


 そう言う類の話になる。


 ダイタロスがいればあるいは、と研究員は思う。


 機械化兵の運命も変わっただろうか。



「では、判断を」



 集まった首脳達はリアルタイムで動く自国の世論を確認する。


 官僚が時間を告げる。



 私達が何者か。


 私達は知る由もない。


 いっそ何者でもないと、言ってしまえればいいのに。

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