第24話
杖をコルトに向けると、いつものように杖の先から魔法陣が現れた。
「変異系魔法第九術式、『
杖から赤い光が現れたが、いつもの弾丸のように飛び出す光ではなく、杖から赤い光の線がまっすぐに伸びて、コルトの胸元に当たった。
「んっ……」
コルトの体に快感が来て、小さく声を漏らすと、すぐに変化が始まった。
膨らみのある胸がしぼみ、同時に背も縮んでいっている。
手足も服やスカートに隠れ、全体的に小さくなっているため、メイド服がぶかぶかになっていき、顔も丸みを帯びてきた。
ヨルカが杖を下げると変化が止まり、最終的にはコルトは着ていた服に埋もれ、服の中から五、六歳くらいの幼児がひょっこりと顔を出した。
この『
「コルト達には子供になって潜入してもらう。あとはどう言い訳をーー」
「いや~ん! コルトさん可愛らしいですわ!」
ヨルカの言葉を無視し、幼児になったコルトを見て、テンションが上がったヴァレットは丸裸の状態のコルトを抱き上げた。
「ヴァレット、くるしいです」
「もう肌がスベスベでほっぺも柔らかいし、子供のいい匂いも……スーハースーハー」
子供になったコルトのぷっくりしたお腹に顔をうずめ、深呼吸するかのように匂いをかぐヴァレット。
この光景に皆が引き、コルトの目が死んでいる。
「
「ぅあぁぁん!」
ヴァレットの行動に我慢出来なかったヨルカは何も言わずに魔法をかけた。
不意を突かれた快感にヴァレットは思わず声を上げ、コルト同様、豊満な乳がどんどんしぼみ、同時に体も縮んでいく。
「う、重い……」
今のコルトと同じくらいの年齢になると、腕力が衰えて、腕が下がった。
「うっ……ヨルカ様、少し若返り、しゅぎで、あぁ!」
快感を味わいながら若返っているため、喘ぎながら若返っているヴァレット。五歳くらいになっても、ヴァレットの若返りは止まらず、立つのもままらなくなり、喋りづらくなった。
ヨルカが杖を下げると若返りが止まり、ヴァレットは一、二歳まで若返った。
「ん……んくっ! ふあぁぁ~……」
コルトより快感を長く味わったせいなこと、そして若返って膀胱も縮み、股間の我慢する力も低下したせいで、ヴァレットはビクッと体を震わすと漏らしてしまった。股間から尿を出し、下のメイド服がびしょ濡れになってしまった。
「はぁ~……しゅごくきもちいいでしゅ~」
「ヴァレット、あなたは……」
排尿で出しきったヴァレットの恍惚とした表情に、ヨルカとコルトは呆れた。
「さて、次はブランをーー」
「お姉ちゃんだーれ?」
「ん? ……あ」
ブランに魔法をかけようとしたら、孤児院の女の子に見つかってしまった。
ヴァレットがあれだけ幼女でテンションを上げ、騒がしくしたため当然である。
「あ、エズ君だ!」
「本当だ。先生ー! エズ君が帰って来たよー!」
「心配したんだよ」
女の子に見つかると、子供達がどんどん集まり、エズのこともバレてしまった。
「エズ君!」
そしてとうとうマリアンも現れて、涙目になりながらエズに抱きついた。
抱きつかれたエズは全然笑っていない。
「四日もいなくなって心配したんですよもう! えっと……そちらの方々は?」
マリアンや子供はヨルカ達に注目した。
「えっと、その……」
エズが言葉を詰まらせると、ヨルカは前に出た。
「失礼、我々は少し離れた村外れに住んでいた者で、我々とエズ君の両親同士が親友でした」
ヨルカはマリアンに納得してくれるため、咄嗟に嘘をつき始めた。
「実はエズ君は孤児院に迷惑をかけたくないからと我々の村まで来たのです。ですがちょうど我々の村も賊に襲われてしまい、我々だけが生き残りました。エズ君と再開した時に孤児院のことを聞いて、藁にすがる思いで参りました。エズ君も孤児院を出ていった手前、戻り辛いようでしたが……」
