第30話 加速する

炎を手に入れた人間は、飛躍的に発展してく。



 会議の後、プロメテウスはすぐに戦地へと戻された。


 話し合いに出席はしても、前回のように攻撃目標があるわけではない。


 今後の対策については、上層部が話し合うことだ。


 師団長の試作機のみが会議に残り、プロメテウスは早々に会議室を後にした。


 だから、プロメテウスが去った後の話など、知らない。


 プロメテウスは今後の通達を待つだけだ。


 それよりも気がかりなのは、ムツとリクだった。


 六期試作機は彼ら二人のみ。


 二人の性能は、七期よりもより量産型に近いと聞いたことがある。


 質と量を両立できない。


 それが、ダイタロスの出した結論だった。


 量産を目指すダイタロス機関は、試作を重ねるごとに性能を落とし、適合者を増やそうと試みた。


 その完成形に近いのが、ムツとリクだ。


 七期はそこに新たな試みを加えた、特殊な試作機だった。


 だからだろう。


 試作機と六期の二人の力には、大きな隔たりがあった。


 今回二人が襲われた。


 果たして、これは偶然だろうか。


 二人の事を、知っているならば。


 私達の事を、敵が知っているならば。



「考えすぎか」



 大体狙うなら試作機より性能の落ちる他の機械化兵で十分だ。


 ダイタロスが生きていたなら。


 ふとそんなことを思う。


 今回の不可解な出来事に答えを示してくれたかもしれない。


 ムツやリクを苦しめることなく、軍の被害を抑えられたかもしれない。


 イカロス計画だって、もっと前進していたはずだ。


 彼が、いたなら。


 いや、と首を振る。


 私達は戦争をしているのだ。


 一人二人の生き死にに、犠牲に、一喜一憂する暇はない。


 埒もあかないことだ、と苦笑する。



「11時の方角に敵影」


「確認した」


「新型……ではないですよね」



 通信機の向こうで不安げな声が聞こえる。


 彼は機械化兵だ。


 ムツとリクの噂は既に回っている。



「さぁ。判断は出来ん。被弾は極力避けてくれ」


「努力します」



 被弾など、したくてするものではないが。


 ムツとリクの剣で、機械化兵も過敏にならざるを得なかった。


 機械化細胞の動きを抑制する、敵の新型兵器。


 今まで敵らしい敵もいなかった機械化兵にとっての、天敵。


 ムツとリク。


 二人の情報をもってしても、その正体はいまだ不明。


 おそらくはウイルスのようなものだろう、というのが大方の見解だ。


 ただ、ワクチンはまだ、ない。


 リクの身体から、目立った異物は発見されなかった。


 だから、対応しようがなかった。


 タタン、と音がする。


 遠くで味方の戦闘機が撃ち落された。


 コントロールを失って落ちていく機体の中に、生体反応はない。



「……」



 仲間の死を悼むより先に、すべきことがある。



「行くぞ!」


「はい!」



 翼を大きく展開し、敵の戦闘機に突っ込む。


 腕の射出口から放たれた弾丸は、正確無比に敵の戦闘機を撃ち落とす。


 生体反応は、ない。


 ふ、と。


 プロメテウスは戦闘機に目をやった。



「嘘でしょ」



 そうは呟いてみても、見えたことが真実だ。


 改めて敵の全体を確認する。


 方々でエンジンの音が聞こえる。


 風を切る戦闘機の音も。



「指揮官!戦闘機のパイロットを下がらせてください!」


「この状況でか?」



 遠く離れた指揮官と通信する。


 驚いたような声が返ってくる。


「その代わり」



 プロメテウスは後ろを振り返る。


 自軍の戦力を確認する。



「機械化兵三機をお借りします」



 機械化兵は、敵の新兵器の後、二機以上で配属されるようになった。


 この部隊には、プロメテウスを覗いて3機の機械化兵がいた。



「指揮権の一時的譲渡を申請します」



 それは、プロメテウスの持つ特権の一つ。


 機械化兵に限り他の隊のものであっても指揮権を得ることができる。


 見たままの敵のデータを送信すれば、一瞬の沈黙の後に指揮官からの許可が下りた。



「無事に戻れよ」


「当然です」



 指揮下に置いた三機に命令を送る。



「マークした機体を狙え。他は私が引き受ける」


 命令は、至極簡単。


「ですが」



 マークされた機体は一機。


 それ以外となると相当な数だ。


 それを、プロメテウス一人が請け負うというのか。



「問題ない」



 そう言い残して、上空へ身を躍らせる。


 その動き一つで、三機を撃墜する。


 制空権を握ってしまえば、プロメテウスにとって相手を屠るのは造作もないことだ。



「隊にしては少ないと思ったが、試験運用か何かかな」



 プロメテウスを囲む敵の戦闘きを見渡す。


 他の機械化兵は既に遠い場所にいる。



「よし」



 戦闘機の銃口がプロメテウスに向けられている。


 けれど、恐れることはない。


 一発、二発。 


 敵の真正面から、機体を撃ち抜く。


 発射の反動に身体を任せ、後方へ移動し、また撃つ。


 弾丸は正確に敵を撃ち落とす。 


 落ちていく機体を踏み台に、次の戦闘機へ飛び移る。


 エンジンを破壊し、翼を折る。


 敵の戦闘機の翼に立ち、正面の戦闘機に銃口を向けた。





「見事な手並みだったな」



 地上に帰還した四人を、指揮官自らが出迎えた。


「上層部には報告した。データの提出に協力を」


「はい」



 プロメテウス以外の三人もすでに気づいているようだった。


 今回の襲撃もまた、異質なものであったと。



「自動操縦、か」


「国際法上では、無人兵器の製造・使用は禁止のはず」


「我々がそれを言うか?」



 指揮官が苦笑する。


 兵器運用のための人体実験も禁止事項の一つだ。


 機械化兵は、立派に国際法違反の代物だ。



「案外、無人とは言い切れない代物かもしれないが」


「三人が撃墜した戦闘機には、パイロットの姿を確認しています」



 ただ。パイロットが乗っていたのはその戦闘機一機だけ。


 残りの戦闘機は生体反応がなかった。


 はじめにプロメテウスが敵機を追撃した時、中が見えたのだ。


 機械以外は何もない、誰もいない空のコックピットが。



「三人が撃墜した有人戦闘機が遠隔操作していたのか」


「あぁ、ラジコン、ですね」


「また、厄介なものが出てきたな」



 指揮官は重いため息を吐く。


 無人の戦闘機が現れたとするならば。


 こちらにとってさらに不利な状況になっていくだろう。


 命の数にも限りがある。


 兵の数にも、当然。


 いかに味方の数を減らさず、敵の数を減らすか。


 それが、戦争だ。


 少なくともプロメテウスは、帝国はそう考えていた。


 けれど。


 敵が同じ土俵に立つとは限らない。


 味方の兵を投入することなく。


 犠牲を気にすることなく戦争を進められたなら。


 それはどの国もが考える本音ではあった。


 帝国も。


 それを、連合軍はなしえようとしている。


 それはつまり。



「考えたくはないな」

 



炎を手に入れた人間は、飛躍的に発展してく。

神すら想定しない速さで。

終わりに、向かって。

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