第36話 戦争
争いは人の業だ。
二つの足元には、パンドラのものだろう血だまりができていた。
「フタツ!」
フタツは躊躇いもなく、プロメテウスに銃口を向ける。
銃口から逃れる様に、上空へ飛ぶ。
パンドラはまだ生体反応がある。
流れ弾を防ぐ必要がある。
「やめてフタツ!なんの意味があるのっ!」
戦争は終わった。
こんな風に撃ち合う必要など、ないはずなのに。
撃ち合ってどうにかなる時は過ぎた。
ましてや仲間となど。
「意味?」
プロメテウスの問いに、フタツは薄く笑みを浮かべる。
「お前には、わからない」
そう言い捨てる。
冷たい物言いだ。
冷たい目だ。
「言われなければ、もっとわからない!」
下から撃たれる弾丸を避け、さらに上へと逃げる。
フタツの裏切りを知ってなお、プロメテウスは戦いを避けたかった。
フタツに銃口を向けたくなかった。
同じ、機械化兵だ。
仲間、なのだ。
「新政権では、生きられない者もいる」
銃声の合間に、フタツの言葉を拾う。
「どういう……」
聞き返そうとした言葉は、すぐにかき消された。
フタツからではない、別の銃声によって。
銃声の方を向いて初めて、プロメテウスはフタツ以外の敵がいたことを知った。
たった四機の機械化兵。
たった四機の機械化兵が、プロメテウスを包囲する。
けれどその顔触れと数ではなく、気づかなかったことに動揺する。
「これ、は……」
視認できない敵。
戦争の終盤、敵が使用したステルスの新兵器。
何故。
「なんで……!」
その技術を仲間であるはずの、仲間であったはずの機械化兵達が使用している。
その事実は、嫌な予感を確信へと変えていく。
「戦いの中でしか、戦争の中でしか生きられない」
四機に気を取られている間に、フタツは距離を縮めてきた。
「理解、出来ないだろう?」
そんな奴らがいるなんて。
フタツが笑う。
笑う彼は、どこか自嘲気味で。
裏切られた怒りが削がれていく。
「できない」
フタツの顔を見据えて、プロメテウスは答えた。
理解できない。
プロメテウスにとって、戦いは恐ろしいものだ。
悲惨なものだ。
「だからと言って」
プロメテウスは続ける。
「否定はしない。けれど」
そう言う人種もいる。
それだけの事ではないのか。
「こんな凶行に走った理由にはならない。なんで……。なんで!」
帝国を、裏切ったのか。
何故。
いつから。
そのステルス兵器は、いつ手に入れた?
この凶行を計画したのは。
この結末を、選択したのは。
「お前の想像が真実かは知らないが」
フタツはゆっくりと照準を合わせる。
五機の銃口に囲まれた形のプロメテウスは、動かない。
「目の前の全ては現実だ」
放たれた弾丸は真っ直ぐに。
躊躇いは微塵もなく。
「フタツ!」
プロメテウスは回避行動をとった。
身を捩り、重力に任せて落下する。
振り向き様に二発の弾丸を放つ。
囲んでいた四機のうち、二機がぐらりと傾いだ。
そのまま落下していく。
プロメテウスの放った弾丸は、正確に二機を撃ち抜いた。
「デウカリオン!」
叫ぶ。
「敵を殲滅する!相手は五機!」
通信機越しに答える声がする。
「シチ!パンドラ様とエピメテウス様の救護、急げ」
「現着しました。救護班の手配完了。応急処置開始します」
シチがパンドラに駆け寄る。
「リク!ムツ!」
「またやられた!無事です!すみません」
リクが少し離れた場所で起き上がる。
不意の一撃を食らって停止していたようだった。
リクの側にはムツが駆けつけていた。
「イツキ!」
「地上に落ちた二人は回収。拘束完了。地上から補佐します」
プロメテウスの攻撃で、二機は既に行動不能だ。
イツキは狙撃用の銃を展開し、上空に銃口を向ける。
「ミツ!」
「補佐します」
プロメテウスの背後にミツが立つ。
すでに臨戦態勢だ。
「二機を頼む。新兵器を所持している可能性が高い」
「了解です」
プロメテウスは、目の前のフタツから目を離さなかった。
フタツは悠長にも、プロメテウスがすべての指示を終わらせるまで動かなかった。
「揃い踏みだな」
フタツが口角を上げる。
「クソが」
苦々しく、ミツが言い捨てた。
「さぁ、最後の戦争だ」
銃声が響く。
戦いの口火が切られた。
争いは人の業だ。
火を授かったその時から。
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