「あらあらそうだったの……それでそのメイド服は?」
「死んだ母が残した物で、服も賊に奪われたので、ここに来るまでこの子達をくるめてました。それで恥を忍んでお願いします。この子達を孤児院に置いてもらえないでしょうか?」
ヨルカが頭を下げると、幼児姿のコルトとヴァレットは潤んだ目でマリアンを見つめる。
「もちろんいいですよ。最近何人か里親に引き取ってもらったから増えても問題ありません」
マリアンは嫌な顔をせずに受け入れてくれた。
「四人くらいなら面倒を見られます」
「……ん?」
ヨルカは疑問符を浮かべた。
ヨルカはコルトとヴァレットの二人を預けるつもりだった。
だがマリアンは四人と言った。
「えっと……ちなみにですが、私と彼、いくつに見えますか?」
「え? 十歳と……八歳くらいかしら」
「…………」
「あ~、ははは……」
マリアンはブランを十歳、ヨルカを八歳と言った。
子供扱いされたくないヨルカは魔法で若返ってもいないのに、実際の半分の年齢を言われて内心ショックを受け、ヨルカの目から生気が失った。
ブランも今回は鎧を着けていないため、騎士には見えずに若く見られているが、慣れているのか失笑で済んでいる。
「はい皆さん! 今日からここで暮らす仲間達を紹介します!」
「いや、その……」
我に帰ったヨルカは訂正を忘れ、マリアンに子供として紹介されてしまった。
「ヨルカ様、このまま子供のふりをすれば調査しやすくなるはずです」
「それは……はぁ、仕方がない」
ブランの言葉に、ヨルカは嫌々ながら納得し、子供のふりをした。
「それでは自己紹介してください」
「はい! ヴァレット、にしゃい!」
「コルト五さいです」
「ブラン、十歳です」
「ヨルカ、八歳です……」
全員年齢を偽り、ヨルカもふてくされながらも紹介した。
「皆さん仲良くしましょうね」
「「「「「はーい!」」」」」
子供達は元気よく返事をし、こうして予想外の展開にはなったが、ヨルカ達はマリアンの調査が始まった。
***
若返って裸状態のコルトとヴァレットは子供の服をもらい、マリアンと子供達に孤児院の中を案内してもらった。
孤児院は廃れた教会を利用していて、中は広々としている。
建物自体は古いが、ちゃんと掃除されているため綺麗である。
子供はヨルカ達を抜いて十人。上は十歳で、下は四歳と様々。
「ん? これは……」
廊下を歩いていると、ヨルカが目にしたのは、額縁に飾ってあるかなり年代の入った油絵だった。
描かれてあるのは、教会を背景にした修道女姿のマリアンだった。
「ああ、これは若い頃の私の祖母です。あまりの美しさに通りすがりの画家が描いたらしく、もう七十年近く前の作品ですね」
「ずいぶんそっくりですね」
「ええ、でもホクロがないですよね」
よく見ると絵にはマリアンの特徴である二つの泣きボクロがなかった。
「元々この教会の修道女をしていた祖母も身寄りのない子供の面倒を見てたんです。ですが祖母が死に、教会自体も潰れてしまったので、子供達のために私はここで孤児院を開きました」
「ほう……」
彼女の言葉を聞く限り、エズの言う人殺しという印象はなかった。
「そして、ここが皆さんの部屋になります」
マリアンがある部屋のドアを開けると、広めの部屋に大きな二段ベッドがいくつもあった。
「では一通り案内しましたし、私はそろそろ夕飯を作りますので。皆さんお願いします」
「「「「「はーい!」」」」」
マリアンは夕食のために部屋から去った。
「さて、ようやく調べーー」
「「「「「遊んで遊んで!」」」」」
「ーーられないか……」
マリアンが去った瞬間、子供達がヨルカ達に向かって集まり始めた。
「コルトちゃん、おままごとしよう」
「ヴァレットちゃんもやろう」
「ブラン兄ちゃん、ボールで遊ぼう」
コルトとヴァレットは女の子の集団に引っ張られ、ブランは藁を紐で丸く固めたボールを持った男の子集団に引っ張られた。
「ヨルカちゃんも……あれ?」
ヨルカも誘おうとしたが、すでに姿はなかった。
「さて」
子供達がコルト達に注目している隙に部屋から抜け出したヨルカは歩き始めた。
目的は案内されなかった部屋を見るため。
案内されていないということは、見られたらまずい所と推理したからだ。
ヨルカは奥に歩いても、マリアンの姿はない。
行く途中違う部屋を開けても、物置や空き部屋だけ。
「ん? 臭い……」
奥から異臭がしてきた。
匂いを頼りに歩いていると、異臭の先は一番奥にあるドア。
そこには木の看板に『危険』と書かれている。
明らかに怪しいと思い、ヨルカがドアに手をかけようするとーー。
「何してるんですか?」
「!?」
いきなり後ろから聞こえた声に、ヨルカは驚いた。
後ろを向くと、そこには包丁を持ったマリアンがいた。顔は笑っているが、その視線はエズの言ったように冷たく、恐怖をも感じた。
「えっと、方向音痴なので改めて場所の確認を……」
「あらそうなの、でもここは危ないから入っちゃだめよ」
マリアンが再び笑顔になった。
「変な匂いがするのですが、この部屋は?」
「ここは解体部屋。私は町の人に頼んで狩ってきた動物の死体の解体を手伝わせてもらってるの。報酬としてお肉を少し分けてもらってるの」
「つまりこの異臭は血の匂いか」
マリアンはヨルカを部屋から離れさせた。
「はい、晩ご飯まで時間があるから、もう少し遊んでてね」
「はい」
マリアンはヨルカの手を引き、子供達のいる部屋に戻されてしまった。
***
「はい、では皆さん手を合わせましょう」
「「「「「はーい!」」」」」
夜、全員は台所の隣の食事用の部屋に集まり、全員テーブルを囲むような形で席に座った。
全員が祈るかのように手を組み、目をつぶり、マリアンがブツブツと神へ感謝を唱えている。
「ではいただきましょう」
子供達は一斉に食べ始めた。
今日の献立は肉が少し入った濃い塩味のスープにパン。
ヨルカの食卓とそう変わらないが、人数が人数のため量はそんなになく、おかわりは出来ないが、皆が和気藹々と食べている。
今のところ、あの危険と書かれた扉以外怪しい所はない。
ヨルカはマリアンにもう一つ気になる点を聞いてみた。
「あの先生」
「はい?」
「エズ君に聞いたのですが、里親が決まった子供が旅立つ時に見送りをしないのはどうしてですか?」
「ああ、それは母から教わったおまじないのような物ですね」
「まじないですか?」
「はい、多くの見送りがいると、それを見た悪魔が期待される人物として数々の困難を与えると聞きます。実際昔見送りが多かった頃は、死人が多かったので、見送りは私一人でやるようになりました」
「そうなんですか……」
聞いたことはないが、思った以上にちゃんとした理由で、ヨルカは内心がっかりした。
「どうしますか? ヨルカ様」
隣に座ったコルトはヨルカに尋ねた。
結局の所、手がかりはない。
「何とも言えないんだが、何か気になるんだよな……」
だが解体部屋、あのとき一瞬見せたマリアンの表情、気になる所は多々あった。
ヨルカは脳内の奥底に何かが引っ掛かっている。
「さて、どうするかな……」
ヨルカはその引っ掛かりの正体がわからないまま、考え事をしながら孤児院の食事を口に運んだ。
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